海より深い隠れ御曹司の溺愛

Saeko

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第一章 理不尽

第12話 自分勝手な人々 1 (沢木翔太の場合)

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准子に会いたい。会って話がしたい。

そう思っていた俺の耳に、准子が会社に現れたという情報が入った。
俺は准子と話がしたいが為に、ロビーに下りて准子を待ち伏せしていた。

来た!

エレベーターが到着を告げる音を鳴らすと、オフホワイトのワンピースを着た准子がエレベーターを降りてきた。

そういえば、いつもカッチリとした秘書としてのスーツ(しかも先輩秘書に言われ、地味な色めのスーツだが)を着ている准子だが、仕事が休みの時は割とゆるふわな服装だった事を思い出した。

「准子!」
と呼びかけ走り出す。
すると准子は、俺の声を聞き顔を上げて俺を見た。次の瞬間ガタガタと震え出したと思ったら、顔面蒼白になった後そのまま床に身体を打ち付ける様に倒れてしまった。

「「准子!」え?」

俺の声に…。誰だ?誰の声が重なった?

声の主が分からなかった俺は、その声が後ろから聞こえた気がして振り向こうとするが、
「どきなさい!」
と言われ、物凄い勢いで腕を引かれた為に足がふらついてしまった。

「何するんです……え?副社長!?」
見ると副社長が准子の上半身を抱き起こし、彼女の頬を叩いている。
「准!准!しっかりしろ!准!!」

副社長の必死な様子に手を出す事も准子の傍に行く事も出来ず、立ち竦むしかなかった。

「受付……あー、佐倉さんと桐山さん。どちらかは救急車を呼んで下さい。もう一方は産業医の眞山先生に連絡を。先生に毛布を持ってきて貰って下さる様に伝えて下さい。それから手塚さんは、山下さんのご家族に連絡を取って下さい!」
テキパキと指示を出す副社長に抱かれている准子はぐったりとしていて、顔は相変わらず真っ青だ。

何が起こった?とばかり、来客や外回りから帰ってきた者、これから出る者達が立ち止まる度に、手塚課長は人払いをしている。
勿論俺も他の人と同じ様に、部署に帰る様に言われたけれど、この場を離れる事が出来なかった。

「倒れた時頭を打ったかもしれない。だから動かさない方がいい。」と眞山先生からの指示が出た為に、副社長は准子を抱いたまま、彼女の腕をさすったり呼びかけたりしていた。

救急車がサイレンを鳴らしながら走ってきた。と同時位に、准子の兄の悠介さんが駆け込んで来たんだ。
悠介さんはチラリと俺の方を見たが、副社長に抱かれてぐったりしている准子を見つけると、彼女の傍に駆け寄り膝まづいてた。

「准子!准子!!」
と必死に呼びかける悠介さんだったが、その呼びかけに准子が反応する事はない。

少しすると、救急隊員がストレッチャーを押して社屋に入って来た。
「怪我人はどちらですか?」
と問われた為、悠介さんが立ち上がり、
「此方です!」
と言って立ち上がる。

救急隊員が人垣の間を進み准子の所まで来ると、副社長に状況を聞く隊員と眞山先生に脈拍等や呼吸等について聞く隊員とに分かれた。
ひとしきり確認が終わると、担架の様に低くしたストレッチャーに乗せられた准子は、そのまま救急隊員によって救急車に乗せられた。
「付き添いの方は一緒にお乗り下さい。」
と言われ、当然准子と一緒に乗ったのは兄の悠介さんだ。

准子が乗った救急車がサイレンを鳴らし遠ざかって行く。
それを見送っていた俺の肩をポンと叩いた人を見ると、
「沢木翔太君。前に山下さんが倒れた時にも君はいたよね?山下さんが倒れる時、必ず君は山下さんの傍にいるようだけど?もしかして、彼女が倒れる原因は君にあるんじゃないかな?」
と、冷やかな目で俺を見ながら話す副社長。

准子が倒れる原因は俺……。
多分……いや十中八九そうだろう。
彼女を傷つけたという自覚は十分ある。

だけど……だからこそ、俺はただ准子に話を聞いて貰いたいだけ・・。ただそれだけなんだ。
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