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第四章 風の連理編
05.テルミー
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黄の国ナルギット国内。
人通りのない裏路地にて、シキ達は立ち尽くし神妙な面持ちで話しを進めていた。
そこにあるはずの通路。敵へと繋がっているはずの道は無く、レンリは失意に襲われる。
しかしシキとエリーゼは覚えていた。全くの別の地へと繋がる、魔術の存在を。
「シキ、エリーゼ。その外の国へ繋がる魔術ってのは、いったいどんなものなの?」
「私達の戦っていた相手が、紫の炎に飲まれ忽然と姿を消した。しかも場所は屋内、外には私達の仲間が多くいた。だが誰一人としてその相手を見かけた者はいない」
「去り際にその人が言ったんです。真実を知りたければダーダネラへ来い。と」
オームギに聞かれ、シキとエリーゼは記憶の限りを伝えようとする。戦っていた理由、相手、そして相手の目的。消えた兄の存在。
彼らの話を聞いて、冷静さを失っていたレンリも落ち着きを取り戻す。本当にシキ達の言う魔術は実在し、自身もその道を通ったのではないかと思い始める。
「……ダーダネラといえば、大陸でも辺境に位置する国だ。ほとんど外交せず、半ばその国すら存在しないのではと噂されるほどにな」
「そんな奴らが遠く離れた平地に屋敷を構え、あまつさえ戦争を始めようとしていたのだ」
「そういえばもう一つ、彼らは未知の魔術を使っていました。門と呼ばれる岩盤を出現させて、そこから多くの仲間を引き連れようとしていました」
寸前のところをエリーゼの祖母が防いだ、開門の魔術。もしあの瞬間に間に合わなければ、エリーゼの生まれ育った地は戦火に飲まれていただろう。敵にとって切り札ともいえる魔術が、紫の国ダーダネラには存在しているのだ。
「確定ね。国の命運をかけた戦いなら、それこそ効果の確立された魔術を使っているはず。じゃあその仕組みは? この世界に住むほとんどの人が使えなくて、ダーダネラやグラナートの一部の者だけが使える理由は何かしら」
「彼らはコアを一つしか用意出来なかったと言い、仲間である魔物の命を使っていました……。多くの命が尽きるほどの膨大なエーテルが、この魔術に必要なのでしょうか」
「だったら俺の場合はどう説明する? ヴァーミリオンら数人と行動していたが、移動に関しては誰も死んでいないはずだ。そんな悪行を見ていたなら、嫌でも覚えている」
「貴方の時はヴァーミリオンとミネルバがコアを持っていた。そして移動は少数だった。対してシキやエリーゼの戦った相手は、コア一つと多くの魔物の命。呼ぼうとしていたのは大勢の仲間……つまり?」
「消費したエーテルの総量と人数が関係しているのだろう。つまり莫大なエーテルを補える、エーテルコアが必要という話だな!」
「でも私達、コアならそこそこ持っていませんか?」
現在シキ達が手に入れたエーテルコアの総数は、まずエリーゼの杖に組み込まれた青のコアが一つ。次にオームギの持っている、仲間のエーテル回収用に使う橙のコアが一つ。そしてシキの体内に宿った赤、紫、橙のコアの計三つ。総数で言えば話に出たどの勢力よりも多い、五つとなる。
しかし彼らの前に、敵へと繋がる道は現れない。導き出される答えと結果が一致しない。エーテルコアを持つという条件以外に、必要な何かが存在する。その輪郭だけが今ははっきりと分かっていた。
レンリの記憶を頼りに、エリーゼとオームギがそれぞれ現在と過去の知識を振り絞って魔術の仕組みを紐解こうとする。シキはネオンと共に、彼女のエーテルを吸収する体質を使って魔術のほころびを見つけ出そうとする。
一行は小一時間ほど手を打ち続けたが、結局答えらしい答えを見つける事は叶わなかった。
裏路地が諦めを帯びた雰囲気に包まれる中、唐突に気の抜けるような音が鳴り響く。
ぐう~~~~~。
「全く誰だ。皆が必死で手がかりを探しているというのに、一人勝手に腹の虫と遊んでいるのは」
「…………」
シキの指示通りに手をぺたぺたと触れるだけの仕事をしていたネオンは、周りが頭を捻らせる中も一人ジッと、時間が流れるのを観測していた。
何一つ喋らず何も語らない少女が音を立てるたった一つの事象、それは時間流れに耐えかねた空腹だけなのだ。
「あ~もう! 私まで忘れてた空腹が襲ってきたじゃない。エリーゼ、何か持ってないの?」
「食料は入国に合わせて消費してましたので、今は残念ながら持ち合わせがないです」
「後先考えず食おうとしていたのは、誰と誰だったか忘れたとは言わせないぞ」
「だってこの世界は私の知らない料理で溢れていたのよ? そんなの賢人としての血が許せる訳が無いでしょ!?」
「分かったからその賢人の血とやらを騒がせるな。入国してからしばらく時間が経っている。一度食事を取る事にしよう。レンリもそれでいいな?」
「……ああ」
「でしたらその前に少しだけ、寄り道をしても良いでしょうか? 私の実家と取引していたお店がこの国にもありまして、営業再開したので伝えておこうかと」
「ん、そういえば盗賊団が道を塞いでいたのだったな……。場所は分かるのか?」
「ええ、もちろんです。その先に飲食店も多くありますので、ちょうどいいかと思いまして」
「よしじゃあそれで決まり! たっぷり食べてささっと見つけてちゃちゃっと取り返す! さぁ貴方達、早く行きましょう!!」
早々に話をまとめると、オームギは一人先立って表通りへと向かって行く。
この中で一番事を急いでいるのは誰か忘れるほどに、その足取りは軽快であった。
「血が騒ぐどころか暴走しているな、あれは……」
「でも何だか、砂漠に居た頃より元気に見えませんか?」
「言うならば極度の田舎者だからな。いきなり首都に連れて来られて、高鳴る気持ちを抑えきれないのだろう」
「ふふっ、良い事ではありませんか」
「……コアを取り戻した時、あいつはどう決断するのだろうか」
「シキ、エリーゼ。何の話をしている?」
「そうか、レンリにはそこまで話していなかったな。オームギはエルフの情報を隠すため、コアを取り戻そうとしている。そのために私達は共闘という形を取っているのだ。目的を達成した後は、私達の記憶からエルフに関する情報を消す約束をしている」
「お前はそれで良いと言ったのか。記憶喪失なのに変な奴だ」
「もっと言ってやって下さいレンリさん。シキさんの考えには、私もよく振り放されそうになります」
「私は別に、私の中にある強い意志に従っているに過ぎない。今回はただ、あいつを信じてみたいと思っただけだ」
黄の国ナルギットに入国してからはや数時間。敵を目前にして門前払いを受けた彼らは、今一度ナルギットの領地を歩く。
金と欲望の風が吹くこの国で、一行は未知へと連なる理へと触れていく。
人通りのない裏路地にて、シキ達は立ち尽くし神妙な面持ちで話しを進めていた。
そこにあるはずの通路。敵へと繋がっているはずの道は無く、レンリは失意に襲われる。
しかしシキとエリーゼは覚えていた。全くの別の地へと繋がる、魔術の存在を。
「シキ、エリーゼ。その外の国へ繋がる魔術ってのは、いったいどんなものなの?」
「私達の戦っていた相手が、紫の炎に飲まれ忽然と姿を消した。しかも場所は屋内、外には私達の仲間が多くいた。だが誰一人としてその相手を見かけた者はいない」
「去り際にその人が言ったんです。真実を知りたければダーダネラへ来い。と」
オームギに聞かれ、シキとエリーゼは記憶の限りを伝えようとする。戦っていた理由、相手、そして相手の目的。消えた兄の存在。
彼らの話を聞いて、冷静さを失っていたレンリも落ち着きを取り戻す。本当にシキ達の言う魔術は実在し、自身もその道を通ったのではないかと思い始める。
「……ダーダネラといえば、大陸でも辺境に位置する国だ。ほとんど外交せず、半ばその国すら存在しないのではと噂されるほどにな」
「そんな奴らが遠く離れた平地に屋敷を構え、あまつさえ戦争を始めようとしていたのだ」
「そういえばもう一つ、彼らは未知の魔術を使っていました。門と呼ばれる岩盤を出現させて、そこから多くの仲間を引き連れようとしていました」
寸前のところをエリーゼの祖母が防いだ、開門の魔術。もしあの瞬間に間に合わなければ、エリーゼの生まれ育った地は戦火に飲まれていただろう。敵にとって切り札ともいえる魔術が、紫の国ダーダネラには存在しているのだ。
「確定ね。国の命運をかけた戦いなら、それこそ効果の確立された魔術を使っているはず。じゃあその仕組みは? この世界に住むほとんどの人が使えなくて、ダーダネラやグラナートの一部の者だけが使える理由は何かしら」
「彼らはコアを一つしか用意出来なかったと言い、仲間である魔物の命を使っていました……。多くの命が尽きるほどの膨大なエーテルが、この魔術に必要なのでしょうか」
