65 / 169
第二章 鏡映しの兄弟編
25.紫のシルエット
しおりを挟む
静寂に包まれた中、ぽつりとストウムが呟いた。
「……アネさんは、どうしてこんな命令を俺達に出したんだ? そもそも、アネさんは今何をしてんだ。俺達にこんな店を襲わせて、アネさんは何をやろうとしてんだ……」
彼の言葉に、盗賊団の一味は呆然とした様子で彼の顔を覗いていた。
「紫の炎ッス……。アレが、きっかけに違いないッスよ!!」
そんな中で一人、盗賊団の少女が声を上げた。
氷の檻から放たれたそれはストウム達盗賊団へではく、シキに向けての言葉であった。
「少し前の事ッス。無理やり北の関門を超える前に、ウチとチャタローとアネさんで辺りの調査を先行して行ったんスよ。その時見つけたのが、あの無人の不気味な屋敷だったッス。それからの事ッス。アネさんは緑の宝石がついた腕輪を付け始めたと思うと、北側への道を塞ぐようにアジトを作ったり、付近の情報をやたらと手に入れるようになったのは」
「待てミルカ。それと今のアネッサのどこが関係しているのだ? もう少し簡潔にまとめてはくれないか」
アネッサの情報を急かすシキを前に、話を聞いていた別の少女が根底を覆す質問を投げかける。
「シキさんこそ待って下さい。ミルカさん、あなたは何を言っているのですか? 北に屋敷など無いですよ……?」
「なんだと!?」
情報の矛盾。錯綜する戦場後で、戦うべき理由が噛み合わない。
「なっ!? 嘘じゃないッス!! 確かにウチとアネさんはその屋敷を見たッス。だからこうして周辺にアジトを構えて、その屋敷を攻略するためにこの地へと一時的に留まっているんスから!!」
「でもそんな屋敷、私は見た事も当然聞いた事もないのですよ!」
「待て、待ってくれ二人とも。このままでは話の真意を見失いそうだ。アネッサは言っていた。この近辺には屋敷が三つあると。一つは王族と関りを持つという大きな屋敷。一つは大きさの割に人影が無い不気味な屋敷。そして最後に昨日、盗賊団が襲い奪った西に関所を持っていた屋敷だ。この地に一番詳しい奴に話を聞きたい。近辺に屋敷は三つあるのだな? エランダ」
いままで固く口を閉ざし、聞き役に徹していた老婆にシキは話を振った。返って来た答えは、意外そのものであった。
「もう何十年と住んでいるが、その人影のない屋敷とやらは知らないね。当然、見た事も無ければ噂一つ聞いた事がないよ」
あると思い込んでいたはずの屋敷は無かった。つまり、アネッサが変わったきっかけと思われる理由そのものが存在していなかったのだ。
「そ……ん、な。ウチは本当に見たッスよ! アネさんと二人、この屋敷はマークしておこうって話したんス! チャタローもいたッスよね? あの場で、ウチらの会話を聞いていたッスよね……?」
「フン、ニャー」
「チャタロー!!」
歯車が一つ、また一つと外れ、今までの出来事の全貌がまるで霧のように消え去っていく。
北の屋敷なんてものは存在しなかったのではないか。そもそも、そんなものを見たという事実すら間違えた記憶ではないのか。
そうであると、確信を持てないから認識出来なくなっているのではないか。
そう、それこそが答えであった。
「!! 違う。間違っているぞ。屋敷も、アネッサも、紫の炎も。全てが最初から間違っていたのだ!!」
一人。答えに気づいたシキは、周りの戸惑いの目にさらされながら不敵な笑みを浮かべていた。
「エリーゼ、ミルカ、そしてネオンにチャタロー。お前達は既に知っているはずだ。そこにあるのに認識できないもの。認識する事で現れたもの。記憶に刻む事こそが入り口となっていた、あの洞窟の事を……!」
その言葉を聞いたエリーゼは震えていた。その答えに対してではない。その答えが存在する事にである。
「そんな……はずは……」
桁違いなのだ。現象も、事象も、それに注がれたエーテルの量も。
シキの読みは常人の考えをはるかに凌駕した、それこそエーテルというものの本質に疎い彼にしか思いつかなかった、不可能に近い領域であったのだ。
「まさか。……まさか屋敷そのものが。いや、あの土地そのものに認識を阻害する術がかけられているとでも言うのですか」
エリーゼの言葉に、その場にいた全ての者が身震いする。
