この世界には『私』が眠っている。〜記憶喪失で魔術の使えない男は、一言も喋らない少女と共に『魔力』を取り戻す旅に出る〜

夜葉@佳作受賞

文字の大きさ
58 / 169
第二章 鏡映しの兄弟編

18.彼らは何を求め駆け抜ける

しおりを挟む
 盗賊団のアジトから命からがら逃げ出したシキとネオンは、とある魔術雑貨屋の前へと現れていた。

「エランダ! エリーゼ! いるか!? 私だ、シキだ! 急いで開けてくれ!!」

 アジトのあった崖を下りどちらへ逃げるか悩んだ時、シキの脳裏にはふとアネッサに呼ばれた朝の出来事が浮かんでいた。

「アンタがくれたこの『蜃気楼の首飾りネック・レス・ミラージュ』。大いに役に立った。感謝するぞ」

「なに、礼には及ばないさ。私達を仲間に入れてくれたのだから」

「ああ、ちなみにだがその時アンタが言った事覚えているか?」

「言った事……?」

「この首飾りこそが、アタイらがあの雑貨屋で一番求めているものだったと」

 もし仮に、このまま東の関所に向かうとしよう。機能の止まっている関所など、今ならたやすく乗り越える事が出来るはずだ。

 だがその後、彼女らは何をするか。

「本当に、お前はこれがアタイらの求めているものだと思ったんだな?」

 彼女ら盗賊団の本当の目的は何だったのか。彼女らは、あの魔術雑貨屋から何を頂こうとしていたのか。

 アネッサの目的を察したシキは、迷う事無く彼女らが狙う魔術雑貨屋を目指していたのだ。

 岩石に覆われた建物をシキは力強く叩く。

 その声へ応えるようにして、気だるげな老婆の声が岩石で出来た建物の脇から聞えて来た。

「全く急に迷惑なやつらだねぇ……。今日は休みだって表に書いてあるだろうに」

 出てきたのはエランダだ。騒がしい声の主を目にして、改めて声をかけ直して来た。

「ってアンタ、シキじゃないのさ。一体どうしたんだい。次の街へと向かったんじゃなかったのかい?」

 世間話のような会話を始めようとするエランダを前に、シキは率直に問題となっている件について問いただした。

「盗賊団が探していたのは、あの首飾りではなかったのか!?」

「なんだいなんだい。もしかして返品かい? ところが残念。奴らがあの首飾りを欲しがっていたのは間違いないだろうさ。商売人としての勘がそう言っているんだから」

「商売人の勘。だぁ!?」

 あんぐりと口を開け驚くシキを見て、流石に何かがあったと察したのかエランダはシキへと質問を返した。

「ちょっと待った、返品じゃないなら何だってんだい!? あの首飾りが聞いていたようなものじゃなかったとか、実はとんでもない欠陥を抱えていたりとかしたのかい!?」

「違うエランダ……あの首飾りは素直に素晴らしいものであった」

「じゃ、じゃあ何がいったいどうしたって……」


「見つけたぞ。シキィィィ!!」


 大柄な男が一人、盗賊団の名を掲げてシキ達の前へと飛び出して来た。

 裏切り者を狙う追跡の手はもう、鼻先のさらに直前まで伸ばされていたのだ。

「ストウム!! チッ、もう追いついたか『ノース・ウィンド』……!!」

「北の盗賊ども!? アンタなんて奴らを引き連れて来てんだい!!」

「私達などついでに過ぎない……! 狙いは別にあるはずだ!!」

「ああそうさシキ。えらく察しが良いじゃねぇか……!? 俺らがアネさんに命じられたのは、お前らの身と」

「この店のお宝ッス!! チャタロー!!虎の威を借りる猫メタモル・タイガー……」

「させません!! 氷結精製:フリージングビルド:氷柱の監獄アイシクルプリズンッ!!」

「フンニャ!?」

 デブ猫が大きな虎へと姿を変えようとした瞬間、氷の使い手はミルカとチャタローを氷で出来た檻へと閉じ込めた。

「無理やり変身しようとしないでくださいね。一緒に入ったミルカさんが圧死してしまいますので」

「くうぅぅぅ…………! ウチはまた戦えないんスか~!!」

「フンニャー……」

 突然のエリーゼの援軍に驚くエランダ。なぜなら、エリーゼは今は店内にはいないはずだあったからだ。

「おやエリーゼ……。アンタまた調べ事をしに出掛けてたんじゃ……」 

「雑貨屋を目掛けて走り抜ける一行を見たら引き返しもしますよ、もう。おばあちゃんはお店の防衛を。シキさんとネオンさんは今のところ味方で合っていますね?」

「ああ。詳しい事はこいつらの戦意を喪失させてから聞くとしよう。戦場に味方は四、敵は七と一匹。一部戦えない奴がいるが戦力差など覆して見せるさ。行くぞ、エリーゼ!!」

「当然、負ける気など微塵もありません。行きます。氷結精製:フリージングビルド:氷柱の槍アイシクルランス!!」

 向けられた切っ先へ鍔迫り合いを挑むように、氷の使い手による氷柱の槍は、戦場へと精製された。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...