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84話 すべて奪って
皇室で戦ってからちょうど三日が経った夜。
俺は、リエルの屋敷にある自分の部屋でゆっくり考えをまとめていた。
「ぶぅ……」
先ずは、森の中に設置されていたあの不思議なキューブが気になる。あのキューブは、人間の生命力を閉じ込められる類のアイテムだった。
しかし、ここで問題が一つ。俺がゲームをプレイしていた時には、そんなアイテムは存在しなかったってことである。
今更だけど、俺はゲームの決まったシナリオから大きく逸脱している。そのせいなのか?
俺がカルツを一度殺したから、このゲーム世界が勝手に整合性を取るために見ず知らずのアイテムを生み出したのか……?
「ぶぅうう」
そして、次に引っかかるのがカルツと聖剣だった。
俺は確かにカルツを殺したはずなのに、何故かヤツはグールみたいになって蘇っている。
今にも信じがたいけど、皇子が黒魔法の魔力を大量に注ぎ込んだのなら、理解はできる。
死んだ人を復活させるなんてバカみたいに聞こえるけど、何百人の兵士たちに精神操作をかけた皇子の魔力量を考えたら……全く不可能な話じゃない。
「ぶぅううううううう」
だけど、なんでカルツは聖剣を使えるのだろう。そこが大きな疑問だった。
ヤツは最後に、聖剣に捨てられたはずなのに?聖剣を使える資格を失ったはずのあいつが、なんでまた聖剣を使えるんだ?
辻褄が合わない気がする。そもそも、聖剣は自ら自分の主を選ぶんじゃなかったのか……?
……まあ、カルツを殺した後に聖剣にある仕掛けをしておいたから、たぶん大きな問題にはならないと思うが。それでも、やっぱり気になってしまう。
「ぶぅううううううううううううううう!!!!!!!!!」
そして、次に皇子…………だけど。
「…………ニア?」
「………………………………ぶぅ」
「なんでそんなに頬をパンパンにしてるの?俺、今日ずっと離さなかったよね?今もハグしてるよね!?」
「絶対に他の女のことを考えていた。カイは浮気者だから、間違いなく他の女のことを考えたはず」
「全く信用されてないな、俺!?普通にこれからどうするか考えてたんだよ!ほら、カルツの復活もあるし皇子のこともあるし、あの皇子が言っていた真の悪魔とやらもあるじゃん!」
「……クロエと一緒にいる時も、そうだったの?」
「えっ」
「クロエと一緒にいる時は、絶対にクロエのことしか考えなかったはず」
そこで、ニアは急にガクッと項垂れてから、沈んだ声を出す。
「私……クロエより、全然魅力ないから」
「……………えっ?」
「クロエ、美人だし。優しいし、笑顔も可愛いし、胸もあるし。私なんかよりずっと、魅力ある」
「……………ニア」
「だから、理解できる。カイがクロエにハマるのも分かるし、キスしたいって気持ちになるのも分かる。でも、でも………」
「ニア!」
ニアの声が少しずつ涙声になり始めた時、俺は俯いているニアの顔を両手で軽く持ち上げてみる。
案の定、向かい合ったニアの瞳には涙が滲んでいて、俺は罪悪感を抱いてしまう。
「……カイ?」
「……魅力、あるから」
「え?」
「クロエに負けないくらい、ニアにだって魅力あるから」
真剣な口調で言うと、ニアは驚いたように目を丸くした。
俺は、ニアの両肩をぐっと掴んでから言い放つ。
「クロエと先にキスしたのは……ごめん。本当にごめん。ニアが怒るのも十分理解できるし、それについて俺が言えることはなにもないよ。でも……ニアに魅力がないって思ったことは、一度もないから」
「……本当に?」
「当たり前じゃん!!そもそもニア、すっごく…………す、すごく、可愛い………し」
「……………………………………………………………」
「今まで見た誰よりも、可愛いから。それに、ニアはクロエとベクトルが違うというか……歩く時の仕草とか、抱き着く時の表情とか見てると、すごく癒されるし……同時に、キュンとするし」
