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第二章 鏡映しの兄弟編
23.意地と信頼の戦い
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それぞれの戦いに終わりが見え始めた頃、二人の漢による戦いも激しさを増していた。
「アネさんが待ってんだ、ここでお前なんかに負ける訳にはいかねぇんだよシキ! 風馬一閃、疾走迅雷!! ぶっ潰してやる!!」
ストウムはシキにやられた左肩から意識を背ける。血が流れていようとも、それでも揺らぐ事無く風馬に騎乗し身構えるシキへと突撃する。
突き刺した氷の槍は折れ、再び宝石の無い短剣を手に取ろうか悩んだ時、シキの元へと次なる武器は与えられたのだ。
「氷結精製:降雹の刃!!」
別の戦場から氷の武器が降って来る。
いくつか降ってきた氷の短剣のうちの二本を手に取り、シキは両手に構え次なる攻撃に備えた。
「……来い!!」
「風馬だけが俺達の力じゃねぇ! 食らえ、猛・風・斬ゥ!!」
触れるだけで皮膚がめくれ上がりそうな斬撃が、風馬の側部から放たれる。
「チィ…………だとしても!!」
だがシキは引かない。凶悪な斬撃を見て、それでもあえてストウムの元へと突撃した。
まず氷の短剣の一つを斬撃から僅かに水平を外れる角度でぶつけ、軌道を逸らす。斬撃に飲まれ粉々に砕ける氷の短剣を見届ける事もなく、そのまま空いた隙間を縫うように身体を忍ばせ、風馬の側面にもう一つの氷の短剣を抉り込ませた。
風馬は呻き声を上げる事も無く、風が去ったようにその場から消え去る。落馬しかけたストウムは受け身を取り前転しながら立ち上がると、そのままシキの方を振り返った。
「チッ、運がいい野郎だぜ……。素手同然のクセに、素人同然の野郎のクセに何を躍起になってんだよ」
「私にはエリーゼ達に借りがある。さらに私達の旅の目的に、アネッサの腕輪やその先の存在が関わっているかもしれない。だからこうしてお前の前に立ち塞がっている。それだけだ」
シキは至って真面目にストウムの問いに答えた。だが、だからといってストウムは手のひらを返すような男ではなかった。
「ああそうかい。随分と大層な理由を持っているようだな。だがお前に何が出来る? 見たところエーテルの扱いもズブの素人じゃねぇか。盗賊団の副団長を前にして、そう何度も偶然が起きるなんて考えて、ねぇよなぁ!?」
風馬は再び姿を現す。彼らの闘志が残っている限り何度でも。
「風馬三閃、天下槍攘!! うちの団でもアネさんの必殺技なんざ、俺ぐらいしか目の当たりにした事ないだろうよ。もう手加減なんかしねぇぞ素人。アネさんは命だけは助けてやると言ったが、俺はそれほど我慢が効かないんだよ!!」
風馬の左右から槍のような風の刃が、すれ違う者を貫くが如く姿を現す。そして風馬の額には、角とも呼べる三本目の槍が雄々しく渦を巻いていた。
「アネさんだけに頼る訳にはいかねぇ。俺にだってアネさんの力になれるってところ、証明してやらぁ!! 猛・風・斬ゥ!!」
三本の槍を持つ風馬から、さらに稲光を帯びた斬撃が二つ放たれた。
シキの元には氷の短剣が数本転がっているのみ。
万事休す。と思われた。
「これで終わり…………、ではないだろう。エリーゼェェェェェ!!」
シキは吠えた。
いったいどこの将軍にこの場から勝つ算段が建てられるか。いったいどこの魔術師にこの場を覆す術が扱えたか。
だがシキは信じた。
たった一度だけ会い、累計で二十四時間も時間を共にしていない少女に、自らの明暗を託したのだ。
だから返ってきた。
だから答えが、シキの元へ降り注いだのだ。
「氷結精製:氷裂の槌!!」
氷上を裂く大槌が大地を叩く。
「氷結精製:氷河の盾!!」
氷河のように広く強固な盾が、漢と漢の間に立ちはだかった。
「……!? 二度ならず三度までも……!! いや、違ぇ。てめぇ狙ってやがったな!? 調子の良い事や長ったらしい夢や希望を語って、その裏で次の策を企ててやがったな!!」
ストウムは震えながら叫ぶ。当然彼が震えているのではない。氷で出来た大槌と強固な盾が、その重量で戦場を揺るがしていたのだ。
「さぁどうかな。私はエリーゼに支援を頼んでいただけだ。物もタイミングも彼女次第さ。だから私はそんな気分屋と目の前の荒れ狂う副団長。その二人を同時に相手にしていた。それだけに過ぎない!!」
揺れが収まると同時に、シキは盾を死角にしたかと思うと姿を消していた。
「…………っ!? どこに消えやがった!!」
「消えないさ、私も、お前も、紡いだ記憶も!!」
シキは散らばっていた氷の短剣を拾うと、風馬の足首を狙い地を這わせた。
切っ先が肌を掠めた風馬は思わず前脚を上げ、騎乗者など気にもせず暴れ回る。
「……ッ!! 大人しくしやがれってんだ!!」
一瞬だが風馬の動きを止められた。しかしストウムが放った二つの斬撃は稲光を散らしながら宙を舞っている。
迂闊に近づけば両腕など切断されてしまいそうなその斬撃を前に、シキは舞い降りた武具の一つ、氷河の盾を両腕で持ち上げた。
「はぁあああああ!!」
ストウムが風馬の制御を取り戻した直後、氷が削れる音が鳴り響いた。
「あぁ!?」
急な異音に術を放った本人も驚く。
あろう事か斬撃は、盾に触れるも消える事無く空中に浮いたまま盾を切り裂き始めたのだ。
二つの斬撃に支えられ空に浮く盾は、まるでシキとストウムを隔てる壁の様であった。
だが、そんな障壁を乗り越える男が一人、氷で出来た大槌を抱え大地を踏みしめていた。
「ストウム!! 擦れ傷程度で逃げも隠れもしまいな!!」
その様子は言い訳も出来ないほどの致命傷を与えようとする、戦場の支配者そのものであった。
「ばっ、バカお前、まさかそれで俺を……!?」
氷を裂く大槌。
名前を聞くだけで骨にヒビが入ってしまいそうな氷の塊を、シキは迷わず構えストウムへと歩みを進めていた。
流石の盗賊団副団長も恐れを覚える。
目の前の男のどこが素人か。エーテルが扱えなかろうが、訓練を受けた兵士や命がけの盗賊でも無かろうが、その目に宿すは勝利に燃える炎のみ。
こんな相手に真の意味で勝つとはどういう事なのか。
ストウムに、この戦いの意味を見出す事はもう出来なかった。
だがそんな事はシキには関係ない。
彼は一歩ずつ近づく。歩みが増えるたび速度が増す。歩みは次第に走りへと移り変わり、その大槌はストウムの頭を目掛けて振りかぶられていた。
「じょ、冗談じゃねぇ! そんなもんにやられてたまるかよ!! 俺ぁ、俺は盗賊団『ノース・ウィンド』副団長のストウム様だぞ!! てめぇなんかにここで負ける訳にはいかねぇんだよ!!」
そうだ。アネさんのために、負ける訳にはいかない。
ストウムには負けられない理由があった。
そして、その身はまだ風馬の上にあった。
戦場の支配者に勝つ方法が、その手の中に納まっていたのだ。
「へへっ、かかって来いよシキ。てめぇの素人くせぇ一撃なんざ、このストウム様が返り討ちにしてやらぁ!!」
風馬はシキを目指し走り出す。
シキは大槌を持ったまま、一心不乱にストウムへと突き進む。
もし第三者が見ていたなら、こんな馬鹿げた戦い相打ちで終わる。そう思ったはずだ。
だが。
「ふんっ!!」
「なっ、飛んだぁ!?」
シキは飛び上がった。
それは風馬の上にいるストウムを確実に打ち抜く訳ではなく。
その足は斬撃に阻まれ宙で止まった盾へとかかっていた。
さらに。
「な……にぃ……?」
シキはさらに飛ぶ。
空に浮く盾の上から風馬に乗ったストウムごと飛び越え、その先の大地に手に持った氷上を裂く大槌を放ったのだ。
「ふんっ!!」
「どわあああああああっ!?」
激しい揺れが、大槌を中心に再び現れる。
風馬はたちまちバランスを崩し、ストウムは抗う事もなくそのまま落馬した。受け身も取れないまま落馬してしまったストウムは、揺れが収まるのを待っているしかなかった。
そしてやっと収まったのを確認すると、シキを探すため片肘をついて立ち上がろうとした。その時だ。
「これで今度こそ、私の勝ちだ」
「うぐぁ?!」
ストウムの右肩に、先しか残っていない氷の槍が刺さっていた。
両肩にダメージを受けたストウムは、力なくその場に倒れ込んだ。
「教えてくれストウム。両腕をやられた場合、お前達の中では何と言うのだ?」
「…………敗北だよ。畜生が。大槌で殴れば一撃で殺せたものを、手なんか抜きやがって……」
「私はお前の事が苦手だが、別に殺したいほどではない。流石に悪酔いさせられた程度でそこまで思わないぞ……」
