眷属神の花嫁〜四当主の花嫁争奪譚〜神縁の行方

雨香

文字の大きさ
54 / 71
第二章  お見合い編

しおりを挟む

 どうやって帰ったのか覚えていない。
気がついたら里の部屋のベッドに寝かされていた。

お布団に入らず私の枕の横で丸くなって眠る涼風に、そっと掛け物をかける。
窓の外は全ての気配が消え、真夜中特有の音のない闇が広がっていた。

 なまりを飲んだ様な不快な吐き気がある。
涼風すずかぜに擦り寄ると小さい子供特有の熱と、お日様と風だけでできたみたいな匂いがする。
陽だまりに干したシーツのような優しい匂いにやっと少し力が抜けた様な気がした。

——悠君も、桜子もここに来る。

月宗様はどうするんだろう。
プレゼントも、桜子に0だったわけじゃない。 
私に特別優しくしてくれていたのも、そう思いたかっただけかもしれない。

境目さかいめ屋敷の様に桜子のエスコートをする笹音ささねさんや恭さんはここにはいない。
じゃあ月宗様がするの?


答えの出ない問いばかりがグルグルと頭をめぐる。

その夜、私はまんじりともせずに朝が来るまでただ時が過ぎるのを待つ事しか出来なかった。



◇◆◇



 控えめなノックの音をさせて私の侍女二人が入室してくる頃には、私も涼風すずかぜも着替えを済ませていた。

「お嬢様…………」

「ん、二人ともおはよ」

 瑠璃色の小紋は雪の結晶の柄が入っていて可愛いけれど、小紋だから普段着用。このクローゼットの物の中では一番地味だ。
それでいい。今日は桜子の嫁渡りだ。私が目立っても仕方ない。

「月宗様は?」

「その……桜子様を……お迎えに」
マキノさんが言いづらそうに報告し、レレさんまでしゅんとする。

「そっか…………」
嫁渡りは夜なのに、お迎えは早いんだな。

「お嬢様、髪を……」

「今日は、このままで大丈夫」

毎日どこかしらに付けてもらっていた八咫烏やたがらすのマークが入ったリボン。
レレさんがリボンのボックスを持つけれど、今日は断った。頭も痛いし、今日は無い方がいい。

 ゆっくり涼風すずかぜと朝ごはんを食べて、食べ終わる頃に類君がやってくる、いつもの朝。
下げた神饌を類くんが飲み干すまでがセット。

「今日は、何をして遊ぼうか?」

類君まですまなそうな顔で私を見るので努めて明るい声を出す。

「その……今日はお部屋におられた方が……」

そうなんだろうか。この部屋に閉じこもって、風に乗って聞こえてくる嫁渡りの宴会の声を聞くのが正解なんだろうか。

「類くん、図々しいお願いなんだけど、類くんのお母様の所にお茶をしにいけないかな?」

 あそこなら、屋敷からかなり離れている。どんな声も届かないだろう。
それに今度はちゃんと手土産を持って行きたいから。

「大賛成です!あそこなら何時間でも、お泊まりでも構いません!!」

いや流石に泊まりはと思ったけれど、夜にある嫁渡りのその時に避難場所があるのは嬉しい。

 昼過ぎにお邪魔しようとおもっていたら、類くんがもう行きましょうとしきりに誘う。

レレさん達からも手土産のお菓子を渡されて、いってらっしゃいませと言われてしまい、気は進まないながらも庭に出た。
    


◇◆◇



 いくらも歩かないうちに、小道の奥に淡雪さんとルーラさんが見えた。

「あれ?淡雪さんだ」

「?ほんとですね。散歩でしょうか?」

 お母様が見えた途端に人型に変化へんげした類君が言う。
きっと辛い記憶を思い出さないでいられるように人型になるのだろう。
六歳の子が母親から忘れられ、忘れたままでいさせてあげる努力をするなんて言葉にならない。

「こんにちは奥様!ご機嫌いかがでしょうか!」

————「お祭りのはずよ!!!私はメイド達の話を聞いたもの!!!お祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭り」

