アカネ・パラドックス

雲黒斎草菜

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【第四章】悲しみの旋律

  管理者の議会  

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「ところで……」
 じゅごごごごごご。

「シロタマは……?」
 ずごごごごごご。

 音に驚いてミカンがテーブルの下から見開いた目を上げるほどのパワフルさで、ストローから飲み物を吸い上げる田吾。

 どじゅ、ごごご。
「……どこ行ったんダすかな?」
 じゅがががが。じゅじゅじゅじゅ。ずご――っ。
 みるみる無くなっていく。

「ん、はぁ――。これ美味しぃダすなぁ」

 玲子も口にストローを突っ込んだまま、その騒がしさに固まっており、見かねた俺はすかさず文句をつける。
「お前ねー。もっと味わって飲めよ」
「そうよ。せっかく未来都市のおしゃれなカフェで、見たことも無い珍しい物を飲んでるんだから、もっと楽しみなさいよ」

「そう言うお前はショッキングピンクの液体が全然減っていないんだけど。何だよそれ? 体に悪そうな色だな」

「知んない。文字化けしてたんだもん」
 俺たちの言葉に解釈できないものをわざわざ注文する気が知れんな。

「あら、でも美味しいわよ。そっちは?」
「……ホット」

 玲子はテーブルの上で肘を滑らせる仕草をして、せせら笑う。
「せっかく未来まで来たのに、バカみたい」
「俺だって珍しい物を飲もうと思ったさ。でもちょっと勇気が出なくてな」

 田吾が頼んだアイスカフェオーレが、注文してものの10秒で持って来られた素早さに眉をひそめ、それを覗き込んだ途端、優衣が「あらら……」と意味深な言葉でセリフを途切らせたのだ。なんかやばいモンを注文したのに決まっている。それで無難ところ、ホットコーヒーと書かれた文字を示したのだ。

 そう。ここは俺たちの故郷の星から数万光年離れた天の川銀河のほぼ反対側にあるドゥウォーフ人の星。つまり銀河を統一する管理者の住む惑星だ。しかも450年未来さ。そんなところで出されたメニューが俺たちに読める文字に切り替わったからと言って、注文した品が既知の物と一致するとは限らんだろ。

 だが意に反して、俺が頼んだホットは、見慣れた漆黒色をしており、ほんのり立ち昇る甘い香りは、まさにいつものコーヒーだった。
 付属のカップには純白のミルクまでそそがれており、それを渦巻かせた黒色の海に流し込むと白い螺旋の幾何学模様を描くところまで、ちゃんとしたホットだったさ。

 なのに――。

「あ――頭痛ぇぇ」
 ひと口すすりあげて額を押さえた。

「何なんだ、この甘さ。しかも最初から砂糖を入れてあるし」
 俺はブラック派なのに。

「ドゥウォーフの人は甘党ですから」と優衣。
 いや、これは行き過ぎだろう。

「お前のは?」
 今度は玲子のグラスの中を覗き返す。ピンクに染まった溶液に緑色の氷が浮かぶ不気味な彩(いろど)り。口に入れる物の配色ではない。

「甘いわよ」
 玲子は平気な様子。

 この……味オンチめ。
 コイツの作ったメシを嗅ぐと、生ごみの匂いがするのはそのせいだ。

 こうなると田吾が平然と飲み干したブツは何だったんだろ?

 指を絡め、テーブルに肘を乗せて田吾が粉砕機のように噛み砕く氷の行く末をじっと観察している優衣に訊く。
「こいつのカフェオーレだけ異様に早く出て来たけど……何だよあれ?」
 カフェオーレに『何だそれ』は無いのだが、ここは異世界だからして。

