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家族編
ルル
しおりを挟む王家のお墓があるという山の神殿で成婚の報告をした帰りに、なだらかな場所でお昼を食べる事になった。
婚儀の翌日に必ずこの神殿に祈りに来るのが習わしだとか聞いたけれど、その実あっさりと終わってしまい既にピクニック気分だ。
今日はリツさんが色々とランチを用意してくれてあった。絶対お腹を空かせるであろうクロム君の補食だけ持ってきたので、小さい子竜を膝に乗せておにぎりをあげていると、私のいる所から三十メートルほど先に野生の綺麗な馬が佇んでいる事に気がついた。
「クロム君、あそこ見て?とっても可愛い」
私の指差す方を向いて一瞬止まったクロム君は、おにぎりを咥えたままシュバっとリヒト様の肩に乗り耳打ちする。
「主、あれ」
「野生の天馬か!ちくしょう!!捕縛隊編成してくればよかった!!」
「捕縛隊?」
焦った様に向こうを凝視するリヒト様が、それでも私に説明してくれた。
「天馬は貴重な生き物だ。もう世界に百体もいない。普通目撃情報から何ヶ月も捕縛隊を率いて捕まえるんだ。頭もいいし、罠にもかからんから陽動して眠らせて捕まえる。睡眠薬すら効かないやつもいる。
テルガードも見つけてから眠らせるのに一週間かかった。
捕らえても主従契約が結べなきゃ逃げられる。一頭で国家予算並みの値段が付く馬だ」
「ふーん」
真っ白で、耳のところがフワフワしてて、まんまるの目が赤くて、テトよりちょっと小さいけど他の子よりは大きい。なんとなくメスっぽい感じがする。綺麗で、可愛い。
テトもじっとそっちをみている。
「ちょっと、お話してくるね」
「おい!野生の天馬は凶暴だぞ!近づくな!」
「ん~、大丈夫だよ。テトもいるし。いこ、テト」
「主、僕、つく。どうせ、逃げる。主、捕縛隊、準備」
「あ、ああ」
テトと一緒に白い天馬に近づいていく。
テトも白い子もお互いをじっと見てる。
みんなの視線が背後から刺さるのは気にしないでおこう。おしゃべりするだけだし。あわよくばなでなでさせてもらおう。
「こんにちは、私はつむぎ。こっちはテルガード。よろしくね?」
白い馬はブルンと一度なくと、テトの鼻先を嗅いでいる。テトもされるがままになっていて、ちょっと緊張してるみたいにみえて可愛い。タジタジしているときのリヒト様に似てる。
「ふふふ、テト、可愛い子だねぇ。お友達になれたらいいね。美男美女だね!」
私の言葉を聞いたテトが前に出て、白い馬にスリと頬を擦り付けた。
白い馬は一度目を見開いた後、自分からスリスリとテトに頭をつけてきたので、もしかしたらカップル成立なのかもしれない!
「テト、彼女ができてよかったねぇ。私も撫でてもいいか聞いてくれない?」
テトが何かする前に白い子から私にスリスリと近寄ってきてくれた。フワフワの耳が顔にあたってくすぐったい。
「ふぁあああ、可愛いぃぃい。いいこぉ……」
「クィーーーン」
テトがすごく嬉しそうに鳴くので笑ってしまう。
「あ、もしよかったらうちに遊びに来ない?りんごも沢山あるし、にんじんもあるよ!テトと少し遊んでくれたら嬉しい。お家に帰りたくなったら、ちゃんとここに帰してもらうよ!」
テトと白い馬が器用に頭をスリスリお互い擦り付けて、何か意思疎通しているように見える。 テトが踵を返して歩き始めると白い馬もテトに寄り添って歩き始めた。
行くんでしょ?とでも言う様にテトが私を振り返るので慌てて後を追う。
「リヒトさま!このこ、うちに遊びにくるって!」
「は?」
「テトの彼女!」
「はぁっ!?!?」
「だからテトの彼女」
「………………………………」
リヒト様もみんなも目を見開いたまま何にも言わない。
「あの、勝手に招いちゃだめだった?りんご、あげたくて」
「信じらんねぇ」
「ありえません。なかった事にしましょう。紬嬢が別の意味で狙われます」
ユアンさんが眉を顰めて言う。私がそう頼んだので彼だけは私の事をまだつむぎ嬢と呼ぶ。彼が妃殿下って呼ぶと美しい見た目のせいでくすぐったいからね!
「ギャハハハハハ!!つむつむすっげぇ!!」
「お、俺なんてアルトバイスを見つけるのに十年かかって……捕えるのだって、半年もかかって……睡眠薬の吸いすぎで瀕死にしちまって……」クロードさんが半泣きで言う。
「ははうえ、しごい」
「遊びにくるだけだよ?捕まえてない。あ、でも名前は考えたいな~ルルはどう?可愛い子には可愛い名前がいいよねぇ」
「クルルルルー」
ルルが嬉しそうに高く鳴いたので気に入ってくれたみたいだ。私もすごく嬉しい。
「……………………契約しましたねぇ」
ユアンさんが言って、またみんなが驚愕の眼差しで私を見る。
「な、何?」
場の空気がなんだか変な感じだ。
「つむぎ、ルルはお前の馬になったぞ。神位の高い高等な生物に名前をつけるってのはそういう事だ。普通は薬漬けにして、弱らせた後何度も名前を呼んで、答えたら餌をやるのを繰り返すんだ。何度もやると、心から承諾する声を出す」
「俺はヴァルファデ相手に承諾させるのに三週間かかったよ~」ルース君が手を頭の後ろで組みながら言う。
「ええ……?でも、わたし一人じゃ乗馬できないし……」
「お前が命じれば俺も乗せてくれるかもしれん。とにかくお前の命に従うようになったという事だ。お前が名付けて、ルルが承諾した」
「えぇ……?」
「いらなければ、別のやつにお前の命令として契約譲渡もできる。まぁルルが気に入ればだが…………テルガードの相手になる様な馬だ。すごい金額が付く」
「テトの彼女だから、お家に連れて行っていい?りんごあげたい」
ルルがまたスリスリと私に頭をつける。
テトは優しい瞳で私とルルを見てる。
「軍馬にしないのか?こんないい馬」
「しないよ?テトの彼女で私のお友達なんでしょう?テトも彼女が危ない思いするの、嫌だと思う」
今度はテトが私にスリスリとしてくる。いつもより力が強くて、リヒト様が後ろによろけた私を支えてくれた。
「うちの嫁の規格外もここまでくるとすげぇな。天馬をペットにしやがった」
「捕縛隊をダミーで動かします。私が出て運良く捕まえた体を取りますので、一週間程離れに連れ帰るのはお待ちください。テルガードの馬鎧を付けてなるべく姿も隠しておいてください」
「一週間で捕まえるなんてありえなくな~い?」
「二週間がバレないギリギリでしょうか……」
「えぇ……?そんなに?ルル、すぐは行けないんだって、ごめんね」
ルルはテトとなにやらフンフン楽しそうにお話ししていて全然気にして無さそうだ。
「んじゃ、その間旅行でもすっか。約束してた褒賞の休みをここでもぎとって温泉いこうぜ」
「~~~~!温泉っ!!!あるの!?嬉しい!!」
「貸し切るぞ。紬と一緒に入る」
「え?やだよ?」
「ギャハハハハハハハ!!!」
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