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#3 依織side

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番になっちゃった。

さらに言うなら、〝初めて〟も経験しちゃって。

〝初めて〟から〝番〟になるまでが、あまりにも一気に上り詰めた感じになって、終わった後、電池が切れたみたいに深く眠ってしまった。

だからかな。

あんなに僕を乱して、苦しめていたヒートが嘘みたいに収まって、息がちゃんと吸える。
体も変じゃない。

ヒートってこんな風になるんだ、って初めて知って、オメガがあんなに乱れると、アルファですらオメガを抱くことに逆らうことができないんだ、ってのも初めて分かった。

志弦で.....志弦がそばにいてくれて、本当によかった。

もし、あの時、志弦の誘いを断って寮に居続けていたらと思うと、ゾッとする。

多分、寮は僕のせいでパニックになっていたハズだ。

その志弦は今、僕の隣にいて、僕の肩に優しく手を回してぐっすり眠っている。
あまりにもぐっすり眠っているから、僕はそのキレイな赤い髪を指に絡ませた。

僕が染めた赤い髪、志弦に似合ってる。

カッコいいのに、外見とは裏腹すぎるくらい、優しくて、いい人で。

だから、僕を抱いてる間、志弦はずっと泣いてた。

優しいから、オメガの香りに当てられて理性を失ったことに、耐えられなかったのかもしれない。

そんなこと、気にしなくていいのに。

僕は志弦とできたことが、番になれたことが本当に嬉しかったんだから。

強いて言うなら。
あの時、「じゃあさ、俺と番にならない?」って言ってくれた志弦の一言。

睨んではいたけど、僕の本当を知って尚且つ、僕を守ってくれるようなことを言ってくれたから.......。
僕は泣きたくなるくらい嬉しかったんだ。

脅すことも、できたハズなのに。

にっこり笑って優しく言うから、その瞬間、僕は志弦を好きになってしまったんだ。

志弦の言うとおり、運命なのかもって。

その時から。
僕の初めても。
番になるのも。
全部志弦じゃなきゃ、イヤだったんだ。

その証拠に志弦が僕の中の奥深くまで満たしているのに、気持ち良さが優先して、志弦の動きに合わせて腰を揺らしてしまったし、うなじを噛まれたときもそう。

歯が深く皮膚に入り込んだから、ビックリして悲鳴をあげたけど、噛まれたところからあったかさがじんわり広がって........。
志弦のあったかさがそこから、僕の体の中に入ってきたような.......。
アルファとオメガが交わって一つになる感じがして。

これが番になるってことなんだ。
こんなに幸せなことなんだって思って。

こんなのきっと、アルファやベータは経験できないんだろうなって思うと、顔がほころんでしまったんだ。

僕は志弦の頰にそっと触れる。

柔らかい.......。
そして、少し、冷たい......。

涙のあとがその頰に残っていて、僕はそのあとがたまらなく愛おしく感じて、指でなぞった。

志弦が、ゆっくり、目をあける。

「あ、ごめん。起こしちゃった」
「.........依織、俺」

また......まただ。
また、志弦は泣きそうな顔をする。

だから、僕は志弦を抱きしめて言った。

「志弦、僕は今幸せなんだけど。志弦は違う?」
「でも、俺......依織にヒドイことした.....かも」
「ヒドイこと?」
「自分じゃないみたいな......依織が痛がってるのに無理にしちゃった気がする.......ごめん」

やっぱり。
やっぱり、僕のこと、気にしちゃってたんだ。

志弦はどこまで優しいんだろう。

「僕、痛そうな顔してた?」
「........前に見た、そういうヤツの女優さんみたいな顔はしてたかも」
「........志弦、あのね」
「だってさ......」

僕は志弦の頰を両手で覆って、僕から視線をそらせないようにした。

「恥ずかしいから、あんまり言葉にしたくないんだけど........めちゃめちゃ、よかった」
「.......え?」
「気持ちよかったの!!」
「.......依...織?」
「志弦のも!噛まれたのも!全部!!
こんなに気持ちよくていいのかな、って思うくらい気持ちよかったの!!」
「.......はい」
「だから!!......だから、泣かないでよ......」
「........依織」
「そんな顔しないで、志弦.......。
僕は志弦と番になれて嬉しいのに、志弦はツラそうな顔してて.......。
幸せなのって、僕だけなワケ?」

僕が〝志弦のエッチは最高だっ!〟っていうのをオブラートに包んで、包んで、包みまくって、必死に志弦に伝えた結果、志弦はようやく、いつものように優しく笑ってくれた。

そして、僕を抱きしめてくれたんだ。

........初めて、抱きしめてもらったかも。

ギュッと力強く、それでいて苦しくなくて、僕の体がすっぽり収まる広くてあったかい体が.......。

僕の内側も外側も、全部。

志弦に満たされて。

こんなに愛おしい存在ができたのは初めてで、ずっと志弦から離れたくないって感じたのも初めてで。

そして。

今日は、怒涛の初体験オンパレードだったんだな、って冷静に考えるとおかしくなっちゃってさ。

思わず笑っちゃったんだ。

「何?何、笑ってるの?依織」
「.......秘密」
「何?依織がオメガって言う秘密意外、まだ何か秘密があるの?」
「.......さて、どうでしょう」

ふと、志弦が斜め上を見上げて、考えながら言う。

「そういえばさ」
「何?」
「俺が依織の秘密を知ってしまったから、一緒に住むようになったワケだよね?」
「そうだね」
「秘密がきっかけで、番にまでなっちゃったワケだよね」
「そうだね」
「やっぱり、俺たちの間に秘密は作っちゃいけないと思うんだ」
「.......だから、何?」

志弦がにっこり笑って、笑ったと思った瞬間、僕の上に覆い被さってきた。

「秘密、言う気ない?」
「ない........!!....やっ....ちょっ、何す......あ」

志弦が僕の胸を舌で舐めて、指を僕の中に入れてきて.......優しく、それでいて、強くせめてくるからさ.......。

........ヤバい........また、濡れてきちゃう.......。

「言う気になった?秘密」
「.......言わなかったら.......どうなるの?僕」
「このまま言うまで、ヤッちゃおうかな?」

そう言うと思った。

だから僕は思いっきり笑顔で言ったんだ。

「じゃあ、言わない」
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