 絡めていた指を解いた優衣は、平気な顔をして言った。
「タゴさんが飲んでいたのは、赤ちゃんの離乳食です」

 ぶふぅぅぅぅーーっ!
 ほぼ空になっていたグラスから氷が一つ飛び出た。

 田吾は鼻の頭に飛び散った滴を指先で拭いながら、
「何ちゅうもんを飲ますんダすか!」
「注文したのはお前だろ」

 どうりで人の目が集中すると思った。

「ただでさえ俺たちは目立つ存在なんだ。これ以上恥の上塗りをすんなよ。俺たちのイメージが最悪のところまで落ち込んだら、お前のせいだからな」

「そんなの知らないダよ……ったく」


 しばらくブツブツ言っていたが、じゅご――っ、と残りの一滴まで吸い上げて、座席の背に全体重を掛けて息を吐いた。
「はぁーー。美味かった」

「美味かったのかよっ!」
 叫ばずにはいられなかった。




「さて、では私たちも行きますか」
 何かを思い出したように優衣が立ち上がった。

「そうだ。シロタマはどうしたんだ?」
 最初に田吾が気付いたのだが、すっかり未来の飲み物に気を取られていた。あいつもこの世界に来ているはずだ。

「シロタマさんは病院のエアロシャッターに弾き飛ばされて、怒ってどこかに行っちゃいました」
 先頭に立つ優衣の言葉に思わず笑った。
「あはは。バイ菌扱いされたんだ。そりゃ怒るだろ」
 自由奔放を絵に描いたような奴だ。

「どこかって? 帰って来るダかな?」
「あいつは口先だけさ。玲子が呼べばほいほい飛んで来るぜ」
 玲子が平気でニタニタするのは、俺の言葉が事実を語るからさ。


 数分後。
 宇宙にまで突き出たと説明された超々高層ビルの麓(ふもと)に戻った。山みたいなビルだから『麓』でいいさ。
 で、エントランスは先ほどと変わらぬ人ごみでごった返していた。

「それでは反抹消派の議会へみなさんをお連れします。失礼の無いようにお願いしますね……ね?」

 なぜに念を押す?
 社長には告げることの無い忠告をするのは、田吾のせいだ。玲子かも知れないな。


 忽然と光に包まれた次の刹那。雑踏の騒音が瞬断されて、場所が移動したことを悟る。
「ここは?」
 キョロつく玲子の黒髪が揺れ動いていた。どこかの撮影スタジオかと思わす無限の広がりを感じさせる何も無い空間。でもこれまでの経験上、俺は知っている。イクトのコンベンションセンター、それからカエデが乗っていた宇宙船もそうだ。異様に広く感じるのは無彩色の壁面で周りを囲んだ作りだからで、実際はちょっと広めのホール程度なんだ。

 せこいぜ、管理者。

「ミカンはどこ行ったんだ?」
 俺の質問には答えず、
「リフトをお願いします」
 空間に命じる優衣。

 不可思議な空気にぽかんとする俺たちの前に、何度も見たことのある物が音も無く滑り込んできた。
 お馴染みの重力抑制プレートだった。
「なぁ、ミカンはどこ行ったんだよ?」

「あの……」
 少しの間、口を閉じていたが、
「ミカンちゃんは時間規則に反する形でカエデさんの元から保護しましたので、ひとまずワタシたちから引き離されています」

 端正な面立ちに不安を滲ませたので、俺は胸を張って言い切ってやる。
「あれはやむを得ない状況だったんだ。ユイの責任じゃない。俺が証人になってやるよ」
「あ、はい。それはそうですが、ワタシはアーキビストですので何らかの咎めを受けるかも知れません」

「心配しなくていいわ。何か言われたらあたしが言い返してあげるから」
「おうよ。ひと暴れしちゃれ。俺が許す」

「ありがとうございます」
 丁寧に頭を下げる優衣。どこか憂いを含んだ表情だった。

「……それよりこれに乗ってどこへ行くんだよ?」
 俺たちもミカンの心配をしている場合でもないのだ。

「したって、いちいち大げさだよな。こんなものに乗って行く必要あんのか?」
「反抹消派の議会はものすごく広くて迷いやすいので、これを使ったほうが手っ取り早いんです」
「ふーん」
 何とも気の乗らない返事だった。


 広さが特定できない通路をリフトは俺たちを乗せて突き進んで行く。かなりの速度が出ているようだが、まったく奥行き感が無いので顔に当たる風の強さから想像するしかない。

「振り落とされないのか?」
 ついでにイマイチ信用していない。


 リフトは何度か通路を曲がり、いくつかの扉をくぐってようやく停止した。

「うぉぉぉ……く、首が痛い」
 目の前に広がる光景を仰いで絶句する。深い火口の底に立たされたのと同じ圧迫感を覚えた。これは管理者のセコイ見せかけの設えではなかった。