「だったら俺の場合はどう説明する? ヴァーミリオンら数人と行動していたが、移動に関しては誰も死んでいないはずだ。そんな悪行を見ていたなら、嫌でも覚えている」
「貴方の時はヴァーミリオンとミネルバがコアを持っていた。そして移動は少数だった。対してシキやエリーゼの戦った相手は、コア一つと多くの魔物の命。呼ぼうとしていたのは大勢の仲間……つまり?」
「消費したエーテルの総量と人数が関係しているのだろう。つまり莫大なエーテルを補える、エーテルコアが必要という話だな!」
「でも私達、コアならそこそこ持っていませんか?」
現在シキ達が手に入れたエーテルコアの総数は、まずエリーゼの杖に組み込まれた青のコアが一つ。次にオームギの持っている、仲間のエーテル回収用に使う橙のコアが一つ。そしてシキの体内に宿った赤、紫、橙のコアの計三つ。総数で言えば話に出たどの勢力よりも多い、五つとなる。
しかし彼らの前に、敵へと繋がる道は現れない。導き出される答えと結果が一致しない。エーテルコアを持つという条件以外に、必要な何かが存在する。その輪郭だけが今ははっきりと分かっていた。
レンリの記憶を頼りに、エリーゼとオームギがそれぞれ現在と過去の知識を振り絞って魔術の仕組みを紐解こうとする。シキはネオンと共に、彼女のエーテルを吸収する体質を使って魔術のほころびを見つけ出そうとする。
一行は小一時間ほど手を打ち続けたが、結局答えらしい答えを見つける事は叶わなかった。
裏路地が諦めを帯びた雰囲気に包まれる中、唐突に気の抜けるような音が鳴り響く。
ぐう~~~~~。
「全く誰だ。皆が必死で手がかりを探しているというのに、一人勝手に腹の虫と遊んでいるのは」
「…………」
シキの指示通りに手をぺたぺたと触れるだけの仕事をしていたネオンは、周りが頭を捻らせる中も一人ジッと、時間が流れるのを観測していた。
何一つ喋らず何も語らない少女が音を立てるたった一つの事象、それは時間流れに耐えかねた空腹だけなのだ。
「あ~もう! 私まで忘れてた空腹が襲ってきたじゃない。エリーゼ、何か持ってないの?」
「食料は入国に合わせて消費してましたので、今は残念ながら持ち合わせがないです」
「後先考えず食おうとしていたのは、誰と誰だったか忘れたとは言わせないぞ」
「だってこの世界は私の知らない料理で溢れていたのよ? そんなの賢人としての血が許せる訳が無いでしょ!?」
「分かったからその賢人の血とやらを騒がせるな。入国してからしばらく時間が経っている。一度食事を取る事にしよう。レンリもそれでいいな?」
「……ああ」
「でしたらその前に少しだけ、寄り道をしても良いでしょうか? 私の実家と取引していたお店がこの国にもありまして、営業再開したので伝えておこうかと」
「ん、そういえば盗賊団が道を塞いでいたのだったな……。場所は分かるのか?」
「ええ、もちろんです。その先に飲食店も多くありますので、ちょうどいいかと思いまして」
「よしじゃあそれで決まり! たっぷり食べてささっと見つけてちゃちゃっと取り返す! さぁ貴方達、早く行きましょう!!」
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この中で一番事を急いでいるのは誰か忘れるほどに、その足取りは軽快であった。
「血が騒ぐどころか暴走しているな、あれは……」
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「ふふっ、良い事ではありませんか」
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「シキ、エリーゼ。何の話をしている?」
「そうか、レンリにはそこまで話していなかったな。オームギはエルフの情報を隠すため、コアを取り戻そうとしている。そのために私達は共闘という形を取っているのだ。目的を達成した後は、私達の記憶からエルフに関する情報を消す約束をしている」
「お前はそれで良いと言ったのか。記憶喪失なのに変な奴だ」
「もっと言ってやって下さいレンリさん。シキさんの考えには、私もよく振り放されそうになります」
「私は別に、私の中にある強い意志に従っているに過ぎない。今回はただ、あいつを信じてみたいと思っただけだ」
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