TowerDungeonOnline(タワーダンジョンオンライン)

小佐古明宏

文字の大きさ
32 / 32
1章 始まりの街

24話 憩いのカフェ マーブル

しおりを挟む
 午前、午後とバイトを入れている理沙は、バイト先では少し有名人になっていた。きっかけは、悪質な客から店を守った事が発端で、今では客受けも良く、店も繁盛し出した。

「理沙さん、昨夜は私のお店を利用してくれましたね」

「……やっぱり、あの店は咲夜さんの?」

「はい、私もプレイヤーとして、ログインしてるんですよ」

 満面の笑みを浮かべ、咲夜は理沙に話しかける。昨日、亜里沙の後輩たちに案内されてはいったお店が、バイトとして働いている店と同名だった。経営者も目の前にいる咲夜で、何故か、理沙が利用した事を知っていた。

「支払いは、理沙さんがギルドカードで払いましたね? その時に、カード内の情報が読み取られるんですよ」

 情報とは、ゲーム内の情報以外に、リアルの情報を指しており、ギルドカードには個人情報が隠されている。表示はされないが、ギルドカードを使用する度に、個人情報が流失する。

 流失すると言っても、本名、年齢だけで、住所、電話番号は流失されない。プライバシーは一応、管理されている。

「ギルドカードで支払うと、プレイヤーの情報が使用店に流れ、リアルで反映される仕組み何ですよ。それにより、ゲーム内で訪れた人が、実際に訪れたら、店側でサービスを提供してるんです」

 理沙はその話を皿洗いをしながら聞いていた。

「理沙さんが、私の店を訪れてた時は、驚きましたよ」

 昼間の忙しい時間を過ぎ、咲夜は休憩をしながら話しかけてきた。【憩いのカフェ マーブル】は現実に存在する店で、理沙のバイト先でもある。理沙自身もバイト先の店に訪れるとは思ってもみなかった。

(何となく、雰囲気がこの店と似てると思っていたけど)

 今思うと、メニューも実際に提供している物と同じだった。ゲーム内の料理と同じ物を、現実の店にも出している。

 ゲームとリアルの違いは、料理の食べた時の満腹感だけであり、食感、味覚、匂いはリアルと全く同じである。再現率が高いのは、実際に店で働いている人がプレイヤーとして、ゲーム内で料理をしているからだ。

 TDOの料理は、食べる事でステータスの異常やHP、MPを回復する効果がある。回復ポーションもあるが、料理の方が効果が高い物が多い。只、利便性と即効性はポーションの方が高い。

 液状のポーションは戦闘中でも飲む事が出来る。しかし、料理は食べるという行為を行わなくてはならず、戦闘中の摂取は困難である。余裕のある時、タワーないで休憩をする時は料理を食べて回復する。

 料理とポーションは区別され、どちらも需要の差別はない。

「じゃ、たまに、休憩時間に姿を消しているのは…」

「ログインをして、店の準備をしてるわね」

 咲夜が休憩中、理沙は、皿洗いを行い、店の掃除をしている。今日、珍しく前にいるのは、理沙が店に訪れた事が嬉しくて、話したくてこの場にいる。

 星乃咲夜、今年で20歳になる独身の女性。夢は自分の店を持ち、カフェを開く事。その夢が実現し、店を開けたが…。客が来ない。そこで、咲夜はTDOに目を付け、投資した。

 投資金額が少なく、店を持つ場所が決められていたが、彼女曰、競争相手がいないので逆に宣伝になったらしい。始まりの街で咲夜の様に、店を開いているプレイヤーが何人かいる。

「投資金額が少ないから、始まりの街にしか店を出せなかったけど。今では満足のいく収入を得て、嬉しいわね」

 咲夜は、10万円の投資で、始まりの街に店を開く事が出来た。最も宣伝効果が高い国は、エドリア王国で、飲食業界が多く投資を行っている。有名なケーキ店、高級レストランなど、多くのプレイヤーの店があり、リアルと同じメニューを提供している。

 ゲーム内で食べて美味しかったから、リアルの店に行こう。そういう考えを持つプレイヤーがいるおかげで、咲夜の店も営業し出してから徐々に収益を伸ばしていた。

 ――――理沙が【憩いのカフェ マーブル】に立ち寄ったのは偶然だった。

 自宅のアパートから電車で1時間半と言う距離にある店で、バイトとして雇われたのも、トラブルが原因で、成り行きからだ。

 当時、理沙はバイトの面接の為、近くの工事現場を訪れていた。TDOの知名度が広まり、大掛かりなゲーム施設の開発が行われていた。理沙は体力に自信があり、力仕事も苦にはならなかった。

 時給2千円という金額も高く、理沙の様な建築の知識がなくても作業員は募集されていた。しかし、少女と言う事で雇われなかった。男が多い現場に、理沙の様な若い娘がいると、何かが起きるかもしれない。