 競技場みたいに巨大な円形に広がった座席がぐるりと周囲を取り囲み、すり鉢状に上へと広がっていた。座席は壁で隔たれたブロックに分けられ、数人が腰かけており、数段に一つの割りでキャットウォークが設けられた作りだ。それがとんでもなく高い天井まで続いていた。


 広大な設備に圧倒され何も言えずに突っ立っていたらと、中段辺りから前方へ座席がせり出して来た。
 そこに二人の人物が立っていたが、社長とオムニ議長だというのはすぐに分かった。
 社長は高さに慄き、恐々下を覗き込み、手すりにしがみ付いていた。

 係りの人に誘導されるがまま、俺たちは議会の中心にセッティングした妙な装置付きの椅子に座らされた。

「さて……それでは査問会を始めよう」
 オムニ議長の声が響き渡り、俺は驚き、かつ憤慨する。

「査問って何だ?」
(ちょっと待てっ!)
 俺の意識が反発する――が、身体が動かない。

(これではまるで尋問じゃねえか。俺たちを犯罪者扱いする気か!)

 次々と怒りが込み上がるが、何もできない。特に拘束されているわけでもないのだがシロタマの神経麻痺ビームを受けた時と同じ症状だった。違うのは視界が自由に移動できる。どこでも見たいところが見られる。ちょっと意識を集中させるだけで、一番天辺の席に座る女性の目線がどこを向いたのかも分かる。
 座席の背もたれに付いた装置が俺の視線を探って映像を視覚野に送ってくるようだ。
 何か知らないがすごいぞ、管理者め。

「すまんのぉ……」とオムニ議長が手を上げ、すぐ横にいた社長が俺の真横に瞬間移動して来た。

(こういう方法でしか議会は進んで行かんみたいなんや。辛抱しなはれ)
 社長の声が頭に伝わるが、当の本人は何も喋っていない。うつろな目をして前を見るだけだ。

「査問という言葉に憤りを感じておるようだが、我々の世界では同じ意味の言葉がみつからんのだ。申し訳ないと思っておる」
 と伝えて来たのは、オムニ議長から二段下の座席でふんぞり返っていた彫りの深い厳つい顔した男だ。

(その顔、怖ぇーよオッサン。へー。この人が事務局長さんか)
 訊いてもいないが勝手に頭に情報が入ってくる。

「だいたい勝手に無理難題を俺たちに与えておいて、お前らは常に知らん顔。それが気に入らん!」
 おーい。俺。何を言ってるんだ。そんな荒げた言葉を発する気は無いんすけど。

「それは仕方が無いんじゃよ、ユウスケくん。我々は未来人じゃ。過去に口出しはできぬ……知っとるじゃろ、時間規則のことを?」
 オムニ議長の言葉に肯定を表すどよめきが波となって伝わってきた。

「だから、仲介役にF877Aを起用したのだ」
 座席の位置はわからないその人物はこともなげに言った。なのにそいつの顔の表情まではっきりと意識に浸透してきた。

「それも気に入らん。何でも優衣に押しつけやがって。その上、お前らの仲間がジャマしにくるし。なんだあの野郎は!」
 ちょ、ちょっと。それ以上、事を荒立てるな、俺。

「それは知らん。抹消派の連中のやることまではこちらも責任を取れん」
「その代わりピクセレートを与えてやっただろ」と別の管理者。
「金で人が動くとでも思ってるのか!」
 勝手に喚く俺の言葉を他人事みたいに聞き、かつ社長の顔を窺って見たりして。

