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序章『始まりの領地』
003 コレクター、領主になる
しおりを挟む女の子の住む村は、トワ村というらしい。
そしてなんと、その場所は意外にも近くにあった。俺がこの世界に来て立っていた場所からすぐだったのだ。
もし俺が村のある方向に向かっていたら、女の子はブラックドラゴンに殺されていたかもしれない。方向音痴でよかった。
村は思っていた以上に小さかった。民家が数件あり、鍛冶屋が一つ。畑が四つに放牧地が一つ。
脱穀用の水車小屋などもあるが、それでも小さい。一際大きな建物は領主の屋敷だろうか。
「エリィ! 騎士殿、何があったのですか!?」
村に入ると、大人の男がカリウスに駆け寄ってきた。
女の子の知り合いだろうか、女の子の名前はエリィというらしい。
「確か……この子の父親だったか。詳しい話は屋敷の中でするからまずは入ってくれ」
カリウスが一番大きな家、領主の屋敷を見ながらそう言った。
なるほど、客人を招くときは屋敷を使うのか。突然現れた俺を招いてくれると言うのだから、喜んで招かれよう。なんか貰えるかもしれないし。
「分かりました。この方は?」
隣にいた俺に、エリィの父親は訝し気な視線を向けてきた。
服装は……装飾の多いローブだ。悪目立ちしてもおかしくない。
騎士の隣にいるということもあって、仲間の魔術師と思われているのだろうか。
「森で会った者だ。客人として招こうと思ってな」
「どうも、レクトです」
簡単に名乗ると、エリィの父親は考え込むように顎に手を当てた。
「レクトさん……もしや領主様では? ええ、その髪色、帽子、間違いないです」
「え」
領主だと? そんな話は聞いてないぞ。いや聞いててもおかしい話なのだが。
名前だけならまだしも、髪の色やこのキャスケットが特徴として挙げられていることから俺で間違いないだろう。
それか、特徴まで同じな同姓同名の人がいるか。いや、ないだろうな。流石にそこまで重なるとは考えにくい。
そうなると、俺のこの世界での設定が領主となっている、ということになるか。
「領主だって? ……ああ、そうか。どこかで聞いたかと思えば、新しくトワ領に来る領主は貴方でしたか。先程は無礼な態度、大変失礼いたしました」
「……いえ、気にしていませんよ」
ここはその設定に乗っかるのが一番良いだろう。楽だし。
もし間違っていたとしたら逃げるだけだからね!
わお、最低のクズ野郎過ぎますよレクトさぁん! 俺は悪くない。世界設定が悪い。
「しかし、聞いていた性別とは違うような……」
「はあ!? 男ですけど! ですけどぉ!」
「しっ、失礼しました!」
本日二回目の性別間違えで軽くキレてしまった。
サービス開始当初から、つまり五年間はこのアバターとして生きてきたのだ。もはやこの見た目に違和感はない。
いくら可愛くても自分なのだ。そんなに女に見えるだろうか、と思ってしまう。
でも見えるんだろうなぁ。カリウスに続いてエリィの父親にも間違われたのだ。今後も間違われ続けるのだろう。
「ま、とりあえず入って入って。ここ俺の家でいいんだよね?」
「え、ええ。そうなります。……何だこの人は」
最後の方で何か言っていた気がするが、聞き取れなかったし気にしなくていいだろう。
多分、なんだこいつ。とかだろうね。ゲーム内でもよく言われたよ、全体チャットで。隠れて言ってくれ。
とにかく、言われ慣れているので気にしない。それよりこの屋敷が俺の物になったんだぜ? そっちの方に興奮して仕方がない。
家の中はどうなってるかな。装飾はあるかな。もしかしたら宝石があったりして。
「さあ行こう!」
困惑する二人を差し置いて、俺は屋敷の扉を開けた。
目の前に飛び込んできたのは、高級そうな照明だった。さらに真っ赤なカーペット、なんかよくわからん絵、壺。
「おおおおおおおお!!!」
思わず声を上げてしまう。
最高じゃないか! ゲーム内のマイルームほどではないが、それとはまた違った良さがある。
現実ではごく普通の一般男性だったので、住んでいるのはアパートだった。自分の家というのはどうしても憧れるものなのだ。
「……とりあえず客室に入ろう。エリィをソファに寝かせる」
「……ですね。お願いします」
え、なに。なにその目。
このくらいは普通だよね? 誰だって夢のマイホームを手に入れた時はこのくらい喜ぶよね!?
レクトさん判定…………セーフ。よかった、俺は普通だったか。
しかしいつまでも家の中を探索してはいられない。大人しく客室に向かおう。
領主なのに客なのか。というツッコミはした方がいいかな。
* * *
客室に入りカリウスから詳しい話を聞いた。
まず、このトワ領は一番小さな領……つまり弱小の領らしく、前の領主は嫌気がさして領主を辞めてしまったのだとか。
新しい領主を探していたところ、領主の話を持ち掛けられた俺が「あ、いいっすよ」と引き受けたらしい。何してんの過去の俺。
しかしここで領主のレクト俺じゃない説が無くなった。だって言いそうだもん俺。絶対言うよ俺。
まあそれはいいとして、次はこのトワ領について。
人気がない理由は、まず領地が小さいこと。そして大した特産品もないこと。村が一つしかなく、しかも小さいこと。
無い無い尽くしである。他の領に合併するという話もあったらしいが、それすら嫌がる領主が多かったのだとか。
まあ、特に旨味の無い村が一つ増えたら無駄な労力が増えるだけだろうし妥当かな。
その後もブラックワイバーンは王国に連絡して解体するだとか、それを倒した魔術師を探すだとか、今後の領地運営についてだとかの話を聞いた。
正直、領地運営とかよくわからん。トワ村の建物を見るに、昔授業で習った荘園みたいな感じだろうか。
作物、穀物を育てて王国に税として納める。基本の食糧は村内での自給自足。
つまり、つまりだ。俺の飯だとか、そういうのもトワ村に依存するということ。
それは困る。身体は細いが俺はそれなりに食べるのだ。柔らかいパンじゃないと嫌だ。
トーストを作るときは霧吹きで濡らしてから焼く派なんだ俺は。
「――――と、まあここまでだな」
「なるほど、だいたい分かった。つまり俺が好き勝手にしていいってことだよね?」
「……まあ、そうなる。王意に背くようなことがなければ自由にしていいってことになってるな」
「ん、なるほど。任せて、どんとこい」
「不安だ……」
ちなみに、カリウスには最初の時と同じ口調で喋ってほしいと頼んだのでタメ口だ。
エリィの父親は畑作業があるとのことで、エリィの無事を確認し改めて俺への挨拶を済ませ屋敷を去った。
屋敷を去る直前に、夜にでも村人を集めて挨拶をしましょうとも言われた。確かに、村に領主がやってきたのだから挨拶は基本である。
今後の予定を考えながら、俺はエリィの様子を見る。すぅすぅと一定のリズムで吐息が漏れている。
しっかし綺麗な顔してるなぁ。死んでないんだぜ……
なんて思っていると、エリィが目を覚ました。ぴょこんと跳ねた金髪に紫色の目。まるで紫電のアメジストのようだ。
「ん、んん……ぁえ?」
「おはよ」
エリィは薄目できょろきょろと辺りを見回す。
「……っ! そうだ、私……!」
俺とカリウスの顔を交互に見ると、一気に意識が覚醒したようで顔を青くして震え始めた。
おそらく、ブラックワイバーンに襲われた時のことを思い出しているのだろう。
「大丈夫か? 実はあの時な――――」
カリウスは、エリィに簡単に説明した。ブラックワイバーンは謎の魔術師が倒したこと。俺がトワ領の領主になったこと。
そして、全て聞いたうえで一言。
「え、あんた男だったの!?」
本日三回目ぇ……
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