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しおりを挟む「……え? だれ?」
「か、角倉ですが……」
「え?……えぇ?!」
「……何か?」
「いや、なんでも……カンジ、かわりすぎだから」
「……変ですか?」
「いや、そうじゃないよ。……その、なんつーか」
「なんつーか、なんですか?」
「本当に、角倉くん?」
「…………」
バイト先の店長が、文字どおり目を白黒させて言った。
その分厚いメガネ越しの小さな目を精一杯大きくして、僕の頭の先からつま先まで視線を滑らせる。
……そんな顔、するのも無理はないけど。
そんな顔、することないじゃないか?!
多少……いや、大分。
サタナキア風味なナリをしているかもしれないけど!!
僕は僕なんだよ!!
そんな幾分失礼な店長に正直苛々しながら、僕は足早にバックヤードに入った。
マリンボーダーのTシャツの!!
生成のパンツの!!
カリスマがハサミでバズった髪型の、どこがいけないんだ!!
乱暴にロッカーを開けて、制服に袖を通すと。
サタナキアがヘアワックスなるものでルーズにセットした髪を、手でわしゃわしゃ掻き乱して。
足音をわざと大きくしてバックヤードを後にしたんだ。
僕は、僕だ!!
外見で陰キャが、なおってたまるか!!
見てろよ? 陰キャの凄さを見せつけてやるからな?!
見てろよ!! サタナキア!!
……と、意気揚々に僕はレジにたったのに。
なんか……いつもと様子が違う。
やたら客と目が合う。
いつもなら、視線すら合わないかわいい女の子にジッと見つめられている。
それだけじゃない。
ありとあらゆるヤローどもとも、尽く視線が合って。
しかも、その視線が熱い……。
「お会計が、589円になります」
「…………」
「……1000円、お預かりします」
「…………」
「411円のお返しです。ありがとうございました」
「あ、あのぅ!!」
今の今まで、視線だけはやたら熱いくせに無言を貫き通したリーマン風の男が、店内に響くようない声を発した。
「……は、い?」
それに反して。
僕の声は、驚くほど小さくか細い。
「バイト、何時に終わるんですか?!」
「は?」
「デート!! してください!!」
「へ?!」
「あ、ああ! デートじゃなくて!! 飲み……飲みにいきましょう!!」
「…………」
「ね? いいでしょう?」
「…………〝失せろ、下衆が!〟」
と、絶妙のタイミングでサタナキアが、言葉を発する。
地獄から湧き上がるような、邪悪な声に。
そのリーマンは脱兎の如く、コンビニを後にした。
…………これの、これな、こういう状況。
今日、何回目だ?!
いつもなら「なんて事言ってんだ! 角倉くん!」なんて言う店長も、今日は無言で見守るだけで何も言わない。
何が……何が起こってるんだ?! 一体……。
〝どうだ? 激モテになった感想は?〟
サタナキアが自慢げに言った。
「……モテ、てんのか? これ」
〝モテてんだろ。今や老若男女、渚とヤリてぇって思ってるよ〟
「ヤ……!? バカっ!! 何言って……」
そう言いかけた瞬間、コンビニの出入り口から高そうな花の匂いがブワッと巻き起こった。
な……なんだ?
思わず、出入り口に視線を投げる。
「うわぁ、かっけぇ……」
つい、口から素直な感想がこぼれ出た。
スラっとモデルみたいに高身長な肢体の手足は長くて。
白いTシャツとジーンズという、外人しか似合わないようなシンプルな格好でもオシャレに見えて。
栗色のサラサラの髪が風になびく。
整った日本人離れした顔が、店内にいる人の視線を一気にかっさらっていった。
〝カマエル……〟
サタナキアが、小さく呟いた。
その声が、いつものそれと違って……。
随分、小さく……心許ないものに聞こえた。
〝ただ今店内イケメンナンバーワン〟のその人は、僕に向かってニッコリ微笑むと。
靴底をイケメンらしく鳴らして、僕に近づいてきた。
……イケメンは、靴音までイケメンらしい。
「久しぶり、サタナキア」
なっ!? なんで?!
なんで、知ってるんだ?!
なんで、その名前をピンポイントで当てちゃうんだ?!
「〝八百年ぶりか? カマエル〟」
そう言ったサタナキアの声が……。
隠していても、いつになく華やいで嬉しそうで。
……なんだか、ピンときた。
目的は、この人なのかもしれないって。
……陰キャの直感が、過去最大級にフル活動した瞬間だったんだ。
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