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第七章 襲撃
第9話 誘拐 1
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「悪く思わないで下さい。此処で大人しくしていてくれたら、俺が貴女に危害を加える事はありませんので。」
そう言って、黒ずくめの男はドアを閉めて出ていった。
一見すると、ホスト崩れの様な男のようだった。
「ふぅ……で?なんで私がこうなったのかを整理してみないといけないわね。」
私、さくら濱銀行頭取の孫娘 濱田菜々子は、何処かの高層マンションの一室の、居室らしい部屋に閉じ込められている真っ最中だ。
数時間前。
何故こんな曖昧な言い方か?っていうね。手元にスマホがないのと、部屋の中に時計がないから、今の正確な時刻が分からないのよ。
記憶があるのは、今日は17:00きっかりに業務が終了して、通用口から出た所を襲われたところまで。
人の良さそうな男性から道を聞かれて、それに答えようとした時、後ろから羽交い締めにされてしまったんだけど、一応これでも有段者のお兄様から護身術を習っている私としては、咄嗟に後ろの男に肘鉄をお見舞いしたのよ。
で、その男が怯んだ隙を狙って逃げようとしたら、道を聞いてきた男に薬を嗅がされて、気が付いたら此処にいたって訳。
「あの人の良さそうなのまで、まさかのグルとか……。」
でも、私はあんまり焦っていないの。
だって、私をこんなところに閉じ込めても、お兄様が直ぐに突き止めてしまうんだから。
それに、主犯はさっきの男じゃないわね。
それは、私が意識を完全に失う前に聞こえてきた女の声。
「早くその女を乗せなさいよ!もぉグズね~。だからなかなか売れないんじゃない?」
と言っていたから。
あの声、なんか記憶にあるんだけど……。
それにしても暇ね~。
ま、いっか。
どうせもう直ぐ助けが来ちゃうものね。
私はそう言って右耳に着けたピアスの宝石を触ったの。
~濱田 菜々子side 終~
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。
おかしい!
こんな時刻なのに菜々が帰って来ない!俺は可愛い義妹の菜々子が帰って来ない事が心配で、屋敷の中をずっとイライラしながら歩いている。
菜々子(通称 菜々)は、俺が5歳の頃濱田家にやって来た。所謂養女というやつだ。
菜々の本当の母親は、母さんの妹だ。
叔母は菜々を産んだ後、産後の肥立ちが悪くて呆気なく亡くなってしまったらしい。
妻を亡くした叔父は、最初の頃は必死で菜々を育てようとしたらしい。だが、若い男が一人で乳飲み子を育てるのは難しかった様で、叔母の実家である俺の家に養女にして貰えるか?と頼って来たと聞いた。
その頃母さんは、俺の妹を突然死で亡くしていて、毎日悲しみの中にいたらしいんだけど、菜々が来てくれた事で、やっと元気を取り戻したらしい。
初めて俺が菜々を抱っこさせて貰った時。
菜々は小さな手を必死で伸ばし、俺の顔をペチペチ叩くと、ニッコリ笑ったんだ。
俺はその瞬間、ハートが撃ち抜かれた気がした。
可愛かったなぁ……。
菜々が俺をにぃにと呼びながら、トテトテと俺の後をついて来る様になった頃。
「兄ちゃま~」と言って抱きついてきたり、「ご本読んで~」と膝に座ってきたりした幼い頃。
そして月日は流れ、菜々は美しく利発に成長し、今や爺さんが立ち上げ父さんが大きくしたこのさくら濱銀行で、俺の右腕になると言って頑張っている。
菜々は当然、自分が養女である事を知らない。
俺達家族は菜々に話すつもりが無かったから。
そして俺の菜々への気持ちも、まだ伝える気では無かった。
今は兄妹の関係で良いと思っていたから。
まさか!俺の知らないところで男と会っているのか?
恋人が出来た?
悶々としながらソファに座ったり立ったりを繰り返していたら、俺の部屋をノックする音が聞こえた。
菜々!?
俺が勢いよく部屋のドアを開けると、そこには顔面蒼白の百合ちゃんが、婚約者の連城駿斗君に支えられながら立っていた。
「流星さん……菜々が……菜々子が……。」
「菜々?菜々がどうしたの?」
「菜々……私をおびき寄せる為に……私を白金に差し出す為に……人質として、拐われ……」
百合ちゃんはそう言うと、その場に崩れ落ちてしまった。
「りり!!しっかりしろ!」
連城君が抱き起こす。
百合ちゃんは、泣きながら俺と菜々に「流星さんごめんなさい。ごめんね…菜々……。」と謝っていた。
菜々が誘拐?
巫山戯んなよ?
菜々!菜々子!!
今行く!待ってろ!
