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細くて小さなアルファの僕と、恵まれた体をしたオメガのリューンとの体格差を補うためには、真っ直ぐ向かい合わせに行為をするか、後ろから行為をするか、のいずれかになってしまう。
僕がもう少しアルファらしかったら、リューンをもっと気持ちよくさせてあげられるのでは、と行為中にもかかわらず、僕が至らないことを思慮して………情けなくなる。
それでも、リューンは。
月季のような香りを深く広く撒き散らしながら、気持ち良さげな恍惚とした表情をして、僕に組み敷かれている。
リューンと番になって、こういう行為を続けること早一ヶ月。
依然として、表向きリューンはアルファを騙り、僕はオメガを騙り、一日皆に黙って過ごす。
そして、夜も更けて。
2人寝屋に篭るとお互いの第三の性が爆発するんだ。
頼りなくて、リューンよりも2回りくらい小さな体の僕が、出来うる範囲でリューンの体の中を揺さぶりながら貫くと、リューンは体をしならせながら顔を紅潮させて快楽を全身で感じて………。
誰にも言えない、このことも余計僕らがこの行為必要以上に助長させる原因になっているのかもしれない。
「シジュ……には………いつも驚かされる……」
「なぜ……ですか……?」
ひとしきり絶頂に達したあと、自身の腹部にその証拠を残しながら、荒い呼吸と満足した表情でリューンは僕に言った。
「穏やかなその性格とは裏腹に、容姿は魅力的で人々を惹きつけ、害獣をも手懐ける………。知識も豊富で思慮深く、情報分析力にも長けて………。俺は幸せ者だ………。こんなに素晴らしい人と、番になれるなんて………」
「リューン様は………僕を、買いかぶりすぎです。僕はそんな……そんな、立派な人間じゃありません」
「俺の本心で、嘘ではない。……己をそんなに卑下するな……」
余韻に浸りながら思いの丈を口にするリューンを眺めながら、僕はその中で快楽を遂げた僕のを引き抜く。
小さく「……っあ」と、吐息を漏らして、リューンはその感覚に身をよじらせた。
………中から、僕のが溢れる。
アルファのくせに貧弱な僕は、息が切れてしまって………。
リューンの上にのっかる僕は、不意にリューンに手を引かれ、リューンの体に添い寝をするように倒れ込んだ。
………均整のとれた……いい体だなぁ、リューンは。
それに引き換え僕ときたら………比べれば比べるほど、今のこの状況にいたたまれなくなるんだ。
こんなに……リューンは僕を大事にしてくれて、優しい言葉もかけてくれるのに………。
満たされているはずなのに、何故か僕はいつも不安定で………。
いつアルファだとバレてしまうんじゃないかって恐怖と、こんな僕と肌を重ねることにリューンに無理をさせているんじゃないかという負い目と。
……たまに、リューンと重なるミナージュの姿に………。
ミナージュと肌を重ねている錯覚を起こして………。
胸が苦しくなる。
僕は、気が狂いそうに、なるんだ。
「リューン……様」
「いくら言葉で飾ざりくつしても、シジュへの気持ちを語り尽くせない。………シジュ、俺のそばを離れないでくれ」
そう言って、僕の頬に手を添えるリューンの顔が優しいのに悲しげで………そして、不安げで。
リューンのことが好きで大事なのに、僕の気持ちはまだ調和の取れていない天秤みたいに、揺れ動いて。
リューンが真っ直ぐで嘘をつけないことくらい、そんな人だっていうことくらい、分かってるのに………。
そんなリューンが己の第三の性を偽って生きているのは、今の僕よりずっと苦しいはずだから、僕に拠り所や安らぎを求めるのは痛いほど分かる。
僕だって、そうだ。
この地に一人輿入れして、リューンの優しさに触れて………リューンを好きになったのに。
僕は未だに、リューンの気持ちに真っ直ぐに答えられることができなくて、その気持ちを悟られないように、僕は頬に添えられているリューンの手を握った。
「仰せのままに………リューン様」
当然といえば、当然なんだけど。
祖国に手紙を送るのでさえ、僕は白虎の国で検閲を受ける。
僕がミナージュや他の兄弟に手紙を書くとき、その内容をリューンの兄である政務官が確認し、了承をもらったら、無事に僕の手紙は朱雀の国へと運ばれるのだ。
その逆も然り。
ミナージュや他の兄弟からきた手紙も、一度検閲を受けてから僕の手元に届く。
………嫁いだ身とはいえ、要は人質だからなぁ。
間諜の疑いをかけられても、いたしかたない。
従って僕自身、王宮の外に出ることはおろか、西の屋敷から動くことも許されないから、こういった些細なことが積み重なって、多分僕の心を不安定にしている一因だと思うんだ。
なにより手紙の検閲を行う、リューンの兄・白虎の国の第一王子であるハーレンは、正直なところ僕の苦手な部類に入る方で………検閲をされる時、手紙に穴が開いてしまうんじゃないかってくらい、僕の手紙を何十回て読み返して、苦虫を潰したような顔で検印をおす。
………よかった。
胸を撫で下ろすと同時に、ため息が出た。
「お手をわずらわせて申し訳ありませんでした。ハーレン様」
手紙の検閲をするためにわざわざ西の屋敷の応接間まで出向いたハーレンに対して、僕は床に座して深々と頭を下げる。
「………白虎の国は、窮屈だろう。色んな意味で」
リューン似た声は僕の頭上でこだまして、僕は再び緊張の炎を胸に宿した。
この国に来て、ハーレンに初めて声をかけられた………。
「とんでもありません。何不自由なく過ごさせて頂いておりますゆえ、窮屈など……」
「リューンはどうだ?」
試……されてる?
僕の心に宿った緊張の炎は、そのくすぶりを大きくすると、僕の体を冷たくして、身体中を冷たい汗で覆い尽くして、頭が氷のように冷たくなる。
「………リューン様はお優しくて。私のような異国の者に対しても、この白虎の生活に一刻も早く慣れるよう気遣い頂いております。多少窮屈ではありますが、リューン様と話をしたり、時間を共有ことはこの上なく幸せなことに存じます」
「夜の方は?」
不躾で単刀直入なハーレンの言葉に、一瞬、身が震えた。
その反応を知ってか、ハーレンの声は疑念と嘲笑を含んで、硬直している僕にさらに問いた。
「夜の方は、不満ではないか?」
………やっぱり、試されてる。
ハーレンはオメガ同士の婚姻と、思っている。
迂闊に……話してはいけない。
僕がアルファであることが、露呈してしまうことを言ってはいけない。
かと言って、不満があると嘘をついてもいけない。
この人は僕の回答で僕たちのことをどうだにだってできるんだ。
リューンを陥れるか、僕の偽りを暴露するか。
政略結婚の危うさを、ひしひしと感じる。
………落ち着け…冷静になれ……!!
真っ直ぐ、ハーレンの目を見るんだ……!!
「………肌を触れ合い、互いの気持ちが通じ合う。リューン様と私は、その暖かで滑らかな、互いの肌が重なれば、夫婦の契り以上のものを得られることを知りました。リューン様は私を最上に幸福をしてくださる言葉をくださいますし、リューン様のその体に触れると、その言葉は偽りのないものであることがわかります。………私は、何もリューン様に返せませんが、リューン様に寄り添い、微力ながら支えることはできます。………それに………毎夜、極上の幸せをリューン様から頂いて………。不満など、ありますでしょうか?」
………嘘は、ついていない。
あとは、ハーレンがどう受け取るか………だ。
ハーレンの目が僕の視線を離さない、僕はハーレンの視線を逃さない。
沈黙が応接間を支配して、その静けさが重く体にのしかかるから、その一瞬一瞬がいつもより遅く時を刻むかのように長く感じた。
ふと、ハーレンが僕から視線を外して、おもむろに椅子から立ち上がると、検印のついた手紙をそのままに何も言わずに部屋から立ち去る。
床に座した僕は、「ありがとうございます」と一言声を発して、深々と頭を下げてハーレンを見送ると、立ち上がって検閲の通った手紙を机の上から拾い上げた。
………よかった。
とりあえず………納得はされてはいないようだったけど………。
一先ず、この状況を脱っすることができたし。
………でも、余計に。
何もかも、に………隙を見せたらいけないんだと、確信してしまった。
恐らく、ハーレンは弟のリューンのことを好ましく思っていないということがわかって、僕のこともオメガ前提で蔑むように接して………。
一人、なんだ……。
リューンの王族としての立場を守るのも、朱雀を守るのも……僕の一挙手一投足にかかっていて、ここで僕は一人でたくさんのものを守らなきゃならないんだ。
誰かと話をしたい………悩みとか、そういうのを聞いてくれなくてもいいから………何も考えずに、腹の底から笑えるような楽しい話をしてくれる誰かと………話をしたい。
「シジュ様、いかがなさいましたか?」
思い耽って、ウーラに話しかけられた僕は、必要以上に驚いてしまった。
「ハーレン様が、お帰りになって……この手紙を朱雀の国に送る手筈をとってもらえませんか?」
「かしこまりました。シジュ様」
ウーラが僕から手紙を受け取りながら、僕の顔を覗き込む。
「シジュ様、いかがなさいましたか?」
「……いえ、何も。………ウーラさん。ウーラさんには兄弟とかいますか?」
「はい、おります。妹と弟ですが。………お国のことを思い出されましたか?シジュ様」
「いや……そういうわけじゃなくて………。最近、笑ってないなぁ、と思いまして………。リューン様は優しくて頼もしいのに………。杞憂することなど何もないのに。当然と言えば当然なんですが、知り合いもいないこの国で、この場所から動くことも出来ず………多分、僕は疲れているのかもしれません」
「シジュ様………」
「ウーラさん、お願いがあるんですけど」
「はい、何でもお申し付けください。シジュ様」
「僕に、ウーラさんのご家族の話を聞かせてもらえませんか?」
………〝郷に入れば郷に従え〟だ。
ウジウジしている場合じゃない。
何も考えず、流されて、受け身になって。
何でも受け身じゃ、疲れるに決まってる。
何が、話す人がいないだ。
何が、腹の底から笑ってないだ。
そんなの、そんなことは………自分で、切り開くものだ……!!
動けないなら動けないなりに、自ら行動を起こさなきゃ。
そのためにはまず、白虎のことを知らなければ。
「シジュ、その服は………」
「ウーラさんに用意していただきました。似合いませんか?」
「似合うも何も………。その服は女物であるが………」
「………白虎の男性は皆、体格がいいみたいで。僕の体型には、女性物しか寸法が合わなかったんです」
「そうであったか………。シジュ、似合っている」
「ありがとうございます。リューン様」
白虎の民族衣装に、僕は初めて袖を通した。
白虎に嫁いだ身だから〝郷に入れば郷に従え〟と言う言葉どおり、まず外見から白虎の民になろうと思ったんだ。
まぁ、大方の予想どおり。
僕のアルファ離れした体は尽く、男性の白虎の衣装に嫌われて、結局、女性が着用する衣装を纏うことになったんだけど………。
いかんせん、露出が高い。
シルク織の繊細な布で幅広く作られた窄袴は足元できゅっと絞られて、胸元は豪華な刺繍が施された厚めの胸当てを背中と首の紐で結ぶだけのもので………。
南の朱雀とはまた違った暑さの白虎の国で快適に過ごせそうに思って、実のところ僕は気に入っているのに。
この衣装を着用した僕を見たウーラの、複雑な、驚愕して笑いを堪えているような、全ての感情が入り混ざった顔を思い出してしまった。
だって、しょうがない。
僕の体型が、僕の骨格が全て悪いんだから。
「ウーラさんの妹さんに見立てもらいました」
「そうか。とても似合っている。………と、いうか。発情しそうなくらい、そそる」
「……リューン様」
「シジュ」
互いの体に腕を回して、絡めて。
体温を直に感じるくらい身を寄せて、唇を重ねる。
その瞬間、僕にまとわりつくように月季の香りがリューンから放出されて………。
クラクラ、理性を無くすくらい………。
リューンの香りに、リューンの体に………引き寄せられるんだ。
これが、アルファとオメガの………番の求心力。
「……んぁっ、あ……シ…ジュ……いい………」
僕に中を貫かれながら、僕の下で体をしならせるリューンが、僕の長い髪を掴んで快楽に溺れる。
「リューン……様………美しい………です」
「お前の方が………んっ………シジュの………方が……キレイ………っああ」
リューンの胸を舌先で転がすと、リューンの中が熱くとろけていく感じがして………。
いけない……また、止まらなくなってきた。
でも、理性を失くす前に………リューンにきちんと伝えなくては………。
「リューン様………僕は、白虎の人に………なります。……リューン様のお側で………リューン様をお守りします。……時間はかかるかも、しれませんが………必ず…………必ず………っ!!」
「………シジュ……っ!!あ、ぁあっ」
気持ちと感情が同調して、僕とリューンはまた一つに繋がって、互いの存在を、深く体に刻み込むんだ。
僕がもう少しアルファらしかったら、リューンをもっと気持ちよくさせてあげられるのでは、と行為中にもかかわらず、僕が至らないことを思慮して………情けなくなる。
それでも、リューンは。
月季のような香りを深く広く撒き散らしながら、気持ち良さげな恍惚とした表情をして、僕に組み敷かれている。
リューンと番になって、こういう行為を続けること早一ヶ月。
依然として、表向きリューンはアルファを騙り、僕はオメガを騙り、一日皆に黙って過ごす。
そして、夜も更けて。
2人寝屋に篭るとお互いの第三の性が爆発するんだ。
