【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香

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第2章

第三の御子1

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一人だけ帰されてしまうのを嫌がる私を、もう少し一緒にいて宥めようとして下さったのか、シェイド様は私を抱いたまま騎士達が集まっている輪に合流して指示を飛ばしている。

泣き顔が治るまで首筋にグリグリ額を押し付けて、腕の中に閉じ込めていてもらう。

シェイド様の体温で安心して、やっと涙がとまって、周りを見る余裕が出てきた頃にはもう日を跨いでいたとおもう。

バタバタと何体も重なり合って倒れている魔獣がいる庭を見やると、ふとイレイの木に目が吸い寄せられた。

「シェイド様、あのイレイの花……何で?」

「どうした?何かあるか?」

シェイド様には見えてない?
イレイの花にぼんやりとしたオレンジの灯りが灯篭とうろうのようにともっている。
その木の根元に三体の人型の魔獣が気絶させられてぐったりとしている。

庭の他のイレイの花に変化は無く、その木の花だけがひかっているのを見て————

——なぜかストンと納得できた。私のやるべき事を。

「シェイドさま、上手くできるか分からないですけど、お願い、聞いてもらえますか?」

「何でも聞いてやるよ」

「イレイの花を、手折りたいの。沢山」

「アラン!ちょっとこい!」

シェイド様は訳も聞かずにアラン君を呼んでくれて、少しくすぐったい気分になる。

「姫様!ご無事ですか!?」

「アラン君、お庭からできるだけ沢山イレイの花を手折りたいの、手伝ってくれる?」

期間限定で部下ができていたアラン君が指示をしたのか大勢の騎士様がすぐに動いてくれてありがたい。

私も一緒に手折りに行こうと、シェイド様の腕から降りようとしたら逆に抱き込まれてしまい、ペチペチと胸を叩くけれどびくともしない。

「おまえはここにいろ」

絞り出す様な声で言うので、諦めて首にもう一度両手を回す。
振袖の袂で顔が隠れるのをいいことに、首筋にキスを贈る。
シェイド様は一度ビクッとしたけれど、私の好きにさせてくれたので何度も何度も繰り返す。

アラン君がこちらに駆け寄ってくるのをみとめて、シェイド様が口を開く。

「リリ、次の願いは何だ?」

「あ、うん、魔獣の胸に一枝づつ置きたいの」

折り重なる様にして気絶しているから、一体一体仰向けにするのは大変かもしれない。

「分かった。おまえはまだここにいろ」

「ん……」

シェイド様はまた理由を聞かずに指示を出してくれた。
聞かれても上手く説明できないから、ありがたくて、やっぱりちょっとくすぐったい。

向こうの方で、アレックスさんとクリストフさんが魔獣に色々な魔法をかけてるのが見える。魔獣にされた人達を助けるためにみんな必死に動いてる。

指示の声やガヤガヤとした掛け声が聞こえなくなってきた気がして周りを見ると、庭に魔獣が綺麗に整列して寝かされていて、胸の上のイレイの花がぼんやりとオレンジ色に光っている。 
三百体以上あるのでお庭が明るく見えるほどで、蛍の庭のようで美しくすらある。

「シェイドさま?」

腕から降りようとする仕草を見せると、またぎゅうと抱きしめられたので困惑する。
足の怪我を気にしているんだと気がついて、そっと耳元でつぶやく。

「シェイドさま? 私、全然痛く無いですよ?」

やっぱり抱き込まれてしまったので、クスクスと笑ってしまう。

「シェイドさま、お願い」

「グッ…………………………………………はぁ、分かったよ」

ふんわり下に下ろされたので、アラン君の元へ足を向ける。
直ぐに気がついてくれて、アラン君の方から駆け寄ってきてくれた。

「姫様!あらかた終わりました。タチバナ臣の身体は中央にありますので、一応ご注意を。魔族の死亡判定が人と同じかどうか……何が起こるか分かりませんので」

「うん、ありがとう」

どうしたらいいか、何故か分かる。

一枝一枝を丁寧に残りの人型魔獣の胸に置いていく。私が近づくと苦しそうにうめく。
ごめんね、すぐに楽にするからね。

シェイド様は何も言わずにすぐ後ろで見守ってくれている。

ひときわ沢山の花がついた枝を選んで花束をニつ作り、帯の飾り紐をとって束ねた。
臣君の身体は嘘みたいに綺麗で、まるでお人形が寝ているみたいだった。
臣君に花束を一つ抱かせて、もう一つは私が胸に抱く。
臣くんの前でひざまずく。

祝詞のりとなんてわからないから、丁寧に、天に通じる様に祈る。

————魔の生きた証に、感謝を。

イレイの花は慰霊いれいの花だ。
きっと魔の魂そのものを癒してくれる。

第三の御子の能力は、魔を退ける事じゃない、魔の魂を慰める力。
慰霊の力。

イレイの花の光が黒いモヤをまとい、キラキラした黒いカケラになって空間に消えていく。

どっと、周りの騎士達が騒いだので、この黒い光はみんなにも見えているようだ。

キラキラと黒い光が天に上がって、潮が引く様に私の髪が銀色に戻っていく。
魔獣にされた人達が元の姿を取り戻していくのが分かる。

最後の黒いモヤが臣君の身体に入ろうとしてイレイの花の灯りに阻まれる。できた光が私の周りに瞬いて渦をつくっていく。
様々な感情が流れ込んできて私の身体を取り囲む。

————無念
————執着 
そして

————愛情————

「臣くんごめんね。あなたとは、行けない」

渦は離れがたそうに私の周りを巡ったあと、その場で静かに消えて行った。

「あ…………れ?」

凄まじい疲労感がおそい、ふらついた私を大きな手が支えてくれた。
そのまま抱き上げられて安心に包まれる。

「よくやったな」

シェイド様の腕の中はじんわりあったかくて、また少しだけ泣いた。




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