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村編

第6話『大器晩成』

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 視界が白く染まる、瞼の裏に光が映る。
 死んだのか……?
 冷たい……? これが死なのか……

「……ト………ウト……ユウト!」
「はっ!」

 あの頃はとばかりに声を張る。
 え、ミント? 俺死んでないの?
 それに顔が濡れている、なんだこれは。

「おいミント、どういうつもりだ」
「残り湯かけろって言ってたじゃん」

 確かに、俺は昨日ミントに「起きなかったら残り湯かけろ」と言っていた。
 それでもだ、本当にやるものなのか。
 あとそんなに冷たくもなかった、なんかぬるい。

 もしかしたら、ミントのおかげで俺は死なずに済んだのか……?
 俺がミントに無理やり起こされなかったら、あのまま死んでいたのか……?

「ミント」
「なに?」
「ありがとな」
「えっ、きも」

 まて誤解だ、これじゃあ俺が残り湯かけられて喜んでるみたいじゃないか。
 だからといってその理由を説明する訳にはいかない、どうすんだよこのジレンマ。

 それよりも髪がびしょびしょになってしまった。
 これが水も滴るいい男か……フッ……

「何黄昏てるの……ほら、朝ごはん食べるよ」
「へいへい」

 朝だよー朝ごはん食べて学校行くよぉー。
 この世界って学校あるのかな。
 謎ジャムとか出てこないよな、大丈夫だよな。

 寝室の扉を開けてリビングに移動する。
 と、昨日と同じようにハーブティーを飲むキウィさんが椅子に座っていた。

「お、ユウトくんやっと起きたかー……なんで濡れてるの?」
「顔から水が湧いてきたんです」

 適当に誤魔化しつつ、手から熱風を出す。
 ドライヤーいらずだね。

「相変わらず何でもできるね」
「何でもじゃねぇよ、できることだけ」

 有名な名言をもじりながら髪を乾かしていく。
 うし、だいたい乾いたな。

「おはようございます、えーと、朝ごはんでしたっけ」
「そうそう、さっさと食べちゃいなー」

 椅子に座るとキウィさんがお皿を持ってきた。
 スープとパンか、スタンダードな朝食だな。
 スープを口に含む、美味い……けど、すっごいしょっぱい。

「これってなんのスープなんですか?」
「これはね、干し肉と山菜のスープだよ」
「随分味が濃いみたいですけど」
「塩分は大事だからね、塩を入れてるんだ。あ、干し肉の塩分考えてなかったかも」

 いやそれだろ、普段も塩は多めに入れるのだろうが、さすがに塩気が強すぎる、さすが保存食、塩分すごい。
 ていうか味見してないのかよ。

「確かにしょっぱい……パン食べながらならいけるかも」

 その後、スープの塩気をパンで誤魔化しながら完食した。
 塩辛いの好きだから何とかなったな。
 山菜はみずや葉わさびでした、美味しかった。

「私は店番やってるから、二人で村回ってていいわよー」
「わかった、ユウト、外行こ」

 村を回ることが確定した、城下町へ行くのはまだ先かな。
 マールボロ城、行ってみたいな、どんな城なんだろう。

*     *     *

 店から出た俺たちは、背伸びをしながら村を見渡した。

「どこに行くんだ?」
「今日は小麦の収穫をするって聞いたからさ、収穫の手伝いをしながら村を回るってのはどう?」
「了解、あの大きさの畑だからな、結構大変だろ」

 実際、この村の畑は大きかった。
 これだけの量の小麦を村だけで使うということはないだろうし、きっと例の城下町に売ったりしているのだろう。
 お、ちょうど収穫してるな。

「おお、ユウトくんじゃないか、何してるんだい?」
「村を回るついでに収穫の手伝いでもしようと思ってね」
「思ったのは私ね」

 ミントの一言を無視しながら畑に入っていく。
 金色の波に入っていくようだ、綺麗だな。
 それはいいんだが、なんだか異世界らしからぬ音が聞こえる。

「おじさん、これはなんだ?」

 おじさんの手には細い棒の先に平たい板がついている道具があった。
 いや、道具というより機械か、ガガガガガと金属の刃が稲の根元を切り裂いていく。

「ハーヴェスターっていう機械だよ、これのおかげで収穫がだいぶ楽になったんだ」
「燃料は何使ってんだ?」
「燃料? これは魔力で動くんだから燃料なんて要らないよ。あ、たまに油を塗ることはあるかな」

 マジかよ、もっと中世的な感じかと思ってたのに、くちゃくちゃ科学進んでるじゃねぇか。
 いや確かに科学技術が進んでいる世界もあったけどさ、ここまで差がある世界はなかなかないぞ。
 まほうの ちからって すげー!

「よし、俺らも端の方収穫するぞ」
「だね! 鎌の準備はできてるよ!」

 わぁ、原始的だ。

 畑の端に移動した、一つ一つの畑がでかいな、こりゃああの機械を使っても時間がかかるぞ。

「んしょ、んしょ……ふぅ。これ終わるの?」
「疲れるのはええよ、俺が魔法使えばすぐ終わるんだから頑張れ」
「いや使ってよ、なんで剣使ってるの、いい剣で小麦を収穫しないでよ」
「こいつだってこういう使われ方を望んでんだよ、血なまぐさいのはごめんだ」

 言いながら相棒でザックザックと収穫していく。
 だんだん楽しくなってきたな、こういう単純作業好きなんだよ。
 自分の魔法が便利すぎるせいでこういう楽しみ方するのは久しぶりなんだよな。
 収穫だって本気出せば風魔法で一瞬なんだから。

「ほっ、ほっ」
「はいはいはいはいはいはいっ!!!」

 どんどん効率化されていく。
 俺に限っては走りながら剣で根元を切るしまつだ。
 俺って魔法使わずにあのハーヴェスターよりも早く収穫できてるんじゃね?

「まってそこ私の場所」
「あ、すまん、まあいいや」

 ミントが収穫していた場所も切っていたようだ、早く終わるからいいじゃん。
 と、思っていたら視界の稲が消えてしまった。

「おっと」
「え、ユウトくんもう終わったの」

 いつの間にか畑一つの収穫を終えていたようだ。
 魔法使わずにこれか、いい運動になりそうだ。

「ミント、終わったぞ」
「そりゃああんなに走りながらやったらねぇ……楽しい?」
「くちゃくちゃ楽しい、体動かすっていいね」
「若いなぁ」

 ほんとに運動って素晴らしいわ、ずっと空飛んでる人間にはわかるんですよ。
 そんな人間いるのかって? 私だ。
 お前だったのか。

「じゃあ切った小麦を回収して、次の畑も手伝おっか」
「まかせろぃ」

 テニスしそうな返事になってしまった。
 絶対ネット際にいるだろ、この返事するやつ。

「ありがとうねー」

 小麦を回収した俺たちは、おじさんに手を振りながら次の畑に向かった。
 そして一つ、また一つと畑を制覇していく。
 ミントは途中で自分がやっても無駄だと気づいたようで、俺が収穫した小麦を回収する作業にシフトしていた。
 今も視界の隅でせっせと小麦を拾っている。

「ユウトくんは働き者だねぇ」
「おばあさんはもう歳だろ、休んでろって」
「とんでもない、あたしゃまだ現役だよ」

 おばあさんはそういいながらハーヴェスターをぶんぶん振り回す。
 こりゃあ現役だわ。

「もう収穫が終わってない畑も少なくなってきたねぇ」

 いつの間にか回収を終えたミントが戻ってきた。
 確かに、毎年ハーヴェスターで間に合っていたのだから今年はだいぶ楽になっただろう。
 全ての畑を手伝うと仕事を奪うことになるので、そろそろ終わりにしようと思う。

「そうだな、この辺で切り上げるか」
「おお、おつかれさん。あたしゃ向かいの畑を手伝ってくるよ」

 不思議なことに、この村の人間は仕事がなくなると他の人の収穫を手伝いに行くようだ。
 まじ優しい、バファ○ンなんて目じゃない。
 だってあいつの優しさは半分だぜ?