「……………」
「それに、俺の一番のパートナーだし」
次々と出てくる俺の言葉に、ニアはただぼうっとするだけだった。ショックでも受けたかのように、ニアはジッと俺を見つめている。
俺は込み上がる羞恥心になんとか耐えながらも、ニアと視線を合わせた。
「ニアがいなかったら、絶対にここまでは来れなかった。いや、普通に死んでたかもしれない。あの収容所で俺の命を助けてくれたのは、ニアだから。それを除いても……ニアは、俺にとって一番大切なパートナーで、大切な友達で、大切なお………女の子、だから……………」
「……………………………………………………………」
とうとう自分の言葉に堪えられなくなって、俺は顔を背けてしまう。
両目をぐっとつぶって、それでもかろうじて声を絞り出しながら、俺は本当の心を伝えた。
「く、クロエとキスまでしかしなかったことだって!!ニアに悪いと思ったから。もちろん、クロエもニア並みに大切だけど、やっぱり……先にクロエと最後まで行くと、ニアが悲しむと思ったから。クロエもそこはちゃんと理解してくれたから、キスしかしなかったんだし……」
「…………………………………………………………」
「に、ニア……?どうして、なにも言わな――――」
そして、俺がつぶっていた目を開いて、ニアを見つめていた時。
想像もしてなかった光景に、俺は目を丸くしてしまった。
「……………ぁ、ぅ」
「………に、ニア?」
「……………………ぅ、ぅう……」
普段、あんなに飄々として恥ずかしさなんて全く知らなそうだったニアが。
湯気でも立ちそうなくらい顔を真っ赤にさせながら、俯いていたのだ。
「ニ、二ア……?」
「………やだ」
「え?」
「こっち見ちゃ、やだ………」
やがて、ニアは自分の両手で顔を隠しながら、バタバタと俺の膝の上で暴れ始める。
恥ずかしさと嬉しさが入り混じった感情が、そのまま行動に映し出されたみたいだった。
白い髪の毛から覗ける耳たぶは真っ赤になっていて、俺はそれを見て少しだけ、余裕を取り戻す。
「……ニア、顔見せて」
「やだ、やだ………絶対にやだ」
「……顔、見たい」
「はうぅ………!!か、カイの浮気者!!」
「……まあ、実際に浮気者だから、何とも言えないけど」
「そ、そもそもそんなに私のことが好きなら、初キスも私にあげるべきだった!!エッチだけでなく、キスもハグも心も体も全部全部、私がもらうべきだった!!」
「……えっ、と」
俺は益々恥ずかしくなって、俯いて下の唇をぐっと噛み締めながら言う。
「………一応、キス以外は全部あげる予定だけど………」
「………………………………………………………ぁ、ぅ」
「お、俺……元の世界で好きな人なんてなかったし。この世界に来て最初に会ったのもニアだし、好きになったのもニアだし……初めてのハグしたのもニアだし。は、初めての経験だって………その、ニアにあげる予定だけど……」
「………………………ぁ、ぅぅ……ぅうう………」
「……クロエや、リエルが大切じゃないわけじゃないけど」
「………………」
「……別に、順番を決めたいわけでもないけど。でも……ニアは本当に、本当に……一番と言ってもいいほど、大切過ぎる存在……だから」
……ヤバい。
自分が何を言っているのか分からなくなってきた。熱が昇りすぎてすぐにでも爆発しそうになる。
そもそも、俺は全く女慣れしていない童貞だ。女の子に自分の気持ちをサラッと伝えられる器用な真似なんて、俺にはできない。
俺はただ、バカみたいに真正面から伝えるしかなかった。
なにを言えばニアが喜ぶのか、どんなタイミングで言えばニアの機嫌が直るのか……そういうのが全く、分からないから。
伝えるのだけでも精一杯で、分からない。ただただ、馬鹿正直に自分の感情を伝えるしかなくて。
「うぅ…………ぅ………ぅううう~~~~~~~~~!?!?!?」
ニアは、もはや俺の膝から滑り落ちそうなくらい乱暴に足をバタバタさせながら、俺の胸板をコンコンと叩いてくる。
