妹が作れないならお兄ちゃんを妹にしちゃえばいいじゃない!

アルキオネ

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見習いサタンさんのプレゼント

「サタンさんへ」

こんな的外れなお願いが、本当に存在するとは思っていなかった。
先輩悪魔から「この時期になると……」と聞かされた時は「また冗談言って~」と馬鹿にしたのだけど、
本物を見せられてしまっては何も言えない。
罰ゲームは、続けて書かれた『お願い』を叶えること。
この子どもにとっての幸いは、「サンタさん」に頼んでいたらすぐ叶うものでは無かったことだろう。

「かわいいいもうとがほしいです」
これが俺に与えられた依頼であり、「サタンさん」でしか叶えられないであろうプレゼントの内容である。



ターゲットは、鈴木千春、20歳。冬花とは異父の兄妹にあたる。
大学近くのアパートから実家に帰省して疲れているところ悪いが、恨むなら「サタンさん」に手紙を送った妹を恨んでくれよな。
調査によるとこの男、極度の人見知りらしく、大学では友達に恵まれず、バイト先では月一~二でコミュニケーションエラーを起こす、若干の問題児だという。
大学でも協力することや議論することがあるだろうから対人関係は大事だろうし、バイト先でコミュニケーションエラーが頻発するのは下手すると売上に繋がりかねないから大変である。
それを踏まえ、俺は千春にファーストステップを施した。

程なくして、家に変化が起きた。
とはいえ、外観が変わったわけではない。部屋の大きさと間取りが若干変わっただけだ。
千春が今寝ている部屋を、同父兄妹の妹、彩夏の部屋と合体させ、2人部屋としたのが唯一の変化である。
机とベッドは増えたが、その分クローゼットが共有となって2部屋分よりは小さくなったため、広さとしては変わらないだろう。

当の千春には、目に見えて大きな変化は起きていない。
それもそのはずで、俺が今回変えたのは、千春を取り巻く環境だけ。
まず、「いもうとがほしい」という依頼人、冬花の願いを叶える前段階として、千春の戸籍を女に変え、「コミュニケーション能力が足りないから」という理由で、先ほど同室にした彩夏の"妹"兼"後輩"として、同じ高校で同じバレーボール部に所属する1年生ということにした。
これで、千春は明日、強豪でエースを任される彩夏に連れられ、冬休みの高校へと足を運ぶ羽目となるだろう。



25日、午前7時。まだ暗い中、自転車を走らせる2つの影があった。
言わずもがな、鈴木彩夏、千春"姉妹"である。
遡ること1時間前、彩夏に起こされた千春はかなり困惑していたが、"姉"の彩夏に気圧される形でほぼ抗議できず、朝食を済ませると顔を赤らめながらバレー部のユニフォームに着替え、(もちろんしっかり防寒して)姉妹揃って冬休み中の高校へと向かっていった。

運動も得意ではない千春だったが、そこは2年生エースの彩夏と同じ遺伝子を継ぐものである。
最初は強豪の空気に戦々恐々としていた千春だったが、十分に才能はあるようで、"同級生"となる1年生の間での実力は1,2を争うほどであった。
特に"実姉"、彩夏とのコンビネーションは完璧の一言で、紅白戦では相手を翻弄するプレーまで見られた。

そこからの冬休みは、今までの20年がまるで嘘だったかのように人が変わり、"姉"の彩夏に似た明るい性格と圧倒的な実力で、部内では話題の中心人物となっていた。

これにより、千春の問題児っぷりは治ったかに思えた。
しかし、問題というのは1つ解決すると別に見えてくるのが難しいところである。
それが判明したのは、年も冬休みも明け、千春が人生初めてのセーラー服に慣れ始めた頃のことだった。
国公立大学に進学するほどには「勉強ができる」生徒だった千春にとって、高1の授業というのは退屈だったようで、今度は授業に集中できずに注意されることが増えてきたのだ。
薄々気にしてはいたが、俺は対策をできずにいた。
というのも、まだ"見習い"の悪魔である俺には、できないことがいくつかあり、その1つが「知能低下」だったのだ。
体の外見を変化させることはわずかながら出来るようになったのだが、脳のつくりを変化させる技術はまだなく、対応を後回しにせざるを得なかったのが実情だ。

とはいえ、問題が顕在化したら対応しないわけにはいかない。
俺はセカンドステップに移行した。

また鈴木家が変化する。もちろん外見ではなく、内装の変化ではあるが。
彩夏と千春の二人部屋は彩夏の一人部屋となり、元の大きさに。
その代わり大きくなったのが、もう一つの子供部屋だ。
ここには、依頼人である冬花と、同父姉妹の秋穂が生活している。
そこに、千春を加えて三人部屋。その分広くしたとは言え、年頃の女子3人では少し狭いかもしれない。
まあ、そこは我慢してもらおう。

またもや勝手に移動させられたベッドの上で、今度は千春の変化が始まる。成長期を逆行していくことで、20cmほどの背丈を失い、父親も変えたからか端正な顔立ちの彩夏とは異なり、童顔になってしまった。
今度の千春の学年は小学校の5年。秋穂が2年のため"同父姉妹"の中では長女となるが、"異父姉"の彩夏とは6学年も離れることとなった。

そして迎えた朝。前回よりも千春の混乱は大きいものであったが、母親と彩夏に諭され、渋々小学校に行くための支度を始めた。
しかし、制服を着ていれば良かった高校と違い、私服登校の小学校というのは、元男子大学生だった千春にとって大きな障壁となったようだった。高校生時代の倍の時間を掛けて着替えを終えた格好は、奇しくも"異母姉"となった彩夏のお下がりであり、童顔となった小春が着るとどう見ても「お姉ちゃんの服を着て背伸びしている妹」にしか見えないものであった。

その日は困惑しながら小学校に向かった千春であったが、俺が未熟なばかりに知能低下の措置をとることができず、男子大学生の頭脳で授業は大変退屈な時間だったようだった。

午後、俺は帰宅途中の千春に接触した。名前と所属を騙って「調査」だと言い張り、何とか椅子に座らせたのが接触から10分以上経過したところ。そこからは簡単で、俺は千春に「頭を撫でられると知能に制限が掛かる」催眠術を施した。一応、頭脳だけでも元に戻すことを考慮し、反時計回りだと1年分の知能制限、時計回りだと制限解除という風に決め、反時計回りに9週の処置を行い、見事千春が方程式を解けなくなったのを確認した。

その日からというもの、千春は「出来ない子」になってしまっていた。
それもそのはずで、現在は2月の初頭。もう学年が終わろうかというところに差し掛かっているのに、千春には学年開始時の能力しか無かったのだから。

最も影響が大きかったのが宿題で、忙しそうにしている彩夏には"異父姉妹"ということもあり助けを求められず、両親には内緒、妹たちは頼れる訳もなく、間違いどころかほぼ空欄で提出することもあった。
俺が招いたこととはいえ、この状況をこのまま続けるわけにはいかない。
丁度いいきっかけだと思い、俺はそのままサードステップへと移行することにした。



今回は家の間取りに変化は無かった。しかし、千春自体には大きな変化が訪れた。
身長は前回よりも幅の大きい30cm減。元々の童顔も相まって「少女」から「幼女」という言葉がぴったりの丸顔となり、「少女」と言える秋穂より幼く、冬花とは双子に思われてもおかしくないあどけなさを纏うようになった。
他には、タンスの中身が大きく変わった。
小学校高学年らしい落ち着いた雰囲気で「オシャレ」な服から、
キャラものやパステルカラーの多い「カワイイ」服へ、
そして、「5年生だから」と着けていたブラジャーは消え、代わりにキャミソールが入るように。
当然、起きた際には癇癪を起こすのだが、母親と"姉2人"に宥められていた。

学年としては"最低学年"の小学校1年生。年度としては残り1ヵ月を切ったが、冬花の妹にするのが最終目標であるため、進級させる気は無い。
今回は1つ上の秋穂に手を引かれ登校しているところを数秒引き留め、反時計回りに4回頭を撫でることに成功した。
これにより、千春はひらがなすらまともに書けない未就学児同然の知能となったわけで、「こくご」「さんすう」ではクラスメイトにからかわれ、半泣きになる姿が散見された。

しかし、千春にとって大きかったのは"姉"となった秋穂の存在である。
秋穂もあと数日とはいえ未だ小学校低学年。宿題の量は少なく、千春の宿題の面倒を見る暇があるのが幸いだった。

そんな秋穂の協力もあり、千春は無事小学校1年生を修了できたのだが、「冬花の妹にする」ためにはそれでは困るのだ。
「どう理由を付けてこれ以上落とそうか」
そう考えていた矢先、事件は起こった。

時は4月4日、千春、21回目の誕生日である。本来であれば何の変哲もない誕生日なのだが、今の千春が迎えた歳は8歳。1歳1歳が重要なこの年齢、8歳になる千春にとっては皆からちやほやされる「特別な日」であったのだ。
それで浮かれていたのかもしれない。
好きなものを好きなだけ食べ、好きなだけ飲んだ千春は、誕生日プレゼントに貰ったおもちゃで真剣に遊んでおり、"アレ"に気づくのが遅れてしまったのだ。

いつもより水量が多くなっては、制御することは難しい。
千春のダムは、緊急放流を始めてしまった。
子供部屋に広がるアンモニア臭、生暖かい感触に触れ続いて決壊した涙腺。
一年で最高の日が、一瞬で最悪の日に転落した。

このチャンスを逃すわけにはいかない。俺は最後のステップを踏んだ。



風呂場で彩夏に体を洗われている千春に変化が起きる。
身長はわずかに100cmを割り、「幼女」となっていた顔は更に赤く膨れ、「乳児」に近いものへ。
体にも脂肪がつき、全体的に丸みを帯びた典型的な幼児体型に。
風呂場の外に用意された幼児用のパジャマは冬花のお下がりで、下着は秋穂、冬花と使ってきた布おむつ。
部屋のタンスの中身もほとんどが冬花のお下がりに。
8歳の誕生日は半分の、4歳の誕生日となったのだった。
冬花とは3歳、秋穂とは5歳、異父姉の彩夏とは一回りを超えて14歳差。
誰から見ても、「かわいいいもうと」の誕生である。
変わり果てた姿に千春は号泣するが、3人の姉にとってはその姿すら可愛いもので、彩夏に抱かれて頭を反時計回りに4回撫でられ、そのまま眠りに落ちていった。



数日後、千春の姿は数日前に冬花が卒園したばかりの幼稚園にあった。
いつもより少し早く起こされた千春は、起きてすぐ彩夏を見送り、朝食を食べ、秋穂を見送り、新品のランドセルを背負った冬花に手を引かれ、初めての登園をした。
両親から離されると、ひどく動揺した様子で号泣し、付き添いの年長児を困らせることとなった。

入園式終了後、もう"お友達"を作ってご満悦の千春だったが、両親と冬花には「ひらがなの読み方より先に学ばせなければいけないものがあるな」と思われたことを知らない。
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