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番外編 クルミ
過度な守りと本質
しおりを挟む「くるみ?今日鷹の王子様とお友達になったんでしょ?その割には元気無いね?」
ああ、母様にはそうやって伝わってるのか。
母様の私達への過保護は凄まじいものがある。
種族によっても違うけど、基本的に獣人は生まれたらほったらかしだ。命の危険以外は。それだって崖からわざと放り投げる種族もいるぐらいなのだ。生きる力を身につけさせるのが獣人にとっての愛情だから。
母様はずっと、本当にずっと私達を卵扱いする。呆れるくらい。
兄様達はそんな母様が好きで受け入れてる。
私も。けど最近は甘やかされてダメになってしまうのが怖い。
母様は出来ないことを絶対に叱らない。成績がどんなでも、外国語が身に付かなくても、魔力が低くても。そんな事全然気にして無いと言った方が正しい。
その代わり挨拶とか、思いやりとか、そういう事に厳しい。人間というのはみんなこうなんだろうか。
母様が私の母様じゃなかったら、出来の悪い私はとっくに潰れていたと思う。
「うん、いい人だったよ。遠い国の人だけど、言葉は同じだったから良かった」
「言葉は違ったって何とかなるんじゃない?テトなんて話せないけどなんでも分かるし」
そうだろうか。そんな事ないと思う。
国際パーティーで他言語の方に話しかけられても、何を言ってるのかさっぱりだもん。
「母様は、ダンスどうだった?父様、ビックリなさった?」
「サプライズは成功したんだけど、一曲終わった後どこかに消えたの!信じられない!!」
父様……ごめん……………………。
「ムカついたから、陛下と踊ってやった!」
父様…………ほんとにごめん…………。
◇◆◇
医務室までの廊下を秋と一緒に歩く。
あの後クロム兄様の全力の魔力を浴びて気を失った王子は昨日やっと目覚めたらしい。三日も気を失う程の魔力って凄い……
「いいにおい、母上のアップルパイ?」
「うん。お見舞い用に一緒に作ってもらったの。私が作ったのは不恰好だから後で秋にあげるね」
「ん、形はなんでもいい。けど、クルミが作ったやつ、後でクロム兄様にももってきな」
「私のじゃなくて、母様のにする」
「…………………………」
医務室のドアを軽くノックしてから、こちらから開けると、奥のベッドに上半身を起こした彼が見えた。
私と秋をみて立ちあがろうとするのを慌てて駆け寄り止める。
「姫、命を助けて頂き感謝申し上げる。このような無礼な姿で申し訳ない」
そう言ってベッドの上で頭を下げる。
「いぇ……私は何も……」
「クルミが助けなければ、羽をもいで国外追放か生涯強制労働かどっちかだった。感謝しろ」
秋の低い声。秋も、こんな声がでるんだ。
「はい、承知しております。助けて頂いた御恩、決して忘れません」
そんな事言って欲しい訳じゃないのに。
「秋、やめて。少しだけ2人にして」
「それは無理。僕が殺される」
「魔球壁を貼っていい。気配も伺ってていい。お願い」
「………………5分だけなら。あと兄上にはクルミの作ったやつをもってけ」
「ん、それでいい、ありがとう」
何故不恰好な方を持たせたがるのかよく分からないけど仕方ない。
ドアから出ていく秋の背中を見送って、パイの籠を渡す。
「凄く……いい匂いだな……」
秋がいなくなって口調が崩れた彼が笑う。
「母が料理上手なんです、兄上の魔力でライハルト王子は倒れたと聞きました…………お加減は……」
「ライでいい。王族ではあるけれど弱小国の、だ。姫の方がよっぽど地位が高い。それに俺は兄弟の中で一番魔力が低い、王太子の地位すら危うい」
あぁ、この人に感じていた気持ちの正体はこれか。彼は決して強い訳じゃない。それは私でも分かる。それでも格上の竜人国に忍び込んだ。国民の為に。私にはそんな事絶対できない。
「ライ……さまは、おいくつですか?」
「様も無くていいが……17だよ、立太子して2年」
3つ歳を重ねるだけで、私もこんな風に誰かの為に動けるようになるんだろうか。
「リハビリのために一月はここに留まると聞きました、お国は、大丈夫ですか?」
「あぁ…………弟達が頑張ってくれているからそのくらいは…………でも、なるべく早く帰れるようにする」
今回羽へのダメージが一番すごかったらしく、飛ぶのに支障があるそうだ。
医務官に詳細は話せないため、主治医が一月の入院とリハビリを決めてしまったらしい。
「また、会いに来ても?」
「はは、姫も物好きだな、リハビリも頑張れそうだ」
笑うと優しい顔になるんだな、とぼんやり思っていると、秋が入ってくる音がした。
私と同じ悩みを持つ人。それなのに強く、折れない。どうしたら、こんな風になれる?
答えが出ないまま、医務室を後にした。
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▶︎▶︎【あとがき】
フォルド『紬ちゃ~~ん!!踊れる様になったの!?凄く可愛い~~~!僕とも踊ろう!!』
紬『いいですよ!さ、いきましょ!』
フォルド『ふぁ!!???!?』
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