「……そうかよ。やっぱ俺ぁ、お前の事嫌いだぜ」
「?? 私もお前の事が苦手だ」
盗賊団副団長ストウムは敗北した。
こうして魔術雑貨屋を襲った盗賊達は皆敗北を決し、その後の事情聴取へと移るのであった。
「アネさんが待ってんだ、ここでお前なんかに負ける訳にはいかねぇんだよシキ! 風馬一閃、疾走迅雷!! ぶっ潰してやる!!」
ストウムはシキにやられた左肩から意識を背ける。血が流れていようとも、それでも揺らぐ事無く風馬に騎乗し身構えるシキへと突撃する。
突き刺した氷の槍は折れ、再び宝石の無い短剣を手に取ろうか悩んだ時、シキの元へと次なる武器は与えられたのだ。
「氷結精製:降雹の刃!!」
別の戦場から氷の武器が降って来る。
いくつか降ってきた氷の短剣のうちの二本を手に取り、シキは両手に構え次なる攻撃に備えた。
「……来い!!」
「風馬だけが俺達の力じゃねぇ! 食らえ、猛・風・斬ゥ!!」
触れるだけで皮膚がめくれ上がりそうな斬撃が、風馬の側部から放たれる。
「チィ…………だとしても!!」
だがシキは引かない。凶悪な斬撃を見て、それでもあえてストウムの元へと突撃した。
まず氷の短剣の一つを斬撃から僅かに水平を外れる角度でぶつけ、軌道を逸らす。斬撃に飲まれ粉々に砕ける氷の短剣を見届ける事もなく、そのまま空いた隙間を縫うように身体を忍ばせ、風馬の側面にもう一つの氷の短剣を抉り込ませた。
風馬は呻き声を上げる事も無く、風が去ったようにその場から消え去る。落馬しかけたストウムは受け身を取り前転しながら立ち上がると、そのままシキの方を振り返った。
「チッ、運がいい野郎だぜ……。素手同然のクセに、素人同然の野郎のクセに何を躍起になってんだよ」
「私にはエリーゼ達に借りがある。さらに私達の旅の目的に、アネッサの腕輪やその先の存在が関わっているかもしれない。だからこうしてお前の前に立ち塞がっている。それだけだ」
シキは至って真面目にストウムの問いに答えた。だが、だからといってストウムは手のひらを返すような男ではなかった。
「ああそうかい。随分と大層な理由を持っているようだな。だがお前に何が出来る? 見たところエーテルの扱いもズブの素人じゃねぇか。盗賊団の副団長を前にして、そう何度も偶然が起きるなんて考えて、ねぇよなぁ!?」
風馬は再び姿を現す。彼らの闘志が残っている限り何度でも。
「風馬三閃、天下槍攘!! うちの団でもアネさんの必殺技なんざ、俺ぐらいしか目の当たりにした事ないだろうよ。もう手加減なんかしねぇぞ素人。アネさんは命だけは助けてやると言ったが、俺はそれほど我慢が効かないんだよ!!」
風馬の左右から槍のような風の刃が、すれ違う者を貫くが如く姿を現す。そして風馬の額には、角とも呼べる三本目の槍が雄々しく渦を巻いていた。
「アネさんだけに頼る訳にはいかねぇ。俺にだってアネさんの力になれるってところ、証明してやらぁ!! 猛・風・斬ゥ!!」
三本の槍を持つ風馬から、さらに稲光を帯びた斬撃が二つ放たれた。
シキの元には氷の短剣が数本転がっているのみ。
万事休す。と思われた。
「これで終わり…………、ではないだろう。エリーゼェェェェェ!!」
シキは吠えた。
いったいどこの将軍にこの場から勝つ算段が建てられるか。いったいどこの魔術師にこの場を覆す術が扱えたか。
だがシキは信じた。
たった一度だけ会い、累計で二十四時間も時間を共にしていない少女に、自らの明暗を託したのだ。
だから返ってきた。
だから答えが、シキの元へ降り注いだのだ。
「氷結精製:氷裂の槌!!」
氷上を裂く大槌が大地を叩く。
「氷結精製:氷河の盾!!」
氷河のように広く強固な盾が、漢と漢の間に立ちはだかった。
「……!? 二度ならず三度までも……!! いや、違ぇ。てめぇ狙ってやがったな!? 調子の良い事や長ったらしい夢や希望を語って、その裏で次の策を企ててやがったな!!」
ストウムは震えながら叫ぶ。当然彼が震えているのではない。氷で出来た大槌と強固な盾が、その重量で戦場を揺るがしていたのだ。
「さぁどうかな。私はエリーゼに支援を頼んでいただけだ。物もタイミングも彼女次第さ。だから私はそんな気分屋と目の前の荒れ狂う副団長。その二人を同時に相手にしていた。それだけに過ぎない!!」
揺れが収まると同時に、シキは盾を死角にしたかと思うと姿を消していた。