頼りなくて、リューンよりも2回りくらい小さな体の僕が、出来うる範囲でリューンの体の中を揺さぶりながら貫くと、リューンは体をしならせながら顔を紅潮させて快楽を全身で感じて………。
誰にも言えない、このことも余計僕らがこの行為必要以上に助長させる原因になっているのかもしれない。
「シジュ……には………いつも驚かされる……」
「なぜ……ですか……?」
ひとしきり絶頂に達したあと、自身の腹部にその証拠を残しながら、荒い呼吸と満足した表情でリューンは僕に言った。
「穏やかなその性格とは裏腹に、容姿は魅力的で人々を惹きつけ、害獣をも手懐ける………。知識も豊富で思慮深く、情報分析力にも長けて………。俺は幸せ者だ………。こんなに素晴らしい人と、番になれるなんて………」
「リューン様は………僕を、買いかぶりすぎです。僕はそんな……そんな、立派な人間じゃありません」
「俺の本心で、嘘ではない。……己をそんなに卑下するな……」
余韻に浸りながら思いの丈を口にするリューンを眺めながら、僕はその中で快楽を遂げた僕のを引き抜く。
小さく「……っあ」と、吐息を漏らして、リューンはその感覚に身をよじらせた。
………中から、僕のが溢れる。
アルファのくせに貧弱な僕は、息が切れてしまって………。
リューンの上にのっかる僕は、不意にリューンに手を引かれ、リューンの体に添い寝をするように倒れ込んだ。
………均整のとれた……いい体だなぁ、リューンは。
それに引き換え僕ときたら………比べれば比べるほど、今のこの状況にいたたまれなくなるんだ。
こんなに……リューンは僕を大事にしてくれて、優しい言葉もかけてくれるのに………。
満たされているはずなのに、何故か僕はいつも不安定で………。
いつアルファだとバレてしまうんじゃないかって恐怖と、こんな僕と肌を重ねることにリューンに無理をさせているんじゃないかという負い目と。
……たまに、リューンと重なるミナージュの姿に………。
ミナージュと肌を重ねている錯覚を起こして………。
胸が苦しくなる。
僕は、気が狂いそうに、なるんだ。
「リューン……様」
「いくら言葉で飾ざりくつしても、シジュへの気持ちを語り尽くせない。………シジュ、俺のそばを離れないでくれ」
そう言って、僕の頬に手を添えるリューンの顔が優しいのに悲しげで………そして、不安げで。
リューンのことが好きで大事なのに、僕の気持ちはまだ調和の取れていない天秤みたいに、揺れ動いて。
リューンが真っ直ぐで嘘をつけないことくらい、そんな人だっていうことくらい、分かってるのに………。
そんなリューンが己の第三の性を偽って生きているのは、今の僕よりずっと苦しいはずだから、僕に拠り所や安らぎを求めるのは痛いほど分かる。
僕だって、そうだ。
この地に一人輿入れして、リューンの優しさに触れて………リューンを好きになったのに。
僕は未だに、リューンの気持ちに真っ直ぐに答えられることができなくて、その気持ちを悟られないように、僕は頬に添えられているリューンの手を握った。
「仰せのままに………リューン様」
当然といえば、当然なんだけど。
祖国に手紙を送るのでさえ、僕は白虎の国で検閲を受ける。
僕がミナージュや他の兄弟に手紙を書くとき、その内容をリューンの兄である政務官が確認し、了承をもらったら、無事に僕の手紙は朱雀の国へと運ばれるのだ。
その逆も然り。
ミナージュや他の兄弟からきた手紙も、一度検閲を受けてから僕の手元に届く。
………嫁いだ身とはいえ、要は人質だからなぁ。
間諜の疑いをかけられても、いたしかたない。
従って僕自身、王宮の外に出ることはおろか、西の屋敷から動くことも許されないから、こういった些細なことが積み重なって、多分僕の心を不安定にしている一因だと思うんだ。
なにより手紙の検閲を行う、リューンの兄・白虎の国の第一王子であるハーレンは、正直なところ僕の苦手な部類に入る方で………検閲をされる時、手紙に穴が開いてしまうんじゃないかってくらい、僕の手紙を何十回て読み返して、苦虫を潰したような顔で検印をおす。
………よかった。
胸を撫で下ろすと同時に、ため息が出た。
「お手をわずらわせて申し訳ありませんでした。ハーレン様」
手紙の検閲をするためにわざわざ西の屋敷の応接間まで出向いたハーレンに対して、僕は床に座して深々と頭を下げる。
「………白虎の国は、窮屈だろう。色んな意味で」
リューン似た声は僕の頭上でこだまして、僕は再び緊張の炎を胸に宿した。
この国に来て、ハーレンに初めて声をかけられた………。
「とんでもありません。何不自由なく過ごさせて頂いておりますゆえ、窮屈など……」
「リューンはどうだ?」
試……されてる?
