ドキッーー!

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ドキッーー! 一話完結

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「……樹」
「……」

兄が、出て行った。

俺の声に応えることなく、〝真純〟って、俺の名前を呼ぶこともなく。
高校の卒業式のこの日、樹の転がす小さなキャリーバックの音だけが俺の耳に残っていた。


こんな、寂しい別れ方ってあるだろうか?

こんな、胸が痛いのって……今まであっただろうか?


理由は明白だ。
俺が……俺が、告ったから……。


だって、どうしようもなかったんだよ。

ずっと、ずっと、好きだったんだから。




母さんに手を引かれて、立派なレストランに連れて行かれてさ。
そこにいたのは、人懐っこい笑顔の背の高いオジサンと。
オジサンによく似た、俺より少し背の高い男の子がいて。


ーードキッと、した。


そんな、男の子相手にドキッとなんて……俺、どうかしてるって。
だから、その時のドキッは、違うドキッだって思っていたんだ。
きっと、これから楽しいことがおこる、そんなドキッーー。

俺は八歳で、その子は……樹は十歳で。

俺と、樹は、すぐに……本当にすぐに仲良くなって、すぐに家族になって。
本当の兄弟みたいに、いつも一緒に過ごして。
一緒に野球をして、中学に入ったら樹の後を追うようにバレー部に入って。
頭のいい樹に置いてかれないように、勉強だって頑張ったのに……。

兄、だったのに……。

その〝兄〟という言葉が、重く俺にのしかかってきたのは……いつからだったのか。
高校に入って、一人先に大人になっていく樹に、俺はどんどん置いてかれるような感じがした。

溝が広がる……。

今は兄弟だけど、大人になったら? 結婚したら? 子どもが産まれたら?
俺たちは兄弟のまま、死ぬまでその関係をたもてるのだろうか? 

それとも……。

どうにもならない感情に身も心も苦しくて、哀しくて……。

その時、初めて樹に会った日のことを思い出した。


そうか、あのドキッはーー。


最初に感じた、〝好き〟って感情のドキッだったんだ。


毎夜、毎夜……声を押し殺して、頭では樹を想像して。
前を弄って、欲求と願望を解放する。
……そして、ドン底まで後悔して、涙が止まらなくなるんだ。

一度でいい、一度でいいから……樹と。

「……樹」
「なんだ、真純? 具合悪いのか?」

下着も脱ぎ捨て、手も足も汚した最悪の状態で、俺の部屋のドアが開いた。
布団なんて被る余裕もない。
泣きながら、ベッドに横たわる恥ずかしい格好の俺。
そんな俺に、樹は絶句してドアの前で立ち尽くす。


……もう、何も言い訳できないと思った。


「好き……なんだ。樹」
「……」
「一度でいい。好きにならなくていいから……」
「……」
「抱いて欲しい……樹」

きっと樹は、ドン引きして部屋を出て行くんだろうな、って思ってた。

兄弟には戻れない、というか。


八歳以前の、元の他人の関係に戻るだけなんだって思ってたんだ。


「……樹?」
「……真純!!」
「ッ?!」

ドアのところにいた樹が、俺に飛びかかるように覆い被さる。
あまりに突然のことに。
抵抗した俺の手首を押さえて、樹は貪るようにキスする。

「んッ……んぅ……」

樹の冷たい手や舌先が、俺の胸や足の間を弄る度に。
今までに感じたことのない熱量と、感覚が一気に俺を襲ってきて。

……息があがる、体が仰反る。

「っあぁ……はぁ……」
「……」

手や舌先とは裏腹の、熱いくらいになった樹のが俺の中に入ってきて。
その奥を激しく突いて、俺を侵略する。
俺は、願いが叶って幸せなはずだったんだ。


……でも、樹は一言も言葉を発しなくて。


「真純」って、名前すら呼んでくれない。


視線すら……合わない。


その時、俺は初めて気付いた。


俺は、樹とこうなりたかったんだけど。


樹の心までは、俺と寄り添うことは決してないんだって。


心を通わせなくても、肌を重ねることはできて。


……樹は、俺のせいで一生背負わなくてはならない、後悔を背負ってしまったんだということに。
俺は気付いたんだ。


それから、俺たちは〝兄弟〟として必要最低限のことしか絡まなくなって……。
樹は〝兄〟として、俺の前から消えた。





あれから、二年。
俺は卒業証書を手に、学校の門をくぐった。

さて……これから、どうしようかな?

兄とは別の大学に行く予定だし、一人暮らしをする部屋だってまだ決めてないし、やることはたくさんあるんだけど。
まだ俺は、なんとなく樹のことを引きずっていたから。

思わず、苦笑いをしてしまった。

「まだ、ボタン。残ってる?」

そう、背後で聞こえた声に、俺はドキッとした。


このドキッーーは、そう……。


「……樹……?」
「残ってたら、オレにくれない?」
「……」

そう、屈託なく笑う樹の笑顔が。
あの人懐っこい、俺が好きだった笑顔で。
声を発したかったのに、涙で喉を詰まらせたみたいになって、変な嗚咽が口をついでる。

「遅くなってごめん。真純」
「な……んで……?」

やっと発したかった言葉と同時に、恥ずかしくなるくらい俺の目から涙が溢れ出る。

「ずっと考えて、ずっと準備してたから。真純とオレが幸せになる方法」
「……」

あまりのことに、立ち尽くすことしかできない俺に近づいだ樹は。
ギュッと、抱きしめて耳元で囁いた。

「好きだ、真純」
「……樹」
「ズルすぎるんだよ、真純は。……オレから告る予定だったのに。あんなムラッとする格好で告りやがって。大切にしたかったのに、猿みたい真純とヤッちまって、オレだって後悔ばっかで辛かったんだぞ?」
「っっ!!」
「辛い思いさせて悪かったな、真純。これからは、もう……そんな思いをさせないから。……一緒に帰ろうか、真純」
「……な……んだよ……! 樹のバカッ!!」


だったら……だったら!


あの時、ちゃんとそう言えってば!!


こんなに、悩まなくても……暗い高校生活を送らなくてもよかったんじゃないのか?!

「怒るなって」
「……怒ってない! 怒ってるけど、怒ってない!」


そう、怒ってるよ? 

でも……今、俺の胸のドキッが。


すごく明るい未来を予感しているドキッで。


嬉しくて、ムカついて、涙が止まらないんだ。
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みんなの感想(2件)

母校芒(ぼこう すすき)

面白かったです!
一人称から、主人公真純くんの純粋な想いと熱情が伝わってきました。
ストレートな想いが樹くんとのラブラブな関係になれて良かったです。

2022.02.23

御手洗さん、ご覧いただきありがとうございます。゚(゚´Д`゚)゚。
あぁもうステキな感想を…嬉しすぎるーッ💖

解除
青空一夏
2021.10.23 青空一夏

こんばんは🌟

何やら背徳的な感じかな
と思いつつ読ませていただきました(≖ᴗ≖ )

樹さんと真純君の恋愛物語
男性同士であっても惹かれあう事はありますし
人を好きになる気持ちは止められないですよね😊

それにしても
樹さん
一緒に暮らせるようにいろいろ準備してたと言う事ですね
頼もしいですよね😉

この2人がいつまでも幸せでありますように🍀🎶

2021.10.24

ワァァァ\(//∇//)\♡
サチマルさん、ありがとうございます!!
というか、趣味の保管庫ということを、すっかり忘れていました💦
そして、あたたかい感想までいただき、本当に感謝の気持ちでいっぱいです🎃🍉🎃
私も、続きを拝読いたしますね〜✨✨

解除

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