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「色、白いですね。肌もスベスベだったし」
「…………」
「細い割には、しっかり筋肉ついてるから、抱き心地もよかったし」
「…………」
「前立腺、って言うんですね?シコリみたいなとこに当てるとさ。めちゃめちゃよがって、女の子みたいだったな」
「…………」
「髪さえサラサラなら、文句なしなんだけど」
「!!」

隣の席のハイスペックな新人野郎が、殺意が芽生えるほど、流暢に卑猥な言葉を垂れ流す。

その卑猥な描写のモトとなっているのは、明らかに昨日の僕で。

僕はつい、力の加減を見失って、手にしていたボールペンを真っ二つにへし折ってしまった。


………お気に入りのヤツだったのに……。

クソーっ!!


覚えてろよ、とは思ったさ。
思ったけど、ここまでハッキリと事の成り行きを覚えておけとは思ってない!!
総合的に判断して、僕はかなり分が悪い。

だから、僕は。
卑怯にも全てを忘れることにした。

「……さっきから何、卑猥なこと言ってんだよ」
「いや、昨日のアンタだし」
「それな、人違いじゃね?」
「人違い?」
「お前なんか、知らないけど?」
「は?」
「夢でも見てんじゃねぇのか?」
「………そう」

言葉に詰まるハイスペック野郎を見て、僕は小さくガッツポーズをした。


よし! このまま押し切れ!!

僕なんかと喋ってないで、さっさと仕事しろ!

見ろ! お前の処理すべき図面は、脇机に山積みだろ!!


一旦、パーティションの奥に引き下がったハイスペック野郎は、スマホを持って再び僕の前に顔を出す。

「なんだよ、まだ何かあるのかよ」

スマホの画面いっぱいに、僕のアラレのない姿が映し出されて、画面をいっぱいに上下にゆるている。

『んぁあっ、あぁっ、ああ』
『……岬、いい?』
『いいっ、あっ! やっ、そこ……やぁ』
『岬、俺の名前呼んで』
『たかねっ!……あぁん、あはぁ!』


…………ハメどり、ってヤツか? これ。


初めてハメどりってのを見たけど、まさかその画像が自分自身の画像だと。
1週間前の僕は、想像できただろうか?

サーっと、血の気が引く音が聞こえる気がした。

「岬、あんたでしょこれ?」
「…………消せ」
「やだ」
「ここは職場だ! 卑猥な映像を垂れ流し、僕に似ている他人を僕だなんて言うな!」
「じゃあ、他の人に見せていい?」
「いいわけないだろ!!」
「じゃあ、俺の言うこと、聞く?」
「…………」
「今日も、あのバーで待ってるから」
「…………」
「わかった?」

有無を言わさぬハイスペック野郎の言葉に、僕は、縦に首を振るしかなかったんだ。







僕は、業界では中堅のデザイン事務所にいる。
建築、インテリア、文房具にいたるまで。
各部門のデザインが統一かつ、スタイリッシュにトータルコーディネートできるのが売りだ。
僕は、そこの建築部門にいる。
たまに注文住宅のデザインが入ったりするから、だいたい僕はその構造計算書を作ったり、工期課程のチェックを入れたりして。

それなりに忙しい。


忙しいんだ!!


だから、ハイスペック野郎にかまけてる暇なんかない!!


なのに……。


僕はあの画像の流出を恐れ、なんとこの間まで大学生だったケツの青いヤツに脅される形となったわけで………。

………言われたとおり、バーまできてしまった。
ただ、中に入ることができない。


………悔しいし、でも……。


「何してるの?」
「ぅわぁぁっ!!」

大の大人が、情けない声で叫んでしまった。
………なんで、なんで背後に立ってんだ!! このハイスペック野郎は!!

「もしかして、早くホテルに行きたかった?」
「ンなわけあるかっ!」
「じゃあ、一杯飲もうか?」

正直、昨日の生々しい記憶や、日中の卑猥な画像のせいで、一杯どころじゃなく多量の酒を煽りたかったのは事実で。


………でも、流されなくないし。


変に葛藤して、僕は言葉を発することができなかった。


「じゃ、ホテルね」


ハイスペック野郎は、僕の腕をガッツリ掴むとネオンの煌めく路地へと進み出す。

「い、いや!お前っ!ちょっ……」
「悪いんだけど、俺、すぐヤリたいから」
「…………」


どこまで、勝手なんだ……!!

どこまで、俺様なんだ……!!


その気迫に押されて、僕はハイスペック野郎に連行されるように、その路地に誘われた。


ありえない……。

ありえない、し。


風呂場だ、ここは。

体をキレイに洗うところだ。

したがって、ヤル場所じゃない。


なのに、風呂の壁に両手をつかされた僕は、後ろの……本来、入れるべきところじゃない所に、ぬらぬらした何かを入れられ、容赦なくハイスペック野郎がその中を突き上げる。

………素面で、こんなことをするなんて思わなかった。


マジで……ありえねぇ。


「………っ!」
「今日は、めちゃくちゃ締まってるね」


そうじゃない……そうじゃないだろ。


………早く、こんな状況から抜け出さなきゃ。
じゃなきゃ。

僕は、年下俺様のハイスペック野郎の下僕に成り下がるぞ……!?

しっかりしろ!! 僕!!
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