TowerDungeonOnline(タワーダンジョンオンライン)

小佐古明宏

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1章 始まりの街

16話 リコとアヤネ

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 件名:明日からについて
 差出人:リサ
 宛先:アヤネ
 本文:今日はバイトが休みだからログインしているけど、明日からは夜にしか来れない。もし、日中に狩りをしたいのなら、トウジョウ君を貸す。ログアウト中でも、トウジョウ君は準NPCとして、プレイヤーとPTが組めるから、一緒に行動すれば、レベル上げが出来るぞ。

 ログインすると、メールが1通届いていた。リサから送られたもので、レベル上げを手伝うという内容だった。アヤネは返事を返す。

 件名:ありがとう!
 差出人:アヤネ
 宛先:リサ
 本文:ありがとう! レベルを上げたい時はPTを組むよ。

 それから、リサちゃんに会いたいっていう人がいるの。私の専属の編集者の人だけどいいかな? 良ければメールをください。

 送信をすると、アヤネは個室を後にする。

「待ち合わせは…噴水だったね」

 涼子と待ち合わせの場所へと向かう。事前に、キャラの名前と容姿を伝えていたので、向こうから探してくれる。リサと待ち合わせした、噴水前に立つと、周辺を見渡す。

「ん?」

 背中を突かれる。振り返ると、小柄で猫耳を生やした少女が立っていた。

「お待たせニャン」

 可愛く、手を握りしめて猫を招くような仕草をする少女は、リコいうネームが頭に浮かんでいた。

「……恥ずかしくないですか? 涼子さん」

「うぅ…素で言わないでほしいわ」

 顔を真っ赤にするリコは、ポカポカとアヤネを殴る。可愛らしくて思わず頭を撫でてしまう。

「りょう…あ~リコさん?」

「リコでいいわよ。アヤネさん」

 アヤネの手を払いのけると、フレンド申請の画面が表示される。YESを選択すると、リサに続き、2人目のフレンドが追加された。そう、2人目だ。アヤネはフレンドを作らず、今までソロで活動していた。

 男性プレイヤーからPTを誘われる事もあったが、その都度、逃げるようにして走り去った。おかげで、アヤネは始まりの街でも、孤立した存在になっていた。女性プレイヤーから、声を掛けられ、PTに誘われる事もあったが、丁寧に断った。

「……リコちゃんでいいですか?」

「ん~、別にいわよ。私はアヤネって呼ぶわね」

 頭に生えた耳をピクピク動かす猫耳少女。リコは縞模様の尻尾を揺らし、アヤネを見上げる。アヤネもリコを見下ろす。

「その、凄く強いのですね」

「始まりの街では、負けないわよ」

 自信ありげに話すリコは、鑑定眼鏡で見る限り、始まりの街ではトッププレイヤーになる実力を持っていた。

 リコ
 種族:獣人【猫】
 職業:怪盗キャット
 LV:60
 HP3330/3330【毎分20回復】
 MP:2330/2330【毎分20回復】
 STR:560【+500】
 VIT:360【+1000】
 AGI:1060【+1000】
 DEX:560
 INT:360【+500】
 LUK:1060

 ステータスポイント:0【3600】

 共通スキル
 HPアップ:LV6…+600【165】
 MPアップ:LV6…+600【165】
 STRアップ:LV6…+60【165】
 VITアップ:LV6…+60【165】
 AGIアップ:LV6…+60【165】
 DEXアップ:LV6…+60【165】
 INTアップ:LV6…+60【165】
 LUKアップ:LV6…+60【165】
 全異常耐性:LV6【165】
 全属性耐性:LV6【165】

 専用スキル
 キャットウォーク:LV5【200】
 気配遮断:LV5【200】
 飛行脚:LV5【200】
 見切り:LV5【200】
 盗み手:LV5【200】
 投擲:LV5【200】
 無音脚:LV5【200】
 幻術魔法:LV6【310】※プレゼントスキル

 スキルポイント:240【3600】

 称号:ゴブリンハンター【100/100】ホブゴブリンハンター【100/100】王殺【500/500】獣ハンター【100/100】破壊神【1000/1000】タワー制覇者【500/500】

 リサのトウジョウ君を考えると、不思議とリコのステータスに圧倒に凄いとは感じない。リコは自慢げに胸を張っているが、アヤネ的には感動も何も感じない。

「その装備、ガチャの代物ですか?」

「そう、メインで引いて職業が適正じゃないから、こっちにプレゼントで送ったの」

 リコの装備は、全身が黒いタイツに覆われ、その上に、ラフなシャツにショートパンツ、ブーツを履いている。この全てがガチャで出た装備らしい。武器は、短剣を持っている。投げても手元に戻ってくる短剣らしい。

「アヤネも強くなるわよ。私のあげた物、使ってるでしょ?」

「はい、消耗品として使ってますよ。おかげでレベルが上がりました」

 アヤネは自分のステータスを確認する。

 アヤネ
 種族:人間
 職業:イラストクリエイター
 LV:25
 HP:910/910
 MP:810/810
 STR:30【+10】
 VIT:50【+300】
 AGI:30【+10】
 DEX:30
 INT:100【+200】
 LUK:15

 ステータスポイント:0【255】

 共通スキル
 HPアップ:LV2…+200【15】
 MPアップ:LV2…+200【15】
 VITアップ:LV1…+10【10】
 INTアップ:LV2…+20【15】

 専用スキル
 コピーライター:LV1【50】
 モノクロ武器:LV1【50】
 ペイント召喚:LV1【50】
 カラーリング魔法:LV1【50】
 
 スキルポイント:0【255】

 称号:ゴブリンハンター【30/30】

 消耗品で、インクを貰い、これを使う事でスキルが使用できる。イラストライターはリアルマネーを消費するスキルがあり、ペイント召喚、カラーリング魔法がそれにあたる。

 TDOでは、カラーインクはNPCの店では売っておらず、課金でしか販売されていない。その為、モノクロでしか書けないが、アヤネの場合は、リコから譲り受けたインクのおかげで、カラフルに描かれる。

 同じイラストライターの職業でも、アヤネは一歩有利に進んでいる。全て、リコのおかげである。何となく、リコの頭を撫でてしまう。

「アヤネ、恥ずかしい」

「あ、ごめんなさい、リコちゃん」

 リアルの涼子は理沙と同じで背が高く、スタイルもいい。でも、ゲーム内では子供の姿にしてキャラを作っている。そのギャップに自然と手が動いてしまう。

「リコちゃん、今から何処か行くの?」

「そうだね。アヤネのレベル上げでも手伝うよ。友達はまだ来れないでしょ?」

「うん、リサちゃんは、バイトだから20時ぐらいにしか来れないよ」

 時刻は14時を過ぎており、アヤネはリコとPTを組む事にした。まだ、タワーに挑戦できないので、冒険者のランクを上げる為にクエストを行う。

 リコの話ではEランクのクエストは、Fランクと似ており、ゴブリンの討伐が、ホブゴブリンの討伐になる。ホブゴブリンは、ゴブリンより背が高く力も強い。集団で襲われると、負けてしまう。

「ホブゴブリンは北西に多く住んでるわ。ゴブリンと同じ、上限数達成報酬は1000体で、加護の指輪が貰えるわ。HPが回復する指輪ね」

 リコに見せてもらうと、右手の中指に2つの指輪を嵌めていた。MPを使うスキルが多い為、MPが回復する祝福の指輪は必要品である。HPが回復する加護の指輪は、それ程必要と感じないが、HPを消費するスキルがあるので、欲しい人は手に入れる。

「面倒だからやらないけど、同じ指輪を集めて合成すると、回復量が増えるの。でも、LUKが低いと失敗するわね」

 失敗すると、壊れてなくなるらしい。ゴブリンを討伐して手に入る指輪は、消耗品でもあり、時間の経過で耐久力が無くなり壊れてしまう。合成で、耐久時間が伸びて、最終まで合成させると、壊れない指輪になる。それまでに最低でも2回の合成が必要になる。

 祝福の指輪+祝福の指輪=祝福の指輪改
 祝福の指輪改+祝福の指輪改=祝福の指輪完

 失敗を考えずにすると、全部で4個の指輪が必要になる。そうなると、ゴブリンを4000体倒す必要性があるが、

「4000もゴブリンを倒すのも面倒だし、探すのも疲れるわ」

 溜息交じりで話す。その面倒な事をリサはゴーレムBOTを使い行っている。よくよく考えると、チートだと思う。

(今頃、トウジョウ君だけでゴブリンを倒してるんだろうな…)

