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しおりを挟むサナタキアーーー。
18世紀もしくは19世紀に民間に流布したグリモワールの1つである『真正奥義書』よれば、サタナキアはルシファーの配下の悪魔であり、ルシファー、アガリアレプトとともにヨーロッパ・アジアに住んでいる。
また、その魔力はあらゆる女性を意のままに従わせる力を持つと言われている。
〝俺のこと、そんなに気に入ったか?〟
「んなワケないだろ!!」
頭の中に響く声に、僕は過剰に反応してしまって、大学の学食で大声を出した。
一斉に注がれる、ボッチへの視線。
僕は慌てて手で口を押さえて、会計学の本を立てて顔を隠す。
悪魔に体を乗っ取られて、かれこれ三日。
何かの突破口になるんじゃないかと思って、僕はスマホでサタナキアをググったんだ。
ググって、知ったからと言って。
結局、だからなんなんだ、って感じなんだけどな。
まぁ、結果として。
僕の中の悪魔は、ヤリチンでモテモテになる力を持っているということだけは分かった。
セックスのテクとしては、天下一品……いや、魔界一なのかもしれない。
「そういや」
〝なんだ?〟
「僕があんたを拾ったとき、あんたエラい美形だっただろ?」
〝あぁ、あれは俺の本来の姿だからな。まぁ、なんだ。自分で言うのもなんだが、目が覚めるような美形だろ?〟
「じゃあ、ソレどうしたんだ? 別に僕の中に入る必要なんかないだろ?」
〝人間界じゃ、もたねぇんだよ〟
「は?! じゃあ、もって何分だよ」
〝三分かな?〟
「はぁ?! おまえウルトラマンかよ!?」
再びーーー。
頭の中に響く声に、僕は過剰に反応してしまって、大学の学食で大声を出した。
そしてまた、ボッチの僕ににリア充の視線が一斉に注がれる。
〝おまえさぁ、その眼鏡とか髪型とか、なんとかなんねぇの?〟
「あんたには関係ないだろ!」
失礼極まりないサタナキアの言葉に、僕は極力声を抑えて反論した。
〝なかなか素材としてはいいんだぜ? 渚はよ〟
……なんで、なんで。
いきなりなんで名前読みなんだ、サタナキア!!
「うるさいよ」
〝俺の依代がモサイなんて、かなり気に食わないんだが〟
「じゃあ、他のヤツにしろってば!」
〝おまえ、今、いくらもってんだ?〟
……なんか、イヤな予感がするぞ。
「持ってない! 千円しかない!」
〝嘘つけ! 悪魔相手に嘘つくなんざ、5万年もはやいんだよ〟
左手が勝手に動く。
僕の支配下にある右手で必死に抑えようとするのに、サタナキアに支配された左手は、あれよあれよという間に鞄の中から財布を抜き取った。
「あ! ダメだ! それ、当面の……」
〝なんだぁ、結構持ってんじゃーん、渚くーん〟
まるで、カツアゲをするヤンキーみたいな口調で、僕の財布の中身を見たサタナキアは言った。
……イヤな予感…………的中だ!?
〝このサタナキア様が、モサイおまえを一流のモテ男にしてやるよ〟
「や、ちょ……まっ!! それ、生活費なんだってば!!」
自分の体なのに、全く言うことをきかない……!!
サタナキアは、僕の体を我が物顔で動かすと、颯爽と立ち上がり学食を風のように歩いて行った。
〝どうだ! 魔法みたいだろ!〟
「…………」
そう自慢げに言うサタナキアの言葉に、僕はただただ絶句するしかなかった。
鏡の前の僕が……別人すぎる。
あれから、学食から颯爽と大学の外に出て。
午後の講義をまるっとズル休みした僕は、今までにないってくらい変貌をとげ。
今までにない程、高額な金額を使った……。
まず、コンタクトレンズを作りにいっただろ?
次に、千円カットじゃない、カリスマがいるような美容室に行って。
カラーリングとカットを、目ん玉が飛び出て戻らなくなるんじゃないか、ってくらいの金額でしてもらった。
……そこは、だな。
ヤリチンのモテ男であるサタナキアが、僕の体で美容師さんのほっぺにチューをして、五千円引きになったけど。
その後は、これまた店員さんが後をついて回ってくるような服屋に行って、頭の先から爪先までフルコーディネートで服を買う。
バイト代や親からの仕送りの一部である、7万円という金額は、ものの三時間ですっからかんになってしまった。
その代償、というか。
成果、というか。
自分で言うのも、なんなんだけど……かなりの美形に変身した僕がいる。
〝磨いた以上に輝いてるぞ、渚〟
「………そうかもしれないけど」
〝だろ?〟
「だろじゃないよ!! どうすんだよ!! 食べられるものも食べられなくなったじゃないか!! 講義の本だって買わなきゃならなかったのに!!」
駅のトイレで。
僕は人目も憚らず叫んだ。
……どうしよう。
本当に、文字どおりの一文無しになってしまった……。
〝なら、稼げばいいだろ?〟
「どうやって?! バイトの給料日まで、まだだいぶあるのに!!」
〝稼ぐだよ〟
「なんで?!」
〝カ・ラ・ダ、で〟
サタナキアの狂気じみた回答に、僕は後ろにひっくり返るんじゃないかってくらい驚いた。
………カ、カ・ラ・ダ、って。
正直、そっから先は殆ど覚えていない。
サタナキアが使い物にならない僕にかわり、金を持っていそうな男に声をかけて。
そのまま、ホテルに直行。
シャワーを浴びて、ほぼほぼ〝打ち上げられたマグロ〟状態で、僕はベッドに横たわっていた。
……まさか。
体を売るなんて、僕は男なのに………こんなことになるなんて夢にも思わなかった。
そういえば……。
さっきから、やたらと頭の中が静かだ。
「よう、起きたか? 渚」
「!!」
この声!!
思わず、上半身をベッドから引き離した。
目の前をいるのは、シャワーを浴びて小ざっぱりしたあの金持ちそうな男。
でも……声は、サタナキアだ……!!
「な……なんで………?!」
「俺が抱いてやるよ。知ってるヤツなら、まだ気が楽だろ?」
……いや、いやいや。
そういう問題じゃないだろ……!!
中身はサタナキアだろうけど、外見は思いっきり初対面のヤツだろーっ!!
サタナキアに憑依された男は、僕の胸に手を添えると、ベッドに軽く押し倒す。
びっくりして目を閉じていた僕の唇に、柔らかなソレが重なった。
一番最初に……サタナキアにされたキス、そのもので。
途端に体の力が抜けて、火照ってくる。
力が入らなくなった足を大きく広げて、ローションを手にしたサタナキアは、僕の後ろにその指を入れ込んだ。
「……ん、んんっ……ぃやぁ!」
そのぶっ飛びそうな刺激に。
腰が浮いて、体が弓形にしなる。
……気持ちいい、イヤなのに。
「もう、トロットロだな。渚」
「……や、やだぁ………」
僕の足を肩にかけた見知らぬ男のサタナキアは、思いの外、ご立派な男のイチモツをグッとさしこみ、僕の奥を一気に突き上げた。
……星が、チラつく。
……な、何………やってんだろうな、僕。
一日で散財して、金のために外見は別人の悪魔にヤラれてさぁ。
でも………気持ちぃぃ………。
ヤバイ、めっちゃ気持ちいいんだよぅ。
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