121 / 169
第四章 風の連理編
01.向き合うべき相手
しおりを挟む
エルフの住んでいた砂漠を去ってから数日。
橙のエーテルコアを持ち去った赤の国の刺客の足取りを追い、シキ達は森の中を歩いていた。
木漏れ日の中、純白の魔女は問う。これから戦う相手は何なのか。百年を超える時の中で、何が起きていたのか。
「ねぇ、コアを奪った奴らって結局なんな訳? 赤の国グラナートがどうとか言ってたけど……」
「ヴァーミリオンは赤の国の、特に兵力において中核を担う人物だ。表向きは国認定の研究者とされているが、奴はそんな生易しい存在ではない……!」
赤色と青色。二羽の鳥を飼い慣らす褐色肌の男は、苦虫を噛み潰したように表情を歪める。
「奴は不老不死という野望を遂げるため、多くの命を生体実験の材料として消費している」
「その材料を手に入れるために、ヴァーミリオンはわざわざ各地を探し回っているのか?」
「そんな効率の悪い事はしない……あれは所詮、趣味程度の行いだろう。奴の元へ集まる生物は、基本的に赤の国から送られるものが多い」
レンリは言葉を詰まらせる。研究所で見てきたこれまでの犠牲が、何も出来なかった後悔となって彼を責め立てていた。そんなレンリの様子を見て、シキ達も胸がざわりと騒ぐ。
「最大国家であるグラナートは、世界各地からあらゆるものをかき集めている。エーテルの結晶や魔道具といった強力な物資、魔物や魔力適正の高い生物、そして人ですらも、奴らは奪い尽くす」
赤の国は、人ですら奪う。
レンリの言葉を聞いて、シキの頭の中にある人物が浮かび上がった。
彼の持つ魔道具『大食らいの少身物』の持ち主にして、彼が旅をするきっかけとなった存在、忘却の通り魔。
「レンリ、お前は赤の国で何が起きているのか知っているのか!?」
シキは思わず立ち止まり、横を歩いていたレンリの肩を掴む。
動揺したレンリは戸惑いを見せながら目を逸らし、シキの問いに対し捻り出すように言葉を口にした。
「……俺が知っているのは、奴の研究所に関する事だけだ。研究所へ送られて来るものは基本的に二つだけ。一つは魔物や生物といった実験の材料にされる命。そしてもう一つが、洗脳をかけて赤の国の駒にされる人間」
「洗脳! 戦いの最中に私達が受けた、身体の自由を奪われる魔術ですね……!」
氷の魔術師エリーゼは、レンリの言葉を聞いて敵の使う魔術について分析する。
砂漠の地下で起きた、数多の魔物を巻き込むほどの強大な精神掌握の魔術。
「ああ、奴は国が集めた物資や生物の一部を、実験の材料として提供してもらっている。その見返りとして、国が攫ってきた人間の精神を掌握し、都合よく動く傀儡に染め上げているんだ」
大陸の最大国家である赤の国グラナート。その兵力を担う精鋭達をヴァーミリオンは染め上げ、作り上げている。そんな彼との敵対が即ち最大国家へ歯向かう事だとしても、彼らは止まる訳にはいかない。
「そんな奴らなんかに、私と仲間の大切な記憶が眠っているコアを渡す訳にはいかないわ」
「俺には生き物の声が分かる。あの研究所でどれだけ悲痛な叫びが響いていたか。これ以上、あのような実験を続けさせてたまるか……!」
大切な仲間と、守れなかった者達。オームギとレンリが、それぞれ戦う理由と向き合う。
「私の失われた記憶には、エーテルコアの存在が大きくかかわっている。恐らく奪われたコアだけでなく、奴らの使っていた大罪武具も無関係とは言えないだろう。それに人攫いなどというふざけた手段を見逃せるほど、私は冷静になどなれぬものか!」
「誰かと無理やり離れ離れになるなんて。そんな悲しい事、許しておけません!」
シキが、エリーゼが、旅をする目的と胸の内を重ね合う。
「…………」
ネオンは見つめる。一同の向かう先にある、倒すべき敵の存在を。
五人は歩みを揃え、宿敵へと続く森の中を踏み歩く。