僕の心に宿った緊張の炎は、そのくすぶりを大きくすると、僕の体を冷たくして、身体中を冷たい汗で覆い尽くして、頭が氷のように冷たくなる。
「………リューン様はお優しくて。私のような異国の者に対しても、この白虎の生活に一刻も早く慣れるよう気遣い頂いております。多少窮屈ではありますが、リューン様と話をしたり、時間を共有ことはこの上なく幸せなことに存じます」
「夜の方は?」
不躾で単刀直入なハーレンの言葉に、一瞬、身が震えた。
その反応を知ってか、ハーレンの声は疑念と嘲笑を含んで、硬直している僕にさらに問いた。
「夜の方は、不満ではないか?」
………やっぱり、試されてる。
ハーレンはオメガ同士の婚姻と、思っている。
迂闊に……話してはいけない。
僕がアルファであることが、露呈してしまうことを言ってはいけない。
かと言って、不満があると嘘をついてもいけない。
この人は僕の回答で僕たちのことをどうだにだってできるんだ。
リューンを陥れるか、僕の偽りを暴露するか。
政略結婚の危うさを、ひしひしと感じる。
………落ち着け…冷静になれ……!!
真っ直ぐ、ハーレンの目を見るんだ……!!
「………肌を触れ合い、互いの気持ちが通じ合う。リューン様と私は、その暖かで滑らかな、互いの肌が重なれば、夫婦の契り以上のものを得られることを知りました。リューン様は私を最上に幸福をしてくださる言葉をくださいますし、リューン様のその体に触れると、その言葉は偽りのないものであることがわかります。………私は、何もリューン様に返せませんが、リューン様に寄り添い、微力ながら支えることはできます。………それに………毎夜、極上の幸せをリューン様から頂いて………。不満など、ありますでしょうか?」
………嘘は、ついていない。
あとは、ハーレンがどう受け取るか………だ。
ハーレンの目が僕の視線を離さない、僕はハーレンの視線を逃さない。
沈黙が応接間を支配して、その静けさが重く体にのしかかるから、その一瞬一瞬がいつもより遅く時を刻むかのように長く感じた。
ふと、ハーレンが僕から視線を外して、おもむろに椅子から立ち上がると、検印のついた手紙をそのままに何も言わずに部屋から立ち去る。
床に座した僕は、「ありがとうございます」と一言声を発して、深々と頭を下げてハーレンを見送ると、立ち上がって検閲の通った手紙を机の上から拾い上げた。
………よかった。
とりあえず………納得はされてはいないようだったけど………。
一先ず、この状況を脱っすることができたし。
………でも、余計に。
何もかも、に………隙を見せたらいけないんだと、確信してしまった。
恐らく、ハーレンは弟のリューンのことを好ましく思っていないということがわかって、僕のこともオメガ前提で蔑むように接して………。
一人、なんだ……。
リューンの王族としての立場を守るのも、朱雀を守るのも……僕の一挙手一投足にかかっていて、ここで僕は一人でたくさんのものを守らなきゃならないんだ。
誰かと話をしたい………悩みとか、そういうのを聞いてくれなくてもいいから………何も考えずに、腹の底から笑えるような楽しい話をしてくれる誰かと………話をしたい。
「シジュ様、いかがなさいましたか?」
思い耽って、ウーラに話しかけられた僕は、必要以上に驚いてしまった。
「ハーレン様が、お帰りになって……この手紙を朱雀の国に送る手筈をとってもらえませんか?」
「かしこまりました。シジュ様」
ウーラが僕から手紙を受け取りながら、僕の顔を覗き込む。
「シジュ様、いかがなさいましたか?」
「……いえ、何も。………ウーラさん。ウーラさんには兄弟とかいますか?」
「はい、おります。妹と弟ですが。………お国のことを思い出されましたか?シジュ様」