「お昼か……暇になっちゃったな」
「そうだねぇ……あ、そうだ。子供と遊んであげればいいじゃん」

 ここで俺は、自分から仕事を探せばよかったと後悔した。

 子供というのはやっていいことと悪いことの区別がつかないため、とても面倒くさい。
 まあ大きくなっても周りの迷惑考えないやついっぱいいるけどな、クラスの女子とかな。
 あいつらマジうるせぇんだけど、なんであんな大声で笑えるんだろうね、しかも授業中に。
 そしてなんで俺は何百年も前のことをこんなに覚えているんだ。

「えぇ……俺子供苦手なんだけど」
「適当に剣とか魔法見せて喜ばせればいいから、行こ!」

*     *     *

 さて、大きなかまどを作った広場に戻ってきました。
 俺は丁度いい岩に座りながらキウィさんから貰ったパンを齧り、子供を集めるミントを眺める。
 楽しそうだ、俺いらないんじゃないかな。

「おーいユウトー! こっちこーい!」

 やめて、呼ばないで。
 十円あげるから許して。

 ……覚悟を決めろユウト、あの頃の俺はまだガキだっただけだ。
 今の俺なら子供と上手いことコミュニケーションできるはずだ。

「わーったわーった、ちょっと待ってろ」

 俺は小走りでミントと子供の元へ向かった。
 そして子供の目の前で剣を抜く。
 子供たちから「おおっ!」という歓声が起こる。

「ユウトにぃ、その剣で猪を仕留めたんでしょ? すっげぇー!」

 赤い髪をした少年が一番興味を持っているようだ。

「いや、仕留めたのはナイフだよ。魔法で動きを止めてな」
「魔法で?」
「こう……ビリビリーって魔法を出して動けなくしたんだ」

 どうせだから見せてやろう、子供はなんでも興味を示すようで、キラキラした目で俺を見てくる。
 この視線が苦手だ、謎のプレッシャーあるじゃん。

 まず右の手のひらと左の手のひらに魔力を集める。
 そして電流を放出。
 イメージはでんじ○う先生が鉄球っぽいやつから雷を出すあれ。
 右手から左手に雷が流れる。
 雷を持っているように見えるだろう。
 これどこかのCMで見たぞ。

「す、すごい……触っていい?」
「いや、普通にダメだろ、死ぬぞ」

 トンデモ発言をしたのは青い髪をした女の子。
 興味を示すのはいいことだがよく考えて行動しようね。

「こんなところかな、もういいだろ? 俺そこで座ってるからさ」
「ダメだよー、この子達まだ満足してないよ? ねー?」
「満足してないよ」

 なんだ満足満足って、小腹すいちゃうのか、一本で満足しとけよ。
 それともあれか、デュエルするのか、乗り物のりながら。
 あれ普通に危ないからやめた方がいいと思う、あとあの円の乗り物なんなの、前見えねぇだろ。

「仕方ねぇな、どんな魔法が見たい?」
「支援」

 呟いたのは緑の髪の……これは女か? うん、緑の髪の男の娘だ。
 支援魔法か、なかなかに渋いじゃないか。
 回復や味方の強化をする魔法が支援魔法ってやつだ、今回は回復魔法を見せることにした。

 俺はナイフを取り出し、自分の左腕に切り傷をつける。
 血がぽたぽたと落ちてゆく。
 腕は切ったけどメンヘラじゃないから。

「ちょっ、ユウト!?」
「まあ見てろって」

 俺はナイフをしまい、右手に魔力を集める。
 そして傷つく前の腕をイメージする。
 この時のイメージはとにかく元に戻すというイメージが大事だ、じゃないと中途半端に治って痛みが増してしまう。

 よし、あっという間に傷口が塞がったな。
 血の跡は残ってるけど……あとで洗おう。

「今のが治癒魔法……」

 緑の子は自分の手を見つめながらブツブツ言い始めた。
 そんなに感情深くなるのか、っていうか回復魔法じゃなくて治癒魔法なのね。

「何今の!」
「何って治癒魔法だろ」
「傷口塞がったよ!?」
「? 塞がるだろ、治癒なんだから」

 何がおかしい、治癒魔法なんだからあの程度の傷くらい簡単に……あ。
 この世界の治癒魔法って、痛み消しとか治るのを早めること……? 回復ポーションと同じ?
 即効性の治癒魔法は結構上の魔法……?