「しかし派手に使っておるではないか。巨額の請求が450年も経った未来にまで伝わっておるぞ」

「なんだと! この腐れヤロウ!」
 さらに大声を張ろうとする俺。もうだめ、今喋っているのは俺じゃねえすからね。

 察したのか、議長が指をパチンと鳴らした。
 同時に固まった。石化したと言ってもいい。意識は晴れ渡ったままなのだが、抗った態度を取っていた俺の気配が消えたのだ。

「あたしも裕輔と同じ意見です」
 と今度は玲子が喋り出した。顔を覗き込むと整った平素の面立ちだが、目の奥が困惑に揺れ動くところを見ると、俺と同じなのだ、勝手に喋り出した自分に仰天しているのさ。
 ひと通り、管理者に対する不満と、メッセンジャーに対する憤りをぶちまけていた。

 次に田吾が優衣とフィギュアの融合だとかいう講釈を得々と語り、こいつがこんなに饒舌だったのかと感心。でも会議場からは嘲笑の渦が。
 まーた、恥かいてんじゃねえか。ばか。

「ふーむ」とオムニ議長が唸り。
「どうも。我々のことが上手く伝わっておらんようじゃな」

「すんまへんな。450年の進化を遂げた人らから見たら、ワシらは猿みたいなもんですワ」
「いやいや。ゲイツどの。そういうことを蒸し返す気は無いのじゃ」

 俺は反省していますよ。ちゅうか、さっき口にしたは本心じゃないっす。俺がそんなことを……いや、ちらっと思った事はあるけど……。あるな。うん、ある。

「悪いが本音を訊き出すには精神操作モジュレーションを使うしか手段は無いのじゃ。そうでないと、キミらの一言が未来を変えてしまうことにもなる」
 ドゥウォーフ人の割りに背の高い男性が頭の上から声を落としてきた。

「精神操作モジュレーションとは、自我の奥底に眠る感情を引き出すことじゃ。そちらの言葉でなんと言うんじゃ?」
 オムニ議長にそう尋ねられ、大いに困った。

 え……?
 催眠術か?
 違うな……。

「洗脳?」とは玲子
「それもちゃうで」と社長が反論。

「今回は過去体との初のコミュニケーションだ。ある意味、試験的と言ってもよい」
「試験的?」

「450年も立っておるがの。いまだに感情というものを数値化できんのじゃよ」
 する必要あるのか?

 オムニ議長はきっぱりと言った。
「ある。それをした人がおる」

 誰だよ?

「スン博士じゃ」
「クオリアポッドか……」
「そう。自分の作った試作機の手によって亡き者にされたスン博士じゃ。おかげで数百年、アンドロイド技術が滞ったのが真実じゃな」

「試作機ってカエデだろ。なんか話がおかしい。450年後でもスン博士は行方不明のはずだろ。カエデに殺されたのは俺たちしか知らないはず」
「ワタシもそう思っていました。後日詳しい報告書を出すつもりでいたのですが……」ようやく優衣が口を出した。

「報告書は必要ない。すでに真相は解明しておる。なぜキミは450年ではなく452年のこの時代を指定されたのか、不審に思わなかったのかね?」
「あ、はい。思いました。ですがそれは重複存在を懸念してだと思っていました」

「実はな。キミが時空修正に向かった次の年、博士の遺体が回収されたのだ」とは事務局長。
 2年の差なんて俺にはどうでもいいことだったが、そんな意味があったのか。

 事務局長とオムニ議長の説明が交差する。
「実は……Gトリプルゼロワン、キミらの言うカエデじゃがな。スン博士は危険を感じて一度破壊したんじゃ。じゃが……」
「それがネブラに回収されたのが仇になった……」
 なんだか腑に落ちない結果が待っていた。

「ちょっと待ってくれまへんか?」
 社長が口を挟んだ。
 そう俺たちが知る事実とだいぶ食い違うところがある。

「カエデ……あ、いや。Gトリプルゼロワンでっけどな。ネブラと関係がおましたんか?」
「キミらがGトリプルゼロワンと出会う2年前にスン博士が殺害されたのは、キミらも知っている通り事実だ。だがそれ以前にまだ続きがあってな。すべて回収された博士の遺書に残されてあったのだ」


 それによると。俺たちとGトリプルゼロワンが出会うよりも53年も昔。博士は彼女を完成させた。
 だが起動させてその危険性にいち早く気付き、ホールトさせようとしたが失敗に終わった。そこでやむなく破壊したそうだ。しかしその重要システムはネブラに盗まれており、あっちで作り直されたのが俺たちの前に現れたカエデだ。きっちりネブラとつながっていたわけだ。

