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第二章 お見合い編
嫁渡り1
しおりを挟む「こーら涼風!今日は記念すべき嫁渡り!可愛いけどヒヨコじゃだめ~!今日は狩衣!!」
ヒヨコの着ぐるみをずるずるとひっぱって出す涼風にレレさんが言い、シルクジャガードの生地でできた白銀の狩衣を手早く着せ付ける。
右手には床にずったヒヨコの着ぐるみを握ったまま、黄緑の合わせが美しいよそいきの涼風が出来上がっていく。
昨日はあのままずっとテラスで過ごした。
音楽の演奏や妖術のホログラムの歓声をBGMに、月宗様の膝の上で二人きり。
思い出してニマニマしてしまうくらい幸せだった。
あの二人から、あんなに簡単に連れ出してもらえるなんて。
月宗様にエスコートされてパーティーに出るのも素敵だけれど、連れ出してもらえて二人きりで優しくされて、髪を撫でてもらえた。
ふわふわして嬉しくて胸がいっぱいで苦しい。
たまに髪を撫でる以外はソファーの背もたれに腕をかけてしまう月宗様になぜと聞くと、
「俺の手が男だから」
とよく分からない返答をした後
「はぁ~~~~~~」と長いため息をついていた。
あの人の作る雰囲気が好きだ。
根底に、優しさがあるのがわかるから。
「全部持っていくわけじゃないんだね?」
荷造りは終わった風なのに、まだクローゼットには物がある。
「一月に一回はここに集まりますしね!」
私の質問にレレさんが涼風を追いかけながら答える。
「そうなの?」
「どのお里に行かれても、ご結婚を決めるまでは一月に一度ここに集まる決まりです!ご成婚後はどちらでも構いませんけど、歴代はご家族とお会いする場にしていたそうですよ!」
へぇ、わりといろんな決まりがあるんだな。
桜子はまだ行く先を決めておらず、ここに残るらしい。
私の八咫烏の里行きに、笹音さんも恭さんも特に何のリアクションもなかった。
あの 禍ツ魂の事件から笹音さんとはお話ししていないし、二人ともよりあからさまに桜子にはべる様になった様に思う。
わざと私を試したようだったし、力の差が浮き彫りになったからだろう。
月宗様率いる八咫烏の人たちと涼風だけは、事件前後で私に対する態度が変わらない。
それが本当に嬉しい。
◇◆◇
「用意できたか?荷物は後で運ばせる。身軽に来ればいい」
開けっぱなしにしていたドアに寄り掛かりながらコンコンと叩いてノックする月宗様が言う。
「!迎えに来てくれたの!?ここは立ち入り禁止だって…………」
「嫁渡りの時だけは特別なんだよ」
花嫁が眷属達の里に行く事を嫁渡りと言うらしい。
笹音さんの説明で気軽に、とかいつでも変えられる、とか言っていたわりになんだか割と物々しい気がする。
私は月宗様から贈られた白銀の大振袖を着ているし、涼風も狩衣姿。
一方で月宗様はなぜか袴姿。
以前神様へのご挨拶の時に着ていた晴れ着の紋付袴ではなくて、弓道とか剣道とかで見るタイプの。
袴姿が似合う人だなと思う。
月宗様の衣擦れの音が心地よい。
合わせの着物まで黒くて、真っ黒な出立ちは凛としたカラスそのもの。
「八咫烏のお里はこちらにあるんだよね?車で行くの?」
「いや?近くまで移転する」
着物が暑くてほんの少しだけ開けた窓から冬の夜の匂いがする。
「日が暮れちゃったけど、ご迷惑じゃない?」
てっきり日が高い間に行くものだと思い込んでいたけれど、レレさんが私の着付けを始めたのは日が暮れた後だった。外はもう真っ暗で、お宅訪問って時間ではない。
「八咫烏は闇をまとう眷属だ。本当に大切な物を迎える時は闇の力を借りて敬意を払う。まぁこんな古いしきたり、今はもう廃れてはいるが…………お前には、ちゃんとしたい」
「……………………うん」
失礼じゃないなら良かった。
「そんなに緊張する必要はない。マキノが向こうで既に待ってるよ。マキノとレレが結衣専属で付くのは変わらないし、四つ守も涼風もいる。」
「そうです!新しく涼風のクローゼットも新設したんですよ!!楽しみにしていて下さい!いっぱい買って、若の財布を空にしてやりましょう!」
「ふふふ、うん……ありがとう」
月宗様にエスコートされて階下に行くと、玄関ホールに笹音さんと恭さんが待っていてくれた。
「結衣様、朔の日にまたお会いできる事を楽しみにしております」
にっこり笑った笹音さんが言う。
あんな事がなかったかのように普通な感じが何となく怖くて月宗様の袴の袂をギュッと握った。
「次の朔の日は二週間後、次回は俺とも昼食の予定がある。再会を心待ちにしている」
恭さんが騎士の様に胸に手を当てて言う。
「はい…………」
「行くぞ結衣」
月宗様が二人との挨拶をあっさりと終わらせると、執事のお爺さんが玄関ドアをあけてくれた。
アプローチに四つ守さん達が跪き、その後ろにたくさんの八咫烏の方達。皆月宗様と同じ袴姿で帯刀している。
真っ黒で、彼らの持つ赤い提灯が闇にゆれる。
「出立する」
月宗様の低い、重い声。
光久さんが進み出て月宗様の刀を捧げ持ち、慣れた動作で自らの腰に下げた彼が私を抱き上げた。
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