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第三章 砂漠の魔女編
07.認識の阻害
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白の魔女から流されるように、再び砂上へと立った一同。
大地の灼熱を感じながら、三人の後方を歩くオームギは怪訝な表情で問いかける。
「ねぇ……貴方達。どうやってオアシスを見つけたの?」
「どうって、砂漠を歩いていたら突然目の前に現れたのだ」
「本当に? さっきも言ったけど、あの場所は誰にも見つからないように隠していたのよ。そして実際、百年以上誰も立ち入らなかった。それがどうして急に」
「ですがシキさんの言う通り、本当に突然現れましたよ。遠くからは見えませんでしたが、近づいた途端に……」
エリーゼの答える口が止まる。ハッとシキと顔を見合わせ、共にネオンの方へ振り向いた。
「…………」
「……? どうしたのよ急に。この子がどうかしたの?」
オームギは驚く二人とネオンを交互に見ながら、頭の中に疑問符を浮かべる。
「こいつにはエーテルを吸収する力がある。オアシスを隠す手段がエーテルによる術であれば、こいつが側にいる限り存在を感知出来るかもしれない」
以前森に隠された屋敷を発見した際にも、ネオンは側にいた。一見して何もないはずのそこへ、倒すべき敵の存在を露わにした。
「……確かに。私の使っている術は認識阻害。でも、ただの認識阻害じゃない。エルフ族が身を隠すために作った、私達にしか分からない特有の術よ」
「特有だと?」
「ええ。何重にも作用するとっておきなんだから」
そういうと、エルフ族の生き残りは人差し指を立て、得意げに説明した。
「まず最初に、常識の阻害。端的に言えば、エルフの存在を知らない者には気づかれない。さらに存在を信じない者にも見つからない。エルフという知識が無い者のエーテルへ作用し、存在を完全に見えなくする。私の目指す存在の消去はこれに準ずるわ」
漠然と歴史の陰に潜みたい。だけでなく、具体的な策を持ってオームギは己の目的を完遂しようとしていた。続けて、彼女は二本目の指を上げさらに説明を続ける。
「次に、空間の阻害。そこにエルフがいると知らなければ、エルフの住む空間へと立ち入る事が出来ない。この効果によって、私の住処は永遠に知られる事は無かった」
「立ち入る事が出来ない……? あのオアシスはどこか別の空間に繋がっている訳では無いでしょう。そこに住処があったなら、偶然触れたり通ったりする事はあるのではないでしょうか」
「その偶然すら起こらないようにするのが、私達の隠れ方なのよ。例えば、死ぬと分かっていて崖から飛び降りる人なんていないでしょう? その先に足場があるとか、着地をする術を持っているとか。何かしら勝算が無ければ、崖から飛び降りる人なんていない。その常識へ作用して、無意識化で避けるようにする。だからあのオアシスは、百年以上誰にも見つからなかった」
そう。見つかるはずなんて無かった。だからずっとこの砂漠で過ごし、この砂漠に眠る同胞の過去を探し求めていた。なのに今、オームギは旅人と共にコアを探し、砂上を歩く羽目になっていた。
白の魔女は溜め息をつきながら、さらにもう一本指を立てる。
「……最後に、存在の阻害。万が一見つかったとして、それでも見た目やエーテルは普通の人間と遜色無く映り、私達はただの人としてこの世界に存在する。街を歩こうが城に立ち入ろうが、同族でなければ私の存在は分からない」
三つ指と同時に述べた根幹の作用以外にも、ありとあらゆる効果を合わせて絶対に見つからないようにしていた。
「エルフが滅び百年の時が経った今、この世に私の知り合いなんてほとんどいない。三つの相乗効果により、あのオアシスは絶対に立ち入れない聖域と化していた。なのに……」
オームギは何一つ言葉を発さない少女を睨む。やっとの事で手に入れた安息。それが百年の時を経て、目の前の少女たった一人によって打ち破られたのだ。
オームギは突き出した三本の指の内、一本を使ってピンク色の髪の毛をクルクルといじる。
シキ達が入って来た時、息を殺して身を潜めていれば良かったのか。上手く行かない現実を前に、賢人はイライラを隠せないでいた。
だが、安息を取り戻す手段はまだ残っている。そして、彼女の存在がオームギにとって嬉しい誤算であったのだ。
「いえ、前向きに捉えましょう。そんなエルフが扱っていたコアがこの砂漠には眠っている。百年かけて見つからないという事は、そのコア自体にも私達の術のような効果があると、私は踏んでいるわ」
「…………?」
エルフ族の記憶と歴史が刻まれた、エーテルコア。悲願を達成しようとする魔女の目には、これまでにないほどの野心が燃えていた。そんな彼女にに強く見つめられたネオンは、不思議そうに小首を傾げる。
「オアシスと同じように、コアも姿を消している。という訳か」
「そういう事。まぁエルフの私にすら分からないってなら、もっとややこしい事態になっていそうな気もするけど」
「だからといって、諦める訳にはいかぬだろう。私も、お前も」
「…………そういう事っ」
白の魔女は、とんがり帽子を被り直し気合を入れる。そんなオームギの意図を汲み取ったシキは、彼女を助力し己の目的を達成すべく、コア探しへと繰り出す。