恥ずかしいのはきっと、ニアも同じみたいだった。
「カイの、バカ………浮気者のカイなんか、嫌いぃ………」
「……………ご、ごめん……」
「……………カイは、浮気者。絶対に浮気者。すぐそんなこと言って、女の子を虜にする……」
「ご、ごめん……に、ニアからしたら確かに浮気だよね……本当にごめん。でも――――んん!?」
「………………………………………」
「んん!?んちゅっ、んむぅ………!?ん、ちゅっ…………」
心臓が止まる。
文字通り、時間が止まって心臓も止まったみたいな錯覚に陥る。だって、目の前には瞼を閉じたニアがいて――――
俺の唇は、とっくにニアの唇に塞がれていたから。
「んん……ニ、ア……ん、ん……………」
「……………………」
「……………………」
「…………ちゅっ、ちゅ……」
咄嗟にキスをされたからさすがに慌てたけど、ニアの綺麗な瞼を見ていると自然と落ち着いてきて、瞼を閉じる。
いつの間に俺を抱きしめていたニアをぎゅっと抱きしめ返すと、ニアは耐えられないとばかりにもっと体を密着してきた。
絶対に離さないとばかりに体を寄せながら、俺の首に両手を巻いて下からずっと、キスをしてくる。
足をバタバタさせながら暴走していた感情が、今はキスに流れたみたいだった。
「…………カイ、カイ………ん、ちゅっ…………」
そして、互いの息が止まる寸前まで唇を重ねてから、俺たちはどちらからともなく顔を離す。
普段は青白いと言ってもいいほど白いニアの肌は、もはや朱に染まっていた。涙がにじんだ瞳を潤ませながら、ニアは俺を見上げてくる。
俺は、懐の中にいる少女があまりにも愛おしくて、片手でニアの髪をかき上げながらもう一度キスをする。
待っていたかのように、ニアは目を閉じて唇を合わせる。また長いキスが続いて、また息が止まる寸前まで繋がる。
「………………」
「……………ニア」
ニアはもう、熱に浮かされたみたいにぼうっとした顔で、俺を見つめていた。少々刺激が強すぎたかもしれない。
俺は、今にも爆発しそうなムラムラをなんとか抑えながら言う。
「………もう一回、する?」
当然受け入れられると思って投げた質問なのに、ニアは首を振る。
「………やだ」
「……え?なんで――――」
「キスじゃ、足りない」
そして、ニアは赤い瞳をさらに潤わせながら言う。
「………私のすべて、もらって」
「……………………」
「私のすべて、カイに奪われたい……」
心臓がドクン、と鳴り出して。
俺は吸い込まれるように、目の前の少女を見つめるしかなかった。
俺は、リエルの屋敷にある自分の部屋でゆっくり考えをまとめていた。
「ぶぅ……」
先ずは、森の中に設置されていたあの不思議なキューブが気になる。あのキューブは、人間の生命力を閉じ込められる類のアイテムだった。
しかし、ここで問題が一つ。俺がゲームをプレイしていた時には、そんなアイテムは存在しなかったってことである。
今更だけど、俺はゲームの決まったシナリオから大きく逸脱している。そのせいなのか?
俺がカルツを一度殺したから、このゲーム世界が勝手に整合性を取るために見ず知らずのアイテムを生み出したのか……?
「ぶぅうう」
そして、次に引っかかるのがカルツと聖剣だった。
俺は確かにカルツを殺したはずなのに、何故かヤツはグールみたいになって蘇っている。
今にも信じがたいけど、皇子が黒魔法の魔力を大量に注ぎ込んだのなら、理解はできる。
死んだ人を復活させるなんてバカみたいに聞こえるけど、何百人の兵士たちに精神操作をかけた皇子の魔力量を考えたら……全く不可能な話じゃない。
「ぶぅううううううう」
だけど、なんでカルツは聖剣を使えるのだろう。そこが大きな疑問だった。
ヤツは最後に、聖剣に捨てられたはずなのに?聖剣を使える資格を失ったはずのあいつが、なんでまた聖剣を使えるんだ?
辻褄が合わない気がする。そもそも、聖剣は自ら自分の主を選ぶんじゃなかったのか……?
