お見合いで運命の人に出逢いました~イケメン御曹司は純情リーマンに夢中~

早桃 氷魚(さもも ひお)

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10話 蘭:もう一度会ってみる?

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 翌日の夜、千鶴子がまた訪ねてきた。
「昨日はお疲れ様、蘭」
「ああ、うん」
 千鶴子はいつものように笑顔だ。
 どこかに出掛けていたのか、よそいきの服装で、椅子代わりのクッションに座る。
 蘭もスーツの上着を脱ぐと、ラグの上であぐらをかいて座った。
 用事は、きっと昨日のお見合いの件だろう。
 胸の中はもやもやしたままで、正直その話はまだしたくなかった。
「蘭。あの後は、左京さんとどうだった?」
「んーべつに普通だったけど?」
 当たりさわりのない言葉で返す。
 本当は楽しかったことも、それがどうやら自分だけだったことも、千鶴子には言えなかった。
「左京さんへのお返事は、どうするか考えた?」
「………」
 千鶴子にたずねられ、蘭は黙りこむ。
 返事をする、ということを、すっかり忘れていた。
 けど、そんなことする必要があるんだろうか。
 どうせ、向こうから断られるに決まってるのに。
 浮かない表情でうつむく蘭に、千鶴子が優しく語り掛ける。
「蘭。難しく考えなくていいのよ」
「……」
「蘭が、左京さんともう一度会ってもいいかどうか、それだけなんだから」
「……うん」
 その言葉に、沈んでいた気持ちが軽くなる。
 顔を上げると、千鶴子が微笑んだ。
「左京さん、とても良い方だったわね」
「ん……」
「あんなに素敵な方だもの。また会ってもいいかなって、そんなふうに思わなかった?」
「……まあ、そうかも」
「そうよね」
 千鶴子はニコニコ笑いながら、蘭の顔を覗き込んだ。

「蘭。左京さんに、もう一度会ってみる?」

 ここで頷けば左京に会える。
 千鶴子の問いかけには、そう確信させる何かがあった。
 だから、しばらく迷って、

「……うん」

 蘭は、小さく頷いた。
『左京に会いたい』とは言えなかったけど、会いたい気持ちでいっぱいだった。
 千鶴子はそんな蘭の気持ちを見透かしたように微笑む。
「分かったわ。はい、どうぞ」
 千鶴子はハンドバッグから、洒落た封筒を取り出して蘭に差し出した。
 表には『春見蘭様』と筆で書いてある。
「何これ?」
「耀さんから頂いたお返事よ」
「えっ?!」
「さっきまで耀さんと一緒だったの。蘭から承諾の返事をもらったら、渡して欲しいって頼まれたのよ」
「いや、返事って……早くねぇ?!」
「耀さん、朝一で左京さんからお返事もらったそうよ」
「そ、そうなんだ」
 耀ならやりそうだと納得する。
 しかし、お見合いの返事というのは、数日後にお互いの返事を聞いたうえで仲人――今回なら、耀か千鶴子から、電話などで結果を知らせてもらうのだと思っていた。
 なぜ翌日に耀から直接手紙が届くのか。

 それも『承諾の返事をもらったら』というのはいったい……?

 疑問が次々に浮かんだが、それを聞く前に千鶴子が急かした。
「ねえ、早く開けて見てちょうだい」
「あ、うん」
 促されるまま、封を開けた。
 中に入っていたのは、白い便箋で、耀が筆で書いたと思われる達筆な文字で、挨拶から始まっていた。
 丁寧な言葉遣いで、昨日のお見合いの御礼と、とても楽しかったという旨が記されている。
 そして。

『――左京は、蘭さんと結婚を前提に交際したいと申しておりました。これを機に、蘭さんと縁を繋げられることを、私も左京も心より嬉しく思います。左京はまだ未熟なところがありますが、どうぞ末永くよろしくお願い致します』

 断りの文句が続くと思っていたところに、まさかの交際承諾の返事があって、目を疑った。

「……えぇぇ?!」

 何回読み直しても、見間違いではない。
「蘭、どうだったの?」
 固まっている蘭の隣で、千鶴子が便箋を覗き込む。
「あら、まあ! 『結婚を前提に』ですって。良かったわねぇ!」
「いやいや! ちょっと待って!!」
「蘭。そんな大声出さないの」
「ごめんっ……いやでも! これ、おかしくない?! 本当に耀さんが書いたの? ていうか、本当に左京さんに確認したわけ?」
「別におかしいことはないでしょう。耀さんは、ちゃんと左京さんに聞いて、それから蘭にこのお手紙を書いたんだから」
「いや、でもさ」
「蘭は不満なの?」
「そうじゃないけど。左京さん、義理で来たって感じだったし。男のオレなんか、普通は断るじゃん」
「そうかしら?」
「そうだよっ」
「でもね、蘭。もしそうだとしても、左京さんは蘭のことが気に入ったから、こうしてお返事をくれたのよ」
「それが信じらんないんだけど」
「蘭はもっと自信持ちなさい」
 千鶴子は優しく微笑み、蘭の肩をポンポンと叩いた。
 母親の励ましはありがたかったが、素直には喜べない。
 とくに『結婚を前提に』云々は真に受けるべきではないし、耀のオーバーな表現だろうと決めつける。
 もしかしたら、お見合い承諾の常套句なのかもしれない。
 そう考えると気持ちも落ち着いてきた。

 ――また、左京さんに会えるんだ。

 もう会えないと思っていたから、それだけは純粋に嬉しかった。






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