俺は、菜々のピアスに仕込んであるGPSで菜々の居場所を特定し、同時に警察に通報して、菜々を救出する為に愛車を走らせた。
~濱田 流星side 終~
そう言って、黒ずくめの男はドアを閉めて出ていった。
一見すると、ホスト崩れの様な男のようだった。
「ふぅ……で?なんで私がこうなったのかを整理してみないといけないわね。」
私、さくら濱銀行頭取の孫娘 濱田菜々子は、何処かの高層マンションの一室の、居室らしい部屋に閉じ込められている真っ最中だ。
数時間前。
何故こんな曖昧な言い方か?っていうね。手元にスマホがないのと、部屋の中に時計がないから、今の正確な時刻が分からないのよ。
記憶があるのは、今日は17:00きっかりに業務が終了して、通用口から出た所を襲われたところまで。
人の良さそうな男性から道を聞かれて、それに答えようとした時、後ろから羽交い締めにされてしまったんだけど、一応これでも有段者のお兄様から護身術を習っている私としては、咄嗟に後ろの男に肘鉄をお見舞いしたのよ。
で、その男が怯んだ隙を狙って逃げようとしたら、道を聞いてきた男に薬を嗅がされて、気が付いたら此処にいたって訳。
「あの人の良さそうなのまで、まさかのグルとか……。」
でも、私はあんまり焦っていないの。
だって、私をこんなところに閉じ込めても、お兄様が直ぐに突き止めてしまうんだから。
それに、主犯はさっきの男じゃないわね。
それは、私が意識を完全に失う前に聞こえてきた女の声。
「早くその女を乗せなさいよ!もぉグズね~。だからなかなか売れないんじゃない?」
と言っていたから。
あの声、なんか記憶にあるんだけど……。
それにしても暇ね~。
ま、いっか。
どうせもう直ぐ助けが来ちゃうものね。
私はそう言って右耳に着けたピアスの宝石を触ったの。
~濱田 菜々子side 終~
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。
おかしい!
こんな時刻なのに菜々が帰って来ない!俺は可愛い義妹の菜々子が帰って来ない事が心配で、屋敷の中をずっとイライラしながら歩いている。
菜々子(通称 菜々)は、俺が5歳の頃濱田家にやって来た。所謂養女というやつだ。
菜々の本当の母親は、母さんの妹だ。
叔母は菜々を産んだ後、産後の肥立ちが悪くて呆気なく亡くなってしまったらしい。
妻を亡くした叔父は、最初の頃は必死で菜々を育てようとしたらしい。だが、若い男が一人で乳飲み子を育てるのは難しかった様で、叔母の実家である俺の家に養女にして貰えるか?と頼って来たと聞いた。
その頃母さんは、俺の妹を突然死で亡くしていて、毎日悲しみの中にいたらしいんだけど、菜々が来てくれた事で、やっと元気を取り戻したらしい。
初めて俺が菜々を抱っこさせて貰った時。
菜々は小さな手を必死で伸ばし、俺の顔をペチペチ叩くと、ニッコリ笑ったんだ。
俺はその瞬間、ハートが撃ち抜かれた気がした。
可愛かったなぁ……。
菜々が俺をにぃにと呼びながら、トテトテと俺の後をついて来る様になった頃。
「兄ちゃま~」と言って抱きついてきたり、「ご本読んで~」と膝に座ってきたりした幼い頃。
そして月日は流れ、菜々は美しく利発に成長し、今や爺さんが立ち上げ父さんが大きくしたこのさくら濱銀行で、俺の右腕になると言って頑張っている。
菜々は当然、自分が養女である事を知らない。
俺達家族は菜々に話すつもりが無かったから。
そして俺の菜々への気持ちも、まだ伝える気では無かった。
今は兄妹の関係で良いと思っていたから。
まさか!俺の知らないところで男と会っているのか?
恋人が出来た?
悶々としながらソファに座ったり立ったりを繰り返していたら、俺の部屋をノックする音が聞こえた。
菜々!?
俺が勢いよく部屋のドアを開けると、そこには顔面蒼白の百合ちゃんが、婚約者の連城駿斗君に支えられながら立っていた。
「流星さん……菜々が……菜々子が……。」
「菜々?菜々がどうしたの?」
「菜々……私をおびき寄せる為に……私を白金に差し出す為に……人質として、拐われ……」
百合ちゃんはそう言うと、その場に崩れ落ちてしまった。
「りり!!しっかりしろ!」
連城君が抱き起こす。
百合ちゃんは、泣きながら俺と菜々に「流星さんごめんなさい。ごめんね…菜々……。」と謝っていた。
菜々が誘拐?
巫山戯んなよ?
菜々!菜々子!!
今行く!待ってろ!
俺は、菜々のピアスに仕込んであるGPSで菜々の居場所を特定し、同時に警察に通報して、菜々を救出する為に愛車を走らせた。
~濱田 流星side 終~
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