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………な、なんちゅーか、その。

この、この状況。

目が覚めたら、背中に感じる心地よい人肌と体温に一体何が起こってるのか分からなくて。
耳元に聞こえる、他人の穏やかな寝息にゾワゾワして。
なにより………腕枕されてるなんて、今までの僕の人生の中で〝初〟のことだから………。
どんな顔をして、この腕枕の主に振り返ったらいいのか、分かんないよ。


………う、わぁぁ………ハズカシイ………。


勢いでリビングでかなり激しく友哉とイタした後、軽くて小さな僕は駅弁スタイルで、友哉によってベッドまで運ばれて。
さらに、目眩く………あんなことや、こんなことを何回も何回も元気だけは無駄にある真面目な青少年が、力尽きるまでに延々に。
友哉に中をかき乱されて、ガチガチに僕の中を突き上げる友哉に感じて、ハマって………最高に気持ち良くて。
しかも、もっと気持ち良いトコを擦って欲しくて、恥ずかしげもなく「もっとぉ」とか「いい!」とか言いまくってた気がする……と、いうか………ハッキリ記憶に残るくらい、気のせいじゃないんだけど。

あれ、〝よがる〟って言うんだろ???
僕、涼太がバレー部の部室で見ていたエロ動画のオネエさんみたいだったよなぁ???


………ひぃぃぃ。


夜の一部始終が走馬灯のように蘇ってきて、かなり恥ずかしすぎるぅ。
僕は自分の気配を消したくなって、思わず両手で顔を覆った。

でも………なんか、幸せだった。

僕は友哉のことが好きで、友哉も僕のことが好きで。
初めて、感じる。
親父と過ごした18年とは違う………新しくて、胸がキュンとするような幸せが体中に染み渡るような………。
ドキドキ、疼くような………幸せ。
初めて実感した幸せを手にした今、その幸せが胸に響いて、小っ恥ずかしくなってしまったんだ。
ととと友哉が目を覚ます前に、一刻も早くここから抜け出して、なんとか、こんな僕を友哉に見られないようにしなくちゃ。
友哉の腕枕から少しずつ頭をズラして、ベッドのハジの方へ移動する。

………早く、早く。

ここから逃げなければ。

「どこ、行くんだ?円佳」


…………バレたーっ!!


「………い、あ、の、のの…喉が渇いちゃって」
「腰立たないんだろ?俺が取ってくる。ポカリでいいか?」
「う、うん。ありがとう」


………ふ、ふわーっ!!


なななんだ、この、彼氏感ーっ!!

全身の毛が泡立つし、ゾクゾクした高揚感で、また僕の顔はゆでダコように真っ赤になってる、絶対茹だってる感じがした。
確かに、腰はユルユルしている上に、鈍痛がして立てない感じはした。
そんな居心地の悪いこの空間で身を縮こませている僕に、友哉は僕の頭に軽く手を置いて僕の顔を覗き込むように見ると、イケメンの顔に笑みを浮かべる。

あ、この顔。

あの頃の………ガキの頃によく見た、大好きな友哉そのものの笑顔だ。

だから、さぁ。

一通りヤリつくした情事のあとでのさ、その笑顔はさぁ………反則なんだってばぁ!!

友哉のキャラ変が確変すぎてついてかない、頭が。
上から俺様だろ?
イケメン陰キャだろ?
………今、甘々理想の彼氏風だろ?

友哉が一戦交えた後を感じさせないくらい軽やかな足取りで部屋から出ていくと、僕は体中の体温が一気に上昇するのが分かった。


………やべぇ。


僕はどうしたらいいんだ?
マジで、どんな態度を取ったらいいんだよ???

あぁーっ!!

