妹よりブスな姉の幸せ

Saeko

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第七章 ヒロインが出ていった後の王都の人々

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「アンジェーヌ。何処にいるの?わたくしの可愛い娘、アンジェーヌ。ねぇ旦那様!早く、早くアンジーを見つけて下さいな。きっと修道院へ行く途中、何処かで道に迷ったに違いないわ。帰り道も分からなくて泣いているのよ。あぁ……。なんて可哀想なアンジェーヌ。母様が抱き締めてあげるから早く帰ってきて頂戴。」

娘のアンジェーヌが失踪した翌日、我が家に届いたアンジェーヌからの離縁状を見た私の妻 サーシャリンデル(愛称 リンディ)は、ショックのあまり寝込んでしまい、毎日寝台の上で上記の言葉を言っているのだ。

アンジェーヌが失踪した直接の原因は、我が公爵家に婿入りする予定であったハワード殿下が、我が家の次女であるリーナカレンデュナ(愛称 リーナ)への懸想から、アンジェーヌとの婚約の破棄し、リーナと婚約をし直したいというだけでなく、アンジェーヌを愛妾として娶りたいという、なんとも非礼な仕打ちのせいなのだ。が、リーナに対する私達夫婦の淑女教育が甘かったせいで、彼女リーナはとても我儘な娘に育ってしまい、挙句姉の婚約者を奪い取るという暴挙に出た事も原因の一つと言えよう。だが、これら全ての要因を、分かっていながらも、何もしなかった私達夫婦にも大いに責任があると言える。

いや、本当は、当主である私が一番悪いのかもしれない。現に、領地経営の勉強をしていたのはアンジェーヌのみで、殿下は我が家へ来られてもリーナとばかり話しており、何もしなかった事を知っていたのだからだ。
だが私は、不敬を恐れ未来の義理の息子になる殿下へ、苦言を呈する事をしなかった。
その事が、ますます殿下の態度を傲慢にしていったのだろうと思うと、激しい後悔の念に襲われた。

思えばアンジェーヌは、そんな私達夫婦 いや、私達家族の事も殿下の事も、早くから見限っていた様に思う。
リーナのデビュタントの日に倒れた頃から、アンジェーヌが私達に向ける目付きや言葉使い、そして態度が変わっていったのだから。

特に彼女の、時折見せる、何処か全てを諦めているかのような表情が如実にそれを物語っていた様に思えるのだ。

ただそれとは別に、アンジェーヌはよくマリヴェル公爵家の領地へよく赴いていたようだった。
公爵家が治める領地へは、王都から馬車で半日もあれば到着する場所にあるのだが、アンジェーヌは学園が休みになる度に領地へ行き、領民達の話に耳を傾けていたと、普段領地を管理させている者から報告を受けていたのだ。
それくらいアンジェーヌは、殿下の分迄領地経営の勉強を頑張ってくれていたんだと思うと、非常に嬉しく頼もしく思っていたのは確かだ。



それにしてもアンジェーヌは何処へ行ってしまったのだろう。
国内の修道院という修道院は全て、人をやって探し尽くしたというのに、どこにも彼女がいないとは。
まさか……リンディが言うように、何処で道に迷って?迷って森の中に入って……。盗賊や野生動物達に襲われた……。
えぇい!そんな事、今は考えるべきでは無い!

妻のお茶会を台無しにしてしまったリーナの再教育をしながら、虱潰しらみつぶしにアンジェーヌの行方を探すと決めただろうが!
しっかりするのだ、マリヴェルよ!


アンジェーヌ
私達の心優しい宝物
絶対に見つけ出してみせるから、それまで元気でいるのだぞ。

~マリヴェル公爵side 終~
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