……まあ、カルツを殺した後に聖剣にある仕掛けをしておいたから、たぶん大きな問題にはならないと思うが。それでも、やっぱり気になってしまう。
「ぶぅううううううううううううううう!!!!!!!!!」
そして、次に皇子…………だけど。
「…………ニア?」
「………………………………ぶぅ」
「なんでそんなに頬をパンパンにしてるの?俺、今日ずっと離さなかったよね?今もハグしてるよね!?」
「絶対に他の女のことを考えていた。カイは浮気者だから、間違いなく他の女のことを考えたはず」
「全く信用されてないな、俺!?普通にこれからどうするか考えてたんだよ!ほら、カルツの復活もあるし皇子のこともあるし、あの皇子が言っていた真の悪魔とやらもあるじゃん!」
「……クロエと一緒にいる時も、そうだったの?」
「えっ」
「クロエと一緒にいる時は、絶対にクロエのことしか考えなかったはず」
そこで、ニアは急にガクッと項垂れてから、沈んだ声を出す。
「私……クロエより、全然魅力ないから」
「……………えっ?」
「クロエ、美人だし。優しいし、笑顔も可愛いし、胸もあるし。私なんかよりずっと、魅力ある」
「……………ニア」
「だから、理解できる。カイがクロエにハマるのも分かるし、キスしたいって気持ちになるのも分かる。でも、でも………」
「ニア!」
ニアの声が少しずつ涙声になり始めた時、俺は俯いているニアの顔を両手で軽く持ち上げてみる。
案の定、向かい合ったニアの瞳には涙が滲んでいて、俺は罪悪感を抱いてしまう。
「……カイ?」
「……魅力、あるから」
「え?」
「クロエに負けないくらい、ニアにだって魅力あるから」
真剣な口調で言うと、ニアは驚いたように目を丸くした。
俺は、ニアの両肩をぐっと掴んでから言い放つ。
「クロエと先にキスしたのは……ごめん。本当にごめん。ニアが怒るのも十分理解できるし、それについて俺が言えることはなにもないよ。でも……ニアに魅力がないって思ったことは、一度もないから」
「……本当に?」
「当たり前じゃん!!そもそもニア、すっごく…………す、すごく、可愛い………し」
「……………………………………………………………」
「今まで見た誰よりも、可愛いから。それに、ニアはクロエとベクトルが違うというか……歩く時の仕草とか、抱き着く時の表情とか見てると、すごく癒されるし……同時に、キュンとするし」
「……………」
「それに、俺の一番のパートナーだし」
次々と出てくる俺の言葉に、ニアはただぼうっとするだけだった。ショックでも受けたかのように、ニアはジッと俺を見つめている。
俺は込み上がる羞恥心になんとか耐えながらも、ニアと視線を合わせた。
「ニアがいなかったら、絶対にここまでは来れなかった。いや、普通に死んでたかもしれない。あの収容所で俺の命を助けてくれたのは、ニアだから。それを除いても……ニアは、俺にとって一番大切なパートナーで、大切な友達で、大切なお………女の子、だから……………」
「……………………………………………………………」
とうとう自分の言葉に堪えられなくなって、俺は顔を背けてしまう。
両目をぐっとつぶって、それでもかろうじて声を絞り出しながら、俺は本当の心を伝えた。
「く、クロエとキスまでしかしなかったことだって!!ニアに悪いと思ったから。もちろん、クロエもニア並みに大切だけど、やっぱり……先にクロエと最後まで行くと、ニアが悲しむと思ったから。クロエもそこはちゃんと理解してくれたから、キスしかしなかったんだし……」
「…………………………………………………………」
「に、ニア……?どうして、なにも言わな――――」
そして、俺がつぶっていた目を開いて、ニアを見つめていた時。
想像もしてなかった光景に、俺は目を丸くしてしまった。
「……………ぁ、ぅ」
「………に、ニア?」
「……………………ぅ、ぅう……」
普段、あんなに飄々として恥ずかしさなんて全く知らなそうだったニアが。
湯気でも立ちそうなくらい顔を真っ赤にさせながら、俯いていたのだ。
「ニ、二ア……?」
「………やだ」
「え?」
「こっち見ちゃ、やだ………」
やがて、ニアは自分の両手で顔を隠しながら、バタバタと俺の膝の上で暴れ始める。
恥ずかしさと嬉しさが入り混じった感情が、そのまま行動に映し出されたみたいだった。
白い髪の毛から覗ける耳たぶは真っ赤になっていて、俺はそれを見て少しだけ、余裕を取り戻す。
「……ニア、顔見せて」
「やだ、やだ………絶対にやだ」
「……顔、見たい」