「いや……そういうわけじゃなくて………。最近、笑ってないなぁ、と思いまして………。リューン様は優しくて頼もしいのに………。杞憂することなど何もないのに。当然と言えば当然なんですが、知り合いもいないこの国で、この場所から動くことも出来ず………多分、僕は疲れているのかもしれません」
「シジュ様………」
「ウーラさん、お願いがあるんですけど」
「はい、何でもお申し付けください。シジュ様」
「僕に、ウーラさんのご家族の話を聞かせてもらえませんか?」
………〝郷に入れば郷に従え〟だ。
ウジウジしている場合じゃない。
何も考えず、流されて、受け身になって。
何でも受け身じゃ、疲れるに決まってる。
何が、話す人がいないだ。
何が、腹の底から笑ってないだ。
そんなの、そんなことは………自分で、切り開くものだ……!!
動けないなら動けないなりに、自ら行動を起こさなきゃ。
そのためにはまず、白虎のことを知らなければ。
「シジュ、その服は………」
「ウーラさんに用意していただきました。似合いませんか?」
「似合うも何も………。その服は女物であるが………」
「………白虎の男性は皆、体格がいいみたいで。僕の体型には、女性物しか寸法が合わなかったんです」
「そうであったか………。シジュ、似合っている」
「ありがとうございます。リューン様」
白虎の民族衣装に、僕は初めて袖を通した。
白虎に嫁いだ身だから〝郷に入れば郷に従え〟と言う言葉どおり、まず外見から白虎の民になろうと思ったんだ。
まぁ、大方の予想どおり。
僕のアルファ離れした体は尽く、男性の白虎の衣装に嫌われて、結局、女性が着用する衣装を纏うことになったんだけど………。
いかんせん、露出が高い。
シルク織の繊細な布で幅広く作られた窄袴は足元できゅっと絞られて、胸元は豪華な刺繍が施された厚めの胸当てを背中と首の紐で結ぶだけのもので………。
南の朱雀とはまた違った暑さの白虎の国で快適に過ごせそうに思って、実のところ僕は気に入っているのに。
この衣装を着用した僕を見たウーラの、複雑な、驚愕して笑いを堪えているような、全ての感情が入り混ざった顔を思い出してしまった。
だって、しょうがない。
僕の体型が、僕の骨格が全て悪いんだから。
「ウーラさんの妹さんに見立てもらいました」
「そうか。とても似合っている。………と、いうか。発情しそうなくらい、そそる」
「……リューン様」
「シジュ」
互いの体に腕を回して、絡めて。
体温を直に感じるくらい身を寄せて、唇を重ねる。
その瞬間、僕にまとわりつくように月季の香りがリューンから放出されて………。
クラクラ、理性を無くすくらい………。
リューンの香りに、リューンの体に………引き寄せられるんだ。
これが、アルファとオメガの………番の求心力。
「……んぁっ、あ……シ…ジュ……いい………」
僕に中を貫かれながら、僕の下で体をしならせるリューンが、僕の長い髪を掴んで快楽に溺れる。
「リューン……様………美しい………です」
「お前の方が………んっ………シジュの………方が……キレイ………っああ」
リューンの胸を舌先で転がすと、リューンの中が熱くとろけていく感じがして………。
いけない……また、止まらなくなってきた。
でも、理性を失くす前に………リューンにきちんと伝えなくては………。
「リューン様………僕は、白虎の人に………なります。……リューン様のお側で………リューン様をお守りします。……時間はかかるかも、しれませんが………必ず…………必ず………っ!!」
「………シジュ……っ!!あ、ぁあっ」
気持ちと感情が同調して、僕とリューンはまた一つに繋がって、互いの存在を、深く体に刻み込むんだ。
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