 アヤネの考えている通り、トウジョウ君はゴブリンを倒し終えていた。8時間と言う稼働時間を過ぎ、今は消えてしまっているが、経験値とドロップアイテムは記録されている。

 リサがログインした時、還元されるが、あまりにも多い事に驚くが、まだ、本人は来ていない。

 アヤネは、マップを確認し、始まりの街を出たフィールドを歩く。リコが楽しそうに尻尾を揺らして歩いていた。

「そういえば、リコちゃんのメインは、ログインしなくていいの?」

「いいわよ。メインの方は飽きたから」

 新鮮さが無く飽きて、攻略しているディアナのタワーが、難しくて、挫折したと話す。

「本当に、プレイヤー殺しの場所だわ。罠も多いし、モンスターも凶暴だし、ソロじゃ無理ね」

「PTは組まないの?」

「組んだわ。組んでも10階層までしか行けないの。ほら、ソロで10階層に到達したプレイヤーがいたでしょ? あれ、ソロって言うけど、私達とPTを組んでたのよ」

 リコのメインキャラは、アヤネと同じイラストライターと言う職業で、廃課金キャラである。仲間の聖女、勇者、ソルジャー、アサシンの5人でPTを組んで挑み、ソルジャーのプレイヤーが生き延びた。

 1人1人が1カ月、100万円課金している廃課金プレイヤーのPT構成で挑んだが、結果は10階層到達で終わった。罠に苦しめられ、モンスターの脅威に晒され敗北。

「そうなんだ…」

「いくら課金しても、勝てない。それなら、他のキャラを作り気分転換をする。そのつもりで、リコを作ったけど、今は、こっちが主体になってきたわ。初めての職業で、ポイントも多かったしね」
 
「う、リコちゃんもなの? 羨ましい」

 リサも初めての職業でポイントを多く貰えたと話していた。最初にステータス、スキルのポイントが、500ポイントもあれば、育成も有利になる。

「それに、検証で、無課金プレイヤーは優遇されるって示されたから、リコは、当初のメインキャラより、高いステータスよ」

 アヤネも涼子…否、リコに言われて、課金を一切していない。今は、リコからの支援で、消耗品の課金アイテムを使えるが、何時まで使えるか分からない。消耗品が無くなれば、アヤネは弱体化する。

「アヤネも、無課金を通す方がいいわよ。その方が、優遇されるわ。因みに、チュートリアルタワーを全てクリアすれば、レアアイテムやスキルが報酬で貰えるわね」

 タワーとして存在する代表的なフィールドを経験する事が出来るのは、始まりの街にあるチュートリアルタワーだけである。

 1階層=森
 2階層=草原
 3階層=海
 4階層=砂漠
 5階層=墓場
 6階層=火山地帯
 7階層=雪山地帯
 8階層=浮遊島
 9階層=遺跡
 10階層=異空間

 他にも種類はあるが、代表的なフィールドは10階層しかなく、広さはそれ程でもない。出現するモンスターも弱いらしいが、地形を超えるのが苦労する。準備を怠れば死ぬと言う事を経験させる為のチュートリアルタワーである。
 
 リコは全てをクリアしており、プレゼントで幻術魔法を手に入れている。アイテムも貰っているようで、首輪を嵌めている。身代わりの首輪と言うらしくて、中央に魔石が3つ嵌められている。

モンスターを倒せばドロップする魔石は、LUKが高くないと手に入らない。リコは1000以上のLUKを持つので、モンスターを倒した時、魔石を手に入れている。魔石なら何でも使用でき、首輪に嵌める事で、3回まで、即死ダメージを身代わりで受けてくれる。

 魔石さえあれば何度でも使える装備品で、耐久値は無く、壊れない仕様である。これが、チュートリアルタワーの全階層をクリアした報酬になる。只、同じ物が貰えるとは限らない。職業により変わり、無課金でクリアすれば、報酬も多くなる。

アヤネはリコと話をしながら、狩りを行う。見つけたモンスターを倒す前に、リコが短剣を投擲させ、ポリゴン化させて倒してしまう。アヤネの出番がない。

「リコちゃん、私も…」

「いいよ、インク代も掛かるし、私だけで十分だし!」

 木々の後ろにいたゴブリンへ短剣を投擲する。木を貫通させてゴブリンを突きさす。刺さった短剣が消えるとリコの手元に戻る。帰還の短剣と呼ばれる装備で、投擲用の武器になる。

 NPCの店で購入するナイフや短剣は、投擲するとその場に残る。回収する手間が省ける素晴らしい武器である。ガチャから出た武器で、リコはこれを複数所持している。

(いいのかな?)

 申し訳なく思いながらも、リコに寄生しながら、アヤネはフィールドを歩く。昨日の狩りを思うと、効率は下がるが、それでも、経験値は多く入っていた。リコも少しは経験値を受け取っているが、レベル差で、アヤネの方が多く貰えた。
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