 現場監督の言い方に不満を感じたが、実際に働いているのは男性ばかりだった。理沙は、仕方なく諦め、帰宅をしようと思い、昼食の時間に気づき、咲夜の店に立ち寄った。

 工事現場から数百m離れた場所で、目の前の大通りから、少し奥に入った場所に、咲夜の店があった。目立たない隠れた店。それが入った時の第一印象で、和風テイストの落ち着いた感じだった。

 その時は、理沙しか客はおらず、咲夜も暗い雰囲気で接客をしていた。何かに怯えたような感じで、口調も元気がなかった。

 その理由は、ガラの悪い若者のたまり場になっていた事だった。

 茶髪に、耳にピアスをした数人のグループが入って来ると、テーブル席に座り、注文する事なく、コンビニで買ってきたビールを開けて、飲みだした。煙草は吸うし、声はうるさいし、最悪な状況だった。

 理沙も美味しそうに食べていたパンケーキも、彼らの煙草の臭いで台無しになる。

『ごめんなさいね…騒がしくて…』

 申し訳なく話す咲夜の顔が印象に残り、理沙は騒いでる若者に苛立ちを感じていた。バイトに落ちた事もあり理沙は機嫌が悪かった。その彼女に、酔っぱらった若者が絡んできた。

 凄くイライラしていたので、理沙は手を挙げた。店で乱闘が起き、咲夜は怯えてカウンターに身を潜めた。理沙は、酔っ払いの若者全員をフルボッコにした挙句、店から叩き出した。

 咲夜に若者を追い払ってくれた事で感謝されたが、店の弁償も言われた。理沙たちが暴れたせいで、テーブルや椅子が壊れたり、食器が割れたりした。それを弁償する事になった。警察に届けはされなかったが、理沙も暴れた事を反省し、弁償の代わりに働く事になった。

 2時間かけてきている事を話し、交通費も出してくれる優遇具合に驚きながら、今日まで働いていた。理沙は、店を守る店員として、時々来るガラの悪い客の対処をしていた。

「本当に、理沙さんがいてくれて助かるわね」

「最近、大人しくなりましたからね」

 咲夜の店が、溜まり場として使われていたのか、理沙が働き出した時は、良く、ガラの悪い客が来ていた。今では、一般人が多く、店は繁盛しているが、咲夜曰く、理沙のおかげでTDOに投資する事を決めたらしい。

 正直、理沙を雇う程、店は繁盛していない。バイト代も支払えるか不明だと言われた。それが、宣伝効果で客が増え、理沙に給料を払う事が出来た。理沙がゲームのHDDを買う事が出来たのも、宣伝効果によるものである。

「そういえば、咲夜さんはゲーム内でも?」

「サクヤですね。アバターもリアルと体形は同じで、種族は、エルフにしましたわ。金髪で、職業はフードクリエイターですね」

 咲夜が言うには、料理に関わる職業で、素材さえあれば、調理器具がなくても料理が出来るらしい。ステータスも種族によって初期値が異なっており、エルフは魔法が得意と言う事で、MPが100からスタートする。

 フードクリエイトというスキルは、理沙のMPゴーレム作成と同じようにMPを使用する。より美味しく、よりリアルに近づける為に、多くのMPが必要という。

 それに、投資をした事で店と、店番用のNPCを提供される。昨夜は店の準備を行いつつ、時間を見つけてはレベル上げを行っている。

「理沙さん、今夜ですけど、一緒に出掛けませんか?」

「咲夜さんと? ゲーム内ですよね?」

「はい、理沙さんともっと親しくなりたくて」

 何故か赤面している咲夜である。保護欲を誘われそうな女性。理沙より年上なのだが咲夜は小柄で、制服を着ると女子高生に見えてしまう。それに、幼顔で、理沙も時々、愛撫でしたい衝動にかられる。

(恐ろしい人だ)

 理沙は、皿洗いを終えると、咲夜の向かいの席に座る。休憩時、好きに飲みたい物があれば飲んでいいと言われていたので、コーラをコップに入れて持ってきた。

「店は、どうします?」

「いつもより早く閉めるわ」

 午前は10時~13時まで、午後は15時~18時まで、3時間しか開けないが、今日は17時に閉めるらしい。いつも、18時に店を出て、19時半に帰宅し、夕飯とシャワーを浴びて、ログインしている。

「明日は休みだし、理沙さんとは、フレンド登録も行いたいしね」

「分かりました。ログインしたら店に行きます」

「ええ、待ってるわね」

 休憩時間を咲夜とゲームの事を話しながら過ごし、午後の営業を行う。予定通り1時間早く閉めると、理沙は帰宅する。咲夜も19時ぐらいにログインすると話しており、理沙もその時間帯に入る様に支度する。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

処理中です...