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序章『始まりの領地』
001 コレクター、転生する
しおりを挟む「うおおおおおおおおおやったあああああああああああああああああ」
ボスのレアドロップ表示を確認し一人叫ぶ。洞窟内にいるため、声が反響した。
今この時、俺は現時点で実装されている全てのアイテムを制覇した。
極々稀にしかドロップすることがないアイテム。オークションにあるものを買っても良かったが、最後のアイテムは自分で手に入れたかったのだ。
俺がプレイしているのはフルダイブ型VRMMORPG『トワイライト』。王道ファンタジーのオンラインゲームだ。
サービス開始から五年。遂に来週、最後のメインストーリーが開放される。
ここまでが長かった。イベントだの職業追加だのでお茶を濁され続け、肝心のメインストーリーの更新が一年近く行われていなかったのだ。
ゲームをプレイしているのにエンディングを見ることができないというのも納得がいかない。最終章の『黄昏の終焉』に向けて離れていたプレイヤーたちも戻ってきている。
頭に被った黒いキャスケットを触りながら、辺りを見回す。
今回の狩りはソロで行ったため、仲間はいない。
……正確には、誘ったのに断られたのだ。全員今日は別の用事があると言っていたが、何故だろうか。
視界の端に現在の日時が表示されている。『2025/12/24 17:58』。
何故だろうか。分からないね。ふぁっく。
「ま、俺には関係のない話だ。アイテムアイテム」
ボスの落としたアイテムを確認するため、ストレージからアイテムを取り出す。
『紫電のアメジスト』中に稲妻のようなエフェクトが入ったアメジストだ。
地面に座り、様々な角度からアメジストを鑑賞する。光の当て方によって輝きは大きく変わる。本当によくできたゲームだ。
だからこそ、俺はこのゲームにハマってしまった。ファンタジーの世界でアイテムコレクターとしてレアアイテムを集め、鑑賞する。こんなに素晴らしいことがあるだろうか。
「おおっ……あぁ~……いい、素晴らしい……」
我ながら気持ち悪いと思う。もしかしたら断られた原因はこれかもしれない。
いやそんなはずはない。ないよね?
しかし、この宝石は綺麗だ。表面に反射して俺のゲーム内アバターが見える。
ネイビーの長すぎない髪の毛。そこまでは普通だ。最大の特徴はそう、女のような顔をしているところ。
女のような、というのは性別が男だからだ。
ネカマをすると男に言い寄られるので却下、しかしイケメンになりたいかと言われるとそうでもない。
なら、男の娘になればいいんじゃね? ということでこのアバターを作った。
声は地声と同じくらいの高さにした。地声が少し高めなのでこのアバターでもそこまで違和感はない。
と、これでは自分の顔をジッと観察するナルシストになってしまう。
まあ、この世界に来たほとんどの人は自分が美形になったことで鏡見まくるんだけどね。
帰ったら宝石のコレクションを全部並べてみようか。などと思いながら立ち上がる。
「ふう、〈空間移動〉」
マイルームに転移するため、移動魔法である〈空間移動〉を発動させる。
が。
「あれっ?」
なぜか発動しなかった。魔力は十分にある。それなのに発動しない。
詠唱が不完全だったか。滑舌はそこまで悪くないはずだが。
仕方ない、もう一度詠唱してみよう。
「〈空間移動〉」
それでも発動しなかった。
運営に問い合わせをしようか迷っていると、突然BGMが聴こえなくなった。
さらに、メニュー画面までも開かなくなる。これではGMコールすらできない。
「どうなってるんだ……?」
困惑していると、視界の時刻なども消えてしまう。いよいよおかしい、ゲーム内の演出にしても行きすぎている。
すると、地面のポリゴンが崩れ始める。自分以外の全てが、世界が崩れ始めた。
身体が崩れたポリゴンに包まれ視界が覆われる。咄嗟に瞼を閉じ、腕を顔の前に移動させ守る。
しばらくすると、空気を肌で感じるようになる。鳥の鳴き声も、羽ばたく音も鮮明に聞こえる。
気が付くと、俺は森の中に立っていた。
* * *
しばらく森の中を探索して、俺は一つの結論に行きついた。
異世界転生しちゃった。
何を馬鹿なことを、と思うだろう。
しかし事実なのだ。現実の技術では仮想空間でここまでの再現はできない。
『トワイライト』には疑似的な匂いと味覚は存在していた。だが、それに比べるとこの世界はリアルすぎるのだ。
肌で空気を感じる。それはゲーム内にもあった。しかし今俺が感じてる空気は明らかに現実のそれなのだ。
正確には、ログアウトし現実に戻った時に感じるあの感覚。ゲーム内とは明らかに違う何かを俺は今感じている。
なのに、身体はゲーム内のアバターのままだ。
メニューを開くことはできないが、アイテムを取り出すことはできる。さらに言えば、魔法も使える。
ということは『トワイライト』が異世界になったのか? とも思ったがどうも違うらしい。
俺はこんな森を見たことがないし、遠くに見える山脈には見覚えはない。
「どうしよ」
ここまで状況を整理しても、何をすればいいのか分からない。
とりあえず、元の世界には帰りたいかな。まだ『トワイライト』のエンディングを見ていないし、やり残したことだってある。
web小説での異世界転生では、まず何をしていたのだったか。
そうだ、街に行って冒険者登録をするのだ。そこでハーレムを作りながら世界を救う。なるほど理解した。その知識があればRTAも夢じゃないぜ。
まずは街に……街どこ?
飛行魔法で空から街を探そうかと思っていると、突然地面がドシンと揺れた。
「うわっ!?」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「っ!?」
遠くから、咆哮が聞こえてきた。
今のはドラゴン族のモンスターの咆哮か。ゲーム内では聴きなれていても、この世界で聴くと腹に響いて怖い。
どの種類のドラゴンかは分からないが、この世界で俺の防御力などが反映されているとは限らないので戦闘は避けた方がいいかな。
ドラゴンがいるであろう方向から回れ右し、立ち去ろうとしたその時。
「きゃあああああああああああ!!!」
女の子の叫び声が聞こえた。
その瞬間、俺は全力で声の聞こえた方向に走り出していた。
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