三人の旅人と一人の魔女は、野心を胸に広大な砂の大地を踏み締めるのであった。
大地の灼熱を感じながら、三人の後方を歩くオームギは怪訝な表情で問いかける。
「ねぇ……貴方達。どうやってオアシスを見つけたの?」
「どうって、砂漠を歩いていたら突然目の前に現れたのだ」
「本当に? さっきも言ったけど、あの場所は誰にも見つからないように隠していたのよ。そして実際、百年以上誰も立ち入らなかった。それがどうして急に」
「ですがシキさんの言う通り、本当に突然現れましたよ。遠くからは見えませんでしたが、近づいた途端に……」
エリーゼの答える口が止まる。ハッとシキと顔を見合わせ、共にネオンの方へ振り向いた。
「…………」
「……? どうしたのよ急に。この子がどうかしたの?」
オームギは驚く二人とネオンを交互に見ながら、頭の中に疑問符を浮かべる。
「こいつにはエーテルを吸収する力がある。オアシスを隠す手段がエーテルによる術であれば、こいつが側にいる限り存在を感知出来るかもしれない」
以前森に隠された屋敷を発見した際にも、ネオンは側にいた。一見して何もないはずのそこへ、倒すべき敵の存在を露わにした。
「……確かに。私の使っている術は認識阻害。でも、ただの認識阻害じゃない。エルフ族が身を隠すために作った、私達にしか分からない特有の術よ」
「特有だと?」
「ええ。何重にも作用するとっておきなんだから」
そういうと、エルフ族の生き残りは人差し指を立て、得意げに説明した。
「まず最初に、常識の阻害。端的に言えば、エルフの存在を知らない者には気づかれない。さらに存在を信じない者にも見つからない。エルフという知識が無い者のエーテルへ作用し、存在を完全に見えなくする。私の目指す存在の消去はこれに準ずるわ」
漠然と歴史の陰に潜みたい。だけでなく、具体的な策を持ってオームギは己の目的を完遂しようとしていた。続けて、彼女は二本目の指を上げさらに説明を続ける。
「次に、空間の阻害。そこにエルフがいると知らなければ、エルフの住む空間へと立ち入る事が出来ない。この効果によって、私の住処は永遠に知られる事は無かった」
「立ち入る事が出来ない……? あのオアシスはどこか別の空間に繋がっている訳では無いでしょう。そこに住処があったなら、偶然触れたり通ったりする事はあるのではないでしょうか」
「その偶然すら起こらないようにするのが、私達の隠れ方なのよ。例えば、死ぬと分かっていて崖から飛び降りる人なんていないでしょう? その先に足場があるとか、着地をする術を持っているとか。何かしら勝算が無ければ、崖から飛び降りる人なんていない。その常識へ作用して、無意識化で避けるようにする。だからあのオアシスは、百年以上誰にも見つからなかった」
そう。見つかるはずなんて無かった。だからずっとこの砂漠で過ごし、この砂漠に眠る同胞の過去を探し求めていた。なのに今、オームギは旅人と共にコアを探し、砂上を歩く羽目になっていた。
白の魔女は溜め息をつきながら、さらにもう一本指を立てる。
「……最後に、存在の阻害。万が一見つかったとして、それでも見た目やエーテルは普通の人間と遜色無く映り、私達はただの人としてこの世界に存在する。街を歩こうが城に立ち入ろうが、同族でなければ私の存在は分からない」
三つ指と同時に述べた根幹の作用以外にも、ありとあらゆる効果を合わせて絶対に見つからないようにしていた。
「エルフが滅び百年の時が経った今、この世に私の知り合いなんてほとんどいない。三つの相乗効果により、あのオアシスは絶対に立ち入れない聖域と化していた。なのに……」
オームギは何一つ言葉を発さない少女を睨む。やっとの事で手に入れた安息。それが百年の時を経て、目の前の少女たった一人によって打ち破られたのだ。
オームギは突き出した三本の指の内、一本を使ってピンク色の髪の毛をクルクルといじる。
シキ達が入って来た時、息を殺して身を潜めていれば良かったのか。上手く行かない現実を前に、賢人はイライラを隠せないでいた。
だが、安息を取り戻す手段はまだ残っている。そして、彼女の存在がオームギにとって嬉しい誤算であったのだ。
「いえ、前向きに捉えましょう。そんなエルフが扱っていたコアがこの砂漠には眠っている。百年かけて見つからないという事は、そのコア自体にも私達の術のような効果があると、私は踏んでいるわ」
「…………?」
エルフ族の記憶と歴史が刻まれた、エーテルコア。悲願を達成しようとする魔女の目には、これまでにないほどの野心が燃えていた。そんな彼女にに強く見つめられたネオンは、不思議そうに小首を傾げる。
「オアシスと同じように、コアも姿を消している。という訳か」
「そういう事。まぁエルフの私にすら分からないってなら、もっとややこしい事態になっていそうな気もするけど」
「だからといって、諦める訳にはいかぬだろう。私も、お前も」
「…………そういう事っ」
白の魔女は、とんがり帽子を被り直し気合を入れる。そんなオームギの意図を汲み取ったシキは、彼女を助力し己の目的を達成すべく、コア探しへと繰り出す。
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