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それからというもの。

ハイスペック野郎は、相変わらず僕に絡むから。
僕は僕で、ハイスペック野郎に〝イタズラ〟で返すということを繰り返していた。


まぁ、その……。


ハイスペック野郎の強引さに、ノーと言えない自分も悪い。
ハイスペック野郎の、ほぼほぼレイプ風味なセックスに抵抗できないのも悪い。

だって、力じゃ頭じゃ。
真っ向勝負したって叶うわけないじゃないか。


と、いうことで。


ヤられた次の日は、必ずイタズラで返すことにした。


なんのSMプレイか、っちゅーくらい縛られた日は、社内電話の受話器に両面テープを貼った。


題して〝ちょっと!受話器とれないですけどーっ!〟作戦。


ハイスペック野郎の卓上電話が鳴るにも、受話器を取れず。
パーティションの奥から「あれ?! あ?!」なんて声が聞こえるから。
大爆笑したくなるのを、口を押さえて我慢した。


また別の日には、ヤツの鞄に単一乾電池10本を入れ。

また別の日には、ヤツの卓上に放置してあるありとあらゆる文房具に両面テープを貼り、全部固定してやった。
消しゴムから、ステープラーから、もう全部。

その度に、ハイスペック野郎から似つかわしくない、焦った声を上げるから。
実のところ、イタズラを仕掛けるのが楽しすぎて。
一種のマイライフになってしまった感は否めない。

こんなことをしていたら、いつかはハイスペック野郎も僕に執着しなくなるだろ、多分。

「いつになったら、なってくれんの?」
「何に?」

僕の両手をネクタイで縛り、ハイスペック野郎はベッドに乱暴に放り投げる。
ハイスペック野郎は、ウィスキーを瓶ごと口に含むと、ラッパ飲みした。

相変わらず、SMの王様のような目つきで僕を見下ろす。

「俺のモン」
「はぁ? 寝ぼけたこと言ってんじゃねぇよ」
「どうやったら、なってくれるんだ?」
「はぁ?」

つくづく、言っている意味がわからない。
分からないけど、今日のハイスペック野郎は、いつもとどこか違った。


声音に自信がない、というか。 

手先が少し震えてる、というか。

なんか、変だった……。


「何、言ってんだよ……おまえ」
「……せ」
「はぁ?」
「ゆ……る、せ………許して……」
「はぁぁ??」
「キリヤ……許して……」


キリヤって、誰だよ?!


僕は、岩田だよ!


岩田なんだよ!!


つーか、おまえ……酒、どんだけ飲んだんだよ?!


「ちょっ……おまえ、何言って……」
「キリヤ……キリヤ………!!」


見ず知らずの名前を呟きながら、ハイスペック野郎は、僕の中に強引ねじ込んでくる。


……いや、無理だろ。


なんで、見ず知らずのヤツの身代わりなんかしなきゃなんないんだよ!!


ほぼ、本能的に。
自由の効かない両手を握りしめて、ハイスペック野郎の肩に振り下ろした。


「がっ!!」


ハイスペック野郎から、聞いたこともない情けない声が上がって。
一気に力が抜けたかと思ったら、僕の上にドミノのように倒れ込む。

うまいこと、入ったのはいい。
我ながらビックリするほど、いいトコに入った。


しかし、入れた瞬間後悔した。

腕……がっちり結びやがって……抜けだせねぇ!!

加えて言うなら、体格的に僕のはるか上をいくハイスペック野郎を動かすこともできず。

「あーあ……なんだよ、マジで」

諦めて、僕は腕をハイスペック野郎の肩に回した。


……ま、いっか。

しばらくは、そのままにしてやっか。


足の間でヤツの暴君が、王子様くらいになるのを感じながら。

ハイスペック野郎の弱い部分を見た気がして、つい一人っきりにさせることが出来なかったんだ。
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