壊れた機械のようにお祭りと叫ぶ淡雪さんの目は吊り上がり、焦点が完全に合ってない。

ルーラさんが私を見て焦った様に見えた。
それも一瞬ですぐまた淡雪さんに寄り添い、問いに答える。

「……お祭り、ですね……奥様……」

「お祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭りお祭り」

「その通りです奥様!!お祭りです!!」

蒼白な顔をした類君が叫び、何とか宥めようとする。

「お祭り?お祭りがあるのよ。お祭りお祭りお祭り…………あら、あなた達は?」

わたくしはメイドの子です!こちらは結衣様と涼風すずかぜ様でございます!」

「こんにちは、奥様」

 私の事もきっともう覚えてはいないのだろう。
名前など、瑣末な事なのかもしれない。
その時その時が、大切なのだから。

「結衣と申します。奥様のお友達の。」

「その小さなくまさんは結衣ちゃんの子かしら」

「はい、私の子です奥様」

 腕の中のくまさんがぺこりと頭を下げる。
ご挨拶ができて偉いねと耳元で囁くとスリと私におでこを寄せた。

「あなた達も行きましょう。お祭りがあるのよ?子供達に綿あめを買ってあげる。神事の補佐に夜臣が就いてるはずだわ?息子の働いている所を見に行くの。自慢の息子なのよ」

「はい奥様、是非」

 ルーラさんと類君がまた焦った顔をしたけれど、淡雪さんがどんどん歩いていってしまうので慌てて追いかけた。

 

 
しおりを挟む
感想 188

あなたにおすすめの小説

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

ストーカーから逃げ切ったつもりが、今度はヤンデレ騎士団に追われています。

由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したことに気づいたアイナ・ネルケ。 だが彼女はヒロインではない――ただの“モブ令嬢”。 「私は観る側。恋はヒロインのもの」 そう決めて、治癒魔術科で必死に学び、気合いと根性で仲間を癒し続けていた。 筋肉とビンタと回復の日々。 それなのに―― 「大丈夫だ。俺が必ず君を守る」 野外訓練で命を救った騎士、エルンスト・トゥルぺ。 彼の瞳と声が、治癒と共に魂に触れた瞬間から、世界が静かに変わり始める。 幼馴染ヴィルの揺れる視線。 家族の温かな歓迎。 辺境伯領と学園という“日常の戦場”。 「……好き」 「これは恋だ。もう、モブではいたくない」 守られるだけの存在ではなく、選ばれる覚悟を決めたモブ令嬢と、 現実しか知らない騎士の、静かで激しい溺愛の始まり。 これは―― モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまでの物語。 ※溺愛表現は後半からです。のんびり更新します。 ※作者の好みにより筋肉と気合い…ヤンデレ落ち掛けが踊りながらやって来ます。 ※これは恋愛ファンタジーです。ヒロインと違ってモブは本当に大変なんです。みんなアイナを応援してあげて下さい!!

婚約者のいる運命の番はやめた方が良いですよね?!

水鈴みき(みすずみき)
恋愛
結婚に恋焦がれる凡庸な伯爵令嬢のメアリーは、古来より伝わる『運命の番』に出会ってしまった!けれど彼にはすでに婚約者がいて、メアリーとは到底釣り合わない高貴な身の上の人だった。『運命の番』なんてすでに御伽噺にしか存在しない世界線。抗えない魅力を感じつつも、すっぱりきっぱり諦めた方が良いですよね!? ※他サイトにも投稿しています※タグ追加あり

賭けで付き合った2人の結末は…

しあ
恋愛
遊び人な先輩に告白されて、3ヶ月お付き合いすることになったけど、最終日に初めて私からデートに誘ったのに先輩はいつも通りドタキャン。 それどころか、可愛い女の子と腕を組んで幸せそうにデートしている所を発見してしまう。 どうせ3ヶ月って期間付き関係だったもんね。 仕方ない…仕方ないのはわかっているけど涙が止まらない。 涙を拭いたティッシュを芽生え始めた恋心と共にゴミ箱に捨てる。 捨てたはずなのに、どうして先輩とよく遭遇しそうになるんですか…?とりあえず、全力で避けます。 ※魔法が使える世界ですが、文明はとても進んでとても現代的な設定です。スマホとか出てきます。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに
恋愛
古川七羽(こがわななは)は、自分のあか抜けない子どもっぽいところがコンプレックスだった。 新たに人の心を読める能力が開花してしまったが、それなりに上手く生きていたつもり。 ひょんなことから出会った竜ヶ崎数斗(りゅうがざきかずと)は、紳士的で優しいのだが、心の中で一目惚れしたと言っていて、七羽にグイグイとくる! 実は御曹司でもあるハイスペックイケメンの彼に押し負ける形で、彼の親友である田中新一(たなかしんいち)と戸田真樹(とだまき)と楽しく過ごしていく。 新一と真樹は、七羽を天使と称して、妹分として可愛がってくれて、数斗も大切にしてくれる。 しかし、起きる修羅場に、数斗の心の声はなかなか物騒。 ややヤンデレな心の声!? それでも――――。 七羽だけに向けられるのは、いつも優しい声だった。 『俺、失恋で、死んじゃうな……』 自分とは釣り合わないとわかりきっていても、キッパリと拒めない。二の足を踏む、じれじれな恋愛模様。 傷だらけの天使だなんて呼ばれちゃう心が読める能力を密かに持つ七羽は、ややヤンデレ気味に溺愛してくる数斗の優しい愛に癒される? 【心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。】『なろうにも掲載』

処理中です...