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第三巻・ワンダーランド オオサカ
魔導士 VS メルディウス(=アトラクションクルー VS ネコ)
しおりを挟む魔道士の射竦(いすく)める態度に驚いたメルディウスは、ポケットからソニックシェーバーを取り出すと電源を入れた。
瞬時に伸びる駆動光。青白い光の剣である。映画の小道具ではない。地球には無い本物だ。
ところがこちらもプロのアトラクションクルーである。たとえどんなシチュエーションになろうとも、怯まないのが闇の魔道士なのだ。オモチャのライト剣でビビるはずがない――のだが、わずかに困惑した目の輝きは、梅田のキャラ専門店で売っている定価2500円のオモチャにしてはリアルだな、と思ったかどうかは知らないが……そんな気分に陥ったのであろう。気の毒なことに、全員の目が泳いでいた。
でも、仕事は仕事なのだ。
闇の魔法使いたちは、持っていたイミテーションの杖を振りかかりワンドバトル開始。
「な――っ!」
一人の魔道士が、例の仮面の奥で目を剥いて杖の先を見た。
それは胸のすく切れ味で根元から切り落とされていた。起きたことの意味が理解できず、ただただ唖然と杖の先を見つめるアトラクションクルー、いや。闇の魔法使い。
メルデュウスは魔法使いの肩を跳躍台にして傾斜のきつい屋根に飛び移った。
それはドローンを狙ってのことだ。ダーク界の魔法使いなど相手にはしていない。
『うっほぉぉ。ごっついジャンプ力や!』
ギアは慌ててその場から離れ、黒魔術を操る魔法使いは分厚いマントを翻して、一斉に空を振り仰いだ。重々しい音が響き、まるで映画の一場面のようであった。
『おおぉ。この人らの迫力も半端無いがな!』
ギアが嘆息するのも当然である。
何度も言うが、彼らはいかなることがあっても与えられた役に成り切れと、経営主から厳命を受けたプロのアトラクションクルーであるのだ。瞬間たじろいだが、もとの険しい雰囲気を再び放った。
屋根から屋根へ飛び移る少女に驚きを隠せない目が仮面の奥できらりきらりと光る。それが余計に臨場感を強める。
一人の魔法使いが呪文と共に屋根から、ごおぉっと炎を噴き上げさせる。
空が焦げるようだ。
ゴォォォ。
またもや別の屋根から呪文と共に炎が噴き上がり、スモークが焚かれ閃光が走る。
しかしそれをものともせずに、少女は軽々とすり抜けて地上へ下りた。そこへと両手を掲げて集まる仮面の魔道士。メルデュウスは怯む様子もなくセーバーをかざして風のように舞った。
ひっ!
ひぃぃぃぃ!
悲鳴を上げたのはやっぱりダークな魔道士のほう。
メルデュウスが振り回したシェーバーから青白い本物の閃光が飛び散り、握っていた杖の先がすべて切り落とされていた。
さらに宙を飛び交うメルデュウス。魔法使いたちはなす術もなく、端から仮面を剥ぎ取られ、真っ黒いマントは切り刻まれ、革でできた厳つい鎧(よろい)がベルトごと真っ二つとなって地面に落とされた、威厳に満ちたダークな魔道士が白い裸体となって露わに……もう黒と白が入り混じって、なんだか解らない。
『あちゃぁぁ………。闇の魔法使いが無惨や。丸裸にされよったがな。ああぁ。おっさん下にそんなもん着とんか……闇の魔法使いが情けないデ』
余計な実況中継はいらん。イメージダウンしたと、お叱りのメールが殺到するぞ。
「それより早く追え! 村の奥へと行くぞ」と叫ぶクララ。
『ガッテンでおます!』
いつの生まれなんだ、オマエは……。
『うわぁーっ!』
「ど、どうしたギア!」
『跳んだがな。売店の屋根を利用して屋根から屋根へ跳んで行くんや』
「気をつけるんだ。その子は人間ではないということを肝に命じろ!」
『わ、わかってまっけどな。異様に伸びる跳躍先が予測つかへんのや……うほぉぉ!』
通路に浮かぶドローンの上を軽々と越えて隣の屋根に飛び移った。
『あかん。奥にあるお城に登る気やデ』
「イリドミルメシンを噴霧して、なんとか外まで誘い出せぬか」
クララの問い掛けに、ギアの情けない声が伝わって来る。
『それがなー。メルデュウスの動きが素早ようてやな、ドローンの操縦で手一杯なんや。ゴア手伝ってくれ!』
「え?」
いきなりなんだ。あのヤロウ。
「どうしたらいいんだ?」とクララ。
『ゴアに操縦と噴霧をまかせて、ワテが実体化してメルデュウスの相手をしますわ。このままやと城から伸びる尖塔を切り倒すかもしれん。あのタワーをど真ん中から輪切りにされたら、誰が弁償しまんのや』
「分かった。すぐに向かう」
はい? なんですと?