考えれば考えるほど八方塞がりになって、僕は頭から布団を被って、小学生がするかくれんぼにみたいな、安直な方法で身を隠す手段に出た。

「円佳?何?ミノムシ?」
「………いや、違う」
「ポカリ、持ってきた」
「………ありがと」
「飲める?」
「え?」
「口移し、してやろうか?」
「!?」
「冗談だよ。………なんてな」
「!!」

体に力を入れた瞬間、使いモノにならない体を友哉に抱きあげられた僕は、「ひぃぃ」って情けない声を上げてしまった。
そんな我を忘れてしまうくらい動揺しまくっている僕に、冷たい友哉の唇が僕のに引っ付いたと思ったら、口の中を割って入る舌から勝手知ってるポカリの味がスッと入ってきて、そのままノドを通り抜ける。

…………いや、いやぁ。
動揺している場合じゃないよ?

友哉のことは好きだけど。

なんたって相思相愛なんて、鳥肌が立つくらい嬉しいけど。
数々の友哉のキャラ変とか、どうやって夢のような合コン会場から………怒鳴り散らしながら僕を連れ帰ったのかとか。
あと、僕を守ってたってどういうことなのか。

僕の中で、友哉のコトでふに落ちないことだらけで。

僕はまず、それを解消しないことには、いくら相思相愛だろうと、僕の中で色んなことに消化不良を起こしたままじゃ、納得できないと思ったんだ。

「と、友哉……ちょっと、待って!!分からないことが多すぎて………。ちゃんと、説明してくれない?………友哉の本当が………友哉のことがちゃんと知りたい」
「どこから?知りたい?全部?」
そんな友哉は優しげで、それでいて余裕綽々で、だから僕は、つい言ってしまった。
「………セ、セーブしたところから」
「………セーブしたトコって、どこだよ」
「え?………えと、えと。中学入学したあたりから?」
「………長ぇよ」
「………え?」





ー✳︎ー✳︎ー

チャララリーン。

『RPG マドカとトモヤのレンアイにっき』

『プレーヤーをせんたくしてください』

  マドカ
→→トモヤ

ピコ。

→→セーブしたところから
  はじめから

チャリーン。






円佳の笑顔が好きだったんだ。

俺がミスしても、監督に怒鳴られても、絶対に笑顔で「オッケー!オッケー!次いこ、次!!」って盛り上げてくれるし。
小さいし、クリっとした大きな目のおかげで何回も女子に間違われてさ。
おかげで男女混成チームと勘違いされていた時期もあり、「混成の方が勝ち上がりやすいから、混成でチーム登録する?」なんて冗談までカマすから、円佳はみんなからも好かれてて。

それでも。
俺の一番は、円佳で。
円佳の一番は、俺で。

それはコートから離れても、変わらない。

だから………。

齢12で恋愛対象が女の子でも男の子でもなく、〝円佳〟だっていうことに、俺は気付いてしまったんだ。
円佳はどうだか分からないけど、母さんと円佳のお父さんが付き合ってるってのも薄々勘づいていたし、母の友人の腐女子やオッサンみたいに豪快なオバさんに囲まれて育つと、所謂、俺は〝耳年増〟みたいな状態になってしまって。
気が付けば、早熟……。
よく言えば妙に大人びた変な子どもに育っていた。
そんな他の人とは違う部分を自覚すると、人間はどうしても隠したいという心理が働くらしい。
鈍感で相変わらず距離が近い円佳と一緒にいるのが恥ずかしくなって、胸のドキドキを悟られたくなくて………。

俺は、バレーボールで声をかけられていた私立中学に進学して、円佳から逃げることを選択する。

遊ぶ友達も少しずつ変えて、だんだん円佳を遠ざけて。
忘れようと。
円佳を忘れてノーマルな人間になろうと決意して、誰にも気付かれないように強がって………。
俺は一人、私立中学に進学したんだ。

ー✳︎ー✳︎ー







「ちょっ!ちょっとタイム!!その頃から好きならそう言えよ!!」

友哉の話に水をさすようで悪かったけど、そうツッこまずにはいられなかったんだ。

「言えるかよ!俺はおまえほどバカで鈍くないんだよ!」
「あー、そーですか。そーですか。続き!!早く話せよ、友哉」
「おまえが話の腰を折って、止めたんだろ!!」
「え?そうだっけ?」

