92 / 120
第二章 お見合い編
私の神事1 月宗SIDE
時雨と話をしたと報告を受けた日から結衣は茶室に籠るようになった。
涼風とレレしか中に入れず一日中籠る。
一華祭の概要が見えてきて、結衣を守る為に動かざるを得ず、なかなか二人の時間が取れずに歯痒かったが結衣は特段気にした風はなく、毎日茶室に入る。
祭りは夜から始まる。
祭当日の今日すら朝から茶室に籠り、俺達を寄せ付けない。
「結衣、時間だ、出るぞ」
「あ!若!もう少しかかるんで先に行ってください!後から涼風に送ってもらいますから!」
中からレレの声がして、まだ支度に時間がかかるという。
不安で泣いてやしないかと、甘やかしてやりたいのに当の本人が出てこない。
「月宗様、共同開催者として妖狐との最終打ち合わせがあります。ここは先に出ましょう」
「ああ……」
「涼風が付いております。負けなどどうという事もございません。第一天衛の涼風がいれば怪我などあり得ません」
「……そうだな」
祭で花嫁が怪我をしたらたまらないと、天衛の共闘を天に掛け合った。
天衛の働きは花嫁の審査に影響しないという事で妖狐側からも天からも諾の返事を得ることができた。
涼風さえいれば何の問題もない。
怪我なく俺の元に帰ってくるならばそれだけで。
あとは俺が結果を出せばいい。
◇◆◇
神々が神域を用意し、何百という天衛が警護に立っている。上空に布天幕が張られた観客席があり、沢山の神々の気配が感じられる。
驚いたのは悠貴が貴賓席にいた事で、花嫁のために作らせた2つの神楽殿をにこにこと興味深そうに眺める姿がここから見える。
これも桜子が天に奏上したのだろう。
人間というのは臆面もなく神に頼み事をする唯一の種族だと思う。
俺達からすれば恐れ多いという些細なことまで神域に願いに来る。
頭が良くなりますように、学府に合格しますように、恋人ができますように。
神の魂を頂いて生を受けておきながら、小さな事で神を頼りにやって来る。
神も、俺たち眷属も結局は人間が可愛いのだ。
無垢な魂は悪にも善にもなる。
分け与えた魂を何輪廻も繰り返し繰り返して磨き上げていく。
ざわざわとした観客席の声が止み、神楽殿に巫女装束の桜子が上がったのがわかった。
放たれた 禍ツ魂を次々と祓っていく。
よほど自信があるのか、予定していた下級の 禍ツ魂ではなく中級を難なく祓い、八咫烏の剣士ですら数人がかりで祓う上級の 禍ツ魂をやや苦戦しながらも見事に祓った。
会場中が割れんばかりの歓声につつまれる。
本当に力のある花嫁だと思う。
今回は部外者になった狛犬の次期宗主も複雑な表情で見学している。
「姫様の神楽殿に用意された 禍ツ魂は予定通り下級の物でした。ご安心を。————しかし、姫様がまだ……」
「怖がった結衣が来れなくとも問題はない。不戦敗なら無駄に怖い思いをさせずに済む」
その時眷属神の観客席がザワザワとわき、本殿の外廊下を執事のじじいの先導で結衣が歩いてくるのが見えた。
並んだ全ての天衛が結衣の抱く涼風に頭を下げて行く。
レレが後ろに付き、結衣の長い袖とショールを持って歩く。
「——————っ………」
舞巫女の衣装を身にまとう結衣は神々しいほどで、静かに前を向く美しい顔から目が離せない。
神楽殿に繋がる太鼓橋前に慌てて移転し結衣の手を取るとふんわりと笑いかけてくる。
「月宗様、あのときの約束を、覚えてる?見ていてね」
「約束?結衣?」
それだけ言うと美しい俺の花嫁は帯から胡桃の紅を取り出した。
真剣な顔で紅を開け、華奢な小指で蕾のような唇に色をつける。
ガキの頃の、精一杯の花嫁へのプレゼント。
「っ……結衣」
ここ最近姿を見せなかった類が飛んできて結衣の前に人化して跪く。
「姫様。神楽の者ども、すでに揃っております」