「傷口が塞がる魔法って確か結構高位の魔法じゃ……」
「いや、えっとあの、ほら! 俺だし!」

 苦しい言い訳だ。
 俺だし! ってなんだよ、だしがでちゃうの? 鰹だしのライバル的存在の俺だし?
 味噌汁に使ったら美味そう。

「こんな回復力のある魔法が使えるっていうなら、国が黙ってないと思うよ! 気をつけた方がいいよ!」

 つまり国から引き抜き? 野球かよ。
 それなりの額を用意してもらわなきゃな。
 そもそも何にも所属してないから引き抜くも何も無いな。

「気ぃつけるよ、まあ治癒魔法はこんなもんだな。じゃあ次だ、何が見たい?」
「軽いなぁ」
「剣術! 俺いつか剣を持ってな、村を守るんだ!」

 おお、赤い髪の子が熱く語ってくれたな。
 語るってほど長くないけど。
 村を守るか、立派な目標だな。

「なら強くならなきゃな、教えてやるよ」
「ホントに!?」

 俺は「ああ」と言いながらかまどの上に置いてある金網を集める。
 そして錬成、剣の形だが刃がついていない偽物の剣を作り出す。

「そ、それは……?」
「お前の練習用の剣だ、普通の剣だと危ないからな」
「くれるのか!?」
「私は杖が欲しい」

 赤髪の少年の目はもうキラッキラだ。
 あと青髪の少女よ、杖なんて邪魔なだけだぞ。
 俺が一番知ってる、魔法をメインにして戦うならいいのかもしれないけどな。
 今度杖使ってみようかな、確か魔袋に入ってた気がする。

「やるさ、だが条件がある」
「条件……」
「強くなれ、やるからにはとことん極めろ、この俺が教えるんだからな」
「……はい!」

 よし、これで村を離れても安心できるぞ。
 こいつが強くなるまでどのくらい必要なのかはわからないけどな。

「そういやお前らの名前は?」
「今更なの?」

 ミント、黙って。

「俺の名前はレッド! 村一番の暴れん坊さ!」

 自分で言うのか。

「私はブルー、魔法使いを目指してる」

 だろうな、杖を欲しがってたんだから。
 それにしても安直な名前が多いな、髪の色まんまじゃないか。
 ってことは……

「僕がグリーン、特に目指してるものはないけど、便利な魔法を覚えたいな」

 ですよね。
 治癒魔法に興味を持ってたのはそれか、支援魔法が向いてそうだな。
 そしてなんだこのカラフル三人衆は。
 目がチカチカすっぞ。

「レッドにブルーとグリーンな、覚えた」

 まず忘れないわな。
 むしろどう忘れるんだそんな名前。

「ユウト、本当に剣術教えるの?」
「ああ、教えたら俺が楽になるだろ」
「理由……」

 悪いか、盗賊くらい撃退できるようになれば何かと便利だぞ。
 それにまだ子供だ、育てがいがある。
 子供は嫌いだけどこういう奴らならやぶさかではないからな。

「ついでにブルーとグリーンも鍛えてやるよ」

 その日から特訓が始まった。

*     *     *

 初日

「まずは剣を振れるようになれ、重さを利用して振り抜くんだ」
「ふっ! はぁっ!」

 レッドは最初は生意気そうだと思っていたが意外と俺の言うこと聞くんだな。
 適当に素振りさせとけばいいだろ。

「ブルーとグリーンは魔力を集める感覚を掴め、体のエネルギーを一箇所に集めるイメージだ」
「はい!」
「魔力……魔力……」

 二人には目を閉じてイメージトレーニングをさせる。
 魔法を出すという行為は自分の魔力を外に出すということだ。
 魔力の扱いが上手くなれば必要な魔力も最小限で済む。

「私の出番はないの?」
「ないよ」
「酷い!」

——そして一日、二日と過ぎていき、三日目

 あれから三日か、村人とも仲良くなったし、そろそろ特訓も終わりかな。
 そのへんの盗賊くらいなら撃退できるだろうし、城下町にも行きたいし。

 あとまだ住む場所がありません、未だにミントの家に泊まってます。
 未だに残り湯掛けられます。
 泊まるんじゃねぇぞ…

「ユウトさん、今日は何をするんすか?」

 ちなみに、カラフル三人衆から敬語を使われるようになった。
 俺が命令した訳じゃないからね?

