【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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番外編 クルミ

コーネル国

 初めに気がついたのは気温だった。
急にヒヤリとした空気に変わり、吐く息の白さに驚く。

 エルダゾルクは一年中過ごしやすい気候だ。
寒期はない。なのに。

 慌てて上空に飛び、エルダゾルクをのぞいたけれど、華やかな都は姿かたちもなく、代わりに背の高い針葉樹が鬱蒼としげる山が見える。
チラチラと雪も降っている。

「雪…………初めて見た……綺麗」

 レンガのお家の母様のクローゼットから打掛を失敬して、やっと寒さはなんとかなった。
母様だったら凍えてたと思う。

「ここ、どこだろう」

 ゆっくりだけれど動いている。天空領がまだどこかへ進んでいるというのがわかる。

「テト、ここどこ?」
天空領が移転装置になってるなんて誰も知らなかった。父様や伯父様だって知らないと思う。

「コーネルでございます」

 バサリと羽ばたきが聞こえてカカラがそばに来ていることに気がついた。

 天空領にいたから、一緒に移転してしまったんだ。

わたくしの故郷でございますわ。ここからは、わたくしがご案内致しましょう」

「あ…………え……?」

「ライハルト王太子殿下が忍び込んだ件、元コーネルの民としてわたくしからも謝罪を」

「違うの、そうじゃなくて……」

「ええ、ライハルト殿下がお帰りになる折、もったいなくもお目通りがありました。迷惑をかけて申し訳ないと謝罪まで……」

「あ、私は……」

「お姫様ひいさまは、思う通りになさいませ。ちょうど軍部の者も会議に都へ戻っておりました故、ここには私どもしかございません」

 マルケスおじさんが見当たらない。いつも奥さんにべったりな人なのに。

「わ、わたしは、コーネルに、ライに会いに行きたいの」

「御意に」


◇◆◇



 天空領がゆったりととまったすぐ先に、灰色の砦のような形をした城があり、コーネル王城だとカカラがいう。

 その屋上から、1人、また1人と羽だけ外に出され縄でぐるぐる巻きにされた王族達が逆さに吊り下げられていく。

 地面に落ちるわけでは無いのに、1人落とされるごとにドスンといやな音が響く。壁にあたり、縄に釣られた音だとわかる。

「何という事を…………」

 砦の城の高い城壁から逆さに吊るされていく王族達。
最後の1人が降ろされて、下から火矢を構えた弓兵が合図を待っている。

 テトが乗れと合図する。
テトにまたがり下を目指すと、集まった天馬達が背後に続いてくるのが分かった。
驚いたけれど、緊張と恐怖でそれどころでは無い。テトの体温と離れの天馬達の存在が私を奮い立たせてくれている。

————「こうべを垂れなさい。此方はエルダゾルク王国の姫君、クルミ殿下であらせられる。コーネルの民として、忠誠と節義を示しなさい」

 カカラがよく通る声で上空から言う。
皆唖然とこちらを見ている。

「な、何故なにゆえエルダゾルク王族が我が国に!」

 大鷲族の長なのか、口髭を生やしたガタイのいい男が叫ぶ。

「口をきくことは許していません」
声が震える。けれど凛として、強く見せなければならない。

 大鷲族の兵士達がザッと跪き頭を垂れる。

「カカラ、天馬と共に吊るされた人を」

「御意に」

 テトが短くブルンと鳴き、数頭の天馬がカカラに続く。
戦闘でなければ、天馬はちゃんと言うことを聞いてくれる。

 カカラがナイフで綱を切り、天馬の背に乗せていくのをぼんやり眺める。

 私はエルダゾルク神の御心に反することをしているだろうか。
軍部の者ではないし、国から依頼されたわけでもない。ライに会いにきた。それだけだ。
吊るされた人を全員助けたのはどれがライか分からないから。
けれど自信がない。私は兄様達の様にエルダゾルクの帝王学を学んでない。

 初めて何かを学びたいと、こんな時に思う。
私は物を知らなすぎる。
罰が下るのは、私だけならいいのに。

「五人全員、無事でございます。羽に油をかけられております故、天馬に騎乗したままこちらに来ることをお許し下さい」

「許す」
テトの上から短く答えて、砦の上に降り立つ。
私がテトからおりても、大鷲族の兵士達はずっと跪いたまま。
この人たちをこれからどうすればいいのだろう。父様や兄様達なら知っているのに。

————ちがう。

 自分がどうすべきなのかは自分で考えないといけない。

 大鷲族から少しはなされた場所に鷹族の王族達が降ろされ、同じ様に跪いていく。

「お久しぶりですね、ライ」

「はい、鷹族の危機を……救っていただいたこと、感謝申し上げます」

「鷹族にのみ、拝顔の栄を与える」

 ライ以外の王族がガバッと顔を上げ、ライは逆により深く深く頭を下げていく。私が神のご意志に背いてまでここに来たと、思っているから。

「私は、届け物にきたのです」

わたくしに、でしょうか」
地面に付く勢いで頭を下げるライが言う。

「テト、あの子を」

 テトがまた低く鳴くと、上空の天馬の軍勢の中から小さな藍色の仔馬が降りてくる。

「この子は鷹族の王太子を主人と認めている」

 ガバッと弾ける様に顔を上げたライがこぼれ落ちそうに見開かれた目で私と仔馬を見る。

————ずっと考えていたこと。魔力の高い子達ばかりの天空領の天馬が、簡単に他人を側に寄せ付けるはずはない。
この子しか近寄れなかったとライは言っていた。

「名前を」

「っ————ノーチェ、と」

 間髪入れずに返った答えに、仔馬がライのそばまで歩き頬擦りで返す。
この子はずっとライに甘えたかったんだ。
だからあの時近づいた。

「ライハルト王太子、私個人が貴方と友好を結ぶ。友好の証として、ノーチェを大切にすると誓え」

 天馬のためと、強調する。鷹族のためとは言ってはならない。

「ここにいる天馬全てがこの子の家族。ノーチェに危害が及べばここにいる全ての天馬を敵に回す。天馬の怒りを鎮めるためにも私が貴方個人と友好を結ぶ」

 ちょ、ちょっと盛ったけどセーフだよね。
国の事は関係ない。
私は天馬を届けに来て、大切にしてもらうために友好を結ぶ。私は軍部の者ではないし、魔力も低い。きっと、大丈夫。

「その様なことにはならないと誓いましょう。我が身の全てをかけてノーチェを大切にすると誓約申し上げる」

 ライの言葉に頷いてみせ、神界から誓約書類を出す。こんな事初めてした。できた自分にビックリする。

 私個人の願いとして、天馬を大切にして欲しいという事。
それを見張るために私個人と友好を結ぶ旨を綴る。

 手をかざして署名をするとカカラが横から受け取りライの元にいく。

 ライは跪いたままの姿勢で手をかざす。
小さな天馬が興味深そうに覗き込んでいるのが可愛い。

 もう一度カカラが私の元に書類を戻したのでうまくいく様に祈りながら天に奏上すると、キラキラと下から淡い金色のひかりとなって消えて行った。

 で、できたーー!よかった、やり方なんてしらなかったけど、なんとかなった…………

 あ、あとは何を言えばいい?みんな跪いたままだし、私は名目上天馬お届けの配達人なだけだし、この国は戦乱の真っ只中、というか、決着つくとこだったし!!

 えっと、えっと、このあとはどうすれば!?

「あの………………『頑張った。もう何も言うな、ボロが出るぞ』」
うしろから私の口に手があてられ、だきこまれた。

!!!!!?!!????
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