74 / 97
第2章
第三の御子1
しおりを挟む一人だけ帰されてしまうのを嫌がる私を、もう少し一緒にいて宥めようとして下さったのか、シェイド様は私を抱いたまま騎士達が集まっている輪に合流して指示を飛ばしている。
泣き顔が治るまで首筋にグリグリ額を押し付けて、腕の中に閉じ込めていてもらう。
シェイド様の体温で安心して、やっと涙がとまって、周りを見る余裕が出てきた頃にはもう日を跨いでいたとおもう。
バタバタと何体も重なり合って倒れている魔獣がいる庭を見やると、ふとイレイの木に目が吸い寄せられた。
「シェイド様、あのイレイの花……何で?」
「どうした?何かあるか?」
シェイド様には見えてない?
イレイの花にぼんやりとしたオレンジの灯りが灯篭のようにともっている。
その木の根元に三体の人型の魔獣が気絶させられてぐったりとしている。
庭の他のイレイの花に変化は無く、その木の花だけがひかっているのを見て————
——なぜかストンと納得できた。私のやるべき事を。
「シェイドさま、上手くできるか分からないですけど、お願い、聞いてもらえますか?」
「何でも聞いてやるよ」
「イレイの花を、手折りたいの。沢山」
「アラン!ちょっとこい!」
シェイド様は訳も聞かずにアラン君を呼んでくれて、少しくすぐったい気分になる。
「姫様!ご無事ですか!?」
「アラン君、お庭からできるだけ沢山イレイの花を手折りたいの、手伝ってくれる?」
期間限定で部下ができていたアラン君が指示をしたのか大勢の騎士様がすぐに動いてくれてありがたい。
私も一緒に手折りに行こうと、シェイド様の腕から降りようとしたら逆に抱き込まれてしまい、ペチペチと胸を叩くけれどびくともしない。
「おまえはここにいろ」
絞り出す様な声で言うので、諦めて首にもう一度両手を回す。
振袖の袂で顔が隠れるのをいいことに、首筋にキスを贈る。
シェイド様は一度ビクッとしたけれど、私の好きにさせてくれたので何度も何度も繰り返す。
アラン君がこちらに駆け寄ってくるのをみとめて、シェイド様が口を開く。
「リリ、次の願いは何だ?」
「あ、うん、魔獣の胸に一枝づつ置きたいの」
折り重なる様にして気絶しているから、一体一体仰向けにするのは大変かもしれない。
「分かった。おまえはまだここにいろ」
「ん……」
シェイド様はまた理由を聞かずに指示を出してくれた。
聞かれても上手く説明できないから、ありがたくて、やっぱりちょっとくすぐったい。
向こうの方で、アレックスさんとクリストフさんが魔獣に色々な魔法をかけてるのが見える。魔獣にされた人達を助けるためにみんな必死に動いてる。
指示の声やガヤガヤとした掛け声が聞こえなくなってきた気がして周りを見ると、庭に魔獣が綺麗に整列して寝かされていて、胸の上のイレイの花がぼんやりとオレンジ色に光っている。
三百体以上あるのでお庭が明るく見えるほどで、蛍の庭のようで美しくすらある。
「シェイドさま?」
腕から降りようとする仕草を見せると、またぎゅうと抱きしめられたので困惑する。
足の怪我を気にしているんだと気がついて、そっと耳元でつぶやく。
「シェイドさま? 私、全然痛く無いですよ?」
やっぱり抱き込まれてしまったので、クスクスと笑ってしまう。
「シェイドさま、お願い」
「グッ…………………………………………はぁ、分かったよ」
ふんわり下に下ろされたので、アラン君の元へ足を向ける。
直ぐに気がついてくれて、アラン君の方から駆け寄ってきてくれた。
「姫様!あらかた終わりました。橘臣の身体は中央にありますので、一応ご注意を。魔族の死亡判定が人と同じかどうか……何が起こるか分かりませんので」
「うん、ありがとう」
どうしたらいいか、何故か分かる。
一枝一枝を丁寧に残りの人型魔獣の胸に置いていく。私が近づくと苦しそうにうめく。
ごめんね、すぐに楽にするからね。
シェイド様は何も言わずにすぐ後ろで見守ってくれている。
ひときわ沢山の花がついた枝を選んで花束をニつ作り、帯の飾り紐をとって束ねた。
臣君の身体は嘘みたいに綺麗で、まるでお人形が寝ているみたいだった。
臣君に花束を一つ抱かせて、もう一つは私が胸に抱く。
臣くんの前で跪く。
祝詞なんてわからないから、丁寧に、天に通じる様に祈る。
————魔の生きた証に、感謝を。
イレイの花は慰霊の花だ。
きっと魔の魂そのものを癒してくれる。
第三の御子の能力は、魔を退ける事じゃない、魔の魂を慰める力。
慰霊の力。
イレイの花の光が黒いモヤをまとい、キラキラした黒いカケラになって空間に消えていく。
どっと、周りの騎士達が騒いだので、この黒い光はみんなにも見えているようだ。
キラキラと黒い光が天に上がって、潮が引く様に私の髪が銀色に戻っていく。
魔獣にされた人達が元の姿を取り戻していくのが分かる。
最後の黒いモヤが臣君の身体に入ろうとしてイレイの花の灯りに阻まれる。できた光が私の周りに瞬いて渦をつくっていく。
様々な感情が流れ込んできて私の身体を取り囲む。
————無念
————執着
そして
————愛情————
「臣くんごめんね。あなたとは、行けない」
渦は離れがたそうに私の周りを巡ったあと、その場で静かに消えて行った。
「あ…………れ?」
凄まじい疲労感がおそい、ふらついた私を大きな手が支えてくれた。
そのまま抱き上げられて安心に包まれる。
「よくやったな」
シェイド様の腕の中はじんわりあったかくて、また少しだけ泣いた。
539
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
異世界から来た華と守護する者
桜
恋愛
空襲から逃げ惑い、気がつくと屍の山がみえる荒れた荒野だった。
魔力の暴走を利用して戦地にいた美丈夫との出会いで人生変わりました。
ps:異世界の穴シリーズです。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…
宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。
いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。
しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。
だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。
不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。
差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、
彼女は“自分のための人生”を選び初める。
これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。
治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる