お飾り妻の笑顔の先は【完結】

Saeko

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真実

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傷口が完全に塞がり、退院を午後に控えた俺は、退院の為の支度をしている。

大部屋だったが他の病人は誰もおらず、俺はただ一人荷物を纏めたり不用になった物を捨てたりの作業をしていると、病室のドアをノックする音が聞こえ、顔を上げた。
と、そこにいたのは絢香を伴った一条尚斗氏とそのご家族の面々だった。

「退院おめでとうございます、末本さん。」

尚斗氏から大きな花束を渡され戸惑っていると、

「この度は、私共の子供たちがご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。本来であればもっと早くに伺うべきでしたが、後始末に追われこの様に遅くなってしまいました事、本当に申し訳なく思っております。」

「いえいえ。大丈夫です。大丈夫ですから、どうか顔を上げてください、一条さん。」

俺に対して深々と頭を下げる尚斗氏の父親である一条社長に対し、慌てて謝罪を受け入れた。

そしておもむろに疑問に思った事を聞いてみる事にした。

「絢香さんが別れさせ屋の女優だという話は本当なんですか?」

「いいえ。それは嘘です。」

淡々と答える尚斗氏に呆れながら、

「何故そんな嘘を言ったのか?理由を聞いても?」

と言うと、

「一紀さんのお母様を信じさせる為です。そう言えば、私が一紀さんの前から消えても、一紀さんが責められる事はないと思ったからです。」

「そ、そうでしたか…。」

嘘も方便ってやつなのか?
まぁ、絢香は元から俺の手の届く女じゃなかったからな。
と心の中で苦笑いをしていると、

「ですが、貴方の事を心配している女性がいるのは本当ですよ?」

と尚斗氏から言われ驚いた。

「彼女はいつも貴方の傍で貴方を見ていてくれています。とても素敵な女性ですよ。」

微笑みながら俺に話してくれる絢香は、嘘はついていませんよ。と目で語ってくれた。

「そ、うですか。分かりました。……と、ところで萌佳、さんは……その後…」

「奈倉萌佳は店に来た警察に捕らえられ、末本さんが出された被害届の為に取り調べを受けています。」

そうか……あの後警察が来て、被害届の話になって、書いた覚えがある。
一瞬出すのを止めようかとも思ったが、萌佳の為に出すべきだろうと思ったからだ。
その考えは、絢香も同じだったらしい。

「あの子の周りには、ちゃんとした大人がいませんでした。だから、あんな人間になってしまったのでしょう。可哀想ですが、奈倉家にいた当時の私に出来ることはありませんでした。ですが、妹が今回の事で少しは反省してくれる事を祈っているんです。ただ……一紀さんには申し訳ない事になってしまった事は、心苦しく思っております。本当に申し訳ありませんでした。」

「いいえ、絢香さん。貴女は悪くありません。悪いのは萌佳の方なんです。萌佳は姉である貴女を両親から守るべきでした。でも萌佳はそれをしなかった。貴女を虐げた大人達と同じ様に貴女を蔑んだ。たった一人の姉だった貴女を、萌佳も見捨てたんです。」

「一紀さん……。」

「ですが俺も人の事は言えません。萌佳を止められなかった。萌佳がしきりと名前を出していた『二条さん』という方に嫉妬していました。イケメンで金持ちで…と言いまくっていましたからね。あの日Butterflyで萌佳が『二条』と名前を呼んだ時、初めて貴方が二条だったと分かったんですがね。」

「プリマヴェーラで金を使う事は、彼女を孤立させる為の作戦でした。」

アレは作戦だったのか……

「子供の頃、絢香が奈倉のお祖母様から貰った物を、アノ女萌佳は何もかも強引に奪っていったんです。そして、ボロボロにした状態で絢香に返してきたそうです。だから、今度は俺が奪ってやろうと思い、彼女の接客は一切受けず、彼女より下位の女の子を指名する事で彼女の自尊心を煽り、俺の知人にも絶対に彼女を指名しないようにさせました。そして、彼女の客をButterflyに連れて行き、Butterflyの接客を受けて貰う。当然Butterflyの接客に心を奪われ、客は二度とプリマヴェーラには行かなくなる。それにより、自分に貢いでくれる客がいなくなり、自棄になった彼女は無双するとふんだんです。」

「私が一紀さんに近づいたのも同じ理由です。自分のモノを取られる事を極端に嫌う萌佳だからこそ、貴方を萌佳から奪ってやろうと思いました。騙し討ちの非礼をお許し下さい。本当に申し訳ありませんでした。」
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