「…………っ!? どこに消えやがった!!」
「消えないさ、私も、お前も、紡いだ記憶も!!」
シキは散らばっていた氷の短剣を拾うと、風馬の足首を狙い地を這わせた。
切っ先が肌を掠めた風馬は思わず前脚を上げ、騎乗者など気にもせず暴れ回る。
「……ッ!! 大人しくしやがれってんだ!!」
一瞬だが風馬の動きを止められた。しかしストウムが放った二つの斬撃は稲光を散らしながら宙を舞っている。
迂闊に近づけば両腕など切断されてしまいそうなその斬撃を前に、シキは舞い降りた武具の一つ、氷河の盾を両腕で持ち上げた。
「はぁあああああ!!」
ストウムが風馬の制御を取り戻した直後、氷が削れる音が鳴り響いた。
「あぁ!?」
急な異音に術を放った本人も驚く。
あろう事か斬撃は、盾に触れるも消える事無く空中に浮いたまま盾を切り裂き始めたのだ。
二つの斬撃に支えられ空に浮く盾は、まるでシキとストウムを隔てる壁の様であった。
だが、そんな障壁を乗り越える男が一人、氷で出来た大槌を抱え大地を踏みしめていた。
「ストウム!! 擦れ傷程度で逃げも隠れもしまいな!!」
その様子は言い訳も出来ないほどの致命傷を与えようとする、戦場の支配者そのものであった。
「ばっ、バカお前、まさかそれで俺を……!?」
氷を裂く大槌。
名前を聞くだけで骨にヒビが入ってしまいそうな氷の塊を、シキは迷わず構えストウムへと歩みを進めていた。
流石の盗賊団副団長も恐れを覚える。
目の前の男のどこが素人か。エーテルが扱えなかろうが、訓練を受けた兵士や命がけの盗賊でも無かろうが、その目に宿すは勝利に燃える炎のみ。
こんな相手に真の意味で勝つとはどういう事なのか。
ストウムに、この戦いの意味を見出す事はもう出来なかった。
だがそんな事はシキには関係ない。
彼は一歩ずつ近づく。歩みが増えるたび速度が増す。歩みは次第に走りへと移り変わり、その大槌はストウムの頭を目掛けて振りかぶられていた。
「じょ、冗談じゃねぇ! そんなもんにやられてたまるかよ!! 俺ぁ、俺は盗賊団『ノース・ウィンド』副団長のストウム様だぞ!! てめぇなんかにここで負ける訳にはいかねぇんだよ!!」
そうだ。アネさんのために、負ける訳にはいかない。
ストウムには負けられない理由があった。
そして、その身はまだ風馬の上にあった。
戦場の支配者に勝つ方法が、その手の中に納まっていたのだ。
「へへっ、かかって来いよシキ。てめぇの素人くせぇ一撃なんざ、このストウム様が返り討ちにしてやらぁ!!」
風馬はシキを目指し走り出す。
シキは大槌を持ったまま、一心不乱にストウムへと突き進む。
もし第三者が見ていたなら、こんな馬鹿げた戦い相打ちで終わる。そう思ったはずだ。
だが。
「ふんっ!!」
「なっ、飛んだぁ!?」
シキは飛び上がった。
それは風馬の上にいるストウムを確実に打ち抜く訳ではなく。
その足は斬撃に阻まれ宙で止まった盾へとかかっていた。
さらに。
「な……にぃ……?」
シキはさらに飛ぶ。
空に浮く盾の上から風馬に乗ったストウムごと飛び越え、その先の大地に手に持った氷上を裂く大槌を放ったのだ。
「ふんっ!!」
「どわあああああああっ!?」
激しい揺れが、大槌を中心に再び現れる。
風馬はたちまちバランスを崩し、ストウムは抗う事もなくそのまま落馬した。受け身も取れないまま落馬してしまったストウムは、揺れが収まるのを待っているしかなかった。
そしてやっと収まったのを確認すると、シキを探すため片肘をついて立ち上がろうとした。その時だ。
「これで今度こそ、私の勝ちだ」
「うぐぁ?!」
ストウムの右肩に、先しか残っていない氷の槍が刺さっていた。
両肩にダメージを受けたストウムは、力なくその場に倒れ込んだ。
「教えてくれストウム。両腕をやられた場合、お前達の中では何と言うのだ?」
「…………敗北だよ。畜生が。大槌で殴れば一撃で殺せたものを、手なんか抜きやがって……」
「私はお前の事が苦手だが、別に殺したいほどではない。流石に悪酔いさせられた程度でそこまで思わないぞ……」
「……そうかよ。やっぱ俺ぁ、お前の事嫌いだぜ」
「?? 私もお前の事が苦手だ」
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