異星人が見た異世界転生記(我輩はゴアである・改)

雲黒斎草菜

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第三巻・ワンダーランド オオサカ

 KTN48と握手券

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「じゃあ。後はカミタニさん次第ね」
 あっけらかん、と顔を上げたNAOMIさんに、クララはニコリと微笑み掛けた。
「ワタシの頼みだ。たぶん許可が出る。ちょっと待っていろ…………」
 携帯を出して、ピポパポ………と。
 そう、クララはガラケーだった。あのキャザーンの頭領がガラケーであるぞ。
 ま、どうでもいいか。

「――そうだ。カミタニさん。その握手券千枚を無差別に撒きたい。許可をくれ。……は? 冗談ではない。真面目な話をしておる。DVDを買わなくても握手をしてやろうというのだ」
 すげえ上から目線だな。

「大丈夫だ。KTNは総勢160名もいる。2千や3千の人間どもと手のひらを合わせるだけだろ。我々は数万の連邦軍に包囲されたが、それらすべてを蹴散らしたのだぞ……何? ジオン軍ではない。星間連邦軍だ」
 包囲されるような悪事を働いたあんたが悪いのだ。

「ああ、そうだ。KTNはその辺のガキタレントの集まりとは一味違う太っ腹のところを見せてやるんだ。ああ。こちらは全員納得しておる」
 してない、してない。でもするだろな。

「うむ。ありがたい。またラブホ付き合ってやるからな。ああ。よし約束だ」
 電話を切るクララ、視線をこちらに戻し、
「なんだ、恭子? 何をひっくり返っておるんだ?」
 恭子ちゃんはラブラドールホールのことを知らぬからな。

 それともマジのほうか?

「よっしゃ。チラシは手に入った。しやけど最後の原液散布はワテがやるとして千枚のチラシまでは、このドローンでは無理やろ。20枚ぐらいなら可能やろうけど、このスペースとプロペラが巻き上げる風で肝心の散布場所へ到達する前に、どっか散ってしまいまっせ」

「ワタシにいい考えがある。舞嶋には尾山航空遊覧サービスという会社があって。PVの撮影でよく利用しておる。そこの社長ともちょっとした知り合いになったのだ」

「またたぶらかしたのでしょ?」と藪の中をつつくこうとするNAOMIさん。
「たぶらかすとは……意味がわからぬが、ワタシは何もしとらんぞ」
 本人には自覚が無くても、あんたのボディが物を申すのである。

「ああそういうことか。ワタシの美貌をもってすれば、何事も不可能はないな」
 その武器は光子魚雷をも凌駕するからな。ある意味最終兵器だ。

 キヨ子はサラサラのおかっぱ頭を振り振り否定的なことを言う。
「やはり理由を問われます。まさか少女の姿をした猛獣を誘導するために空からマタタビの滲みたビラを撒きたい、とは言えませんでしょ」
「セスナだけ拝借すればいい。パイロットはこっちにいるから大丈夫だ」

「え? まさか!」

「ああ。ドルベッティなら適役だ。宇宙船のパイロットだからな」
 この騒動を撒き散らしているネコの飼い主だったドルベッティであるか?

「宇宙船とセスナはまったく異質のモノですわ」
「あいつは元戦闘機乗りだ。似たようなモノだろう?」

「ちょ、ちょう待ちなはれ。アヴィリル・ドルベッティと言えば、連邦軍に追い詰められてディープレイゾンの磁場嵐の中を単独横断した、ちゅうムチャ振りを見せた少女パイロットでっせ」
「そうだが?」
「連邦軍の精鋭パイロットが誰一人ドルベッティはんの後を追えずに、スゴスゴ引き返したちゅう、逸話が残ってまっせ」
「言うとおり、その話は事実だ」

「シャトルクラフトではない。翼に大気をはらませて飛ぶセスナだぞ?」
「しつこいぞ!」

「…………………………」
 まだ少し腑に落ちないのだが。

「致し方ありません。背に腹は変えられませんね。ではセスナの調達はあなたに任せます。こちらは注文品が届いたらすぐにマタタビ爆弾を作って連絡しますので、舞嶋で合流しましょう」
 キヨ子はそう結論を出したが、またしても鼻から息を抜いた。
「問題はあの武器です」
「ああ。あの文具な」
 小学生の机を開けたら、必ず転がっているコンパスみたいに言うな。

「あなた方は電磁生命体です。実際に物質としてのボディを持つ生物ではないのです」
「いかにも」
「ボディが無いのなら……」
 と言ってから、ニヤリと笑い、
「あなた方が適任ですわね。斬りかかってきたら、反対に電子でも放出して相手を翻弄させなさい」
 その上から目線がとても気になる。

「とくにあなた」
 食卓に載るドローンを指差し、
「あなたはラブジェットシステムの恩恵を受け、少しでも実体化できるのです。そのボディを使って戦わない手はありません。やりなさい」

 無茶なことをそう高圧的に言われて、ハイとは言えないだろ。
「このワテにスペースヲォーズ並みのことをやれちゅうてまんのか!?」
 そうだ、ギア。ここはひとつガツンと言ってやれ。
「だがその前に、スペースヲォーズとは何だ?」
「スター●ぉーズてゆうてしもたら問題が起きまっしゃろ。ゆうに言えん大人の事情やないかい。察しなはれ」
 ああ。そうか……何だかこの先が思いやられるのだ。大人の事情という版権問題に足を引っ張られて思うようにいかない気がするのだ。
 まあ、ここまで来たら何とかするしかない。続けてくれ、ギア。


