雨と僕と、君たちと。

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第二話

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 ガン-!!

 突然、ドアが強引に開く凄まじい音。紗紀は驚いて目を開けた。同時に、気が狂いそうになるほどの頭痛が紗紀を襲う。
 逃げなければ……と、思う焦りの気持ちとは裏腹に、紗紀の四肢には全く力が入らなかった。

「っ、う……」

 握りしめたはずのスマートフォンは床に落ち、手を伸ばそうにも力が入らない己の体ではどうすることもできない。近づく気配は察知しているものの、どうすることもできない状況下。紗紀は本能的にうなじに腕を回し身を固くした。

「紗紀!!」

 聞き慣れた優しい声が、いつもより緊張と焦りを含んで部屋の中にこだまする。

「し……ゅう」

 愛おしい人の声に反応して、紗紀が声を絞り出す。今まさに待ち焦がれていた存在の声。
 その瞬間、紗紀の体の強張りが一気に抜けた。同時にあの紗紀の好きな暖かく優しい手が、紗紀の体を強く抱きおこす。

「紗紀!! 紗紀、大丈夫か!?」

 今にも落ちそうな意識の中。視界がぐらつく紗紀の目の前には、今にも泣きそうな顔をした柊の顔があった。紗紀は咄嗟に柊のシャツを掴んだ。その手はかなり冷たいのに、何故か汗ばんで震えが止まらない。

(だめだ……もう、無理だ)

 薄れていく意識に比例して、紗紀の呼吸は浅く短くなっていった。

「しゅ、う……たすけて、しゅう」

 そう紗紀が声を振り絞った瞬間、紗紀の視界と思考は真っ暗になった。



「っあ……っん」
 紗紀の意識のもやが晴れ、はっきりとした瞬間。自分の腹の中を貫く熱の塊と、発せられた自らの卑猥な声に、紗紀の全てが支配されていると感じた。
 あまりの驚きに、紗紀は体を大きくビクつかせる。同時に自分にまとわりつくオメガ独特の甘ったるい熱と香りが、今の現状がどういうことなのかを如実に表していた。

(発情……してる?)

 広げられた足の間から腹の底へと突き上げる快感の波。意識が戻ったにも拘わらず、みるみる思考がとろけてしまいそうになる。発情に身を任せてしまいたくなる欲をグッと堪え、紗紀は快楽に無抵抗となった重い瞼をゆっくりと開いた。

「気がついた? 紗紀」

 視界の輪郭が未だぼんやりしていても、紗紀にはその声の主がわかっていた。声よりも顔よりも。その愛しい人が纏う発情の熱でわかっていた、という方が的確だろう。
 紗紀はゆっくりと手を伸ばして、ぼやける輪郭に触れた。

「柊……僕、なんで」
「急に発情したんだよ、紗紀」
「……そう、なんだ。でも、僕」
「電話くれたろ?」
「……え?」
「〝助けて、柊〟って電話がかかってきたから」

 あぁ、そういえば、あの時。
 部屋の角で身を引き裂かんばかりの頭痛に襲われ、必死でスマートフォンを握りしめていた時の曖昧な記憶。うっすらと、紗紀の脳裏に浮かんだ。
 偶然にも通話ボタンを押下していたのだろう。自分の助けが柊に届いていたことに、今更ながらホッと脱力するほど安堵した。

「ありがと、柊」
「よかったよ、紗紀を助けられて」
「うん、ありがとう」

 柊は少し眉を下げ、心配気な様子で紗紀の額をそっと撫でる。

「その……紗紀は覚えてないだろうけど」

 柊は少し気まずそうに続けた。

「家に連れ帰ってしばらくしたら、紗紀が無意識のうちに発情したんだ」
「……そうなんだ。全然わからなかった」
「何か、あった? 紗紀」

 柊の言葉に紗紀の心臓が、ビクンと震えた気がした。

(何か、あった……)

 あったとしたら、あの高校生に話しかけられた、ということくらいしか思い当たらない。
 しかし、余計な心配をこれ以上、柊にかけるわけにはいかない。紗紀は小さく微笑むと「体調が、悪かったのかも」と返事をした。

「発情前だったのかな?」
「そうかもしれないね」

 優しく甘く響く柊の声に紗紀は小さく頷くと、体をゆっくり起こして柊の唇に己のそれを重ねた。軽い唇の接触が、さらに発情を引き起こす。
 ズクン、と。
 腹の中にあるオメガの欲が、目の前の番の全てが欲しいと熱を上昇させる。同時に、足の間から暖かな蜜が溢れ、紗紀の太腿へと伝い流れた。
 軽い口付けは、舌を絡め互いを貪るほどの激しいキスに変わる。

「柊……たくさんシて」
「たくさんシたら、イきすぎて紗紀がもたないでしょ?」
「だって……限界だよ、僕」
「なら、イくの我慢して」

 そういうと柊はベッドサイドテーブルの引き出しから、青いリボンを取り出した。未だ蜜を足の間から伝わせる紗紀の。その先にある未熟ともいえるオメガの勃起した陰茎に、柊はそのリボンを強めに結んだ。グッと強くリボンを引く度に、嬌声を発しながら紗紀の体が小さくしなう。

「あっ、や……」
「紗紀、ベッドに四つん這いになって」
「ん……あ」

 紗紀の体温が一気に上がる。
 性欲、緊張、期待、快楽。
 色んな思考で頭がぐちゃぐちゃになった。発情の熱に犯されたい。そう紗紀が思った次の瞬間。柊の熱を帯びた大きな塊が、蜜の滴る紗紀の秘部から腹の中を抉るように突き上げた。

「はぁ、んぁ……」

 ズクン、ズクンと柊を欲してやまなかった感覚が快楽に変わる。柊にむけて突き上げられた腰が、柊の全てを逃さぬように開かれ、足の間をつたう蜜はぬるっと粘り気を帯びた。体が正直だ。一瞬で達してしまいそうになる。

(イきたい……イきたい)

 その欲求を邪魔するのが、紗紀の陰茎に結ばれたリボンだ。紗紀は堪らず、自らを支配する可憐なリボンに手を伸ばす。

「ダメだよ、紗紀」

 いつもは暖かで優しい柊の手。しかし、今。紗紀の手さえ自由にさせない、とても意地悪な手に変わった。紗紀の細い手首を強く掴んだその手は、強引に紗紀の背中へ押し付ける。

「や、外して……お願い」
「外せない、紗紀。我慢するんだろ?」
「んぁ、やっ……あぁっ」
「この感覚だけ……今、体に刻み込ませて。紗紀」
「あ、あ……あぁ!!」

 紗紀は押し寄せる快楽に、堪らず大きく体を撓ませた。己の体が喜んで柊の熱や感覚を刻み込んでいくのがわかる。

 何も考えられない、考えたくない。
 あの高校生のことも。
 この快楽でズタズタに記憶から消してくれたらいいのに、と。

 紗紀は快楽で真っ白になりそうな思考の片隅で、僅かにそう考えていた。
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