「レッドか、素振りはしたか?」
「しましたよ! そればっかりじゃねぇですか!」

 この三日で気づいたことがある。
 それはレッドの成長が遅いこと、代わりにその分だけ伸び代があること、敬語がおかしいこと。
 レッドは大器晩成たいきばんせい型なのだ。
 他の二人も結構優秀だったりする。
 村の未来が明るいぜ。

「ブルー! グリーン!」
「はぁーい!」
「ちょっ、はーい!」

 俺が名前を呼ぶと少し離れた場所で水を出していたブルーと錬成魔法でものを作っていたグリーンが走ってくる。
 この二人は成長が早い方である、グリーンに至っては便利な魔法を覚えたいって言ってたのにかなりの才能があるぞ。
 二人は俺の目の前で急停止。
 カラフル三人衆集結。

「ぶっちゃけ俺の教えって基礎だけなんだよ、あとは独学での特訓にして、俺の特訓は終わりにしようと思うんだけど、どう?」

 ここから先は独学だったりの方がいいぜ、ソースは俺。

「終わるって言われてもしっくりこないです」
「僕も」
「俺もっすよ、強くなってるんすか?」
「大丈夫だ、今のお前らなら鹿や猪も追い返せる。相手にもよるが、盗賊も撃退できる」

 三人は未だに不満そうな表情だ。
 そうだ、こういうものにはなにかご褒美が必要なんだった。

「俺が認めるくらい強くなったら俺が武器をやるよ、だから頑張れ」
「よし! 特訓だ!」
「ええ! ユウトさんに一泡吹かせましょう!」
「僕は……いいかなぁ」

 こうして俺の教え子はそれぞれが個人で特訓を始めたのだった。
 もうちょっと見てやりたかったけど、俺はこの世界について知らなきゃいけないんだ。
 許せサ……レッド……

 きっと三人衆はこの村の希望になるはずだ、俺が居ない時に守ってくれるだろう。

 魔王にも会ってみたいし、城下町にも行きたい。
 そして、あの男を倒さなければならない。
 その間、村を留守にするだろうからな。

「あれ、ユウトどうしたの? 今日の特訓は?」

 通りすがりのミントが話しかけてきた。
 手にはなにやら袋らしきものが、水車の方から歩いてきた……ってことは中身は小麦粉かな。

「あいつら思ったよりも強くなったからさ、もういいかなって」
「雑だなぁ」

 別にいいだろ、悪いことはしてないんだから。

「それより、その袋は?」
「小麦粉だよ、明日城下町に届けるんだってさ」

 やっぱり小麦粉か、案外早く作れるんだな、遅いのか早いのか知らんけど。

「ふむ、なら二人で城下町に行くというのはどうじゃ?」
「げっじいさん」
「え、城下町に行けるの? やった!」

 確かに、丁度城下町に行きたいと思ってたところだ、都合がいい。

「二人で大丈夫なの?」
「ユウトはそこらの冒険者よりも強いからの、なんとかなるじゃろ」
「簡単に言うねぇ、まあ事実なんだけど」

 ミントと村長が同時にこちらを見る、二人して『うっざ』って顔しないでください、食べないでください。
 ちょっとした疑問がある、そう、キウィさんだ。
 三日もあの家に居させてもらい、とても恩を感じているのだが、さすがに娘との二人旅を許すなんてことは……

「お、二人で城下町行くの? いいねいいねー、おばさんも連れてってよ」

 背後に気配を感じた瞬間に声が聞こえた。
 馬鹿なッ、この俺が気配に気づくまでにここまで近づいただとッ!

「急に出てこないでください、来ればいいじゃないですか、てか店はどうしたんですか」
「客なんてほとんど来ないよ、それは君も知ってるだろう? あと、店があるから行かない」
「なら言わないでくださいよ、客こないんじゃないんですか?」
「それはそれ、これはこれ」

 この人本当に大人なのか。
 村長もなにか言い返してやってくれ、この人を止めてくれ、てか連れてけ。

「決まったみたいじゃの、明日の朝から二日かけて城下町、でいいかの」

 オイイイイ! ってか二日か、近いのか遠いのかわかんねぇな!

「いいよー、城下町かぁ、小さい頃行ったっきりだなぁ」
「はぁ、わかったよ。俺も行きたかったからな」

 ミントと一緒にではあるが、俺は遂に城下町に行けるようだ。
 柄にもなく楽しみである、もうドキがムネムネしてきている。

「ユウト、明日ちゃんと起きてね」
「努力します」

 こうして、急遽旅が決まったのだった。
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