「ありがとう類君、大変だったでしょう。楽師の方達にも、予行もなく本番で申し訳なく思いますと伝えてくれる?」
「承知」
深く頭を下げてから神楽殿のわきにかけて行く。
ひな壇として一段用意された場所に、見知った様な顔が並ぶ。
「八咫烏の……神事楽師…………?」
光久が呆気にとられた顔をして彼らを見る。
「母上の……専属だった者達だ。結衣、何を……」
「月宗さま、行ってくるね」
既に神楽殿の方をむいた結衣の覚悟を決めた顔に言葉が出ない。
謎の合図で獅子丸を呼んだ涼風が結衣の腕から離れその背に乗った。
「お嬢様、こちらを」
「ありがとう、じいや」
執事から母御の形見を受け取り歩き出す。
既に舞台から視線が戻らない結衣の背を見送る。
神楽殿の 禍ツ魂は合図と共に放たれる。
涼風がいればどうという事もないが、当の涼風は神事前のワクワク感を隠せていない。
闘いに行くというのに何の警戒もしていない涼風に不安がよぎるが、今の二人に声を掛けるのははばかられ、結局言葉を呑み込んだ。
「月宗様、観覧席へ。下がりましょう」
光久の言葉に我に帰り俺は静かに頷いた。
あなたにおすすめの小説
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
番は君なんだと言われ王宮で溺愛されています
ゆきりん
恋愛
私ミーシャ・ラクリマ男爵令嬢は、家の借金の為コッソリと王宮でメイドとして働いています。基本は王宮内のお掃除ですが、人手が必要な時には色々な所へ行きお手伝いします。そんな中私を番だと言う人が現れた。えっ、あなたって!?
貧乏令嬢が番と幸せになるまでのすれ違いを書いていきます。
愛の花第2弾です。前の話を読んでいなくても、単体のお話として読んで頂けます。
護衛対象が番だったのですが? 〜お茶とおにぎりで外堀を埋められています〜
tamameso
恋愛
筋骨隆々で顔まで良い第一王子ソウの護衛に就いたレン・ハクトウ。
けれど護衛対象は強すぎる上に距離感までおかしい。護衛から始まる、じれ甘ラブコメ。
これは、「暗殺対象が番だったのですが?」のユエン×ティオと同じ空の下の、いつかのお話。
悪役令嬢ですが、兄たちが過保護すぎて恋ができません
由香
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・セレフィーナに転生した私。
破滅回避のため、目立たず静かに生きる――はずだった。
しかし現実は、三人の兄による全力溺愛&完全監視生活。
外出には護衛、交友関係は管理制、笑顔すら規制対象!?
さらに兄の親友である最強騎士・カインが護衛として加わり、
静かで誠実な優しさに、次第に心が揺れていく。
「恋をすると破滅する」
そう信じて避けてきた想いの先で待っていたのは、
断罪も修羅場もない、安心で騒がしい未来だった――。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
おにぎりわいわいで士気を上げていたら、怖いナンバー2が私にだけ大型犬になりました
星乃和花
恋愛
幼馴染のベンチャー企業に、おにぎりを差し入れすることになった定食屋の娘・こはる。
“おにぎりわいわい”とは、もうひと頑張りしたい時にみんなでおにぎりを頬張って士気を高める、社内の謎文化。
最初はただの差し入れだったのに、怖い顔のナンバー2・神崎さんは、こはるのおにぎりを食べると眉間がやわらぎ、なぜか私にだけ大型犬みたいに甘くなっていって……?
スポコン風お仕事コメディの皮を被った、ほのぼの甘々社内ラブコメです。
◇日火金21:00更新ー本編12話+エピローグ+番外編◇
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)