3 / 7
#3
しおりを挟む「こいつ、結構もってんじゃん」
サタナキアは、見知らぬ男の格好のまま、見知らぬ男の財布を無断に開けていった。
「……勝手に………そんな」
「いいじゃんか、もらえるもんは貰っとこうぜ」
「ちょ……サタ………」
「大丈夫だよ。こいつ、意識あるから。財布の中の半分まではいいってよ」
「……はぁ?」
「意識あるんだよ、こいつの。俺がかわりに渚とヤッただけで。こいつの感覚と意識は生きてる」
「……はぁ??」
「〝気持ちよかった! またよろしく〟だってよ」
「!!」
……な、なんなんだよ……それ。
思いっきり売り専じゃないか……。
しかも〝またよろしく〟って、なんだよ……。
やっぱりコイツ、悪魔だ……。
なんだかんだ言いながら、サタナキアは〝自称・常連〟に立候補している見知らぬ男の財布から、僕が所持していたお金の倍以上を抜き取った。
あぁ、何やってんのかな……僕。
見知らぬ男がニヤッと笑うと、膝から崩れるように体が傾いて、ベッドに顔からダイブした。
同時に、僕の体が急に重たくなる。
飛行機の離陸時に感じる重力みたいな、そんな感じがして。
僕はベッドから転げ落ちた。
〝何やってんだよ、渚〟
「いや……だって……重…………」
〝慣れろよ、いい加減〟
「慣れろって!! おまえがヤリまくって腰が立たないんじゃないか!!」
〝いいから早くシャワー浴びて、帰るぞ! サッサとしねぇとコイツが起きて、もう一戦なんてことになるぞ? いいのか?〟
「やだ!! 絶対にやだ!!」
立たない腰を庇う、というか。
思いっきり四つん這いで浴室に移動して。
僕は頭の中でサタナキアに罵倒されつつ、大急ぎでシャワーを浴びると、ボタンをきちんとかけているか確認する間もなく、ホテルの部屋を飛び出した。
這々の体、ってこういうこと言うんだろうな。
せっかく買った服も、髪も、くたびれて。
僕は全力で走って家に向かった。
……なんなんだ。
こんなこと、まるで僕が犯罪者みたいに逃げ回ってんじゃないか……!!
……ど、どうしよう。
バレたら、親とかバイト先の人とか。
バレたら、僕……終了フラグ、たっちゃうよ。
全力で走って、全力で玄関のドアを開け、これでもかってくらい力一杯鍵をかける。
見慣れた我が家を視界に収めると、急に立っていられないくらい力が抜けて、台所に倒れ込んでしまった。
……あぁ、あぁ。
僕の人生ってこんなんだったか?
可もなく、どっちかっていったら不可ばかりで。
やたらツイてなくてなんとなく流されてる、そんな人生じゃなかったのか?
〝スリリングで、いいだろ?〟
「……よく、ない」
〝明日は、さっき買ったマリンボーダーのTシャツに生成のパンツな? それだったら眼鏡でもいいからよ〟
「今……それ、いうこと?!」
〝俺ァ、常にオシャレじゃなきゃヤなんだよ〟
「…………」
サタナキアは、僕の体を無理矢理起こして、着ていた服をハンガーにかけだす。
「あのさ……」
〝なんだよ、渚〟
「なんで、悪魔がココいるわけ?」
〝なんだよ、唐突に〟
「悪魔って、魔界にいるんじゃないのか? 普通。目的とかあるんだろ?」
〝……だから、なんだよ〟
「目的を達成すれば、帰るんだよな?!」
〝まぁ、そうだな〟
「教えろ!! それ!!」
〝はぁ?!〟
「目的、教えろ!! 一刻も早く魔界に帰れ!」
〝おまえに教えたところで、どうにもなんねぇんだよ!! バカっ〟
「なんだと!? おまえが勝手に僕の中に入ってきたんじゃないか!!」
ボンーーー。
小規模な爆発音が、体の中でした。
体が、宙に浮くんじゃないかってくらい軽くなって、思わず尻餅をついた。
……足元に、僕以外の足が見える。
思わず顔を上げた。
……目の覚めるような、あの美形が僕の目の前に立っている。
サタナキア……の本当の姿だ……。
「いい加減にしろよ、渚」
「は……はぁ?! いい加減にするのはおまえだろ!!」
「3分で言うことを聞かせてやる!! 〝もう、余計なことを言いません!! 言うことを聞きます〟って言わせてやる!!」
「は?……う、うわぁっ!!」
体が宙を浮いて、そのままベッドに張り付けになった。
体が……動かない。
動かない上に脚が勝手に開いて、腰が浮き上がる。
「覚悟しろよ、渚」
「や……やだ……。やだぁーっ!!」
サタナキアの体に、うっすらと浮かび上がった刺青のような模様が、だんだんと色味をおび……。
捻れたツノが、頭から生えた。
……あ、あああ……悪魔……本物の悪魔だーっ!!
そう思った瞬間、脳天がグラグラ揺れるような衝撃が体を貫く。
ふ……ふと…い…。
やだ……おっきぃ………。
ぁああ、あつぃぃ………。
「ぃやあ!! あぁん!! ら、らめぇ!! らめぇぇ」
理性も何もかも、吹っ飛んで。
ありえないくらいよがって、あえいで。
僕は、後悔した。
悪魔って、ヤバいじゃん……。
〝悪魔の3分間の本気〟が始まって、その洗礼をダイレクトに受けた瞬間だったから。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
20
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる