君と僕はどこかが繋がっている。

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#3

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「こいつ、結構もってんじゃん」

サタナキアは、見知らぬ男の格好のまま、見知らぬ男の財布を無断に開けていった。

「……勝手に………そんな」
「いいじゃんか、もらえるもんは貰っとこうぜ」
「ちょ……サタ………」
「大丈夫だよ。こいつ、意識あるから。財布の中の半分まではいいってよ」
「……はぁ?」
「意識あるんだよ、こいつの。俺がかわりに渚とヤッただけで。こいつの感覚と意識は生きてる」
「……はぁ??」
「〝気持ちよかった! またよろしく〟だってよ」
「!!」

……な、なんなんだよ……それ。

思いっきり売り専じゃないか……。

しかも〝またよろしく〟って、なんだよ……。

やっぱりコイツ、悪魔だ……。


なんだかんだ言いながら、サタナキアは〝自称・常連〟に立候補している見知らぬ男の財布から、僕が所持していたお金の倍以上を抜き取った。

あぁ、何やってんのかな……僕。

見知らぬ男がニヤッと笑うと、膝から崩れるように体が傾いて、ベッドに顔からダイブした。
同時に、僕の体が急に重たくなる。
飛行機の離陸時に感じる重力みたいな、そんな感じがして。
僕はベッドから転げ落ちた。

〝何やってんだよ、渚〟
「いや……だって……重…………」
〝慣れろよ、いい加減〟
「慣れろって!! おまえがヤリまくって腰が立たないんじゃないか!!」
〝いいから早くシャワー浴びて、帰るぞ! サッサとしねぇとコイツが起きて、もう一戦なんてことになるぞ? いいのか?〟
「やだ!! 絶対にやだ!!」

立たない腰を庇う、というか。
思いっきり四つん這いで浴室に移動して。
僕は頭の中でサタナキアに罵倒されつつ、大急ぎでシャワーを浴びると、ボタンをきちんとかけているか確認する間もなく、ホテルの部屋を飛び出した。

這々の体、ってこういうこと言うんだろうな。

せっかく買った服も、髪も、くたびれて。
僕は全力で走って家に向かった。

……なんなんだ。

こんなこと、まるで僕が犯罪者みたいに逃げ回ってんじゃないか……!!


……ど、どうしよう。


バレたら、親とかバイト先の人とか。

バレたら、僕……終了フラグ、たっちゃうよ。


全力で走って、全力で玄関のドアを開け、これでもかってくらい力一杯鍵をかける。
見慣れた我が家を視界に収めると、急に立っていられないくらい力が抜けて、台所に倒れ込んでしまった。


……あぁ、あぁ。


僕の人生ってこんなんだったか?


可もなく、どっちかっていったら不可ばかりで。
やたらツイてなくてなんとなく流されてる、そんな人生じゃなかったのか?

〝スリリングで、いいだろ?〟
「……よく、ない」
〝明日は、さっき買ったマリンボーダーのTシャツに生成のパンツな? それだったら眼鏡でもいいからよ〟
「今……それ、いうこと?!」
〝俺ァ、常にオシャレじゃなきゃヤなんだよ〟
「…………」

サタナキアは、僕の体を無理矢理起こして、着ていた服をハンガーにかけだす。

「あのさ……」
〝なんだよ、渚〟
「なんで、悪魔がココいるわけ?」
〝なんだよ、唐突に〟
「悪魔って、魔界にいるんじゃないのか? 普通。目的とかあるんだろ?」
〝……だから、なんだよ〟
「目的を達成すれば、帰るんだよな?!」
〝まぁ、そうだな〟
「教えろ!! それ!!」
〝はぁ?!〟
「目的、教えろ!! 一刻も早く魔界に帰れ!」
〝おまえに教えたところで、どうにもなんねぇんだよ!! バカっ〟
「なんだと!? おまえが勝手に僕の中に入ってきたんじゃないか!!」


ボンーーー。


小規模な爆発音が、体の中でした。


体が、宙に浮くんじゃないかってくらい軽くなって、思わず尻餅をついた。


……足元に、僕以外の足が見える。


思わず顔を上げた。


……目の覚めるような、あの美形が僕の目の前に立っている。


サタナキア……の本当の姿だ……。


「いい加減にしろよ、渚」
「は……はぁ?! いい加減にするのはおまえだろ!!」
「3分で言うことを聞かせてやる!! 〝もう、余計なことを言いません!! 言うことを聞きます〟って言わせてやる!!」
「は?……う、うわぁっ!!」

体が宙を浮いて、そのままベッドに張り付けになった。


体が……動かない。


動かない上に脚が勝手に開いて、腰が浮き上がる。


「覚悟しろよ、渚」
「や……やだ……。やだぁーっ!!」

サタナキアの体に、うっすらと浮かび上がった刺青のような模様が、だんだんと色味をおび……。
捻れたツノが、頭から生えた。


……あ、あああ……悪魔……本物の悪魔だーっ!!


そう思った瞬間、脳天がグラグラ揺れるような衝撃が体を貫く。


ふ……ふと…い…。


やだ……おっきぃ………。


ぁああ、あつぃぃ………。


「ぃやあ!! あぁん!! ら、らめぇ!! らめぇぇ」


理性も何もかも、吹っ飛んで。

ありえないくらいよがって、あえいで。


僕は、後悔した。


悪魔って、ヤバいじゃん……。


〝悪魔の3分間の本気〟が始まって、その洗礼をダイレクトに受けた瞬間だったから。
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