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序章『始まりの領地』
002 コレクター、ワイバーンを倒す
しおりを挟むしばらく木々をすり抜けると、視界の先に巨大な黒いドラゴンが見えた。
あれは……ブラックワイバーンだな。『トワイライト』ではそこまで上位のモンスターではなかった。
中ボスとしてダンジョンの道中によく配属されるので戦闘には慣れている。
懐かしいな。俺がまだ中級者の頃は仲間と一緒に倒したものだ。最初こそ苦戦したが、今となっては数発魔法を叩き込めばそれで終わる。
「おーい大丈夫ー?」
近づくにつれて、悲鳴の主である金髪の女の子が見えるようになる。
女の子は腰が抜けてしまったのか地面に座り込んでしまっていた。ブラックワイバーンは巨大な両翼を広げている。
まずい、突風攻撃だ。この距離では〈空間移動〉は使えない。短距離を瞬間移動する〈瞬間転移〉を発動させる時間はない。
「グオオオオオオオオオオオ!!!」
「ひっ! うっ……あ……」
女の子は突風攻撃により飛ばされてしまい、木にぶつかり意識を失った。
急いで駆け付け、HPゲージを確認……しようとするが出ない。ゲームの世界ではないことを再確認し、首元に手を当てた。脈はある。回復をすれば大丈夫だろう。
「息はあるね……〈全回復〉」
念のため〈全回復〉を使うが、〈中回復〉か〈大回復〉で十分だったかもしれない。回復魔法がどれほどの効果を持っているのかも調べなければ。
回復をしたところで意識を取り戻すわけではないらしく、女の子はすうすうと眠っている。
「とりあえず、あれを倒すか」
今もなおこちらを睨んでいるブラックワイバーン見ながらそう呟く。
中ボスなので雑魚モンスターと違って逃げないな。この世界の雑魚モンスターは逃げるのだろうか。
ブラックワイバーンはブレスを放とうとしているのか、口を開け魔力を溜め始めた。
こういう時は、こっちから攻撃して怯ませれば止めることができる。ゲームの通りならね。
「〈氷雪崩〉」
五段階中の四段目、『トワイライト』で言うレベル4の氷魔法を発動させる。
ブラックワイバーンの頭上に巨大な魔法陣が現れ、そこから氷塊が降り注ぐ。氷魔法を発動させたことにより、ゲーム内では感じなかった寒さを感じる。
アイスワイバーン以外のワイバーンは基本この魔法が有効だ。氷か、雷魔法。
「グ、ガアアアアアアアア」
「んで、〈雷撃〉!」
次に使うのはレベル3の〈雷撃〉。伸ばした手から雷撃が放たれる。
その雷撃は〈氷雪崩〉で怯むブラックワイバーンを貫通する。
レベル4とレベル3の魔法を一発ずつ。ゲーム内と同じであればこれで倒せるはずだ。
「グオ、オオオ…………」
ズシンと、またしても地面を揺るがしながらブラックワイバーンは倒れる。
心臓の辺りを〈雷撃〉が貫通したので地面に血が広がっていく。
「ふう……意外と何とかなった」
最初はリアルドラゴンにビビっていたが、いざ魔法を使って戦ってみればなんてことはなかった。
防御力の実験もした方がよかったかと思ったが、痛いのは嫌なので別の機会に調べよう。
さて、これからどうするか。女の子は起きる気配がないし、街はどこにあるのか分からない。流石にここに女の子を置いていくわけにもいかないし……
なんて思っていると、どこからか足音が聞こえてきた。
「おい大丈夫か……ってなんだこりゃ?」
茂みから出てきたのは明るい茶髪のイケメンだった。鎧を着ていて、腰には剣も見える。騎士だろうか。
すげぇ、本物の金属鎧だ。ちょっと近くで見てもいいかな。というか俺の持ってるアイテムもあのくらいリアルになってるんだよな。今すぐにでも取り出して鑑賞したい。
よし、女の子はこの騎士さんに任せて俺はゆっくりアイテムを鑑賞しよう。そうしようそれがいい。
「あ、じゃあ後はお願いします。お疲れ様でーす!」
立ち去ろうとしたところ、肩を掴まれてしまった。
「待て。詳しく話を聞かせろ」
「あっはい。ごめんなさい……」
ですよね。目の前でワイバーンが死んでるんだから話聞かれるよね。
現実でも事件があってその場にいたら事情聴取されるもんね。仕方ない、甘んじて受け入れよう。
「全く……女の子が一人で行動したら危ないだろ」
「は……?」
なんつった?
なんつった!? ああ!?
とまあ内心軽くキレながらも自分の見た目が男の娘になってしまっていることを思い出す。
うん、これなら間違われても仕方ないか。でもちゃんとついてるんだぜ? さっき確認したもん。
「いや、俺男なんですけど」
「えっ? 嘘だろ?」
そこまで女顔だろうか。そもそも美形だから勘違いしやすいのかもしれない。
ゲーム内でも話しかけられることは多かった。というか、男とわかってからも付きまとわれることあったんだよね。
あれ? 最初の作戦失敗してない? 男避けできてないよ。特殊性癖多すぎるよ『トワイライト』。
「嘘じゃないですよ。見ます?」
「待て待て! オレが悪かった。すまん」
ズボンに手を掛けながらそう言うと、騎士さんは顔を赤くしながら止めてくれた。
俺はここで全部さらけ出しちまってもいいんだぜ。そういう実績あったりしない?
実績解除『全裸』トロフィー獲得とか。ないか。ないな。
「それで、これはいったいどういうことなんだ?」
「あー……えっと」
俺が倒した。と言うべきだろうか。しかしこの世界での魔法がどれほどの物なのかは分からない。
『トワイライト』のように多くのプレイヤー、人がレベル4や5の魔法を使っているわけではないだろう。もしそうなら地形が崩壊しかねない。
そうなると、今は自分の実力を隠すのが妥当ではないだろうか。いずれこの世界で戦うことになるとしても今明かすべきではない。
「この女の子を助けようとしたら、何者かが魔法でワイバーンを倒してしまったんですよ。倒したと思ったらすぐにどこかに行ってしまって。突然のことだったので顔は見れませんでしたが」
適当に嘘をついてみる。ワイバーンの状態を見ればどのような魔法を使ったのか分かってしまうだろう。
胸元の傷は焦げているので炎魔法か雷魔法と。辺りが濡れているのは水魔法か氷魔法となる。
「なるほど……助けようとしたということは、君は戦闘ができるのか」
「少しなら。もう終わりですか?」
「ああ……いやまだだ。名を名乗っていなかったな。カリウスだ。君は?」
カリウス……この世界での名前はそんな感じなんだな。
名前か……本名はこの世界では合わないな。そうなるとプレイヤーネームがいいか。
「レクトです」
「レクトか。村にそのような名前の人はいなかったが、なんか聞いたことあるような……ないような……」
「気のせいじゃないですかね」
「そうだな」
気のせいに決まっている。なにせ、俺はこの世界出身ではないのだから。
それか、全く同じ名前の人がいるかだ。ちなみにゲーム内でレクトに出会ったことはない。
どこぞの†黒の剣士†みたいな名前の奴とか、『』←こんな空白の名前の奴とかはいたけどね。すぐいなくなったけど。
この世界に俺以外の人が来ていたらどうするのだろうか。特にいちごみるくさんとか。この世界でその名前はシュールすぎる。
「そうだ。これからこの子を村に連れていく予定なんだが、一緒に来ないか?」
なんと、この騎士さんは村の場所を知っているらしい。
人が近くにいると知ったら迂闊に飛べないし、村に行ってみるのもいいかもしれない。
それから街に向かっても遅くないだろう。時間はあるのだ、個室にさえ入れればアイテム鑑賞はできる。
元々人のいる場所へ向かうのが目的だったのだ。
「いいですね。俺も行こうと思ってたところなんです」
「決まりだな」
こうして、俺はカリウスに村まで案内してもらうことになった。
カリウスは女の子を背負うと、それじゃ行くか。と呟いた。もしかしたら普段はもっとフランクな人なのかもしれない。
もう少しでアイテム鑑賞ができる。頑張って歩こう。
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