「せやけど、ムチャゆうたらあきまへんでキヨ子はん。実体化はめっちゃ疲れまんのや」
「来月の家賃をタダにします」
「やりまひよ」

 ドターン。

 やるのかよ!
 思わず我輩の入るスマホが跳ねちゃったではないか。

「報酬付きやったらやりま!」

 ギアはいけしゃあしゃあと言う。
「ワテの電子砲を振るう時が来ましたな。光の剣(ライトセーバー)に対抗できるんは電子の束や。電子ビームでっせ」
「まーた。くだらんことを考えたな」
「アグレッシブにアドベンチャーや。おまはんかてやろうと思えばできるやろ。電子の放出や」

「できないことはないが、指向性がない、ボディ全体から放出ならできる。腹がへるけどな」
「せやろな。ブクブクの肥満体や」

「我輩は電磁生命体だ。メタボ体質など関係ない」

「ワテは実体化を経験してまんねん。部分的に電磁フィールドで形を作ればその部分から電子の放出が可能や。EL放電やデ」
「すごいわ、なんだかカッコいい、ギアさん」
 パチンと手のひらを合わせる恭子ちゃん。
「ふはははは。まかしときなはれ。ワテは光の剣に対抗してELセーバーやで。あんたの身はワテが守ります」
 何か勘違いしておるが、まあいいか。バカはおだてられて舞い上がるがいいさ。

「ほな。ギア行きまーす」
 関西弁と標準語の混ざる気色悪い口調を放って、ギアは意気揚々とドローンを浮上させた。

「いいですか。メルデュウスは必ずUFJに侵入するはずです。見つけ次第連絡すること。若い女子ばかり追いかけるのではありませんよ」
 キヨ子どのはアキラで慣れているから、的確な忠告を言ってのけ、
「ではワタシもセスナの調達へと向かうぞ。キヨ子、チラシの準備ができたら、舞嶋で合流しよう」
 クララも強い意気込みと共に立ち上がった。

「ちょっと待って、クララさん。ゴアが入ったスマホを持って行って。あたしとリンクしているから画像付きでこちらに情報が届くわ」
 えっ?
 我輩がクララどのと同行するのか?

「いやなのか?」
 いきなり我輩の入るスマホを鷲掴みにして、鋭く吊り上った目で睥睨されるが、嬉しいような、怖いような、そんな気分だ。

 アキラの汗ばんだ手より、白くて滑々のクララどのに触れられたほうがイイに決まっておるが、クララはデュノビラ星人である。喰われる可能性もある。

「バカモノ! 誰がオマエなど食うか! 感電するワ!」
 なら。一緒に行くー。

「ばかばかしい……」
 とか言いクララは量感のあるバストが収まるレディーススーツの――ぬあんと胸ポケットに我輩を放り込み、
「では。ドルベッティと合流次第、セスナをチャーターして待っておるからな。キヨ子も遅れるな」

 ぬはははははは。良い匂いがするのだ。

 何度も言わせるな。電磁生命体であっても物質から放出される匂いの元にも電子がちゃんと存在するのだ。それを嗅げばちゃんと解る。ま、嗅ぐという言葉は不適切ではあるがな。




 は~。心地良い。

 胸ポケットで我輩が至高の心持ちで深呼吸を繰り返しているなど微塵も知らぬクララは、自分の携帯を出してどこかへ電話を掛けた。
「ドルベッティか? 今すぐ出動できるか? ヒトニサンマルまでに神急電鉄桜園田駅のパチンコ屋の前で待っておる……そうだ、緊急出動だ。久しぶりに空を飛ばせてやるぞ。ああ。ウソではない。空だ。しかも宇宙船ではないぞ。戦闘機だ」
 いやいや。セスナです。

 クララは携帯を一旦切り、再び、ピポパ、ポパ、と押したのち、色気たっぷりの声に切り替えた。
「オガワさん? あぁ。お久しぶり、お元気?」
 誰だ?
 これはクララの口調ではない。天から命じる、みたいなあの尊大な態度はどこ行った?

「そう……それはよかったですわね。……でね。今日電話したのは、今度のプロモーションビデオの件でちょっと無理聞いてくれない?」
 とってもこそば痒(かゆ)いのだ。

「え? 何でも言ってみろって……そうか。ありがたい」
 あへ?

「KTNのひとりに軽飛行機の免許を持ったタレントがいるのだが、そいつを今度起用しようと思っておる」
 言葉遣いが元に戻ってますよ~。

「そう……でな。今日セスナをチャーターできるかな。ちょっと馴れさせようと思っておる。え? 何、費用? ああ。心配ないカミタニさんが全額出すそうだ」

 ウソ吐け!

「なに。いいのか? ありがたい。では今からそちらに向かうぞ。ああ。夕飯の件だな。任せておけ。そうだ。オマエもラブホへ行かぬか?」
 クララはいきなり突き放されたみたいに耳から携帯を外して、マジマジと見つめた。

 受話口から何か喚き叫ぶようなカシャカシャ音が響いていた。
 クララは電話機へ語るように、小首をかしげつつ、
「オガワさんは、なにを大騒ぎしておるのだ?」
 再び受話器を耳に当て、
「オマエもイヌ好きなのか? ……え? ドギー、」
 あっ! ピ――――――っ!
「……スタイルとはなんだ? 何を言っておるのかよく解らないぞ。まあ。詳しいことはそちらに行ってからだ。今から向かう」

 ヤバかった。
 いきなり卑猥な話は厳禁である。版権問題どころの騒ぎでは収まらないのだ。ひとまず自主規制させてもらったぞ。

 あ――それにしても、カミタニさんも変な店にクララを連れて行ったもんだ。
  
  
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