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第二話『どこか、彼と彼女は似ている』
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は? 付き合って? 予想外の言葉を全力で処理する。
結果、なんとか処理落ちすることなく脳内でまとめることに成功した。
俺は単純な陰キャオタク君ではないため、こういう時の対処法は準備してあるのだ。
一瞬判断が遅れたが、俺にそれは通じない。
「買い物ですか? いやですよ、荷物持ちなんて。手伝ってくれる奴隷くらいそこら中にいるでしょう?」
完璧な返答をしてやった。
勘違いをするような発言をして困らせるのが目的なんだろうが、そんなものは俺には通用しない。
この冷静な返し、恥ずかしがって赤面するのを楽しむつもりだったのだろう。ざまあみやがれ。俺の勝ちだ。
「ううん、そうじゃないよ。お付き合い、わかる?」
「だから、同行するって意味ですよね。無駄ですよ」
「ううん、そうじゃないよ。お付き合い、わかる?」
「なんで同じテンションで繰り返せるの? 怖いんだけど」
天道先輩はRPGの街の入口にいるNPCのように同じ言葉を繰り返す。
思った通りの反応をしなかったから拗ねた? そうは見えないが……ああ、思った通りの反応をするまで同じこと言ってるのね。NPCはNPCでも重要イベントのNPCだったか。無限ループって怖くね?
「もうわかってるんでしょ? お付き合いっていうのは、男女の交際って意味。わかるよね?」
「……本当にそういう意味だとして、何が目的なんですか。出会って数分の相手に交際を申し込むとか、怪しすぎるんですけど」
俺が四番目に信じていないのは一目惚れだ。一目見て好きになる? それただの面食いだろ。
ちなみにだが、三十六番目に信じていないのは金のエンゼルだ。あれ本当にあるのかよ。銀しか見たことねーよ。
「そうね。さっきも言ったと思うけど、私って容姿が優れてるからよく告白されるの」
「……男避けですか」
「大正解! お礼に抱きしめちゃうぞー?」
「やめてください」
そんなこったろうと思ったよ。
出会って数分で、ましてやこんな人間が告白してきたのだ。何か目的があるに決まっている。
男避けかぁ、それってつまり完全に道具として見てるってことだよな。男としてなんか悔しいというか、別にこんな人に好かれても嬉しくはないんだけども。
「あはっ、今失礼なこと考えたよね?」
「なんのことだか」
エスパーかよ。エスパー天道。この人がカバンに入ってるとか怖すぎる。気配消して後ろから刺してきそう。絶対背中は預けない。
「ま、いいや。決まりね、今日から私の彼氏。おーけー?」
「おーけーするわけないでしょ。男避けなら他の人探してくださいよ、いっぱいいるでしょ?」
「そりゃいっぱいいるけどね。みんな面白くないんだもん」
面白くない、ね。
俺も何度か面白いか面白くないかで判断していたことがある。その度にああしておけばよかった、こうしておけばよかったと後悔するのだ。
いずれも他人が介入してきて崩壊する。人を観察するのは得意なのに、人の動きが読めない。
「その面白い面白くないで判断するの、やめた方がいいですよ。いつか後悔します」
「ふふっ、私は好きなように生きるから後悔なんてしないよ。それともそれは……経験談?」
まるで心の中を見透かされているかのような発言に背筋が凍る。そしてその発言全てが的中しているという事実に驚愕した。
この人は俺と同じ人間観察が得意な人間だ。だが、ベクトルが違う。
「キミは……悪意にすっごく敏感だね。私はね、相手の考えていることを予想するのが得意なの。でもそれはキミもできるよね? だって、私が言う前に気付いてるんだから」
「あんたの方が何百倍も上手でしょう」
「そうかも。どう? 私に興味が湧いたなら、もう一度お願いするね。私と付き合ってください」
「俺がそれを受け入れて、なんのメリットがあるんですか」
この件に関しては、付き合いたいとか、付き合いたくないとかそういう考えで決めてはいけない。
付き合うことによるメリット、デメリットを明確にしてその後に断る。そうすれば納得してくれるはずだ。ただ付き合いたくないと言ってもこの人はきっと止まらないだろう。
自分の我が儘を押し通す。それを真正面からやってくる人間だ。この人は。
「私が飽きるまで、おねーさんの彼氏になれます」
飽きたら捨てると発言しているのには触れるべきだろうか。
「それだけですか?」