「……アネさんは、どうしてこんな命令を俺達に出したんだ? そもそも、アネさんは今何をしてんだ。俺達にこんな店を襲わせて、アネさんは何をやろうとしてんだ……」
彼の言葉に、盗賊団の一味は呆然とした様子で彼の顔を覗いていた。
「紫の炎ッス……。アレが、きっかけに違いないッスよ!!」
そんな中で一人、盗賊団の少女が声を上げた。
氷の檻から放たれたそれはストウム達盗賊団へではく、シキに向けての言葉であった。
「少し前の事ッス。無理やり北の関門を超える前に、ウチとチャタローとアネさんで辺りの調査を先行して行ったんスよ。その時見つけたのが、あの無人の不気味な屋敷だったッス。それからの事ッス。アネさんは緑の宝石がついた腕輪を付け始めたと思うと、北側への道を塞ぐようにアジトを作ったり、付近の情報をやたらと手に入れるようになったのは」
「待てミルカ。それと今のアネッサのどこが関係しているのだ? もう少し簡潔にまとめてはくれないか」
アネッサの情報を急かすシキを前に、話を聞いていた別の少女が根底を覆す質問を投げかける。
「シキさんこそ待って下さい。ミルカさん、あなたは何を言っているのですか? 北に屋敷など無いですよ……?」
「なんだと!?」
情報の矛盾。錯綜する戦場後で、戦うべき理由が噛み合わない。
「なっ!? 嘘じゃないッス!! 確かにウチとアネさんはその屋敷を見たッス。だからこうして周辺にアジトを構えて、その屋敷を攻略するためにこの地へと一時的に留まっているんスから!!」
「でもそんな屋敷、私は見た事も当然聞いた事もないのですよ!」
「待て、待ってくれ二人とも。このままでは話の真意を見失いそうだ。アネッサは言っていた。この近辺には屋敷が三つあると。一つは王族と関りを持つという大きな屋敷。一つは大きさの割に人影が無い不気味な屋敷。そして最後に昨日、盗賊団が襲い奪った西に関所を持っていた屋敷だ。この地に一番詳しい奴に話を聞きたい。近辺に屋敷は三つあるのだな? エランダ」
いままで固く口を閉ざし、聞き役に徹していた老婆にシキは話を振った。返って来た答えは、意外そのものであった。
「もう何十年と住んでいるが、その人影のない屋敷とやらは知らないね。当然、見た事も無ければ噂一つ聞いた事がないよ」
あると思い込んでいたはずの屋敷は無かった。つまり、アネッサが変わったきっかけと思われる理由そのものが存在していなかったのだ。
「そ……ん、な。ウチは本当に見たッスよ! アネさんと二人、この屋敷はマークしておこうって話したんス! チャタローもいたッスよね? あの場で、ウチらの会話を聞いていたッスよね……?」
「フン、ニャー」
「チャタロー!!」
歯車が一つ、また一つと外れ、今までの出来事の全貌がまるで霧のように消え去っていく。
北の屋敷なんてものは存在しなかったのではないか。そもそも、そんなものを見たという事実すら間違えた記憶ではないのか。
そうであると、確信を持てないから認識出来なくなっているのではないか。
そう、それこそが答えであった。
「!! 違う。間違っているぞ。屋敷も、アネッサも、紫の炎も。全てが最初から間違っていたのだ!!」
一人。答えに気づいたシキは、周りの戸惑いの目にさらされながら不敵な笑みを浮かべていた。
「エリーゼ、ミルカ、そしてネオンにチャタロー。お前達は既に知っているはずだ。そこにあるのに認識できないもの。認識する事で現れたもの。記憶に刻む事こそが入り口となっていた、あの洞窟の事を……!」
その言葉を聞いたエリーゼは震えていた。その答えに対してではない。その答えが存在する事にである。
「そんな……はずは……」
桁違いなのだ。現象も、事象も、それに注がれたエーテルの量も。
シキの読みは常人の考えをはるかに凌駕した、それこそエーテルというものの本質に疎い彼にしか思いつかなかった、不可能に近い領域であったのだ。
「まさか。……まさか屋敷そのものが。いや、あの土地そのものに認識を阻害する術がかけられているとでも言うのですか」
エリーゼの言葉に、その場にいた全ての者が身震いする。
0
あなたにおすすめの小説
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる