TowerDungeonOnline(タワーダンジョンオンライン)

小佐古明宏

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1章 始まりの街

15話 涼子との関係

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 リサと別れログアウトしたアヤネは、夕食を取り、お風呂に入った後に、ある人物へとLINEを送る。

『こんばんは、涼子さん』

『こんばんは、綾さん』

 専属の編集者となっている涼子から返事がくる。

『今日、久しぶりにTDOの中で友達と会いました。彼女、凄く強かったです(#^^#)』

『そう、凄く強いのね。興味あるわ』

『私も、興味津々ですよ。そこで、彼女を主人公にした漫画を描こうと思います。どうですか?』

『貴女が描きたいのなら、私もサポートするわよ。明日、打ち合わせ出来ないかしら?』

『はい! 時間を空けておきます』

『分かったわ。午前10時ぐらいに迎えに行くわね』

『ありがとうございます』

 涼子とのやり取りを終えると、綾は理沙と経験した事を思い出しながら、プロットを考える。机に座り、ノートパソコンを開いてWordを起動させ、涼子の打ち合わせに間に合うように書いていく。

 綾は絵が上手いが、ストーリーが苦手だった。出版社への持ち込みをした時も、ストーリー性がないと指摘された。綾を担当したのが涼子であり、その時に、何故、漫画家を目指しているのか、話をした。

 苛めが原因で、高校を辞めさせられ、友達が起こしたマスコミへの持ち込みにより、普通の生活は出来なくなった。綾は、都会から離れ、家族と共にひっそりと暮らしている事を話した。

 学校を辞めさせられ落ち込んでいたが、それはチャンスでもあると母親に言われた。時間があるのだから、自分の好きな事をしなさいと言われ、後悔しない様にとも言われた。その事を涼子に話すと、彼女が専属の編集者になると言って、行き成り漫画家デビューする事になった。

 この出版社は、母親の仕事の関係先で、綾はアポなしに持ち込みが出来た。これも、母親のおかげである。感謝しきれない有り難さを感じた。そして、父親がいない事を嬉しく思った。

 綾は母子家庭で、父親は離婚していない。綾が幼い頃、母親は父親から暴力を受けていた。その事がきっかけで、警察が動き、父親は逮捕された。弁護士を交えて、離婚を決意し、2人だけの生活が始まった。

 高校を辞めさせられた時、母親に申し訳なく感じたが、『嫌な事があるのなら行かなくていい』と言われた。『貴女は、私と違い、拒否権を持っている。無理やり、嫌な事をさせられる事はない』その言葉に心を動かされ、綾は自分が目指している事を話した。

 漫画家になりたい。

 イラストを描く事が好きだった綾は、絵を描くのが上手だった。母親もフリーのイラストライターで、それが遺伝した。母親と2人暮らしになってから、生活は辛くなると思っていた。しかし、収入が多かった。

 母親は、TDOに関するイラストを描く仕事を受けており、離婚する前より豊かになった。父親は、ろくに仕事もせずに、母親の収入で、好き勝手に生活をしていた。その父親が居なくなり、節約できたので、生活の余裕が出来た。

 今も、母親はTDOのイベント企画に合わせて、イラストを描いている。描いたイラストは、公式サイトのWeb上で公開される。

「うん、これでいいかな?」

 綾は、キャライラストと苦手なプロットを書き終える。

 主人公は、ゴーレムを操る少女。ヒロインは、駆け出しの冒険者の少女。

 ゴーレムを操る少女は理沙がモデルで、ヒロインの少女は、綾自身をモデルに考えた。リアルの理沙と自分をイメージして、キャライラストを描く。

 プロットも、冒険者として始まりの街にやってきたヒロインが、ギルドの中で荒くれ者に絡まれる事から、話が始まる。ヒロインを助けたのがゴーレムを操る少女であり、彼女は始まりの街で有名な冒険者だった。

 戦闘シーンは、無数のゴーレムを召喚させて戦うように描こうと考えた。ゴーレムを描くのが大変そうだが、トウジョウ君のようなタイプなら、絵にしやすい。石で出来たマッスル体系のゴーレムを試しに描いてみると、綾は苦笑いを浮かべる。

「強かったよね」

 綾はゲームを始めて3週間ほど経つ。涼子に勧められて、TDOの漫画を描かないかと言われて、今ではハマっている。ゲーム内での人間観察は、絵を描く時のイメージを膨らませる糧となり、凄く役立っていた。

 高校に通っていた時は、苛めを受けていたので、人間観察など出来なかった。TDOの中は、ネタの宝庫であり、楽しい事が沢山ある。理沙と再会した事で、益々、創作意欲が増した。

「ん? もう寝よう」

 いつの間にか日付が変更しており、綾はデータを保存すると、ノートパソコンの電源を落とす。冷房の温度を下げて、スマホで目覚ましをセットすると、ベッドへと入り眠りについた。


                     ▽


 翌日、世間では夏休みと言う事もあり、学生はお休みである。高校を辞めた綾には関係ないが、学校に通っていた時は、良い事は無かった。今の生活が充実しており、過去の辛い事を思い出さないようにしながら、約束の時間まで待つ。

 玄関先でスマホを確認していると、

『もうすぐで到着するわ』

 とLINEが入る。暫くすると、四輪駆動のジープに乗った涼子がやってきた。

「お待たせ、待ったかしら?」

 オープンタイムのジープには凛々しい顔立ちに、頭にサングラスを乗せた女性が座っていた。出るところは出て、高長身のモデルの様な体形をしている。いつも、仕事の時はスーツを着ているが、今日は、ラフなノースリーブのシャツに、太腿が露出したショートパンツを履いていた。

「ええと、おはようございます涼子さん」

「ん、おはよう、綾ちゃん」

 乗ってと言って、助手席の扉を開くので、綾は乗り込む。持ち出してきたノートパソコンの入った鞄を抱きかかえ、シートベルトを付ける。

「今日は、仕事が休みだから、これから、海に行こうと思うわ」

「はい、別に構いません」

「そう、まぁ、海と言っても別荘で涼むだけだけどね。それじゃ、行くわよ」

 エンジン音を高まらし、ジープが進む。綾の住まいは、田舎であり、周辺の民家は少ない。田舎暮らしを求めて都会から引っ越してきた家族が多く住んでいるが、殆どが、高齢で退職後の第二の人生を歩んでいる。

 その為、綾や母親の様な若い人が住む事が珍しく、ご近所付き合いも良くしてもらっている。田舎のお爺ちゃん、お婆ちゃんと言った感じで、綾も孫の様に可愛がられていた。

 この場所は、一条財閥が管理する地域であり、住んでいる人は、財閥に関係していた企業の偉いさん方であるが、綾はその事を知らない。母親は、時々、畏まりながらお年寄りと話していたが、愛想の良い人で、会話も弾んでいた。

 ジープは山を下り街の中へと進んでいく。道中、綾は涼子に漫画の内容を話し、意見を聞いていた。詳しくは別荘に着いてからと言われ、綾は緊張しながら頷いた。


                    ▽


 涼子の別荘というだけ凄く大きかった。ログハウスの2階建てで、3棟があり、社員の家族が利用する為に使われていると話していた。一条出版社の事実上のトップである涼子は、休日はこの場所で過ごしている。

 誘われた綾は、心臓が張り裂けそうな程緊張しながら中へと入る。エントランスが広がり、正面に2階への階段がある。階段の左右には扉があり、奥には食堂がある。

 入り口の右側は、応接室、仕事場が並び、左側には、寝室、浴室などがある。2階の部屋は客室用だと話していた。綾は、仕事場へと案内される。そこで見た光景に、唖然とする。

「これが仕事場ですか?」

「そう、私の休日は、TDOをする事だから、いわば、仕事の一環よ」

 見た事のない大きなカプセル状の装置が2つ並んであり、傍には60インチのモニターが設置されていた。机も並んでおり、綾を席へ案内する。

「このカプセルは、一条財閥のTDOへの投資の一環ね。高スペックダイブシステムと呼んでいるわ。正式名はまだないけど、ヘルメット式のハードより、優れた反応速度を出せるわ」

 説明を受けていると、カプセルの蓋を開ける。中はフカフカしたクッションが敷かれ、仰向けに寝るようになっていた。頭に装着するのは、ヘルメットではなく、カチューシャの様なアンテナの付いた物だった。

「課金もクレジットカードを差し込んでいれば、ボタン1つで出来るから便利ね」

「そ、そうですか…」

 苦笑いを浮かべ、綾は鞄からノートパソコンを取り出す。

「そうだ、USBケーブルを差し込んで、モニターと繋ぐから」

 言われたケーブルを端子に差すと、傍に合った大型のモニターに、綾のパソコンの画面が映し出される。操作をしながら、昨夜に描いたイラストとプロットを出すと、涼子の感想と指摘が言われる。

「ん~、ゴーレムを使う主人公ね。良いと思うけど、パッとしないわね。インパクトがないわ」

「う…難しいです」

 実際はインパクトがあるが、描き切れない。

「この主人公、モデルがあるのね?」

「はい、私の友達です」

 何か、思い出したように涼子がスマホを取り出す。検索して、TDOの掲示板を見せてくれた。

「もしかして、話題になってる友達?」

 その内容は、ヤバいゴーレム使いがいるという内容で、ウッドゴーレムと、トウジョウ君のステータスが晒されていた。

「そ、そうです。この書かれているプレイヤーが私の友達です」

「そう…興味深いわね」

 何か、面白そうなものを見つけたような笑みを浮かべる。

「私も、このプレイヤーと友達になりたいわね」

「友達ですか? でも、理沙ちゃんは夜にしか…あっ…」

「ふふふ…全て知ってるわよ。貴女のリアルの友達の事。仲が良かった事もね」

 全て知ってると言われた時は、思わず悪寒が走った。冷や汗が、冷房の入った部屋で晒され、体温を奪っていく。

「夜なら、仕方ないわね。待ち合わせは出来ないかしら?」

「ええと、本当に会うつもりですか?」

「当然よ! 面白そうじゃない!」

「でも、始まりの街ですよ? 涼子さんのキャラは…」

 始まりの街と各国のフィールドは隔離されており、始まりの街を去ると戻ってくる事は出来ない。その為、始まりの街に行くには別のアカウントでキャラを作る必要がある。

「大丈夫よ。メインのガチャで手に入れた装備を、プレで送ったキャラがいるわ」

 IDが分かれば、プレゼントとして装備やアイテムを渡す事が出来る。その為、TDOではメインとサブの2つをもつ人が多い。このゲームは廃課金、重課金、微課金、無課金とプレイヤーがいるが、プレ無課金が一番強いと言われている。

 課金ガチャで出た装備、アイテムをプレゼントで無課金キャラに送る。無課金でプレイすると、運営から様々な優遇が受けられる。課金プレイヤーとの差を縮める処置だ。

 無課金プレイヤーは優遇されるという情報は、一部の人にしか伝わっておらず、当の本人は自覚すらない。それに、少しでも課金をすれば、今までの優遇処置が取り消される。

「綾ちゃんも、課金してないでしょ? 私のあげたプレゼントで、プレイしてるでしょ?」

「はい…課金すると、人生が破滅しそうなので、やりません」

「それがいいわよ。廃課金なんて、金持ちの道楽でしかないもの」

 自覚していると言わんばかりに、涼子は仕事をしていた。イラストの微妙なズレや、プロットの構成の修正など、教えてもらい、昼が過ぎていた。昼食は涼子の手料理を頂く事になり、午後は、一緒にTDOをプレイする事になった。

 涼子は明日も休みなので、このまま綾を帰さないと話していた。泊まり込みで、ログインする事になりそうで、綾は溜息を吐く。涼子曰、理沙に会うのに、綾が傍にいた方がいいと言う事らしい。

 もう1台置いてあるカプセル型のダイブシステムの装置に寝ると、涼子の説明を思い出しながら操作を行う。ヘルメット型と同じ要領で、カチューシャの電源スイッチを押すと、IDとパスワードを聞かれる。

 綾の意識は電脳世界へと沈んでいき、覚醒した時には、リサと別れたギルドの2階の個室だった。
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