何を勝手に話を進めるのだ、クララどの?
だが、セスナは急降下。
「ドル、残りの握手券をあの人混みの上から撒いて、集団をもう少し足止めさせてから、村落のドローンへ向かえ」
「あいよ~」
機体を横倒しにしたまま園内を一周、入場者の大半が集まってしまったラグーン手前の広場。その真上から派手にチラシを撒き、再び旋回してセスナが向かう先――さっきから待機していた英国風魔法の村だ。大人の事情ではっきり名前は告げることはできぬが、そこの奥にある城だ。
村の通路からお城に向かって超低空飛行をするセスナ。途中、闇の魔法使いがこの後どうイベントを続けていけばいいか、集まって会議を開催する上空を通過。何本も突き出た城の尖塔を掻い潜り前方にぽっかり浮かんだドローンとそれを追い掛けるメルデュウスの姿が見えてきた辺りで、
「な、何をするんだクララどの?」
機内の小窓を開けようとするので、我輩は少々慌てた。
「ここからギアへお前を投げる。着陸などする時間は無い」
「そ……そんなご無体な…………」
「行け!」
「えっ?」
クララは平然と我輩を窓から投げ落とした。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
むちゃな。いくら地球製のスマホが頑丈だからと言って、この高さから地面に落とされたら木っ端微塵。我輩の電荷(でんか)は一瞬に放電しておさらばだ。クララ、この宇宙人女め、死んだら恨むからな!
我輩も宇宙人なのだが、我を忘れて叫んでいた。
強烈な風がスマホを叩き、これまでかと思った瞬間、ふんわりとキャッチされた。
「どひゃぁぁぁ。助かった。ギア。恩に着るぞ」
「ゆうとくけどな。タダで着るなや。無料(ただ)ちゅう言葉は大嫌いや。救助料もらいまっせ」
確かに感謝しておるが、そうあからさまに請求されると、何だかムカつくな。
「そういうところだけキャザーンのやり方を真似るんだな、オマエ」
「せや。クララはんの方針や。女王陛下には逆らわへんねん」
しかし愚痴を言っても始まらん。まんがいちこの騒動が原因となって、電磁生命体が公(おおやけ)になったら、よくて見世物小屋。最悪は政府の研究機関に閉じ込められて一生出られぬままになる。
「ギア。どうすればいい?」
「このドローンにマタタビの原液が積み込まれていることをメルデュウスは承知しとるみたいや。ずっとワテを追い掛けて来るからな。それは好都合やねんけどな……あのソニックセーバーがクセもんや。あれでドローンを落として濃縮液を奪う気みたいや」
「キヨ子どのの待つ舞嶋までは此乃花大橋を越えればすぐなのだが、どうやってUFJから誘い出すかだな。それも人目に付かないように……」
もうメチャクチャ人の目に焼き付いた気がするが、なにしろここが特殊空間であるがため、誰も騒ぎ立てないのが幸いである。
「せやがな。そこでワテの作戦や」
ギアが言うには、セスナの車輪周辺に多めにイリドミルメシンを噴霧し、飛びついたところをクララに掴まえてもらって、そのまま空中にぶら下げて、此乃花大橋をひとっ飛びにしようと言うものだった。
「どうやって液体を上方向へ散布するのだ? このドローンでは真下に撒く程度にしか作られていないのだろう?」
「ワテが実体化して、ホースの向きを変えたる。ほんなら自由な角度に撒けるデ」
「うまく行くかな?」と訝る我輩に、
「やってみな分かれへんやろ。クララはんに電話して訊いてみぃ」
彼女は二つ返事で承諾した。ついでに掩護もしてくれるということだ。やはりキャザーンの頭領である。少々無茶なことでも平気なのだ。
ギアは簡易的に実体化すると制御板に繋がれたUSBコードを我輩のスマホに突っ込み、軽々しくほざきやがった。
「ほな操縦を任せたで」
「いきなり言うな」
「キヨ子はんが作った飛行制御は抜群な安定状態を保つんや。スマホのブルートゥース通信で上下左右前後をコントロールするだけや。建物の先端に気をつけとったら猿でも操縦できる」
