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第八章 断罪された人々
第2話 断罪のその後 ~白金皐月side~
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「あら、オーナー。いらっしゃい。」
「瑞穂は?」
「いるわよ。瑞穂ちゃ~ん?ご指名よ~。」
「はぁい。」
ママに呼ばれ、指名してくれたお客様の席に座る。
「いらっしゃいませ、矢嶋様。」
「いつものを頼もうか。」
「はい。少々お待ち下さい。」
私はオーナーの注文を伝える為に一旦席を立ち、ママの元へ行ってまた席に戻ってきた。
此処は 『スナック キャバレー愛』という所謂場末のスナックだ。
高級クラブと違い、黒服なんていないから、お客様の注文は自分で伝えに行かないといけない。
そう。私は今、このキャバレー愛で、瑞穂としてホステスをしている。
私達家族は、白金……いや櫻井のお屋敷を追い出され、日雇いの仕事で食いつなぎ、住まいを転々としながら、この地に辿り着いた。
旦那で、元社長の白金貴生は、午後1時からパチンコ店で働き、それが終わると、そのまま夜間警備のバイトへ行き、午前8時過ぎに帰宅する。
私 皐月は、昼間はファミレスの皿洗いをし、夜はこの店でホステスとして働いているのだ。
貴生はまだ、元の世界に返り咲きたいと思っている様だったが、私はそんな事を思わなくなっていた。
何故なら、今私には好きな人がいるから。
彼は、私達家族に住まいを貸してくれ、私にキャバレー愛のママに紹介してくれた恩人。
矢嶋様は、他にもいろいろ不動産や店を持っている人らしく、この辺では有名人なのだそうだ。
最近、最愛の奥様を亡くされ、寂しいと言っていた。
そんな矢嶋様をお慰め出来たら…といつしか思ってしまったのは、私にとって自然な事だった。
矢嶋様には、お子様が3人いるのだが、皆それぞれ自立して、店や不動産の管理をしてくれていると聞いている。
うちの娘と違い、立派だなぁと思ってしまう。
その娘の桃花も、萌々という源氏名でこの店で働いているが、昔の栄光がまだ抜けきれないのか、変わらずの令嬢ぶりだ。
その為、指名客がちっともついてくれない。
仕方なく私のヘルプとして付かせるのだけど、大酒飲みのくせに酒癖が悪く、
「ちょっとぉ~、もっとお金出しなさいよぉ~。こんな安いのじゃちっとも酔えないじゃな~い。大体ね~、萌々はお嬢様なの~。こんなとこで働いてる事がおかしいんだから!」
と言っては、お客様から反感を買い、
「二度と俺の所に付くな!」
と言われ、何度か取っ組み合いの喧嘩になりそうになった。
流石に問題行動が多いホステスがいては、客が来ないから店に来ないで欲しいとママに言われてしまい、桃花を店に連れて来れなくなった。
仕方ない。
こんな風に育ててしまったのは、私達親の責任なのだから。
かつて百合香さんに言われたとおりだと思った。
店に行けなくなった事で、桃花は毎日家で暴れる様になった。
私は桃花の機嫌を損ねないように、
「お仕事はママが頑張るから、桃花はお家にいてね。あ!そうだ。ほら、いずれはお嫁に行くんだから、花嫁修業でクッキング教室に行ったらどうかしら?」
と言ってみた。
「花嫁修業かぁ……。そうだね、桃花も結婚相手を探さないとね。利くんに嫌われちゃったんだから……。」
遠い目をしている桃花の手には、かつて貴生も取材を受けた事がある経済誌があった。
その表紙には、桃花が犯した罪の被害者である濱田菜々子さんが、実兄だと思っていたが実は従兄妹だった流星さんに腰を抱かれ笑顔で写っている。
彼等はあの事件がきっかけで婚約することにしたそうだ。
逆にあの事件を起こした事により、桃花は京極利樹さんとの婚約を破棄されてしまった。
それもあっただろうし、やっと就く事が出来た仕事でさえ無くした可哀想な桃花。
「きっと美味しいお料理がつくれる様になったら、利樹さんよりいい男と巡り会えるわよ。」
私は、桃花のクッキングスクールの授業料を稼ぎ出す為に、お店で積極的に席に付いたのだが、なかなか指名客が増えなかった。
考えてみれば、こんなキャバレーに金持ちが来るわけはない。
