義弟になるか義兄になるか争ってるうちに、僕は××を失いました。

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晴れて、親父が再婚した。

再婚したのはいい。
幸せそうだし、あと数年で還暦を迎えるから、今まで僕のために使ってきた時間やお金を、自分のために使って欲しいとも思ってるし、僕だって心の底から祝福しているんだ。

いるんだけど………気まずいだろ、この状況。

親父の横には、小学校から知っている同級生のお母さん。
そして、その横には………例にも漏れず、同級生だった吉国友哉がいる。

なんでまた、そこかな?
なんでそこなんだよ、親父。

僕の産みの母親は、僕が小さい頃に亡くなっていて、母親の記憶なんてほぼ皆無だ。
でも僕は、寂しかったことなんてない。
だって、親父が孤軍奮闘して僕を懸命に育ててくれたから。
こざこざした授業参観やPTAにも必ず顔を出してくれたし、慣れない手つきで体操服のゼッケンを斜めに付けてくれたりした。
1ヶ月のうち15日はカレーの日で、シャバシャバだったり、口から火が出そうなくらい激辛だったりしたけど、毎日楽しかったんだ。
おかげで、僕はその辺の女子より家事スキルが上がって、いつお嫁に行ってもいいくらい家事全般は身についた。

感謝しかない、親父には。
だから、親父が選んだ相手も申し分ない。

ないんだけど………こいつ………吉国友哉だけは、どうしても解せないんだ。


出会いは、そう………小学校の入学式。

結城円佳の〝ゆ〟
吉国友哉の〝よ〟

名簿順の前後ろで、誕生日まで一緒。

友哉はお父さんがいなくて、僕はお母さんがいない。
好きなゲームとか、好きな食べ物まで同じで。

共通点が多いと相手に対する親密度合いが一気に上昇して、友哉と仲良くなるのに時間はかからなかった。
毎日一緒につるんで、バレーボール少年団にも一緒に入って………。

それなのに、小学校6年の冬から友哉の態度が急に変わった。
素っ気なくなって、喋る機会も、遊ぶ機会もなくなった。

きっと、違う中学に進むからなんだろうなぁって。

その当時はそんなようなことを漠然と考えていたように思う。
小学校から背が高くてサイドでもセンターでもアタックが打てる友哉は、スカウトされてバレーボールの強豪の私立中学に。
体が小さくてレシーブくらいしか取り柄のなかった僕は、そのまま地元の中学に。
そこが、僕らの溝の始まりだったんだろう。
僕は中学でもなんとなくバレーボールを続けてて、地区大会や県予選で出会す、強豪校のユニフォームに身を包んだ友哉を見かけるたびに、さらに上手くなった友哉をひっそりと応援していたりしていたんだ。

でも、ある日を境に。
友哉は、大会に姿を現さなくなる。

強豪校のユニフォームを着た友哉を、僕は幾度となく目で追いかけて、しらみつぶしに探すのに………結局、中学の大会で友哉の姿を見かけることはそれっきりなかった。

なかったのに。

進学先の高校で、あっさり友哉に再会するとは思わなかったんだ。

今、考えれば。
小学校の出会いから僕たちの計り知れないところで愛を育んでいた親父たちによって、本人たちが関知しないところでお互いの情報はダダ漏れだったというわけだ。
きっと、同じ高校に入れたかったんだろうな………親父たちは。
だって、堂々と気兼ねなく会えるからな。
しかし、親父たちの恋愛事情なんて全く蚊帳の外だった僕たちは、当人たちの思惑に反して、僕たちに生じていた〝溝〟は、離れていた間に一層深いものとなっていたんだ。

「うっせーな!膝壊してんだよ!!近寄んな、チビッ!!」

なんとなく予想はしていたけど、怪我をしてバレーボールを辞めたなんて知らなかった僕は、同じクラスになった友哉に「部活、バレーボールやんね?」と無神経な一言をかけたことによって、その溝は決定的なものになる。
その、「チビ」という余計な一言を含んだ言葉に、まだガキだった僕はガチギレした。

「知らなかったんだから、しょうがねぇだろ!!エスパーじゃねぇんだよ!!」

………せっかく、再会したのに。

ものの30分でより険悪な関係になってしまったんだ、僕たちは。

それから高校3年間、お互い視線も交わさず、言葉も交わさず。

僕は相変わらず下手の横好きでバレーボールをしてすごし、友哉はいきなり開花した絵の才能を活かして美術部にこもって、それぞれの青春を謳歌した高校生活最後の、この卒業式の日。

晴れて、親父が再婚した。
友哉のお母さんと。

「円佳のよく知ってる人と、お付き合いしている」とは、常々親父が言っていたから特に気にはしていなかった。
まさか、その人が友哉のお母さんだなんて、予想だにしていなかっただけで………。
まさか、犬猿の仲にまで発展した、元親友と家族になるなんて思いもよらなかったから………。
体の力が一気に抜けて、卒業のお祝いに連れてこられたチョイ高めのレストランで、背もたれに体を預けて思わず天を仰ぐ。

「これからよろしくね、円佳くん」
「はい………。ふつつか者の父と出来の悪い僕ですが、よろしくお願いします」

極力、笑顔で。
不快な気持ちにさせないように、僕は元親友のお母さんに言った。

「それで、と言ってはなんだけど。円佳と友哉くんに、話しておかなきゃならないことがあって」

幸せすぎて、ニヤニヤが止まらない親父が、アルコールで少し赤らんだ顔をして、徐に口を開く。


………まてよ。


イヤな予感しか、しないぞ?


