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序章 無の旅人編
02.箱の外のお人形
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記憶のない男シキと、彼の目の前へ突如現れた寡黙な少女ネオン。
二人は森の中を暴れる、猪のような化け物に襲われていた。
再び飛び掛かる化け物を前に、シキは恐れを殺し睨み付ける。
すれ違いざまに身にまとっていた黒のケープを投げつけ、獣の視界を奪い去った。
真っ黒な布を被せられた化け物は混乱し、その場で地団太を踏みながら顔を振り回す。
化け物の意識が逸れたのを確認すると、無防備に立つネオンの肩を抱き、彼女を庇うように茂みへ身を潜めた。
「おい、逃げるぞ」
茂みの根元でシキは囁く。まともにやり合って勝てる相手ではない。命が惜しいなら逃げ時も重要だ。 シキは返答を聞くよりも先にネオンを小脇に抱え、化け物に注意しつつ道沿いの茂みを突き進む。
「お前、奴が何なのか知っているのか?」
どこか口惜しそうに、化け物のいた方角を見つめるネオン。
そんな彼女を見てシキは情報を持っているのかと問うも、返答はない。気になって視線を向けると、僅かに首を横へ振っているのが見て取れた。
「……そうか。では質問を変える。お前はあの地で何をしていた? お前の名は? 身分は? 家はどこだ?」
何を問いかけようがネオンは全く口を割ろうとしない。かといって聞こえていないのかと視線を向ければ、返事をするように首を横へ振るばかり。しびれを切らしたシキは、岩陰を見つけるとネオンを下ろし面と向き合う。
「真面目に答えてくれ。私もよく分かっていない。気づけばあの地で目覚めたのだ」
「…………」
「現状お前だけが頼りだ。今こうして化け物から助けた恩義もあるだろう? 答えてくれないか」
「…………」
「…………まさか、喋れないのか?」
コクリ、と少女は小さく頷いた。
シキは思わず目を丸くする。答えないのではなく、答えられないのだ。
ではどうしてそんな少女が森の中などにいたのだろうか。改めて見てみれば、彼女の見た目も違和感があった。
シキの背丈より二回りほど低い身体に、自然の中になど似つかわしくない白黒の豪奢で布地の厚い衣服。まるで屋敷のお嬢様かおもちゃ箱のお人形がそのまま飛び出したかのような、高級感と無機質を併せ持った異様な雰囲気。常にどこか無を見つめるような彼女の表情に、シキは感情の欠片も見出す事が出来なかった。
「お前…………どこから来た?」
それは質問ではない。記憶喪失の男に、言葉を喋れない少女の存在。
そんな二人が人気のない森の中にいた事実。
シキの常識の外で何かが起こっているのだけが、答えを聞くよりも先に伝わっていた。
だがそんな彼の内情などつゆ知らず、ネオンはゆっくりと腕を上げ指先を突き出す。
指の腹が示すのはシキの顔。ではなく、その少し後方の茂みの中であった。
「なんだ……?」
導かれるがままに、シキは視線を指し示す方角へと移す。
そこには両手に収まるほどの小さな獣が、ひょっこりと顔を覗かせこちらを見つめていた。
獣の姿を見て、シキは化け物から逃げている最中であったと思い出す。
彼女にそそのかされるように、話し合いよりも先にやるべき事をネオンに答える。
「そうだな、先に身の安全を確保しよう。私達の事はそこから考えれば……どわぁ!?」
小さな獣を見ていたシキの襟首の後ろを、ネオンが唐突に引っ張った。
「お、お前! いたずらなどしている場合か……ッ!」
生意気な少女を叱ろうと倒れた背に力を入れようとした。その時だ。
パンッ!! と破裂音が響くと同時、小さな獣は黄色い光を放ち、自爆した。
二人は森の中を暴れる、猪のような化け物に襲われていた。
再び飛び掛かる化け物を前に、シキは恐れを殺し睨み付ける。
すれ違いざまに身にまとっていた黒のケープを投げつけ、獣の視界を奪い去った。
真っ黒な布を被せられた化け物は混乱し、その場で地団太を踏みながら顔を振り回す。
化け物の意識が逸れたのを確認すると、無防備に立つネオンの肩を抱き、彼女を庇うように茂みへ身を潜めた。
「おい、逃げるぞ」
茂みの根元でシキは囁く。まともにやり合って勝てる相手ではない。命が惜しいなら逃げ時も重要だ。 シキは返答を聞くよりも先にネオンを小脇に抱え、化け物に注意しつつ道沿いの茂みを突き進む。
「お前、奴が何なのか知っているのか?」
どこか口惜しそうに、化け物のいた方角を見つめるネオン。
そんな彼女を見てシキは情報を持っているのかと問うも、返答はない。気になって視線を向けると、僅かに首を横へ振っているのが見て取れた。
「……そうか。では質問を変える。お前はあの地で何をしていた? お前の名は? 身分は? 家はどこだ?」
何を問いかけようがネオンは全く口を割ろうとしない。かといって聞こえていないのかと視線を向ければ、返事をするように首を横へ振るばかり。しびれを切らしたシキは、岩陰を見つけるとネオンを下ろし面と向き合う。
「真面目に答えてくれ。私もよく分かっていない。気づけばあの地で目覚めたのだ」
「…………」
「現状お前だけが頼りだ。今こうして化け物から助けた恩義もあるだろう? 答えてくれないか」
「…………」
「…………まさか、喋れないのか?」
コクリ、と少女は小さく頷いた。
シキは思わず目を丸くする。答えないのではなく、答えられないのだ。
ではどうしてそんな少女が森の中などにいたのだろうか。改めて見てみれば、彼女の見た目も違和感があった。
シキの背丈より二回りほど低い身体に、自然の中になど似つかわしくない白黒の豪奢で布地の厚い衣服。まるで屋敷のお嬢様かおもちゃ箱のお人形がそのまま飛び出したかのような、高級感と無機質を併せ持った異様な雰囲気。常にどこか無を見つめるような彼女の表情に、シキは感情の欠片も見出す事が出来なかった。
「お前…………どこから来た?」
それは質問ではない。記憶喪失の男に、言葉を喋れない少女の存在。
そんな二人が人気のない森の中にいた事実。
シキの常識の外で何かが起こっているのだけが、答えを聞くよりも先に伝わっていた。
だがそんな彼の内情などつゆ知らず、ネオンはゆっくりと腕を上げ指先を突き出す。
指の腹が示すのはシキの顔。ではなく、その少し後方の茂みの中であった。
「なんだ……?」
導かれるがままに、シキは視線を指し示す方角へと移す。
そこには両手に収まるほどの小さな獣が、ひょっこりと顔を覗かせこちらを見つめていた。
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彼女にそそのかされるように、話し合いよりも先にやるべき事をネオンに答える。
「そうだな、先に身の安全を確保しよう。私達の事はそこから考えれば……どわぁ!?」
小さな獣を見ていたシキの襟首の後ろを、ネオンが唐突に引っ張った。
「お、お前! いたずらなどしている場合か……ッ!」
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パンッ!! と破裂音が響くと同時、小さな獣は黄色い光を放ち、自爆した。
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