仕方なく私は、枕営業をするようにした。
まさかその為に、あんな事になるとは思ってもみなかったけど…。
「瑞穂は?」
「いるわよ。瑞穂ちゃ~ん?ご指名よ~。」
「はぁい。」
ママに呼ばれ、指名してくれたお客様の席に座る。
「いらっしゃいませ、矢嶋様。」
「いつものを頼もうか。」
「はい。少々お待ち下さい。」
私はオーナーの注文を伝える為に一旦席を立ち、ママの元へ行ってまた席に戻ってきた。
此処は 『スナック キャバレー愛』という所謂場末のスナックだ。
高級クラブと違い、黒服なんていないから、お客様の注文は自分で伝えに行かないといけない。
そう。私は今、このキャバレー愛で、瑞穂としてホステスをしている。
私達家族は、白金……いや櫻井のお屋敷を追い出され、日雇いの仕事で食いつなぎ、住まいを転々としながら、この地に辿り着いた。
旦那で、元社長の白金貴生は、午後1時からパチンコ店で働き、それが終わると、そのまま夜間警備のバイトへ行き、午前8時過ぎに帰宅する。
私 皐月は、昼間はファミレスの皿洗いをし、夜はこの店でホステスとして働いているのだ。
貴生はまだ、元の世界に返り咲きたいと思っている様だったが、私はそんな事を思わなくなっていた。
何故なら、今私には好きな人がいるから。
彼は、私達家族に住まいを貸してくれ、私にキャバレー愛のママに紹介してくれた恩人。
矢嶋様は、他にもいろいろ不動産や店を持っている人らしく、この辺では有名人なのだそうだ。
最近、最愛の奥様を亡くされ、寂しいと言っていた。
そんな矢嶋様をお慰め出来たら…といつしか思ってしまったのは、私にとって自然な事だった。
矢嶋様には、お子様が3人いるのだが、皆それぞれ自立して、店や不動産の管理をしてくれていると聞いている。
うちの娘と違い、立派だなぁと思ってしまう。
その娘の桃花も、萌々という源氏名でこの店で働いているが、昔の栄光がまだ抜けきれないのか、変わらずの令嬢ぶりだ。
その為、指名客がちっともついてくれない。
仕方なく私のヘルプとして付かせるのだけど、大酒飲みのくせに酒癖が悪く、
「ちょっとぉ~、もっとお金出しなさいよぉ~。こんな安いのじゃちっとも酔えないじゃな~い。大体ね~、萌々はお嬢様なの~。こんなとこで働いてる事がおかしいんだから!」
と言っては、お客様から反感を買い、
「二度と俺の所に付くな!」
と言われ、何度か取っ組み合いの喧嘩になりそうになった。
流石に問題行動が多いホステスがいては、客が来ないから店に来ないで欲しいとママに言われてしまい、桃花を店に連れて来れなくなった。
仕方ない。
こんな風に育ててしまったのは、私達親の責任なのだから。
かつて百合香さんに言われたとおりだと思った。
店に行けなくなった事で、桃花は毎日家で暴れる様になった。
私は桃花の機嫌を損ねないように、
「お仕事はママが頑張るから、桃花はお家にいてね。あ!そうだ。ほら、いずれはお嫁に行くんだから、花嫁修業でクッキング教室に行ったらどうかしら?」
と言ってみた。
「花嫁修業かぁ……。そうだね、桃花も結婚相手を探さないとね。利くんに嫌われちゃったんだから……。」
遠い目をしている桃花の手には、かつて貴生も取材を受けた事がある経済誌があった。
その表紙には、桃花が犯した罪の被害者である濱田菜々子さんが、実兄だと思っていたが実は従兄妹だった流星さんに腰を抱かれ笑顔で写っている。
彼等はあの事件がきっかけで婚約することにしたそうだ。
逆にあの事件を起こした事により、桃花は京極利樹さんとの婚約を破棄されてしまった。
それもあっただろうし、やっと就く事が出来た仕事でさえ無くした可哀想な桃花。
「きっと美味しいお料理がつくれる様になったら、利樹さんよりいい男と巡り会えるわよ。」
私は、桃花のクッキングスクールの授業料を稼ぎ出す為に、お店で積極的に席に付いたのだが、なかなか指名客が増えなかった。
考えてみれば、こんなキャバレーに金持ちが来るわけはない。
仕方なく私は、枕営業をするようにした。
まさかその為に、あんな事になるとは思ってもみなかったけど…。
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