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第二章 お見合い編
嫁渡り2
しおりを挟む目を開けるとそこは背後におおきな森が迫る湖の前だった。
街灯なんてないからあたりは炭を溶かした様に真っ暗で、月宗様の臣下達がもつ提灯のオレンジの灯りに照らされた水面が青白く映る。
「ぷはぁ!涼風いいこ!そして可愛い!」
涼風はレレさんに抱っこされたまま彼女を連れて移転の妖術を使った様で、レレさんにほっぺをグリグリとくっつけられて嬉しそう。
その様子に少し緊張がとけて周りを見渡す余裕が戻ってきた。
そんなに大きな湖じゃない。50メートルぐらいだろうか。
チラチラとした提灯の灯りに映し出される水面はピタッと貼り付けた様に動かない。
ここ、テレビで見た事がある。禁足地の中にある関東のパワースポット。ドローンからの映像で、昼間のここはコバルトブルーの水をたたえる神秘的な湖だった。
湖の中心から奥に向かって立つ千本鳥居。普通は赤い鳥居がここのそれは真っ黒でちょっと怖い。
八咫烏の臣下達が次々に出す赤い火の玉でぼんやりと浮かび上がる千本鳥居は奥の山に続いていて終わりが見えない。びっしりと続く黒い鳥居に圧倒される。
「わぁ……綺麗だね……」
「湖自体が鏡の役割をする。結衣と涼風だけが銀に浮かび上がって綺麗だな。俺らは結衣を守ると神前に誓い、結衣はここをくぐると八咫烏の里に正式に挨拶をして入ったことになる」
神前の祭壇によくある鏡がここでは湖そのものということだろうか。
「くぐるって、あの千本鳥居?水の上だよ……?」
「心配ない」
涼風が私の元にかけてきて、ピョンと飛んで腕の中に収まった。
白銀の狩衣を着た涼風と、同じ色の大振袖を着た私。周囲の闇が濃すぎるせいか、本当に私達だけ淡く発光している様な気さえする。
————「万事、滞りなく整えてございます」
光久さんが言い、月宗様が頷く。
片腕に抱かれた月宗様の肩越しに背後を見ると、すぐ後ろに雲雀君と涼さん、小四郎君がいて、その後ろにずらっと2列に並んだ八咫烏の臣下達が長い列を作っていた。
何かを待つ風な行列ではなく、花魁道中みたいな、神社のお祭りのパレードみたいな。
提灯を持った人と、旗を持った人、大きなしめ縄の端と端を持った二人組。
皆何も喋らない。
「お姫さん、そないに緊張せんと大丈夫や。ご宗主がついとる」
「そそ、ちゃちゃっと終わらせてお兄さんと宴会しようねぇ」
「涼風重ければ俺だっこします!あ、涼風おまえ!嫌そうにすんな!!」
涼風が嫌そうにしたかどうかはわからないけれど、私にスリっとおでこをくっつけた涼風が可愛くて、四つ守さん達の普段通りな態度にまた一つ力が抜けた。
「行くぞ」
月宗様が私の目を見て優しくいう。
「う、うん……」
湖に足を踏み出す月宗様はすごく落ち着いてリラックスしてる様にも見える。
「あ、あれ……?」
ヒタ、ヒタ、と音がする。水の上を、あるいている?
下を覗き込むけれど月宗様の足元は袴で見えず、慌てて背後の四つ守さん達を見ると皆涼しい顔をして水の上を歩いている。
「八咫烏は、やっぱり忍者なの?」
「は!」
上機嫌に笑う月宗様は空いているほうの手で私の髪をすくい、キスを落とす。
「俺は忍者じゃなくて、お前の彼氏なんだろう?」
覚えていてくれた。
小さい頃のあの会話。
カレシが何かもわかっていなかった幼い私に優しさをくれた人。
「ん…………ここに来れて嬉しい」
「ああ」
目だけが優しく細まるこの人の笑い方が好きだ。
安心して、一気に力が抜けた私の腕から涼風が降りて気ままに動きまわり、雲雀君に首根っこをつかまれて捕獲されていた。
キョトンとした涼風をそのまま運ぶ雲雀君がおかしい。
「ひば」
あ、おしい。ヒバリって言いにくいんだろうな。
「後でようさんあそんだるさかいに、ええ子にしときや」
「ひば」
「なんや、ジャリ坊」
なんか独特な雰囲気を出す二人だな。
2人とも楽しそうだし大丈夫か。
ほっとした所で月宗様の歩みが止まり、後ろの行列も順に止まってしんと静かになった。
「結衣、ちょっと降ろすぞ?俺が挨拶したら、結衣が先にここをくぐれ。水に落ちたりはしない。安心していい」
「えぇ!?」
スルっとおろされて、慌てたけれど、フワリとした土の上に降り立った様な感触がして沈んだりはしなかった。怖いのには変わりないけれど。
所在なげにも一応は立った私を認めた後、月宗様は鳥居に向かって数歩前に出る。
「青幽家当主が開く。
清き誠をもって神事を仕え奉ることを申し上げる。つつがなき御加護のお蔭と八咫烏剣士、刃を伏して頭を垂れ奉る」
月宗様が静かに言い、後ろの大行列の人々が一斉に跪いていく。
「結衣、行っていいぞ。お前が通ったら俺もすぐに通る」
行っていいと言われても、千本鳥居の奥は真っ暗で、吸い込まれそうな闇に恐怖が足元から登ってきて動けない。
「ジャリ坊、先に行ったり。お姫さん安心させたりぃな」
雲雀君の声が聞こえ、首根っこを放された涼風がタタタっと鳥居をくぐり、三本目の鳥居にぶら下がって遊び始めた。
入り口の鳥居につけられた白い紙垂が風もないのに旋風の中にいる様にクルクルと揺れている。
もう一度月宗様をみると、私を見て優しい顔でうなずく。
鉄棒の様に遊ぶ涼風と、優しい彼の目にやっと足が動き、一礼してから恐る恐る鳥居をくぐった。
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