「今更新婚なんて恥ずかしいんだけど、円佳も友哉くんも大学生だし。僕たち、新婚生活始めようと思います!!ね、由紀さん」
「………ごめん、どういうこと?」
「2人で由紀さんのマンションに住むことになったんだ」
「じゃあ、僕たちは?」
「大学にも近い結城家に2人で住んで!」
「…………」
人間って、想定の範疇を超える出来事が立て続けに起こると、言語中枢と思考回路が崩壊するんだなって18年生きてきて、僕は初めて経験したんだ。







「おまえ、荷物それだけ?」
「あぁ」
「2階の奥が、友哉の部屋だから。荷物整理してこいよ」
「あぁ」

親父が自分の荷物をだいたい処分して、嬉々として新婚生活の愛の巣に行ってしまった結城家は、がらんとして、途端に寂しくなってしまった。
その寂しさが抜けきれぬまま、巨大なスーツケースとダンボールを抱えた友哉が、不機嫌極まりない表情でやってきた。

家の中の空気の質感が、変わる。

自分の家にも関わらず、身の置きどころを見失った僕は、やけに柱のキズが目に止まって………。
僕はその凸凹した柱を手でなぞった。

〝円佳9歳〟

小さかったんだなぁ、僕。

そう思うと、2度と親父に会えないわけじゃないのに、色んな事を思い出してしまって、寂しさがより一層大きくなった気がしたんだ。

「何だよ。泣いてんのかよ」
「………泣いてねぇよ」

いつの間にか僕の背後に立っていた友哉に、口から心臓が飛び出るくらいビックリした僕は、動揺を抑えつつ、強がって返事をした。

「どっちかっちゅうと、俺の方が泣きそうなんだけど」
「え?」
「おまえの親父に追い出される形になってんじゃねぇか、俺」
「あ、………ごめん」
「まぁ、いいよ。今日から俺は円佳の〝義理の兄〟だからな。俺の言うことちゃんと聞けよ?」
「はぁ?!なんで勝手に決めてんだよ!誕生日一緒じゃねぇか!!」
「背の高さからいって、俺だろ?」
「生まれた時間は、僕の方が早いかもしんねぇだろ!」
「………キャンキャン、犬みたいに吠えてんじゃねよ」
「じゃあ、ジャンケンで決めよう!」
「………いいぜ?」
「勝ったら兄、負けたら弟。友哉の望みどおり、弟は兄の言う事を聞く。いいな?」
「円佳、言ったからな?」
「あぁ」
「絶対だからな?本当だからな?」
「分かってるって!じゃあ行くぜ?………ジャンケン、」


元はと言えば、言い出しっぺは友哉なんだ。


〝義兄と義弟は、どっちだ〟なんて。


正直どうでもいいことに、ついムキになってしまって、それをジャンケンで決めようと言ったのは、曲がりなくとも僕であり。

ジャンケンには自信があったんだ。
あったのに………3回も勝負をして、僕は全敗した。


そして、今。


置かれている状況に混乱して、ジャンケンなんかしなきゃよかったという後悔の念で、僕は今、人生最大級の崖っぷち………から、落ちてしまったんだ。
固く結ばれたビニール紐が、手首にくいこんで痛い。
その先が湯船の蛇口に繋がっているから、僕は奇しくも万歳をした状態になっている。
風呂場で、マッパで、縛られて。
そんな抵抗することができない僕の胸やら鎖骨やらを、友哉は強く優しく舐め回して、湯船の中で大きく開かされた僕の足の間に、友哉の指が何本って、僕の内側を弾くように弄る。
僕は男なのに。
男に指を突っ込まれて、不覚にも声を漏らして、体をよじらせて。

………なんだよ……なんなんだよ、これ。

義兄、義弟、関係ないじゃん。
要はどっちが、下僕になるかの問題だったなんて。

「と……もや、………や、めて」
「イヤだ。おまえには拒否権はないんだよ?円佳」
「………や、だ……やだ」
「暴れんなよ、円佳。よく考えろよ?俺たちがあからさまに険悪になってみろ。おまえの父ちゃん、めちゃめちゃ悲しむだろうなぁ。長い間愛を育んで、ようやく再婚できたのに、息子たちのせいでまだ独身に逆戻りなんてかわいそうだろ?………だったら、聞けよ。俺の言うことを。かわいい、義弟くん」

こんな、こんなことをされるために、僕は親父の結婚に同意したわけじゃない。


みんなが、幸せになるために………。


でも………親父の幸せそうな笑顔を思い出してしまって。


僕は………抵抗する事を諦めた。


「そう………。そのまま。………そのまま、力ぬいとけよ。円佳」

指のごちゃごちゃした感覚が、僕の中から無くなったと思った瞬間、今までとは比べ物にならないくらい大きな塊が僕の中に割って入ってくる。

「んあぁっ!!」
「力抜け………おまえがキツいぞ」

………そんなこと言ったって。

自分で立てた湯船の中に発生した波に溺れそうになりながら、友哉によって引き起こされる痛さと苦しさを僕は口で呼吸をして紛らした。

「うご……くな……!!」
「円佳の中、やべぇ。……あったかいし、めちゃめちゃ吸い付いてくる」
「……ぁあ、やぁ……や」

僕の願いも虚しく。
友哉は僕の内側を突き破らんばかりに激しく動いて………体が熱くなってくる。


きっと、のぼせたんだ。


のぼせて、おかしくなってるんだ、僕は。


だから僕は、あろうことか友哉に犯されてるのに〝気持ちいい〟なんて、思ってしまってるんだ。
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