そう怒ったように言う友哉の顔は、なんだか恥ずかしいそうに笑っていて、僕は少し気が楽になったんだ。








ー✳︎ー✳︎ー

「アイツ。ほらY中の11番。アイツいい動きしてんな」

同じ1年で似たような身長の相原が言った視線の先には、地元の公立で相変わらずバレーを続けていた円佳がいた。
小さいのはそのまま、先輩でも臆する事なく声をかけて弱いながらも雰囲気のいいチームを作ってて………。

羨ましいな、なんて思ったら………。

試合の度に余計円佳から目が離せなくなってしまった。
所詮、俺なんて強いチームなんて我が強いヤツが多いし。
その中じゃ、平凡より少しだけ上手い程度の俺なんて、本当に才能あるヤツに埋もれて、バレーボールが、微妙につまんなくなってきた頃だったんだ。
さらに同級生のコイツ、相原なんて似たような体型でポジションも全く一緒で、しかもジャニーズみたいな面構えしてるくせに、妙に俺に突っかかってくるし嫌なヤツで。

………つまんねぇ、本当。

何もかもつまんねぇって考えてた矢先、相原の言った衝撃的な言葉に、俺は冷や水を浴びせられたような感覚に陥った。

「アイツ、めちゃめちゃカワイイじゃん。あんなウブそうなヤツ、俺、すぐ落とせるぜ?」

………その一言で、俺は元々苦手な相原が一気に嫌いになってしまう。

円佳をこれ以上好きにならないようにあえて距離を置いたのに、俺が側にいてやれない事実が、余計に円佳を危険に晒してしまうとは、全く想像出来なかったから………しくじった、ちゅーか間違った。
この瞬間、人生の選択で初めて間違った選択をしたって悟ったんだ。

ー✳︎ー✳︎ー







「そんな歳で、人生の選択を誤ったって早すぎだろ?!ってか、相原って知り合い?!バレー部!?だって帰宅部って!!」
「高校ン時だろ?中学まではバレー部だったよ。まぁ、素行が悪すぎて3年になる前に、学校まで辞めたけどさ」
「素行?」
「中坊のくせに、タバコとか女とかケンカとか。それでバレー部も学校も辞めさせられたんだよ」
あ、あんなに人当たりもよくってイケメンな相原に、そんな衝撃的過去があったなんて………人は見かけによらないんだな。
まんまと騙されたよ、僕。
「まぁ、バレー部練習中に相原が暴れてさ。それが原因で、膝やっちまったんだけどさ」
「………え?」






ー✳︎ー✳︎ー

気が付いたら、俺はコートの上に倒れ込んでいた。
2年になってようやくレギュラーにもなれて、少しだけつまらない生活が、楽しくなってきた頃で。

なのに………。

無様に倒れて、体育館のライトが眩しくて仕方ないのに、それどころじゃないくらい、左膝が痛かった。
アタックを打つためにジャンプして、滞空時間を感じていた時、左側に何かがぶつかってきて。
バランスを崩した俺は、変な体勢のまま左足から着地して………膝に、鋭い衝撃が走る。

………やべぇ。

やっちまったかも。

ってか………なんで………?

コートサイドがなんだか騒がしくて、その先に視線を動かすと、最近部活にも学校にも顔を出さなくなった相原が、先輩を殴って後輩に蹴りをカマして………。

その光景を目の当たりにして、俺は「……終わった」って思ったんだ。

気持ち悪い話だけど、俺の左膝の半月板がズレて。

先輩や後輩の何人かは腕を骨折して………。

強豪のバレー部は、たったこんだけの事で、たった1人のバカのせいで一瞬にして壊滅してしまったんだ。

………なら、どうせもう。

バレーボールもやる気ないなら………。

せめて、諦めた気持ちを取り戻すことはできないだろうか。

円佳への………。

円佳が好きな気持ちをもう一度、取り戻すなんて………。

無理、なんだろうか………?って、思ったんだ。
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