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 それからほどなくして、ペルネ公から邸への招待状が届いた。

 手紙は大仰おおぎょうに桜の木の箱に入れられ、桜の木箱は目にも鮮やかな花束の中から出てきた。



「お父様からお聞き及びかとは存じますが、衷心より、エンツァーレ家一同、ベルタ様のお越しをお待ち申し上げます 親愛なるベルタ・コルテッド様へ  ペルネ・エンツァーレ・サーベンフェルツより」



 普段は召使いが持ってくる便りすべてに目を通す父親も、今回ばかりは中身も読まずにペルネ公からの招待状をベルタへ手渡した。

 ベルタは手紙を一読するや、父の方を鋭い目つきで一瞥いちべつし、泣いているような、笑っているような顔を一瞬見せた。

「この悪文は何?貴方はどこにいるの?お父様よりお聞き及び?父の代弁なくして愛も語れないわけ?エンツァーレ家一同?貴方はそのお歴々の群れの中のどこにいるの?見当たらない。私には見えない。なんにも見えない!」

「まあまあ、たかが手紙じゃないか」

 ベルタの父は、飲みかけたカップをテーブルに慌てて置き、傍らの召使いに花束を片付けるように目顔で命じながら手を振った。

「たかが手紙?愛を育むべき一通目の手紙よ。純粋に純潔に私が貴女に会いたいといえないわけ?なんで家族を挟むのよ。手紙でさえこの有様よ。間違って結婚でもしてごらんなさい。夫婦の間に何人が挟まってくるやら。これで分かったわ。決定的にこの結婚話は家族と家族の結婚ね」

「考えすぎさ。お前はきっと、縁談に対して前向きじゃないから、ペルネ公にそうして辛く当たるんだろうが、素直にご招待に呼ばれ、彼の良いところを見つけてきておくれ」

「お父様の心と、わが家の蔵はそれで満たされるでしょうね。だけど、私の心はすっからかん。その心の空洞には鼠が走り、蜘蛛の巣がいくつもの悲しい花火を上げるわ」



 それから数日して、ペルネ公との会食の日が訪れた。

 会食自体は億劫だったが、といって、ベルタの心は鬱屈してはいなかった。なにせ、粗相のないように緊張して、自分を飾り、相手を持ち上げ、後日に試験の合否を待ちわびるといったような会食ではない。破談してもいいのだ。むしろそう願いたい会食であった。

 会食はその日の夜からだったが、ベルタはいつもより早くに起きてしまった。昨夜は寝付けず、頭の中のいろんなシミュレーションが馬鹿らしくなった頃、ようやく寝入った。 

 どうこの会食を潰そうか。ベルタの頭の中はそればかりだった。とはいってもベルタは貴族だ。もとより女だった。

「お洒落はしなければ。こちらにも貴族としてのメンツがある。堂々と渡り合い、相手を凝視し、その非を、その至らなさを、フクロウのような目で見抜き、タカのような鉤爪かぎづめで押さえつけ、ワシのようなくちばしで食いちぎってやる」

 夜の会食に向け、ベルタはその日の朝から衣装ルームに入り浸った。

 
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