「まるでそれに価値が無いような言い方だね」
「価値はあると思いますよ。興味がないだけで」
天道先輩の彼氏になれる。
男避けとはいえ、それは学校の男ならば誰もが憧れる肩書だろう。
だが、俺はそれに興味がない。むしろ、メリットよりもデメリットの方が多そうだ。嫉妬で絡まれたりな。
「そうだね……じゃあ、キミの願いをなんでも叶えてあげる。お金が欲しいなら渡すし、将来が心配なら養ってあげる。そういう行為をしたいのなら、恥ずかしいけど受け入れるよ」
異常だ。
まず、俺はそう思った。
そして、その異常性こそが天道史奈なのだと理解した。普通の考え方では通用しない。彼女は、いつでもこちらの首を斬れるほどに接近してくる。
予想もできない。それ故に、予想をしてみたくなった。
「どうして、そこまでしてくるんですか」
「私がキミに興味を持っちゃったから」
「それだけですか」
「うん。それだけ。逆に、それ以上理由がいると思う?」
「いえ、十分です」
少しだけ彼女のことが理解できた。
最初に理解した。興味を持ったらどうにかして手に入れる人間だと。
そして最後に理解した。その標的が自分になったのだと。
遅い、あまりにも気づくのが遅い。最初から最後まで、俺は手のひらの上で転がされていたのだ。
悔しかった。俺はこの人に少しだけ、ほんの少しだけ興味を持ってしまった。
「……分かりました。付き合います」
「ほんと? やった」
天道先輩は胸の前で小さくガッツポーズをした。それが本心から来たものなのか、すぐに気づいて手を元に戻した。
一瞬だけでもこの人の素を見ることができたことに喜びを感じつつ、言葉を発する。
「でも、こちらからも条件を提示します」
「んー? 何かな、私の彼氏くん」
「それやめてください。まずですね、嫉妬心から男子生徒に絡まれる危険性がありますよね。なので、そうなったら助けてください」
「男の子なのに?」
「男の子なのにです。喧嘩なんてやったことないですからね。ヤンキーとか来たら絶対ボコボコにされますよ。ボーナスステージかってくらい空中コンボ食らいます。経験値は少ないです」
我ながらかっこ悪い説明をしつつ、デメリットを探す。
「ふーん。まあいいや。そうなったら守るし、そうならないように一緒にいてあげる」
「それは……お願いします」
一人の時間が減るのは辛いものがあるが、仕方のないことだろう。
基本的に学校での時間なんて退屈なだけだ。この人と一緒にいることはデメリットにはならない。むしろメリット……いや、それを考えるのはよそう。
「あとは?」
「本当の彼氏彼女のようなことはあまりしない、とかですかね」
「つまり……そういうこと、だよね?」
「それも含めてです。だって……」
頬を赤らめながらからかってくる彼女から目をそらし、再び視線を合わせる。
「貴方は俺のことを恋愛的に好きなわけではないでしょう?」
「…………そうだね。“まだ”好きではないよ」
含みのある言い方をする彼女に違和感を覚えつつ、触れても意味の無いことだろうと無視をする。
「条件は以上です。それじゃあ……」
「うん。今日からよろしくね」
「……はい」
小さく重い返事をした。
この返事で、俺の人生は大きく狂ってしまうんだろうなと思いながらも初めてできた彼女という存在に心が躍らずにはいられない。
そんな心の内を悟られないように電話番号やチャットアプリでの友達登録をし、今日はそれで解散となった。
結果、なんとか処理落ちすることなく脳内でまとめることに成功した。
俺は単純な陰キャオタク君ではないため、こういう時の対処法は準備してあるのだ。
一瞬判断が遅れたが、俺にそれは通じない。
「買い物ですか? いやですよ、荷物持ちなんて。手伝ってくれる奴隷くらいそこら中にいるでしょう?」
完璧な返答をしてやった。
勘違いをするような発言をして困らせるのが目的なんだろうが、そんなものは俺には通用しない。
この冷静な返し、恥ずかしがって赤面するのを楽しむつもりだったのだろう。ざまあみやがれ。俺の勝ちだ。
「ううん、そうじゃないよ。お付き合い、わかる?」
「だから、同行するって意味ですよね。無駄ですよ」
「ううん、そうじゃないよ。お付き合い、わかる?」
「なんで同じテンションで繰り返せるの? 怖いんだけど」
天道先輩はRPGの街の入口にいるNPCのように同じ言葉を繰り返す。
思った通りの反応をしなかったから拗ねた? そうは見えないが……ああ、思った通りの反応をするまで同じこと言ってるのね。NPCはNPCでも重要イベントのNPCだったか。無限ループって怖くね?
「もうわかってるんでしょ? お付き合いっていうのは、男女の交際って意味。わかるよね?」
「……本当にそういう意味だとして、何が目的なんですか。出会って数分の相手に交際を申し込むとか、怪しすぎるんですけど」
俺が四番目に信じていないのは一目惚れだ。一目見て好きになる? それただの面食いだろ。
ちなみにだが、三十六番目に信じていないのは金のエンゼルだ。あれ本当にあるのかよ。銀しか見たことねーよ。
「そうね。さっきも言ったと思うけど、私って容姿が優れてるからよく告白されるの」
「……男避けですか」
「大正解! お礼に抱きしめちゃうぞー?」
「やめてください」
そんなこったろうと思ったよ。
出会って数分で、ましてやこんな人間が告白してきたのだ。何か目的があるに決まっている。
男避けかぁ、それってつまり完全に道具として見てるってことだよな。男としてなんか悔しいというか、別にこんな人に好かれても嬉しくはないんだけども。
「あはっ、今失礼なこと考えたよね?」
「なんのことだか」
エスパーかよ。エスパー天道。この人がカバンに入ってるとか怖すぎる。気配消して後ろから刺してきそう。絶対背中は預けない。
「ま、いいや。決まりね、今日から私の彼氏。おーけー?」
「おーけーするわけないでしょ。男避けなら他の人探してくださいよ、いっぱいいるでしょ?」
「そりゃいっぱいいるけどね。みんな面白くないんだもん」
面白くない、ね。
俺も何度か面白いか面白くないかで判断していたことがある。その度にああしておけばよかった、こうしておけばよかったと後悔するのだ。
いずれも他人が介入してきて崩壊する。人を観察するのは得意なのに、人の動きが読めない。
「その面白い面白くないで判断するの、やめた方がいいですよ。いつか後悔します」
「ふふっ、私は好きなように生きるから後悔なんてしないよ。それともそれは……経験談?」
まるで心の中を見透かされているかのような発言に背筋が凍る。そしてその発言全てが的中しているという事実に驚愕した。
この人は俺と同じ人間観察が得意な人間だ。だが、ベクトルが違う。
「キミは……悪意にすっごく敏感だね。私はね、相手の考えていることを予想するのが得意なの。でもそれはキミもできるよね? だって、私が言う前に気付いてるんだから」
「あんたの方が何百倍も上手でしょう」
「そうかも。どう? 私に興味が湧いたなら、もう一度お願いするね。私と付き合ってください」
「俺がそれを受け入れて、なんのメリットがあるんですか」
この件に関しては、付き合いたいとか、付き合いたくないとかそういう考えで決めてはいけない。
付き合うことによるメリット、デメリットを明確にしてその後に断る。そうすれば納得してくれるはずだ。ただ付き合いたくないと言ってもこの人はきっと止まらないだろう。
自分の我が儘を押し通す。それを真正面からやってくる人間だ。この人は。
「私が飽きるまで、おねーさんの彼氏になれます」
飽きたら捨てると発言しているのには触れるべきだろうか。
「それだけですか?」
「まるでそれに価値が無いような言い方だね」
「価値はあると思いますよ。興味がないだけで」
天道先輩の彼氏になれる。
男避けとはいえ、それは学校の男ならば誰もが憧れる肩書だろう。
だが、俺はそれに興味がない。むしろ、メリットよりもデメリットの方が多そうだ。嫉妬で絡まれたりな。
「そうだね……じゃあ、キミの願いをなんでも叶えてあげる。お金が欲しいなら渡すし、将来が心配なら養ってあげる。そういう行為をしたいのなら、恥ずかしいけど受け入れるよ」
異常だ。
まず、俺はそう思った。
そして、その異常性こそが天道史奈なのだと理解した。普通の考え方では通用しない。彼女は、いつでもこちらの首を斬れるほどに接近してくる。
予想もできない。それ故に、予想をしてみたくなった。
「どうして、そこまでしてくるんですか」
「私がキミに興味を持っちゃったから」
「それだけですか」
「うん。それだけ。逆に、それ以上理由がいると思う?」
「いえ、十分です」
少しだけ彼女のことが理解できた。
最初に理解した。興味を持ったらどうにかして手に入れる人間だと。
そして最後に理解した。その標的が自分になったのだと。
遅い、あまりにも気づくのが遅い。最初から最後まで、俺は手のひらの上で転がされていたのだ。
悔しかった。俺はこの人に少しだけ、ほんの少しだけ興味を持ってしまった。
「……分かりました。付き合います」
「ほんと? やった」
天道先輩は胸の前で小さくガッツポーズをした。それが本心から来たものなのか、すぐに気づいて手を元に戻した。
一瞬だけでもこの人の素を見ることができたことに喜びを感じつつ、言葉を発する。
「でも、こちらからも条件を提示します」
「んー? 何かな、私の彼氏くん」
「それやめてください。まずですね、嫉妬心から男子生徒に絡まれる危険性がありますよね。なので、そうなったら助けてください」
「男の子なのに?」
「男の子なのにです。喧嘩なんてやったことないですからね。ヤンキーとか来たら絶対ボコボコにされますよ。ボーナスステージかってくらい空中コンボ食らいます。経験値は少ないです」
我ながらかっこ悪い説明をしつつ、デメリットを探す。
「ふーん。まあいいや。そうなったら守るし、そうならないように一緒にいてあげる」
「それは……お願いします」
一人の時間が減るのは辛いものがあるが、仕方のないことだろう。
基本的に学校での時間なんて退屈なだけだ。この人と一緒にいることはデメリットにはならない。むしろメリット……いや、それを考えるのはよそう。
「あとは?」
「本当の彼氏彼女のようなことはあまりしない、とかですかね」
「つまり……そういうこと、だよね?」
「それも含めてです。だって……」
頬を赤らめながらからかってくる彼女から目をそらし、再び視線を合わせる。
「貴方は俺のことを恋愛的に好きなわけではないでしょう?」
「…………そうだね。“まだ”好きではないよ」
含みのある言い方をする彼女に違和感を覚えつつ、触れても意味の無いことだろうと無視をする。
「条件は以上です。それじゃあ……」
「うん。今日からよろしくね」
「……はい」
小さく重い返事をした。
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