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腰が……たたない。

後ろも、まだなんか入ってるみたいな………熱い感覚が残っている。
拘束されていた手が自由になって、手首をみると粘着テープのベタベタがところどころ残っていて………そこだけ赤くなっていた。
胸の方に視線を落とすと、肌が赤紫色に変色しているところが斑にあって、一気に青ざめる。


………できれば、夢だと思いたかった。


だって、穂波があんなコトをするわけがない。
まだガキだと、少なくとも僕よりは童貞に近いと思っていたのに………。
さらに加えるとしたら、賃貸物件は壁が薄いから、僕たちの〝ギシアン〟がお隣さんにも聞こえていたに違いない。

にしても、喉が渇いた。
よくわからないうちに、穂波にツッコまれてアンアン喘がされて喉がカラカラだよ、本当。

麦茶、飲みたい。

ヘナヘナした腰に力を入れて、ベッドから起き上がろうと体を起こした瞬間、僕の体は何に巻き付かれて、またベッドに逆戻りしてしまった。

「タケちゃん、どこいくの?」

………コイツは、本当に。

いつの間にか、僕は穂波に抱き枕よろしく抱きつかれていて、僕は動きを封じられている。

「喉、渇いたんだよ………」
「行かないで、タケちゃん」
「………喉が渇いたんだってば」
「じゃ、ボクがとってきてあげる」
「……………」

自分のことすらしないヤツが、こんなコトを言い出すなんて。
しかも、あの顔。
優しげで、自信に満ち溢れた、スパダリな………あの顔。
なんで、そのスパダリな顔を僕に見せるかな。
それは、僕が知ってる穂波じゃないよ。
〝好き〟とか告られて、無理矢理ヤられちゃって、とことん喘がされて………さらに、このスパダリ感。

…………気に、ならないハズ………ないだろ。

幼馴染みのかわいい穂波と。
男前なスパダリの穂波と。

どっちがいいかなんて、選べない。


ん?


…………な、何?何、考えてんだ?僕。


穂波だぞ!?
幼馴染みだぞ?!
ましてや男だそ!?

トキメイテ、どうすんだよ!!

ヤられて、感じるところをガンガン攻められて、結果、僕はおかしくなったに違いない!!
普通、こういう風にサれちゃったりしたら、怒りが込み上げるか、悲しみにさいなまれるか。
いずれにせよ負の感情に支配されて、穂波のことが嫌いになると思うのに、僕の気持ちは、全く逆で。

こんな………こんな………穂波に対して〝キライ〟って、感情が湧かないなんて………。

穂波によって不意を突かれたようにもたらせた快感に、頭が沸騰して、煮えたぎって、そんな風になっちゃったんだ………。

どうしよう………やばい、よぉ。

「タケちゃん、お待たせ」

にっこり笑った穂波が僕を抱き起こして顔を近づけると、麦茶を口に含んで僕の唇に重ねる。
穂波の冷たい唇を通して、冷たい麦茶が僕の口に流れ落ちる。

………口移し、って……おい。

「一度、やってみたかったの。タケちゃんとコレ」
「………そう」

大胆になっているのか、我慢していたことを一気に放出しているのか。
幸せそうにニコニコ笑う穂波を見てると、恥ずかしいやら、力が抜けるやら………かわいいと思ってしまう自分に打ちひしがれるやら。
僕の頰をそっと包み込むようにして両手を添える穂波の手が優しくて、その視線があまりにも真っ直ぐキラキラしていて………。

うわぁ、見返せない。

スパダリの威力を感じて、真っ直ぐ見返せない。
いつものフワフワ、ポヤポヤした穂波はどこに行ったんだ………。

「タケちゃん、ボクのこと……好き?」

また、ど直球にきたな。

「…………わ、かんない……けど」
「けど?」
「…………き、きらい、じゃない」
「じゃあ、早くボクのことをちゃんと好きになって」

そのまま、また深くキスをされて………。
僕の右足を穂波の広い肩にかけると、穂波の指が僕の感じやすくなっている先から滑らせるように移動して………穂波に目一杯出されてグショグショになっている、僕の中をイジる……はじく。

「んゃ、むり……もう、むり………」
「だって今日は休みなんだよ?……タケちゃんを独り占めしたい………大好きなタケちゃんとずっと一緒にいたい………」
「あ、ぁあ、 ダメ………ソコ、らめ」
「どうして?気持ちいいでしょ?」
「や……や、ら………おかしくなる………」
「おかしくなって、タケちゃん。いつも完璧なタケちゃんの、ボクしか知らないタケちゃんが欲しい。タケちゃんのその顔、ずっと見ていたいなぁ」

………穂波の優しくて素直な性格が、今はなんだか果てしなくイジワルな………言葉の通じない悪魔のように思えて………。
悪魔のフェロモンに当てられたみたいに、抗うことも嫌いになることもできずに、穂波の全てをうけいれてしまう。


………また、だ。


かたい、おおきな、それが僕の中を、犯す。


「…あ、あ、……んぁ……ぁあん」
「もっと、感じて。もっと、声を聞かせて。タケちゃんは、ボクしか見ないで。そんなエッチなタケちゃんはボクしか見せないで。………タケちゃん、大好き」

穂波の動きが激しさを増して、それに比例するように僕の声はヤラシイくらいに大きくなって………。

体が、しなる。

「やぁ、あぁ、っあん」
「………タケ、ちゃん」


結局。
僕と穂波はアホみたいに、本来ならば有意義であったはずの休み1日を費やして、ずっとエッチなことをした。
喘がされて、イキまくっては、果てて寝る。
また起きて、エッチなことをして、イキまくっては、果てて寝る、の繰り返し。
途中、僕がイくのがしんどくなって、イかないように穂波が僕のを軽く縛って………。
それでもなお、エッチなことは、動けなくなるまで、食切れを起こすまで続いて。


………アホ、だな。
じゃなきゃ、サルだな。


腰が全く立たなくなった僕を、穂波はいたわるように優しく接して………テキパキ動く。
洗濯物を洗って乾燥にかけて、料理はできないから僕の好きな弁当を買ってきてくれて。
いつもの、僕が知ってる穂波じゃない。
いつの間にか。
僕がぼんやりしている間にか。

整った容姿、高身長、高学歴、高収入、大人の余裕と包容力を兼ね備えた………高スペックな〝攻め〟になってしまった。

そう、穂波は。


この日を、境に………僕の、僕だけのスパダリになったんだ。


もちろん、そんなに簡単に穂波の本性が変わるわけではないと思う………んだけど、さ。



それからというもの。

いくら起こしても起きないとことか、僕の料理をまるで子供みたいに喜んで食べるとことかは変わらないものの、僕をベッドの上で組み敷いてイタす時は、全くもって完璧なスパダリで。
そのたびに、僕は穂波のお母さんみたいになったり、穂波の愛されまくる恋人になったり………プライベートが非常に、非日常的に、忙しくなってしまったんだ。

「最近、彼女できた?それとも好きな人できた?」なんて多賀山さんにまで言われてしまうし。


…………こんなんで、いいんだろうか?


僕は………まだ、穂波に〝好き〟って言ってないし。
穂波のことが本当に好きかどうかも、わからない。

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