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第二章 お見合い編
宇治玉露
しおりを挟むすぐ隣の続き間からカチャカチャと音がする。
女将達が食器を下げに来たんだろう。
その間は特に会話をするでもなく、ぴー、ぴーと小さく鼻がなる涼風の寝息を聞く。
「失礼いたしました」
女将の声と共に襖が閉まる音がしてやっと羽根が少し開いた。
「お店、出なくてもいいの?」
どうでも良いことばかり聞いてしまう。
「ここは俺の部屋としてあるからな。客を通す部屋じゃないんだよ」
「ここに泊まって帰ってこない日が、ある?」
「結衣がカラスの里にいるなら、ないよ」
「うん……」
一人でいる事は慣れているはずなのに、彼と会ってからは寂しがりやになったと思う。
「あ、涼風起きた?」
羽根から出てキョロキョロと滑り台を探す涼風に、あっちだよと示すと嬉しそうにかけて行った。
テーブルには茶器の用意がしてあって、囲炉裏にお湯がシュウシュウと沸く音がする。
「お茶、淹れるね」
丁寧に淹れたお茶を飲んでもらおう。
そうすれば、もう少しゆっくりできる。
この時間を引き伸ばしたいだけなのはバレてると思う。
上を向くと眩しいものを見るみたいに溶けた笑顔があって、バクバクとした心臓がうるさい。
赤い顔を隠す様に囲炉裏に向かい、鉄瓶を下げる。
お湯が熱すぎると渋くなるのでまずは急須にお湯だけ注ぎ、湯呑みに分けて行く。
そうやって急須と湯呑みをあたためて、お湯の温度を下げていく。
涼風が積み木を滑り台で滑らせるカタカタとした音がする。
私達はみんなおしゃべりではないけれど、無言のこの時間が愛しい。そんな事、彼と会って初めて知った。
陶器の茶筒に宇治玉露と書いてある。
高級な茶葉だ。丁寧に淹れなくても美味しいだろうけど、自己満足。
急須に玉露の茶葉を入れ、冷ました湯を静かに急須へ注ぐ。音を立てないよう急がず、葉を驚かせぬように。
また少し、涼風の出す音を聞く。
あの子の出す音の一つ一つが可愛くて、愛しい。
ゆっくり湯呑みに急須を傾けて、順繰りに少しずつ注いでいく。最後の一滴まで丁寧に注ぐのだ。この一滴に、玉露の旨味が出るからとママに口酸っぱく言われたっけ。
ソファーにだらしなく横たわりこちらを見ていた月宗様のもとに運ぼうとお盆に乗せると、涼風が私の膝にグリグリと入り込んでちょこんとおすわりをした。
「どうしたの?」
「結衣、涼風が欲しがってるぞ」
「お茶?喉乾いたかな?」
「丁寧に淹れられた玉露だ。捧げ物としてこれ以上のものは無い」
「あ…………でも巫女装束も三方もなくて……」
「無くても、結衣の思う様にやってみろ」
「う、うん……」
無意識に3つ淹れていた玉露の1つを涼風の前に置き、小さな体を抱きしめる。
「恐み恐みも白す………………………………」
そこまで言って、なんだか違うかなと思って止めた。祝詞じゃ無くて、ちゃんと私の言葉で伝えたい。
止まった私を心配したサングラスクマさんが上を向く。
「ねえ涼風、あなたがいてくれて私本当に嬉しいの。ありがとうね————お陰様でございます。感謝申し上げます」
前と同じ様にパチンと柏手を打ち、私と涼風の周りに心地よい風が吹く。
シュルシュルとキラキラ光る煙が涼風の口に入って行く。
「ひめしゃま、おいし」
「2語しゃべった!!!!!!!」
「お前達はホントにでたらめだな…………」
「かんわいぃぃ!!!」
「お、おう……」
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