むぅお。できなかったら猿以下だと言いたいんだな、コイツ。
ギアからひと通りのレクチャーを受け――、
奴が言うように操縦はとても簡単だった。キヨ子どのの拵えた制御システムは横風や角度の変化に俊敏に反応してくれ、我輩は何もしなくてもよい。ゲーム機感覚だった。
「だけどギア……。メルデュウスは必ずシェーバーで襲って来るぞ。そのへんは大丈夫か?」
「キヨ子はんがゆうとったやろ。ワテらは電子の塊や。実体化して電磁放射をしたらソニックセーバーに対抗できるって」
いつのまにか、ソニックシェーバーがソニックセーバーになっておるのが気になるが。
「シェーバーやったら剃刀(かみそり)やんか。なんや知らんけど『まだこんなに残っていましたよ』のコマーシャルみたいでカッコつかんやろ」
こいつも古い奴だ。いまどきそのテレビコマーシャル見んぞ。
まぁいいか、こだわっている時間は無い。
「で、完全な実体化はまだできるのか?」
「ああ。人間の姿はもう無理やけどな。ラブジェットマシンはすごいな」
「幽霊製造機としたらな」
「実態を持たへんワテらに体を与えてくれるんや。すごいで」
「我輩は幽霊にはなりたくないぞ」
「ワテは幽霊で満足やで……ゴア。そんなことゆうてる場合とちゃうで、真下にメルデュウスが来たデ。気ぃつけよ。人間の跳躍力の比やないからな」
とギアが言っている端から。
うぉぉぉ―――っ!
メルデュウスが突き上げたセーバーの青白い光りの刃が真っ直ぐドローンの進行方向を通過し、吃驚して右へドローンをいなす真上をメルデュウスは宙で一回転すると、城壁の天辺に着地した。
「す……すげえ。5メートルは飛んだぞ。なんという跳躍力」
「やろ。度肝ぬかれまっせ。さすが宇宙ネコやで」
「よし。肝に命じた。操縦は任せろ。お前はメルデュウスを相手してくれ、それから……クララどの聞こえるか? セスナでドローンの真上を通過していくれ、車輪にイリドミルメシンを散布する。後はメルデュウスが飛びつきやすい高度を取って、飛びついたら捕まえてくれ」
『承知した……』
「ぎ、ギア。メルデュウスの攻撃が来るぞ! お前は実体化してドローンを守ってくれよ。彼女の狙いはここに詰んである原液だからな」
「わ、わ、わ、分かっとる」
「落ち着け」
「ど、どこや? メルデュウスはどこ行った?」
「左の尖塔の陰だ」
「よっしゃ。完全実体化!」
「…………………………」
何も言えなかった。でも報告はしないといけないよな。
「ギア。それではドローンに乗ったアメーバーの幽霊だ……うおぉっと」
正面から振り落とされた青い光を右へ避け、
「もう少し、あの闇の魔道士みたいな威厳は出せないのか?」
「そんなことゆうたかって…………風に煽られてうまいこと動かれへんねん」
「さっきは威勢よくオレにまかせろ的な言葉を吐いておったくせに。お前、どこがアグレッシブでアドベンチャーなのだ。てんでダメ男(お)だな」
「古いことを……やーやーゆうなや。もうちょい待ってぇや。腕が風に流されてねじれるんや……」
凧の足だな……ったく。
「うぁ。走って来たで!」
メルデュウスは疾走するチーターにも匹敵する勢いでこちらに駆けて来た。幽霊化したギアが身を乗り出して後方を確認。
「ゴア! 上昇や。塀を利用して飛びつく気ぃや! 急速上昇してくれ!」
「りょ、了解だ!」
ん……………?
「ぎ……ギア。なんだかおかしいぞ?」
「急げゴア! 何しとんねん。上や! 上昇やがな。なんで高度が下がって行きまんの?」
何とか立て直そうとするのだが、コントロールが利かなかった。
「早よせんかいな。どないしたんや?」
「どないもこないも……どうやっても上昇しないぞ!」
「なんや? 故障かいな?」
ゴソゴソするギア―――いきなり叫ぶ。
「アカン。バッテリー切れや!」
「こんな時に……電磁生命体が二人もいて情けない」
と悔やんでも後の祭りである。
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