 ネブラの手先となったカエデは博士の復讐に燃え、かつクオリアポッド搭載のFシリーズに嫉妬もして、それらを探しては次々と破壊して回っていたが、茜だけは3500年過去に逃げていたので無事だった。その後は知ってのとおり、優衣がこっそり未来に連れて来て闇に包んでしまったので、ネブラは茜の捜索を断念したのだ。

 スン博士はGトリプルゼロワンがネブラの手に渡ったことを議会に知らせようと亜空間通信を起動させるが、連中に傍受されることを懸念して、自ら230光年先の管理者の議会へ向かう途中、つまり俺たちがカエデと出会う2年前、悪魔と化した奴に捕まって殺された、ということだ。

「事実は奇なりでんな……」
 重苦しい言葉を綴る社長。

 カエデは53年という長い時間に耐え忍びつつ、あの場所で俺たちを待ち伏せするほどに執念深い奴だったんだ。今さらながら赤黒い斑点を蠢かせる肌をしたカエデの姿を思い起こして背筋が寒くなって来た。


「ネブラがここまで巨大化したのには、我々のミスが再び重なったのだ」
 事務局長が何かの宣言をするかのように言った。

「4000年前……。我々の先祖は出してはいけない領域に手を出して自らを破滅に追いやった。今さら言う必要は無だろうが、無感情の自己増殖マシン、そうドロイドのことだ。それから3000年余り、同じ失敗を繰り返さないためにと作られたクオリアポッドをさらに進化させようとしたが、感情と精神力という雲を掴むような仕様を制御できず、またもや自らの首を絞めつける結果になったのだ。それがGトリプルゼロワンだ」

 会場から大きな吐息が洩れた。

「その間にドゥウォーフの世界は二つに分かれた」
 右方向から重々しい声が上がり、視線をそちらに振る。真っ白いフード付きの貫頭衣を着た針金みたいな男が、両手を交互に差し出して説明する。

「感情を制御する精神力。それぞれを理解できないマシンは作るべきではないと結論出すグループ。理解できるマシンを作り上げればいいんだと主張するグループ」

 今度は左手から声が渡る。首が痛ぇぞ、お前ら。
「……争い、という退化した感情をむき出しにすることは無いので、戦争みたいな野蛮行為にはなりえないが、抹消派は一切の感情を排除して論理的思考だけでモノを言う連中じゃ。アンドロイド技術を捨て、サイボーグ化に力を注ぎ込んでおる」

「メッセンジャーというのはそういう輩です。せっかくゲイツさんが我々の先祖を救ってくださったのに、こんな世界に成り果ててしまい。まったくお恥ずかしい限りです」

 中央の女性が立ち上がり、って。何だこの芝居じみた振る舞い。演出か?

 ようやく気付いた。鈍いな俺。
 連中は一言も声で語っていない。口は堅く閉じたままだ。皆の意識が俺に語りかけてくるのだ。
 それに応える社長。

「そして二つの議会が持った共通の懸案事項ちゅうのが……ネブラの破壊や。それをお手伝いできるのは現時の人間だけ。それ以外の人は時間規則に反する、十分理解できました。乗り掛かった舟でんがな。あとはワシらにまかせときなはれ」

「うむ。ゲイツどのの決意に感謝する。おかげで議会の承認を得た」
 と白ヒゲを摩りつつ、オムニ議長が社長へとうなずく。
「そうそう。申請のあったネブラへの接近許可は全会一致で得ておる。それからもう一つ、腑分けの要請も受領した」

 さっきの厳つい顔の事務局長が俺の目を見て言う。
「ここは我々の時間域だ。時間規則に反することは何も無い。協力は惜しまないから何でも申し出なさい……ユウスケくん」

(のははは、ども、大口叩いてすみません。事務局長さん。穴があったら入りたいです)
 誰も何も言っていないのに、話はどんどん進んでいく。精神操作モジュレーション。恐るべし。
  
  
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