むらゆう―村人を目指す英雄―

瀬口恭介

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クラス転移編

新しい朝

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 深い、深い微睡みの中で鳥のさえずりが響く。
 瞼の奥から漏れ出す光が、暖かく体を包むのを感じた時、自分がどこで寝ているのかを思い出した。
 そういえば、ここで目覚めるのは初めてのことだ。昨日は、わざわざ氷霧亭に泊まり、早朝に転移してきたのだから。

「……トー……ユ…トー……ユウトー」
「んぁ……あ、ああ……おはよ」
「うん、おはよー。起きるまで早かったね」
「敷物があるといっても、やっぱり寝心地は悪いからなぁ、あれ、みんな起きてるんだ」

 後半になってから演技に入った。寝起きで演技はちときついぜ。
 怪しまれてないよね、それとも仲良くなったらこういう話し方になるってことにしようかな。

「僕もミントちゃんに起こされてさ、びっくりしたよ、朝強いんだね」
「寝起きで農作業とかよくやってたからかなー」

 村出身だからこその朝の強さ。俺も小麦村に住むことになるのだから早起きに慣れておかねば、

「相良めちゃくちゃ変な声出てたし」
「ウケる」
「……面白かったよ」

 起きたら目の前に美少女がいる、昔の俺だったら即惚れてるな。そのまま告白できずに卒業する。かーっ、へたれだな昔の俺。

「朝食にしましょうか、食堂まで一緒に行きましょう」
「はい!」

 食堂に向かった俺たちは、リビアルがくるまでの間、黒パンに齧り付いていた。
 といっても、俺たち六人の黒パンは魔法で柔らかくしたのだが。

「かってぇ」

 当然だが男共の黒パンは柔らかくしてない。
 その硬いパンをガリガリ食えるくらい力をつけるのだ、頑張れ少年。

「はい注目、みなさん聞いてください」
「げっ」

 ミントが物凄く嫌そうな顔をした。言わずもがな、リビアルが出てきたのである。
 リビアルは食堂の中央に移動すると、冒険者ランクごとに指示を出した。
 Sランクは森へ、だが今回は自由行動だ。
 AランクとBランクも森に行くらしい。

「Aランクは五人班に別れろ、Bランクは部屋の分け方と同じでいいだろう。全員で魔大陸の森を探索する、馬車を用意するから食べ終わったら城の裏に集合しろ」
「はい!」

 それだけ言うとリビアルは食堂を去っていった。
 まさか全員で森を探索することになるとはな、しかし大丈夫だろうか、Sランクはチート能力があるとはいえ、AランクとBランクには戦闘向きではない能力の人間もいる。ぶっつけ本番で、戦えるのだろうか。

「ついに魔物と戦うのか……僕にできるかな」
「六人いるんだ、固まって行動すればお互いをカバーできるよ」

 相良の能力は千里眼、彼はサポートに徹するのが一番有効だ。
 幸いこちらには治癒能力がある、ある程度の攻撃ならくらっても大丈夫だ。
 そして一番頼もしい味方がいる。そう、ミントだ。
 ミントの力があれば、まず死ぬことは無い。
 てか死んだらさすがの俺も生き返らせることは出来ないからな、死なれたら困る。

「誰が戦うん?」
「主力は井ノ原さんと、ミントかな。俺たちは後方支援って感じで」
「ウチが!? えー、できるかな」

 初期の五人の中では一番戦闘向きだろうお前は。
 井ノ原の毒がどの程度なのかはわからないが、魔物を弱らせることは出来るはずだ。

「井ノ原さんの能力は魔物に有効だろうから、毒で弱ってるところを俺たちの剣や魔力弾で倒そう。それと……んー、移動に時間がかかるから、そこで話し合おうか」
「だねー、じゃあ食べ終わったし行こっか」

 黒パンを食べ終わった俺たちは、兵士に案内されながら、城の裏口へ向かった。
 その裏口は、ノワールとミントが最初に城に入ってきた時の入口だった。

「でかっ!」

 井ノ原がわかりやすいリアクションをしてくれた。そういえばスピードホースを見たことないんだったか。
 何頭の馬が集まっているのだろう、大量の馬車が所狭しと並んでいる。
 馬車に乗り込み、椅子に座る。一つの班に一つの馬車か、豪華だな。

「おお、結構揺れるし」
「さて、作戦を立てようか」

 俺が言葉を発すると、全員の表情が変わった。死ぬかもしれない、戦場に向かうのだ。軽い気持ちで行くと、簡単に死ぬ。
 それを嫌でも感じ取ってしまうのは、昨日のヘリドと男子の戦闘を見たからだろう。

「確か、ミントは魔大陸の森ってところに行ってたんだよね? 魔物について教えてくれないかな」

 ミントがジト目で俺を見てくる。この顔は『ユウトもいたでしょー』という顔だ。どんな顔だ。

「魔法を使ってくる魔物はいなかったよ、近距離戦闘が基本だから魔力弾で遠くから攻撃すれば倒せると思う。毒があるなら、それを使ってから剣を使う人が足止めして、後ろから魔力弾で攻撃って感じかなー。私もそこまで戦闘に慣れてるわけじゃかいから、参考になるかわかんないけど」

 二回目くらいから躊躇いなく植物を操っていたのはどこの誰だろうな。

「全然役に立つよ! それで、僕は何をすればいいかな?」
「千里眼だっけ、それで遠くにいる敵とかを見つけて、魔物の集団を避けていけば危険度を減らせるよ」
「なるほど……」

 確かに、魔物の集団と会ったら確実に死ぬ。不思議なダンジョン特有のモンスターハウスである。あれまじでやめて欲しい。逃げられないじゃん。

「ユウトと相良くんと藤沢さんが剣を使って、風間さんは風で攻撃したりとか、色々試そう。井ノ原さんはポイズンシュートで攻撃して、先生が回復、かな?」
「うん、いいと思うよ。そういえば、ミントは何か攻撃手段ってある?」
「あ、あー。私はね——」

 ミントは自分が植物を操って攻撃をすることを全員に伝えた。
 それを聞いた井ノ原たちは、頼もしいと少し安心した様子だった。

 ふと外を見ると、もうロマネスがすぐ近くまで来ていた。近づいてくる巨大な壁を見ながら、俺たちは初戦闘への心の準備をした。
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