「はうぅ………!!か、カイの浮気者!!」
「……まあ、実際に浮気者だから、何とも言えないけど」
「そ、そもそもそんなに私のことが好きなら、初キスも私にあげるべきだった!!エッチだけでなく、キスもハグも心も体も全部全部、私がもらうべきだった!!」
「……えっ、と」
俺は益々恥ずかしくなって、俯いて下の唇をぐっと噛み締めながら言う。
「………一応、キス以外は全部あげる予定だけど………」
「………………………………………………………ぁ、ぅ」
「お、俺……元の世界で好きな人なんてなかったし。この世界に来て最初に会ったのもニアだし、好きになったのもニアだし……初めてのハグしたのもニアだし。は、初めての経験だって………その、ニアにあげる予定だけど……」
「………………………ぁ、ぅぅ……ぅうう………」
「……クロエや、リエルが大切じゃないわけじゃないけど」
「………………」
「……別に、順番を決めたいわけでもないけど。でも……ニアは本当に、本当に……一番と言ってもいいほど、大切過ぎる存在……だから」
……ヤバい。
自分が何を言っているのか分からなくなってきた。熱が昇りすぎてすぐにでも爆発しそうになる。
そもそも、俺は全く女慣れしていない童貞だ。女の子に自分の気持ちをサラッと伝えられる器用な真似なんて、俺にはできない。
俺はただ、バカみたいに真正面から伝えるしかなかった。
なにを言えばニアが喜ぶのか、どんなタイミングで言えばニアの機嫌が直るのか……そういうのが全く、分からないから。
伝えるのだけでも精一杯で、分からない。ただただ、馬鹿正直に自分の感情を伝えるしかなくて。
「うぅ…………ぅ………ぅううう~~~~~~~~~!?!?!?」
ニアは、もはや俺の膝から滑り落ちそうなくらい乱暴に足をバタバタさせながら、俺の胸板をコンコンと叩いてくる。
恥ずかしいのはきっと、ニアも同じみたいだった。
「カイの、バカ………浮気者のカイなんか、嫌いぃ………」
「……………ご、ごめん……」
「……………カイは、浮気者。絶対に浮気者。すぐそんなこと言って、女の子を虜にする……」
「ご、ごめん……に、ニアからしたら確かに浮気だよね……本当にごめん。でも――――んん!?」
「………………………………………」
「んん!?んちゅっ、んむぅ………!?ん、ちゅっ…………」
心臓が止まる。
文字通り、時間が止まって心臓も止まったみたいな錯覚に陥る。だって、目の前には瞼を閉じたニアがいて――――
俺の唇は、とっくにニアの唇に塞がれていたから。
「んん……ニ、ア……ん、ん……………」
「……………………」
「……………………」
「…………ちゅっ、ちゅ……」
咄嗟にキスをされたからさすがに慌てたけど、ニアの綺麗な瞼を見ていると自然と落ち着いてきて、瞼を閉じる。
いつの間に俺を抱きしめていたニアをぎゅっと抱きしめ返すと、ニアは耐えられないとばかりにもっと体を密着してきた。
絶対に離さないとばかりに体を寄せながら、俺の首に両手を巻いて下からずっと、キスをしてくる。
足をバタバタさせながら暴走していた感情が、今はキスに流れたみたいだった。
「…………カイ、カイ………ん、ちゅっ…………」
そして、互いの息が止まる寸前まで唇を重ねてから、俺たちはどちらからともなく顔を離す。
普段は青白いと言ってもいいほど白いニアの肌は、もはや朱に染まっていた。涙がにじんだ瞳を潤ませながら、ニアは俺を見上げてくる。
俺は、懐の中にいる少女があまりにも愛おしくて、片手でニアの髪をかき上げながらもう一度キスをする。
待っていたかのように、ニアは目を閉じて唇を合わせる。また長いキスが続いて、また息が止まる寸前まで繋がる。
「………………」
「……………ニア」
ニアはもう、熱に浮かされたみたいにぼうっとした顔で、俺を見つめていた。少々刺激が強すぎたかもしれない。
俺は、今にも爆発しそうなムラムラをなんとか抑えながら言う。
「………もう一回、する?」
当然受け入れられると思って投げた質問なのに、ニアは首を振る。
「………やだ」
「……え?なんで――――」
「キスじゃ、足りない」
そして、ニアは赤い瞳をさらに潤わせながら言う。
「………私のすべて、もらって」
「……………………」
「私のすべて、カイに奪われたい……」
心臓がドクン、と鳴り出して。
俺は吸い込まれるように、目の前の少女を見つめるしかなかった。
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