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第一章『黄金の果実編』
062 コレクター、ロンテギアの惨劇を見る
しおりを挟むさあロンテギアに帰ろうと思ったのだが、時間が時間なので今日はシャムロットで一晩泊まることにした。
〈空間移動〉でエリィをトワ村に帰し、俺とカリウスは宿屋に泊まる。
翌日、朝からロンテギア行きのノアトレインに乗った俺たちはロンテギアに帰ってきた。
「どいてくれ! 早く帰りたいんだ!」
「押さないで、押さないでください!」
到着と同時に、駅のホームから大声が聞こえてきた。
なにやら、他種族と駅員さんがもめているようだ。
「どうしたんですか」
「レクト様! 実は王都で事件が起こりまして……今すぐロンテギア城に向かってください!」
「ええ? 分かりました」
事件かぁ、ここまで観光客である他種族が駅にいるのだから相当酷い事件があったのだろう。
殺人事件とか? でもこの世界ならちょっとした殺人事件くらい問題にもならないし、貴族の誰かが死んだとか?
「事件か、それで観光客が帰ろうとしてたんだな」
「今すぐって言ってたし一大事だよね。早く行こう」
「ああ」
急いで駅から出ると、ある一点を見て驚愕する。
ロンテギア城が半壊している。
どういうことだ、理解が追い付かない。
「急ごう!」
「おう!」
とにかく、今はロンテギア城に向かうしかない。
駅に向かう他種族と入れ替わるように、人波を逆行した。
* * *
「盗まれた!?」
王城にいた王様に話を聞いたところ、なんと国宝である『可能性のカギ』が盗まれたと言うのだ。
何者かが王城を襲い、そして国宝を盗んだ。幸い怪我人は少ないらしいので、相手の目的は『可能性のカギ』を盗むことのみ。
俺でさえまだ見たことがないのに、なんて奴だ。
「不甲斐ない、まさか突然攻め込まれるとは……」
「敵の特徴はどうでした?」
「あれは悪魔族じゃった。城壁を壊し、国宝のある倉庫に侵入してきおった」
「悪魔族……」
ジャスターは獣人族だった。ジャスターの仲間にも悪魔族がいるかもしれないが。
ヒントが悪魔族のみだと一切のヒントがない。あるとすれば悪魔族の多く住むデルビリア大陸にある国、オルタガくらいだろうか。
国宝が盗まれたとなっては世界的にも一大事だろう。他の国からも協力してもらえるかもしれない。
「おおそうじゃ、シャムロットの外交はどうなったのだ」
「大成功ですよ。同盟を結び、国同士の関係を改善してくれるそうです」
俺はライトとして、いや、ライトがレクトであることを明かさないまま、王様に成果を報告する。
もちろん、『黄金の果実』の情報も無しだ。ただ結論だけを報告すればいい。
どのように、と聞かれたら話し合いの末、やトワ村のポーションを見せたなどと言い訳をすればいい。
「大手柄じゃレクト。ならば一度オルタガに誰かを向かわせるか。レクト、どうじゃ?」
「……少しの間、修練を積ませてください。まだ不安が残ります」
「レクト……」
正直な話、ジャスターを逃がしてしまったという事実がかなり心に来ている。
正面からやりあえば、俺の勝率は高いだろう。今回はジャスターが逃げる側だったから出し抜かれただけだ。
それでも悔しい。そもそも、あの速さについていけなかったのだ。一瞬の隙を突かれて殺されてしまう可能性だってある。
だから、まだ足りない。我が儘かもしれないが、今は自分に自信が持てるようになりたい。
「そうか、ではこちらで手回しをしておこう。行けるようになったら言うのだぞ」
「ええ、承知しました。私たちも聞き込み調査をして情報を集めてみます」
「うむ、頼んだぞ」
戦闘能力とは別に、俺にやれることは他にもあるだろう。
突然悪魔がやってきたとはいえ、その光景を見た人がいるかもしれない。身体的な特徴があればその情報を用いて探すこともできる。
その後、半壊した王城を見て回った俺は街で聞き込みをすることにした。
王城の近くにいた人間といえば、貴族だろう。
俺は貴族街を歩く貴族に声を掛け、情報を集めることにした。
ちなみに、カリウスには知り合いの騎士に聞き込みをしてもらっている。
「ういっす、ちょっと話いい?」
「うっ、レ、レクト!? な、なんだよ急に」
俺の姿を見た貴族は飛び跳ねるようにして怖がり始める。
ああ、ルディオとの決闘のせいで変な方向で有名になってしまったんだな。
「王城を襲った悪魔の特徴を調べててさ、何か知ってることはある?」
「ああ、あの……確か、ピンク色の髪の毛をしていたな。近くで見たわけじゃないからそれ以外の特徴はわからん」
ピンク色の髪の毛か、特徴的だ。
それなら目撃者も多いかもしれない。
「そうなんだ。じゃあ近くで見てた人は知ってる?」
「それなんだけどな、誰も思い出せないらしいんだ」
「え? どういうこと?」
「さあ、魔法か何か使われたんじゃねぇかな」
思い出せない、となると〈認識阻害〉か? いやそうなると遠くから見た人が思い出せるのはおかしい。
〈潜伏〉、というわけでもないだろう。
そうなると俺の知らない魔法か、それともスキルか。
「だから情報収集はあんまり意味ないと思う。やったことも王城に攻めてすぐに出て行っただけだからな」
「そっか、ありがとね」
「っ……お、おう。じゃな」
……? いくら怖くても逃げなくてもいいじゃないか。
しかし情報収集の意味がないとは。これからどうすればいいんだ。
どうしたものかと立ち尽くしていると、背後からこちらに向かって走ってくる足音が聞こえた。
「あ、おいレクト! もう王城には行ったのか?」
「……ブルドー?」
そこにいたのは、元王族で現ただの貴族であるブルドーだった。
一時は敵のような存在だったが、改心して没落貴族として細々と生活している。
「うん、王様と話はしたよ。大変なことになったよね」
「だよね。ってそうだ、ルディオがどうなったか知ってるか?」
「? いや知らないけど」
知らないし興味もないけど。
「実はさ、怖いくらいに誰も見かけてないって話なんだ。あの決闘の日以降、目撃情報が無いんだとさ」
「目撃情報がない? まさか死んだとか?」
「それなら死体が見つかるはずだ。ノアトレインを使ったという記録もないし、謎なんだよね」
そうなると興味が湧いてくる。
目撃情報がないなんてことがあるだろうか。少なくともどこかの宿屋は使わなくてはならないし、国を出るにしてもノアトレインを使うのが一般的なのだ。
馬車で国外に出たか? いやでもあのルディオがノアトレインを使わないわけがない。
「お前にかなり恨みもあるだろうし、気を付けた方がいいよ」
「かもね」
確かに、逆恨みして俺を暗殺しに来るかもしれない。
例えば、トワ村の近くにある森に潜んでいて、そこから俺を狙うとか。
ランク3の武器の攻撃を無効化する装備とか付けた方がいいかな。
「ま、それだけ言いたかったんだ。じゃ、頼むよ王子代理さん」
「……できることはやるよ」
走り去っていくブルドーの背中を見ながら、早く復活しないとなぁと思いつつ今後の予定を考えた。
王子代理か。王子代理が突然外交を止めたんだから迷惑かけちゃってるよね。
とりあえず、今はトワ村に帰って休もう。休んで、カリウスと剣を交えるのだ。
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