橙のエーテルコアを持ち去った赤の国の刺客の足取りを追い、シキ達は森の中を歩いていた。
木漏れ日の中、純白の魔女は問う。これから戦う相手は何なのか。百年を超える時の中で、何が起きていたのか。
「ねぇ、コアを奪った奴らって結局なんな訳? 赤の国グラナートがどうとか言ってたけど……」
「ヴァーミリオンは赤の国の、特に兵力において中核を担う人物だ。表向きは国認定の研究者とされているが、奴はそんな生易しい存在ではない……!」
赤色と青色。二羽の鳥を飼い慣らす褐色肌の男は、苦虫を噛み潰したように表情を歪める。
「奴は不老不死という野望を遂げるため、多くの命を生体実験の材料として消費している」
「その材料を手に入れるために、ヴァーミリオンはわざわざ各地を探し回っているのか?」
「そんな効率の悪い事はしない……あれは所詮、趣味程度の行いだろう。奴の元へ集まる生物は、基本的に赤の国から送られるものが多い」
レンリは言葉を詰まらせる。研究所で見てきたこれまでの犠牲が、何も出来なかった後悔となって彼を責め立てていた。そんなレンリの様子を見て、シキ達も胸がざわりと騒ぐ。
「最大国家であるグラナートは、世界各地からあらゆるものをかき集めている。エーテルの結晶や魔道具といった強力な物資、魔物や魔力適正の高い生物、そして人ですらも、奴らは奪い尽くす」
赤の国は、人ですら奪う。
レンリの言葉を聞いて、シキの頭の中にある人物が浮かび上がった。
彼の持つ魔道具『大食らいの少身物』の持ち主にして、彼が旅をするきっかけとなった存在、忘却の通り魔。
「レンリ、お前は赤の国で何が起きているのか知っているのか!?」
シキは思わず立ち止まり、横を歩いていたレンリの肩を掴む。
動揺したレンリは戸惑いを見せながら目を逸らし、シキの問いに対し捻り出すように言葉を口にした。
「……俺が知っているのは、奴の研究所に関する事だけだ。研究所へ送られて来るものは基本的に二つだけ。一つは魔物や生物といった実験の材料にされる命。そしてもう一つが、洗脳をかけて赤の国の駒にされる人間」
「洗脳! 戦いの最中に私達が受けた、身体の自由を奪われる魔術ですね……!」
氷の魔術師エリーゼは、レンリの言葉を聞いて敵の使う魔術について分析する。
砂漠の地下で起きた、数多の魔物を巻き込むほどの強大な精神掌握の魔術。
「ああ、奴は国が集めた物資や生物の一部を、実験の材料として提供してもらっている。その見返りとして、国が攫ってきた人間の精神を掌握し、都合よく動く傀儡に染め上げているんだ」
大陸の最大国家である赤の国グラナート。その兵力を担う精鋭達をヴァーミリオンは染め上げ、作り上げている。そんな彼との敵対が即ち最大国家へ歯向かう事だとしても、彼らは止まる訳にはいかない。
「そんな奴らなんかに、私と仲間の大切な記憶が眠っているコアを渡す訳にはいかないわ」
「俺には生き物の声が分かる。あの研究所でどれだけ悲痛な叫びが響いていたか。これ以上、あのような実験を続けさせてたまるか……!」
大切な仲間と、守れなかった者達。オームギとレンリが、それぞれ戦う理由と向き合う。
「私の失われた記憶には、エーテルコアの存在が大きくかかわっている。恐らく奪われたコアだけでなく、奴らの使っていた大罪武具も無関係とは言えないだろう。それに人攫いなどというふざけた手段を見逃せるほど、私は冷静になどなれぬものか!」
「誰かと無理やり離れ離れになるなんて。そんな悲しい事、許しておけません!」
シキが、エリーゼが、旅をする目的と胸の内を重ね合う。
「…………」
ネオンは見つめる。一同の向かう先にある、倒すべき敵の存在を。
五人は歩みを揃え、宿敵へと続く森の中を踏み歩く。
0
あなたにおすすめの小説
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる